ペースメーカにおける植込み術後急性期における 自動閾値測定機能

26 Symposium:第 47 回埼玉不整脈ペーシング研究会
●一般演題
ペースメーカにおける植込み術後急性期における
自動閾値測定機能についての検討
埼玉医科大学総合医療センター ME サービス部
埼玉医科大学総合医療センター心臓内科
児
本
森
一
玉
塚
田
色
圭
高
亜
太・井 上 和 哉・小 島 達 也
旭・徳 井 研 太・大 木 康 則
志・間 藤 卓
美・伊 藤 博 文・西 岡 利 彦
メーカは M 群:Adapta 15 例,AdvisaMRI 11 例,
はじめに
現在販売されているペースメーカの多くに
S 群:Accent 16 例,AccentMRI 10 例であった。
は,自動でペーシング閾値を測定し必要最低限
リードは全例心内膜リードで,リード極性はす
に定めた出力電圧に設定される
「自動閾値測定
べてバイポーラであった。
機能」が搭載されている。この
「自動閾値測定機
能」のアルゴリズムは各社異なるが,外来時の
2 方 法
測定時間短縮や低出力設定による電池寿命の延
植込み日を初日とし,入院期間中の 7 日間で
長,急激な出力閾値上昇に対する心室ペーシン
心室のペーシング閾値を自動と手動を行い以下
グ不全の回避などに関与すると言われており,
の項目について検討した。また,M 群に関して
当センターの研究でも,遠隔期における機能の
初日に自動が行えないため,
2日目から検討した。
信頼性に関する報告を行ってきた。しかし,植
1)自動の成功率,2)相関関係,3)Paired t –
込み術後急性期における機能の信頼性に関する
臨床研究は少ないのが現状である。そこで本研
究では,当センターで植込みを行ったペース
メーカ症例について調査し,植込み術後急性期
における自動閾値測定機能によって得られた閾
値
(以下:自動)と臨床工学技士が行う手動測定
test を用いた比較,4)等価性の検定
4)の自動と手動の等価性の定義について,手
動と自動の差の99%信頼区間全体が0 ∼ 0.125V
に収まるのなら等価であると定義した。
3 結 果
で得られた閾値(以下:手動)
が等しいかについ
1)自動の成功率
て検討したので報告する。
M群では2日目77%,3日目88%,
4日目 96 %,
5 日目 96%,6 日目 96%,7 日目 100%,S 群では
1 日目 88%,2 日目 100%,3 日目 100%,4 日目
1 対 象
2013年4月から2015年10月までの当センター
で植込みを行ったメドトロニック社
(以下M群)
26 例,セントジュードメディカル社
(以下 S 群)
26 例の計 52 例を対象とした。使用したペース
100%,5 日目 100%,6 日目 100%,7 日目 100%
であった。
2)相関関係
自動と手動の相関を図 1,図 2 に示す。M 群
Keita Kodama, et al.:Study on the automatic threshold measurement function in implantable postoperative acute
phase in pacemaker
Therapeutic Research vol. 37 no. 5 2016
Symposium:第 47 回埼玉不整脈ペーシング研究会 27
(V)
2日目
(V)
n=20
1.0
r =0.73
1.0
0
0.25
0.5
0
(V)
1.0
0.75
手動
(V)
5日目
0
0.5
手動
(V)
1.5
n=25
1.5
1.5 (V)
1.0
7日目
n=26
自動
r =0.82
自動
1.0
1.0
r =0.47
0.5
0.5
0
r =0.71
0.5
0.25
0
n=23
自動
自動
0.75
0.5
3日目
1.5
0
0.5
手動
0
1.5(V)
1.0
0
0.5
手動
1.5 (V)
1.0
図 1 自動測定と手動測定の相関:M 群
(V)
2.5
1日目
n=23
(V)
2.0
n=26
r=0.98
1.0
自動
自動
1.5
1.5
1.0
r=0.97
0.5
0.5
0
3日目
2.0
0
0.5
1.0
1.5
2.0
0
2.5(V)
手動
(V)
2.0
0.5
1.0
1.5
2.0(V)
手動
(V)
2.0
5日目
n=26
7日目
n=26
1.5
自動
自動
1.5
1.0
1.0
r=0.97
0.5
0
0
0
0.5
1.0
手動
1.5
2.0(V)
r=0.94
0.5
0
0
0.5
図 2 自動測定と手動測定の相関:S 群
Therapeutic Research vol. 37 no. 5 2016
1.0
手動
1.5
2.0(V)
28 Symposium:第 47 回埼玉不整脈ペーシング研究会
2日目
5日目
3日目
0.6
0.7
**
0.55
**
0.8
**
0.75
0.75
0.65
0.5
0.7
0.7
0.6
0.45
0.4
7日目
**
Paired t –test
**:p<0.01
手動
自動
0.55
0.65
0.65
自動
手動
0.6
手動
自動
0.6
自動
手動
図 3 自動測定と手動測定の比較:M 群
Paired t –test
**:p<0.01
1日目
0.8
0.7
0.7
0.65
0.65
0.6
0.6
0.55
自動
手動
0.5
自動
手動
7日目
**
0.8
**
0.75
0.75
0.55
5日目
3日目
**
0.75
0.75
0.7
0.7
0.65
**
0.8
自動
手動
0.65
自動
手動
図 4 自動測定と手動測定の比較:S 群
3)Paired t – test を用いた比較
(V)
0.25
自動と手動の結果を図 3,図 4 に示す。両群
ともに Paired t – test では p < 0.01 を示し,自動
0.125
で優位に低かった。
4)等価性の検定
等価性の検定の結果を図 5 に示す。M 群の自
0
−0.125
動と手動の差の 99%信頼区間は 0.062 0.030 V,
S群
M群
図 5 手動測定と自動測定の差の平均と
99%信頼区間
では 2 日目から 6 日目は r = 0.7 以上と強い相関
を示したが,7 日目は r = 0.47 とやや弱い相関を
示した。S 群では 1 日目から 7 日目までは r = 0.7
以上と強い相関を示した。
S 群は 0.056 0.015 V となり,両群ともに 99%
信頼区間全体が 0 ∼ 0.125 V に収まった。
4 考 察
M 群,S 群ともに測定初期に自動で閾値が得
られないのは,リード部位の炎症反応や障害電
流の影響などが考えられた。手動と自動では強
い相関は示されたが,t 検定において有意差を
認めたのは,手動と自動の分解能の差に起因す
Therapeutic Research vol. 37 no. 5 2016
Symposium:第 47 回埼玉不整脈ペーシング研究会 29
るものと考えられ,自動のほうがより細かい閾
値を把握できると思われた。等価性の検定によ
り,手動と自動は等価であることが示唆された
こ と か ら,ペ ー ス メ ー カ チ ェ ッ ク 時 の 閾 値
チェックの時間短縮に繋がると考えられた。し
かし,手動と自動に解離を認める例や自動がで
きない例なども認められているため,そのこと
を念頭に置き使用する必要があると考えられ
る。
結 語
植込み術後急性期において,自動で閾値が得
られる場合,手動で得られた閾値と等しい値を
示すことが示唆された。しかし,手動と自動に
解離を認める例や自動ができない例などもある
ため,自動だけでなく手動も行い判断する必要
があると考えられた。
(Therapeutic Research vol. 37 no. 5 2016. p.472 – 5 に掲載)
Therapeutic Research vol. 37 no. 5 2016