軍事研究の倫理 Ethics of Military Research

東北大学 工学研究科・医学系研究科 『工学と生命の倫理』・『生命倫理』
Tohoku University Ethics of Engineering and Life / Life Ethics
2016 年度
第 16 回(8 月 3 日)
講師:原 塑
題目:軍事研究の倫理
<概要・Summary>
HARA Saku
Ethics of Military Research
(受講者のレポートからの抜粋・Selected from the students' assignments)
1.
まず本講義では,軍事研究の倫理的問題を考察する必要が生じた社会的背景について,武器輸
出に関する政策の変遷を追うことにより確認した.我が国において武器の輸出が禁止から容認
に移行してきたこと,防衛装備庁が発足したことが挙げられた.続いて大学が研究資金確保の
ために防衛省の関わる軍事研究に参入し始め,軍学連携が進展している事実が述べられた.軍
学連携が進展する中で,軍事研究に関しては容認論・反対論のそれぞれが存在している.容認
論ではデュアル・ユースの概念が多用され,軍事における技術研究が民生利用もできうる点が
強調されている.反対論では科学者の社会的責任が取り上げられており,科学者の加害責任の
如何が問題視されている.両論の位置づけを正しく理解するためには,軍事研究の多様性およ
び道徳的責任の文脈依存性を考慮していくことが重要である.
2.
今回のテーマは軍事研究の倫理問題であった.現在所属している研究室が突然,軍事研究に関
与し始めた場合どう考えたらよいのかと具体例を挙げ,この問題の本質について考えた.こう
いった軍事研究を容認するかどうかの議論として良く挙げられるのがデュアルユース問題で
1
ある.軍事研究は良い面,悪い面が存在するが研究していく中で悪い面が見えたら禁止される
べきなのか?技術を生み出した科学者はどのくらい責任を負うべきなのか?などのケースに
ついて検討した.
3.
軍事研究の倫理的問題は以前から議論されてはいたものの,日本においては注目されることは
少なかった.しかし近年の安全保障関連法の成立、武器輸出の容認ともいえる政策など社会的
背景の変化があり,今後日本においてこれまで以上に軍事研究に関与する場合が出てくると考
えられる.軍事研究に対しては,社会に有益な方向に技術開発を進めていくべきという容認論,
間接的ではあれ人を殺傷してしまう恐れのある研究は道徳的に反しているのではないかとい
う反対論があり,双方を包括するような結論を見出すことは非常に難しいが,議論を重ね解決
策を考え続ける必要がある.
4.
徹底的な防衛方針をもつ日本だが、武器技術供与も緩和され国際紛争の助長回避の基礎概念も
曖昧なものになった。防衛省が軍事提供を目的とした競争的資金提供をし始め、学問に対する
国家からの政策的誘導が容易となった。軍事研究には賛否があり、危険な研究でも社会に有益
な方向に技術開発させようとする考えと、道徳的に許容できるものではなく武器製造につなが
る研究はやるべきではないという考えである。どちらが良いのかはすぐには決断つかないが、
国民の意思をくみ取り、良い方向に進めるべきである。
5.
今回の講義は、軍事研究についてであった。まず、授業の冒頭では社会的背景として武器の輸
出の解禁について触れた。第二次世界大戦後に日本で武器の製造を禁止されてから、近年に武
器の輸出が容認されるまでの経緯について話された。また、軍事研究を容認する理論としてデ
ュアル・ユースという概念の説明があった。これは軍事研究の両義性に焦点を当てた概念であ
り、一概に軍事研究を否定するのではなく、その容認論についても取り扱った。
6.
ここ最近で一部の理系研究者の研究に対して防衛省が助成金を支出することが可能になった.
これは研究者にとって,いきなり自分の研究が軍事研究の一部を成してしまうことになり,そ
の時になって初めて自身の研究の倫理性を問うことになる.武器輸出に関する法案の変遷に関
して,戦後に策定された武器輸出三原則と防衛装備移転三原則(2014 年)を比較すると,従
来の三原則にあった「国際紛争の助長回避」の理念が明記されなくなっている.
<意見・Opinion> (受講者のレポートからの抜粋・Selected from the students' assignments)
1.
デュアル・ユース問題については,科学者も道徳的責任の一部を負わなければならないのは事
実であるが,最も責任を負うべきはやはり最終的な使用者であると私は考える.優れた技術と
いうのは多方面に応用することができる場合がほとんどであり,その一部が軍用であるに過ぎ
ない.軍事転用の可能性を過度に考慮していては,技術発展は望めないと考える.われわれの
グループの発表会のテーマはデュアル・ユースだったため,今回の講義でわれわれの議論がど
の程度まで深くなされていたのかを確認することができた.結果としては,科学者本人が研究
の可能性を予期するべきという点が共通していた.結論を導くことは容易であるかもしれない
が,それを実行していくことが非常に難しい問題であるという印象を受けた.
2
2.
“軍事研究"という言葉を聞いていいイメージを抱く人は多くないといえる。とりわけ日本にお
いては"やってはいけないこと"というイメージが定着している。しかし一方で軍事研究によっ
て科学技術が向上したり、特需として国の経済を支えていたりといった一面があったのもまた
事実である。本講義を聞くまでは現在私が大学の研究室で行っている研究と、そういった"軍事
研究"とは何の関連もないと考えていたが、研究のアプローチ次第で、研究のモチベーションと
して軍事活用を考慮に入れた瞬間に軍事研究となりうるなと思った。
3.
日本の平和を維持するためにも軍事研究は行われるべきである。諸外国が軍事研究を精力的に
進めている中で日本が軍事研究を中止してしまうと、国防、安全保障において諸外国との抑止
力がなくなってしまう。そのため、日本は高い科学技術力を持っているので、諸外国から国と
国民を守るために軍事力を生かしていくべきである。軍事研究であろうがなかろうが研究成果
が軍事的に使用されると明らかなものは公開しないのは当然である。問題であるのは、公開し
た研究成果が予期しないような危険な応用先として使用されることである。科学者が危険な応
用先がないか検討したとしても全てを把握することは不可能である。そのため、地球を滅ぼす
ような危険な応用先については世界的に抑止活動をする必要がある。
4.
今回は文学研究科に所属する原先生が講義をしてくださったということで,新鮮な視点から軍
事研究について考えることができた.また,工学を専門としない先生がいかにして軍事研究の
倫理について考察するようになったのか興味が湧いた.さらに,グループワークにおいて一度
講義内で議論された話題であったので内容が分かりやすかった.無人機を例に研究者が軍事研
究に繋がるとわかりながら,防衛省から資金を貰って研究を続けるという事が説明されたが,
自分がこれから研究室を選ぶ学生であったとしたら,そういった研究室に入ることは希望しな
いと思う.入ってから気づいた場合は進学のタイミングで研究室を変えると思う.
5.
先日のディスカッションでデュアルユースという言葉を知ったのですが,改めて難しい問題で
あると感じました.今回の講義で最も印象に残った話は,日本政府が資金を提供する形で軍事
研究を推進しているというお話です.そのような背景から,大学ではさらに軍事研究に直結す
るような研究が生まれると思います.国を守るための軍事研究を推し進めることは必要なこと
だと思う一方で,殺傷能力を持つような武器など過度な研究は控えるべきだと私は考えます.
では,どれが殺傷能力があると考えられるのでしょうか.二回の授業を通して,デュアルユー
スに対して強い興味を持ちました.一人の研究者として議論などを通し,知見を広げていきた
いと思います.
6.
軍事目的でない研究が予期されない形で軍事技術に用いられてしまう。軍事利用を考えずに研
究していた研究者にとって、これは大きな不幸だ。ノベールのダイナマイトがまさにこれに当
たるのだが、彼の例からするとダイナマイトの開発は民生にも軍事にも大きな発展をもたらし
た。科学が両義性を持っていることはこのことから良くわかった。日本は歴史的背景や憲法か
ら、相対的に軍事研究から遠い位置にいる国家だ。原爆を投下され被害を受けた唯一の国とし
て、軍事に手を染めていけない立場にあると思う。各国の流れに取り残されてしまうという問
題でなく、率先して軍事行動から脱するよう訴えていかなければならないのではないか。
7.
現在作られた法も文章として明記しないことで解釈を変更できるようにしているとしか思え
ない。技術がデュアルユースとなることは避けられないが,初めから目的を軍事利用とするの
では全く異なることだと思う。政府は解釈の変更と同様にデュアルユースについてもよくわか
らない理屈で軍事研究を進めようとしている。日本の武器が海外で展示されていて,もはや防
衛とは言えない状況である。安全保障関連法など国を大きく変えることをしているし経済もよ
くなっていないのに内閣の支持率が高いのが理解できない。国の在り方を決めるのと同様に大
3
学の在り方というものを考えなくてはならないが,まずは総長にはきちんとした判断を下して
ほしい。
8.
I will try to explain my point of view concerning the ethics in military research. I feel close to this
subject because I know someone who is a member of "Handicap International", an association
that fights for the ban of BASM, which is a bomb that contains other bombs, to mine a territory.
The problem of those weapons are the fact that even after the war, many mines are still on the
territory, so they kill many civilians, mostly children that do not understand well the danger of
the mine. I can understand that each nation wants to have better weapons than the others, but I
think the problem comes when the weapons are either really powerful (atomic bomb, gas) or
either last even after the wartime (BASM, nuclear, ...). Moreover, some weapons are just
designed to give a handicap and no to kill, which leave handicapped people.
9.
今回の講義は軍事研究の倫理についてであった。私自身航空宇宙工学という軍事研究に利用さ
れやすい分野を専攻しているので今回のテーマはとても興味のある内容だった。「所属してい
る研究室が突然軍事研究に関与し始めたときどのように考えるか?」という質問が与えられた
ときに自分がどうすればよいのか分からなくなり、この問題の難しさを感じた。デュアル・ユ
ース問題に関しては色々な議論があるが、どのような議論であれ、研究者は自分が行なってい
る研究について道徳的な責任の重さを理解したうえで研究を行なっていかなければならない
ということがよく分かった。
10. 軍事研究は,兵器を作るためのものであり人の命を奪いかねない研究であるので良くないと考
えてしまうが,軍事研究でも基礎的な部分は軍用と民生用のどちらでも使うことができるので,
一概に軍事研究は良くないものであるとは言い難いと考える.しかし,行っている軍事研究が
民生用に使えることであったとしても,人の命を奪ってしまう兵器などの研究につながってい
る場合には,その軍事研究はやるべきではないと考える.また,軍事研究以外の研究の場合に
も,その研究が軍事転用されてしまう可能性もあるので,現在自分が行っている研究にはどの
ようなリスクがあるのかを考え確認するべきであると考える.従って,デュアルユースである
からといってすべての軍事研究が良いものであるということはないので,正しく見極める必要
があると考える.
11. これは課題発表会でも両義性という観点から議論された内容であり,非常に興味深かった.例
えば原発の原子力に関する技術であったり,スマートフォンをはじめとするネットワークに関
する技術であったり,どんな技術であろうとも使い方によっては脅威となりうるであろう.震
災によって原発は恐ろしいものであると今更大多数の人間が認識したり,非常に便利であるが
常に位置情報や個人情報が晒される危険にあることを認識していない人間が多数存在してい
たりしている現状から,開発した人やそれに近い世界で生活している者にしか技術が孕んでい
る危険性というのは認知されていないのではないか.そのため,技術を開発する際には考えら
れる危険性というものをできる限り考え,もしそれが軍事目的に使用されてしまった場合にど
うすればよいか,その対策までを含めた研究を行う必要があり,その上でなら研究を存分に行
っても構わないと私は考える.
12. グループワークでも,デュアルユース問題の担当グループになり,これらの問題については
色々と調べたが,グループとして研究に善悪はなく,その成果の利用において倫理観というも
のが重要になるという結論に至った.実際に,ダイナマイトやインターネット,GPS など,利
用法によっては危険だとしても,私たちの生活に不可欠なものは多い.危険そうに見える研究
でも,見方を変えれば社会貢献する技術もあるだろう.これらの見極めの責任は,研究者では
4
なく,利用者にあるのではないかと考える.しかし,すべての利用者が清らかな心を持ってい
るとは限らないため,国や特定の機関による監視が重要となると考えている.安全率と高い監
視体制を確立し,多くの研究が自由に行われる時代が来るべきだと考える.
13. デュアルユースのついては、グループでの発表会で話を聞いた時にも感じたが、簡単には結論
の出ない問題だと感じた。個人的には、技術の発達を止めるべきではないと思うので、軍事へ
の利用が懸念されるような分野についても研究開発を行うこと自体は賛成である。その上で、
その技術が悪用されない仕組みづくりを行っていくことが重要なのではないかと思う。特に、
国外の DARPA のコンペティションなどに大学の研究室が参加できない状況だったのが、それ
が容認されるようになったのは、日本の技術の発展にとっては重要だと思う。
14. 軍事研究は意外と自分の身近に存在しているのではないかと思った。今自分が行っている研究
も、お金の出どころが防衛相などになれば、軍事研究へと姿を変える可能性があり、その際に
自分はどう考えたらよいのか非常に考えさせられた。また、軍事研究のおかげで私たちの生活
が豊かになっているという事実があることに驚いた。もし、軍事研究がなければインターネッ
トや通信が発達せず、今のような生活を行うことができないならば、やはり軍事研究を禁止さ
れるのは考え物である。したがって、軍事研究を行うにあたって、しっかりとした倫理観をも
って軍事用に役立てる研究だけでなく、国民の生活を豊かにする研究を行う必要があるのでは
ないかと考えた。
15. 今回の講義で軍事研究の倫理的問題は、現代社会で非常に大事な事であることを再び気づいた。
特に、今の社会は戦争が起こることは本当に世界が滅びるぐらい恐ろしいことになるほどの技
術が発展してしまったので、綿密に考える必要がある。しかしながら、現代までの発展も、戦
争がなければここまで発展できなかったと思う。例えば、原子力発電などは元々は核兵器の開
発から出てきた技術である。このような点から軍事的な研究はある程度は必要であるが、これ
はまさに見えない時限爆弾を持っているような事で、もし、戦争が起こると、爆発してしまう
ようなことになる。このような点から、今後の研究倫理はますます重要になって行くと思う。
16. 今回の軍事研究の倫理についての内容は,もちろん簡単に答えが出るものではないが,私個人
の意見は,軍事研究に賛成である.ただし,それはその国の実績によってある程度制限される
べきであると思う.例えば,クリミアの侵略行為をしてしまったロシアは,国連から派遣され
る担当者に,国内で行われている研究内容が過度な軍事目的でないかの監査を受ける,などで
ある.しかし,私は基本的には,軍事研究に賛成である.なぜなら,あまり過度に軍事研究に
反対すると,科学の自由な発展が妨げられてしまうから,そして,デュアルユースの危険性に
ついては,科学者や関係者が社会に有益な方向に技術開発を進めるという対策をとれるからで
ある.
17. 自分は工学倫理の発表会において両義性というテーマで発表を行った。そのため、今回の講義
は大変興味深かった。軍事研究容認論の中で取り上げられた「危険な研究を禁じることではな
く、社会に有益な方向に技術開発を進めるよう科学者や関係者が活動することが重要。」とい
う文章が印象的だった。人間の持つ知的好奇心は本能的な物であると言っても過言ではない。
そのため、危険な研究を制限するというのは現実問題難しいと思われる。研究者一人ひとりの
倫理観を培いそれぞれが自らの研究の両義性を十分に認識した上で研究活動を行っていく事
が重要なのではないだろうか。
18. 軍事研究にはデュアル・ユースという興味深い問題があることが分かった。軍事目的ではない
研究で明らかになったことが、科学者が予期しない形で、将来的に軍事技術に転用される。あ
5
るいは、軍事目的の研究であるが、そこで開発された知識や技術が民生利用されるようになる
こともある。このように軍事研究にはデュアル・ユースから始まる多様な問題があることを知
った。これらの問題はしばしばデュアル・ユース問題として一括りにされてしまうが、科学者
が考慮しなければならない道徳的責任の重さはそれぞれで全く異なるということに気づかさ
れた。科学者は自身の研究について倫理的に正しいのかどうかという明確な考えを持つ必要が
あると思った。
19. 軍事研究を行う上で最も注意しなければならない点は軍事研究がデュアルユースの危険性を
孕んでいるという点です。今回の講義でもデュアルユース問題を中心として容認論と反対論の
考え方を紹介していただきましたが、どちらも直接的な解決策はありませんでした。科学者や
関係者が社会に有益な方向に技術開発を進めるように活動するべきだとか、武器製造に繋がる
研究を行う時点で道徳的ではないだとか、議論になっていないような気がします。どちらも当
然のことであり、文化の発展を担う研究にデメリットが無いわけないと思います。全人類が今
の生活に満足している場合は研究など行わず済むのでしょうが、新しい技術を欲する人という
のは必ず存在します。民生利用だけを目指した研究成果でも第三者が軍事利用に応用するかも
しれません。軍事研究は必ず進められ、止められないと思います。だから、私は未来を考える
のならば防衛に重きを置いた研究に力を入れて欲しいと感じました。
20. 本授業における発表会で、デュアルユースの危険性があるから、自らの研究に責任を持てとい
う話があがったが、逆にデュアルユースを建前として軍事研究を容認するとはひどい話だと思
う。第二次世界大戦後、GHQ が日本での武器製造を禁止し、日本が近年になるまで武器輸出
を容認しなかった理由は、やはり自分たちが原爆などの兵器の怖さを知っていたからだと思う。
長い年月が経ち、(自分が言えることではないが)その痛みを知らないものが増え、軍事研究を
容認するようになったのは、悪い傾向だと思う。もっと過去から学ぶべきだと思う。
21. 軍事研究の議論をするにあたって、自分の中では、研究者としての立場(技術を開発する立場)
から考察した意見と、個人の人間としての立場(技術を利用する立場)から考察した意見が、
相反していながらも同時に存在してしまい、自分の意見を主張できませんでした。今回の授業
では、軍事研究の倫理を議論するうえで知っておくべき、軍事研究の背景や現状を学ぶことが
できました。また、軍事研究の容認論や反対論が、どのような考えに基づいて意見されている
のかを知ることができました。改めて、軍事研究という視点から、自分の研究テーマである細
菌研究に向き合うことで、研究者としての責任や、倫理について、しっかりと考えることがで
きそうです。
22. 私は,国家を存続・発展させるためには軍事力の保持は必須であり,日本に所属する大学が軍
事研究に従事することは必要なことだと感じます.軍事研究に協力して開発された技術が人を
殺すというのは確かに道徳的には反するとは思います.しかし,幸運なことに今日本は戦争状
態にある敵対国はありません.なので,今だからこそ相手国が戦争を仕掛けてこないような軍
事力を保持することが重要であり,その軍事技術は人を殺すのではなく,戦争勃発の抑止力に
なると考えます.よって,大学での研究においては,なんでも軍事研究を禁止するのではなく,
軍事研究に協力する研究は,それを周知したうえで希望制にしても良いのではないかと思いま
した.
23. 今回の講義は軍事研究の倫理についてであった。私自身航空宇宙工学という軍事研究に利用さ
れやすい分野を専攻しているので今回のテーマはとても興味のある内容だった。「所属してい
る研究室が突然軍事研究に関与し始めたときどのように考えるか?」という質問が与えられた
ときに自分がどうすればよいのか分からなくなり、この問題の難しさを感じた。デュアル・ユ
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ース問題に関しては色々な議論があるが、どのような議論であれ、研究者は自分が行なってい
る研究について道徳的な責任の重さを理解したうえで研究を行なっていかなければならない
ということがよく分かった。
<授業中の質問と回答・Q&A in the class> (受講者のレポートからの抜粋・Selected from the
students' assignments)
1.
Q: 国中で軍事研究の容認と反対で割れる中、日本としてその指針を決めるシステムはどうの
ようにすべきか。 → A: 完全に意見が一致することはありえないため、個々人が深く考え
それを他の国民と交し合う議論し合うことが必要。
2.
質問内容】世界の国々での軍事研究の倫理はどのようになっているのか.アメリカはデュア
ル・ユースにより大きく発展してきたこと,他国への軍事行動が当たり前であることから,軍
事研究を肯定的に見ている人々の割合が高そうだと感じる.一方で,ドイツは第二次世界大戦
の敗戦国だが現在では積極的に武器輸出を行っている.これらの国々の人々や研究者の軍事研
究の倫理はどのようになっているのか. 【回答の要点】アメリカでは,国防は当たり前のこ
とであるという意識が,ビジネス分野も含めて浸透している.DARPA による研究資金提供は
行われているが,基礎研究を目的としていることから軍事研究に関わっているという意識が少
ないのかもしれない.ドイツについては,アメリカの軍事作戦は道徳的ではないという意識が
あり,アメリカ軍から委託を受けて研究を行うことに関わる研究には抵抗感が存在しているよ
うに感じられる.ただし,科学者の個々人としてどのような倫理感を持っているのかについて
は不明である.
*青字:講師による添削 Blue letters: correction by the lecturer
<Q&A>
(レポートから抜粋した質問と講師の回答・Questions selected from the students'
assignments and the answers from the lecturer)
質問
回答
軍事研究の是非やその存在価値にまつわる研
1
究のゴールはどのようなものなのですか.どの
ようなビジョンを以って研究に臨むのか教えてい
ただきたいです.
7
(少なくとも、私が関心を持っているのは)軍事
研究が道徳的に妥当かどうか、またその理由は
何かを明らかにすることです。
「科学・技術の先進国で軍事研究を精力的に行
っている国では軍事研究を中止するような考え
はあるのでしょうか」というご質問ですが、軍事
研究を精力的に行っている国家が、それを中止
するという意図を持っていないことは明らかでは
科学・技術の先進国で軍事研究を精力的に行
ないでしょうか(もちろん、個人で軍事研究の推
っている国では軍事研究を中止するような考え
進に反対する研究者がいても不思議ではありま
はあるのでしょうか。軍事研究は国どうしの抑止 せんが)。また、抑止力に関することですが、あ
2 力として行われているとおもうのですが、日本だ
る国家が日本に対して戦争に踏み出す誘因が
けが平和のために軍事研究をやめたら何の抑
何であり、またそれを抑えさせるようその国家に
止力もなくなってむしろ危険になると思うのです
対して働く要因(つまり、抑止力)が何であるの
がどう思いますか。
かについて具体的に分析しておかないと、「日
本だけが平和のために軍事研究をやめたら何
の抑止力もなくなってむしろ危険」だという主張
に根拠を与えることはできないと思います。この
点について、私は必要となる知見を持ち合わせ
ていません。ですから、お答えできません。
国が軍事研究に対してこのような支援をしてい
安全保障技術推進制度はまだはじまったばかり
ると知り驚きました.安全保障技術研究推進制
で、この制度を使って生み出された科学的知識
度のスライドを見る限りでは,防衛,災害,平和
が、どのように防衛装備品の開発に活かされる
4 協力活動に応用すると書かれていますが大学
のかはわかりません。防衛省がどのような武器
で研究したことを防衛省でどのような開発を行っ を作っているのかについては、部分的にです
たということを国民が知る方法をあるのでしょう
が、ジャーナリストが調べて、新聞や書籍、イン
か.
ターネットを通じて報道しています。
It depends on what in your research matters
most to you. If you do not like to cause harm to
What should we do if the lab suddenly
others by means of your research, and if it is the
5 researches some secret military studies as a
most important thing, it is better to change lab,
foreigner students?
even though it can be very difficult for various
reasons.
科学者がある科学的知識を生み出し、それが
特定の仕方で応用され、それにより被害がもた
科学技術が研究者等の望まないもしくは予期し
6 ない形で使用されたとき、それによって生じる被
害の責任はどこにあるとお考えでしょうか。
らされた場合、たとえ、その科学者が、そのよう
な仕方で応用されることを望んでいなく、また予
期もしていなかったとしても、そのような仕方で
応用されることが普通に考えて容易に予期され
るのであれば、その科学者は被害に対して一定
の道徳的責任を負うと考えられます。
8
発表資料の中に「軍事行動の中には道徳的に
許容可能であると考えられるものもある.」とい
例えば、敵と向き合っていて、その敵が武器を
8 う項目があったのですが,どのような軍事行動
持ってこちらを攻撃する意図を示している時に、
が道徳的に許容可能であるとお考えなのでしょ
それに武器をもって応戦する場合です。
うか.
9
軍事研究は今後どのような方向に向いていくと
IT 化、無人化を実現するための技術開発が進
お考えでしょうか?
むのではないかと思います。
安全保障技術研究推進制度の応募条件につい
現在、軍事研究を助成する研究資金に応募す
るためにはどのような条件が必要なのか是非教
えていただければと思います。例えば、「研究資
10 金を受け取った場合、軍事研究を行うだけでな
く、実際に使用した場合に対策の検討を行わな
ければならない」などの条件が無いのか気にな
りました。
ては、この制度の説明をしているサイト
(http://www.mod.go.jp/atla/funding.html)をご
覧下さい。研究機関に所属する研究者が安全
保障技術研究推進制度に応募する際には、研
究機関の承認が必要ですが、その際に、研究
機関が研究者に課す条件は、研究機関毎に異
なります。
科学技術が社会に対してもつ様々なインパクト
科学者や技術者がもつべき内外横断的責任能
11
について自分自身でよく考察しておくこと、また
力を私たちがきちんと身に付けていくために、普 科学技術の社会に対するインパクトについて一
段から特に心がけておくべきことなどあるのでし
般の人々がどのように考えるのかを、科学を専
ょうか?
門としてはいない多くの人々と日頃からよく話し
あって、知っておくことが重要です。
民生技術開発を主眼に置いた研究と軍事技術
開発を主眼に置いた研究の間には,ある程度
産業としての利益を求めなければならないとい
う民生開発に対して,軍事開発では比較的コス
トを自由にかけても他に対して優位性を持たせ
たいという違いがあると思います.このほかにも
12
多くの違いがあると思いますが,先生はどのよ
うな違いがあると思いますか?/授業中におっし
ゃられていた軍事技術開発目的と民生技術開
発目的でどちらがより効率的にイノベーションを
引き起こせるのかを考える必要がある.というお
話がありましたがこれはコストパフォーマンス的
なことなのでしょうか,それとも研究に要する期
間のことなのでしょうか?
9
民生技術開発と軍事技術開発には、もちろん、
目的の点で大きな違いがあります。軍事技術開
発は、最終的には武器や防衛装備品を生み出
すことを目的としていますが、民生技術開発に
はそのような縛りはありません。/民生技術開
発と軍事技術開発のどちらがより効率的にイノ
ベーションを引き起こせるのかという点ですが、
コストパフォーマンスや時間の観点から考えて
いた訳ではありません。むしろ、どちらの方が、
破壊的イノベーションを引き起こすポテンシャル
をもつのかに関心があります。
13
戦争は発明の母という言葉がありますが,この
そのような言葉はないのではないでしょうか。よ
言葉についてどう感じますか.
く言われるのは、「必要は発明の母」です。
具体例をあげて、お答えします。日本の大学発
ベンチャー企業、Cyberdyne 社は、介護支援、
デュアルユースの問題に対する対策として,科
15
作業支援用ロボットスーツを開発していますが、
学者が悪用されないように管理するとおっしゃっ このロボットスーツに使われている技術は軍事
ていたが,具体的にどのように管理すればいい
転用が可能です。以前、聞いたところでは、
のか教えていただきたいです。
Cyberdyne 社はロボットスーツを貸し出すことに
し、販売はしていないのですが、それは軍事転
用されないようにするためだそうです。
原先生は個人的には軍事研究に賛成・反対ど
16 ちらの立場をとっておられますか?またそれは
なぜでしょうか?
軍事研究が、殺傷という(多くの場合、道徳的に
許容できない)行為に対する武器を提供すると
考えられる限りにおいて、私は軍事研究は道徳
的に許容できないと考えています。
実際に武器を作り輸出することと、いざというと
17
きに武器を作れる技術を持っているかどうかは
武器輸出や、武器生産の技術をもつことは、抑
違うと思いますが抑止力の観点からはどちらの
止力とはさしあたり関係がないと思います。
ほうが効果的だと考えますか?
他国との関係や経済、安全など多くのことと人
18
が複雑に絡み合う問題と思いますが、現実的に
は誰がこの問題を解決できる人間(対象)である
と思いますか。
19
質問のご趣旨とはややはずれますが、国民一
人一人の生活に関わることですから、究極的に
は、国民一人一人が考えるべきだと思います。
講演スライドには「殺傷を目的とした技術開発を
ご質問は、特定の人物の除去を目的とする技
目指す科学研究は,それが基礎研究であって
術開発が容認できるかどうかということですが、
も,禁止されるべきだと考えられる.」とあり,講
そもそも軍事技術開発は特定の人物の除去を
演の中でも,そこまで強い表現でなくとも倫理的
目的として行われるわけではありません。武器
に容認されないと言えるだろう,というように仰っ は、様々な状況下で、いろいろな人々を殺傷す
ていました.軍事研究に限ったことではなく,応
る手段になるのですから、問われるべきなの
用研究においてその多くは「公益の実現」を目
は、一般に殺傷を目的とする機器の開発を目的
的としていると思います.そこで,仮定としてテロ とする技術的研究は許容できるかです。この問
10
リストのような,明確な殺意を表明し,それを実
いに対して、私は許容できないと考えています。
行可能な能力が十分に備わっているような人物
がいたとして,そういった人物の殺傷によってそ
れ以外の人々の公益を実現することを目的とす
るような技術開発であっても容認されないべき
なのでしょうか?
多くの人々にとって大学で行われている科学研
21
大学の軍事研究について,国民一人ひとりに考
究は縁遠いものです。したがって、大学におけ
える機会を与えるにはどうしたらよいか?
る軍事研究について、多くの人々に関心を持っ
てもらうことは、非常に難しいと思います。
11