Vol.20

KPMG
Insight
KPMG Newsletter
Vol.
20
September 2016
経営トピック⑥
スポーツの発展と放映権料の関連
kpmg.com/ jp
スポーツの発展と放映権料の関連
経営トピック⑥
有限責任 あずさ監査法人 スポーツアドバイザリー室
室長 パートナー 大塚 敏弘
スポーツ科学修士 得田 進介
大変な盛り上がりを見せたリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックでした
が、約30年前まではオリンピックを開催するためにスタジアム建設など環境整備に
多額の公的資金が必要とされ、開催都市は赤字続きの状態で、現代のように熾烈な
オリンピック誘致競争が行なわれることや、大会自体も盛り上がる状況にはなかっ
たと言われています。しかし、1984年開催のロサンゼルスオリンピックは、公的資金
を使わずに成功した大会としてオリンピックの新たな歴史を築いたものと評価され
ています。その成功の立役者であるピーター・ユベロスは大会開催にかかるすべての
費用を、放映権料、
スポンサー協賛金、入場料収入、
グッズ売上でまかなうことを目
標にし、大会の黒字化と競技の盛り上がりの両方を見事に成功させました。この大
大塚 敏弘
おおつか としひろ
会の黒字化の成功要因のうち、放映権料の影響は非常に大きいと考えられます。
現在のプロスポーツリーグの収益源としても放映権が大きな影響を及ぼしていま
す。プロスポーツのなかでも特に放映権料が大きいのはプロサッカーリーグであり、
注目を浴びているのは従前から放映権料の大きいイングランド・プレミアリーグと、
近年サッカー人気が高まってきたことにより放映権料の増額が顕著な中国・スー
パーリーグです。日本のJリーグにおいても2 0 1 7 年からは英国に本社を置く動画配
信大手パフォームグループと1 0 年間の放映権契約を結ぶことで合意がされました。
その放映権料は総額約2,100億円と年間平均で約210億円となり、現契約と比較する
得田 進介
とくだ しんすけ
と7倍程度の放映権料になると推定され、日本のスポーツ放映権としては過去最大と
なっております。
本稿ではスポーツ産業の発展と放映権料の関連について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを、あらかじめお断りい
たします。
【ポイント】
− IOC1 の収益源は様々あるが、大きな割合を占めているのは放映権料であ
り、放映権料の多寡が大会の黒字化のカギを握っていると考えられる。
− オリンピック・パラリンピックの価値は大会毎に高まっており、その影
響によって放映権料は高騰し続けている。
− 地域別に放映権料を見ると、北米と欧州は従前から全体に占める構成割
合も大きかったが、近年ではアジアが支払っている放映権料も高くなっ
てきており、大きな市場となりつつある。
1 International Olympic Committee(国際オリンピック委員会)
© 2016 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the
KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.
KPMG Insight Vol. 20 Sep. 2016
1
経営トピック⑥
Ⅰ. IOCの収入構造
【図表2 放映権料の推移】
IOCの主な収入源は放映権、TOPプログラム、開催国スポン
サー、入場料、
ライセンスとなっています。なお、TOPプログラ
オリンピックに関する最高位のスポンサーシッププログラム。
手団に関する知的財産等を契約した商品・サービスに関して使
用することができるプログラム( 公益財団法人日本オリンピッ
2,000
1,500
ドル)
US
全世界でオリンピックに関するマーク類および参加している選
2,500
(百万
ムとは、
「国際オリンピック委員会の主導により実施されている
3,000
1,000
500
ク委員会HPより抜粋)
」
のことです。
アテネ
北京
ロンドン
アテネ
北京
ロンドン
シドニー
【図表3 放送されている国・地域数の推移】
ライセンス
2.1%
250
(放送国・地域数)
入場料
15.4%
放映権
47.9%
200
150
100
50
シドニー
アトランタ
バルセロナ
TOPプログラム
11.8%
ソウル
0
ロサンゼルス
開催国スポンサー
22.8%
アトランタ
出典:OLYMPIC MARKETING FACT FILEを基に作成
権料にかかっていると考えられます。
【図表1 2009-2012年 IOC収入内訳】
バルセロナ
ことから現代のオリンピック・パラリンピックの黒字化は放映
ソウル
であり、約半分を占める結果となっています(図表1参照)
。この
ロサンゼルス
0
IOCの収入源のうち最も割合が大きくなっているのは放映権
出典:OLYMPIC MARKETING FACT FILEを基に作成
出典:OLYMPIC MARKETING FACT FILEを基に作成
で増え続けており、
シドニー大会で放送国・地域数が220ヵ所と
Ⅱ.オリンピック・パラリンピックの
放映権
なってからは概ね全世界で放送されるようになっていることが
考えられます(図表3参照)
。
前述のように、全世界で放送されるようになったオリンピッ
ク・パラリンピックの地域別放映権を見ると、
スポーツ先進国と
ロサンゼルス大会以降、放映権料は右肩上がりとなっており
言われる北米と欧州が毎大会において多額の放映権を購入し
高騰し続けています(図表2参照)。これはスポーツの商業化や
ており、放映権の地域別構成割合では当初から大きくなってい
各競技でのスター選手輩出等によってオリンピック・パラリン
ました(図表4参照)。近年ではアジアの経済発展やスポーツ人
ピックの価値が高まってきているためと考えることができます
気向上に伴い、特にアジアの構成割合が大きくなってきている
が、このまま高騰し続けるとテレビ局が放映権を購入すること
ことが分かります(図表5参照)
。
は難しくなり、放送することが困難になってくる可能性があり
ます。ただし、
オリンピック・パラリンピックの価値が高まって
いることは明らかであるため、
テレビ局は放映権の購入につい
て引くに引けない状況が今後も続いていくと考えられます。
放送されている国・地域についてもロサンゼルス大会以降
2
KPMG Insight Vol. 20 Sep. 2016
© 2016 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the
KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.
経営トピック⑥
【図表4 2010-2012 放映権の地域別構成割合】
オセアニア
3.3%
ヨーロッパ
22.0%
中東・アフリカ
1.1%
北米
55.9%
アジア
14.9%
中南米
2.8%
出典:OLYMPIC MARKETING FACT FILEを基に作成
【図表5 アジア地域の放映権料、
構成割合推移】
700
16.0%
12.0%
500
10.0%
ドル︶
US
400
8.0%
300
6.0%
200
4.0%
100
0
︵構成割合︶
︵百万
14.0%
600
2.0%
シドニー
アテネ
北京
ロンドン
スタジアム開発を成功させるための計画
目次
0.0%
序章 :スタジアム開発プロセスに
ついて
出典:OLYMPIC MARKETING FACT FILEを基に作成
第1章:プロジェクトビジョンの構築
第2章:計画および実現可能性調査
第3章:許認可の取得と設計
Ⅲ. まとめ
第4章:建設
第5章:運営
放映権料はスポーツ産業の発展に今や欠かせない収益源と
終わりに
なっています。ただし、放映権料を極大化するためには、
スポー
ツ自体の価値向上が必要不可欠です。オリンピック・パラリン
ピックは全世界が注目するメガイベントとして価値が高まって
いることから、放映権の高騰は今後も続いていくことが予想さ
れ、それによりさらに大会の規模が大きくなっていくと思われ
ます。
日本のスポーツは、海外に比べるとスポーツの価値を伸ばす
余地がまだ大きいことから、創意工夫によってスポーツの価値
を高め、収益源としての放映権料を拡大させていくことが肝要
であると考えます。
新しいスタジアムの新規建設または大規模な改修を検討す
る際には、開発の開始から完了までのプロセスを理解するこ
とが、
プロジェクトを成功させるために重要です。
スタジアム開発計画に 1つとして同じものはありませんが、
一連のステップと、異なるフェーズにおける相互関連性およ
び関与する専門家を理解する必要性は大部分で共通してい
ます。
本報告書では、開発業者、
クラブ、協会および公共団体に対
して、
スタジアム開発計画の概要を提供しています。
© 2016 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the
KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.
KPMG Insight Vol. 20 Sep. 2016
3
経営トピック⑥
「スポーツアドバイザリー室」の概要
KPMGジャパンは、一般事業会社で培った知見や経験を活用
し、スポーツ業界に属するチーム、団体が強固な経営および財
務基盤を構築し、勝利し続ける組織作りの支援を行うため、有
限責任 あずさ監査法人内に「スポーツアドバイザリー室」を設
置しました。スポーツアドバイザリー室はスポーツに関連す
るチームや団体が攻めのマネジメントを行う一助となるべく、
一般企業で培った経営や財務管理の知見を活用し、経営課題
の分析、中長期計画の策定、予算管理および財務の透明性等に
資するアドバイスを提供します。スポーツ業界を熟知したき
め細やかなサービスを提供するとともに、KPMGジャパンのグ
ループ会社の知見やスキルも活用しながら、スポーツ関連チー
ムや団体を包括的に支援してまいります。
主なサービス
■経営課題の分析
業績評価項目・指標に関する各種調査、データ収集に係る
支援
目標値設定および分析手法に係る開発支援
■経営管理に係るアドバイザリー
中長期計画支援、予算管理支援(経営戦略・経営目標と整合
した予算数値設定支援)
差異原因分析、組織目標達成のための具体的施策設定支援
■財務管理
資金出納管理:各種資金表の作成と実績比較を通じた資金
管理体制構築
固定資産管理:設備投資の意思決定段階における採算性計
算、維持更新にかかる経済性分析支援、等
■内部統制構築支援
■情報システムに係るアドバイザリー
■ガバナンス強化およびコンプライアンス支援
4
KPMG Insight Vol. 20 Sep. 2016
【バックナンバー】
スポーツビジネスの現状について
(KPMG Insight Vol.12/May 2015 )
欧州サッカーリーグ(ドイツ・ブンデスリーガ)の財政健全性
について
(KPMG Insight Vol.13/July 2015 )
Jリーグの現状分析
(KPMG Insight Vol.14/Sep 2015 )
欧州4大プロサッカーリーグと比較した際の日本サッカー界の
経営課題
(KPMG Insight Vol.15/Nov 2015 )
スタジアム建設における財務計画策定のプロセス
(KPMG Insight Vol.16/Jan 2016 )
人々が集うスタジアムとは ~海外事例を基に
(KPMG Insight Vol.17/Mar 2016 )
スタジアムからはじまる地方創生
(KPMG Insight Vol.18/May 2016 )
スタジアム開発における会計専門家の役割
(KPMG Insight Vol.19/Jul 2016 )
本稿に関するご質問等は、以下の担当者までお願いいたします。
有限責任 あずさ監査法人
スポーツアドバイザリー室
TEL:03-3548-5155(代表番号)
室長 パートナー 大塚 敏弘
[email protected]
スポーツ科学修士 得田 進介
[email protected]
© 2016 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the
KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.
KPMG ジャパン
[email protected]
www.kpmg.com/jp
本書の全部または一部の複写・複製・転訳載 および 磁気または光記 録媒体への入力等を禁じます。
ここに記載されている情報はあくまで一般的なものであり、
特定の個人や組織が置かれている状況に対応するものではありません。私たちは、
的確な情報をタイムリーに提供するよう努めておりますが、情報を受け取られた時点及びそれ以降においての正確さは保証の限りではありま
せん。何らかの行動を取られる場合は、
ここにある情報のみを根拠とせず、プロフェッショナルが特定の状況を綿密に調査した上で提 案する
適切なアドバイスをもとにご判断ください。
© 2016 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law
and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG
International”), a Swiss entity. All rights reserved. Printed in Japan.
© 2016 KPMG Tax Corporation, a tax corporation incorporated under the Japanese CPTA Law and a member firm of the KPMG
network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity.
All rights reserved. Printed in Japan.
The KPMG name and logo are registered trademarks or trademarks of KPMG International.