JP Nielsen-Journal-of

ニールセン メジャメント・ジャーナル
ビッグデータのモデリングにおけるパネル調査の価値
●
ビッグデータ時代のアンケート調査
●
消費者計測によって IoT を主流に
第 1 巻第 1 号
2016 年 7 月
編集長
SAUL ROSENBERG
マネージング エディター
JEROME SAMSON
レビュー委員会
PAUL DONATO
視聴行動分析部門 R&D 担当 EVP
チーフ リサーチ オフィサー
MAINAK MAZUMDAR
視聴行動分析部門 データサイエンス担当 EVP
チーフ リサーチ オフィサー
調査や計測の世界は変化し続けています。
最近のデータ収集、転送、蓄積および分析の進歩によって、調査機関は
かつてないほど大量のデータを利用できるようになりました。しかし、
「ビッグデータ」はデータの質を保証するものではなく、強固な調査手
法がこれまで以上に重要になってきています。
メジャメント サイエンスは、私たちの仕事の要となるものです。ニー
ルセンがご提供するあらゆるデータやインサイトは、絶えず進化を続け
る科学的手法とテクニックに支えられています。また、私たちは常に他
の科学者や業界の Thought Leader と協力して革新的なプロジェクトに
取り組んでいます。これらの仕事はどれも表には現れないものですが、
だからと言って重要性が低いわけではありません。それどころか、最高
品質のデータをクライアントに提供するために必要不可欠なものなの
です。
FRANK PIOTROWSKI
購買行動分析部門 データサイエンス担当 EVP
チーフ リサーチ オフィサー
ARUN RAMASWAMY
チーフ エンジニア
こうした極めてエキサイティングな進歩や発展に関する情報を皆様と
共有するために、『ニールセン メジャメント・ジャーナル』(Nielsen
Journal of Measurement)を創刊いたしました。本書では、その創刊第
一号をご紹介いたします。
ニールセン メジャメント・ジャーナルへようこそ
ERIC SOLOMON
SVP プロダクト リーダーシップ
SAUL ROSENBERG
『ニールセン メジャメント・ジャーナル』が 2016 年に重点的に取り上
げるテーマは以下のとおりです。
ビッグデータ — このテーマの関連項では、ビッグデ
ータを利用して調査方法を改良し、消費者の行動に
対する理解を深める方法を模索します。
アンケート調査 — 最近はあらゆるところでアンケ
ート調査が行われていますが、残念ながら科学的な
根拠がなおざりにされているケースが多々ありま
す。このテーマの関連項では、アンケート調査が今
日的なニーズに応えられるように進化し続けるため
にはどうすべきかに注目します。
脳科学 — マーケティングに対する消費者の脳科学
的、感情的な反応をモニターするための信頼性の高
いツールが種々提供されています。このテーマの関
連項では、急速に進化するこの分野の最新動向をお
伝えします。
アナリティクス — アナリティクスは、今日のあらゆ
るビジネス上の意思決定に関わり、データ サイエン
スは大いに活用と発展が期待される分野です。この
テーマの関連項では、計測のための新しいデータ分
析テクニックをご紹介します。
パネル調査 — パネル調査は、現在、世界中の大規模
計測ソリューションの中心をなしています。このテ
ーマの関連項では、パネルの設計、運用、パフォー
マンスモニタリングのあらゆる側面を取り上げま
す。
テクノロジー — 新しい技術が日々生みだされてお
り、その中には私たちの行動を根本から変えてしま
うほど画期的なものもあります。このテーマの関連
項では、これらの新技術が計測に与える影響を探求
します。
第 1 巻第 1 号
NIELSEN JOURNAL OF MEASUREMENT
本号の内容
スナップショット
本誌では毎号冒頭で、計測に関する最新の話題を「スナップショット」としてサマリー形式
でご紹介します。ここでご紹介したスナップショットは、本編記事の中で詳しく解説してい
きます。
レシートのコピーをいただけませんか?
1.
クラウドソーシングによるデータ収集----------------------------------------------- 5
広告業界の見果てぬ夢:
2.
広告接触と店頭販売実績を関連付ける----------------------------------------------- 6
理論から実践へ:
3.
ニューロ サイエンスが主流に---------------------------------------------------------- 8
新しい自動化プロセスによる
4.
小売店売上「ユニバース(母集団)推計」の改良------------------------------------ 10
特集
本編項では、今日の業界でとりわけ重要な計測の課題と機会について、ニールセンの考えを
ご紹介します。
1.
ビッグデータモデリングにおけるパネル調査の価値-------------------------------- 12
2.
ビッグデータ時代のアンケート調査---------------------------------------------------18
3.
消費者計測によって IoT を主流に------------------------------------------------------ 24
3
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
スナップショット
スナップショット 1
レシートのコピーをいただけませんか?
クラウドソーシングによるデータ収集
TAMAS GASPAR — ニールセン 購買行動分析部門 統計担当プリンシパル
現在、世界中の市場調査会社は、人々が食料品店で何
を買ったかをレポートにまとめるのに、店頭で収集し
たスキャニングデータに大きく頼っています。しかし、
すべての大手小売チェーンから協力を得られること
はめったにありません。実際、多くの国では、急速に
変化する消費財の売上高のうち、こうした協力を得ら
れないチェーンで発生するものが 1 割を占めることも
あります。消費者パネルである程度補完することは可
能ですが、これらの欠けた部分の代表性を確保できる
ほどの規模にはならないのが通常です。
ニールセンは長年、この問題に対応するため、協力を
得られない店舗の前で消費者から直接レシートを集
めるという方法をとってきました。20 カ国で毎年 400
万枚以上のレシートを集めています。この方法は有効
ですが、時間もコストもかかります。幸い最近の技術
の発達により、これらのチェーンでの買い物を推定す
る新しい方法を考案することができました。それは、
買物客に特定のアプリを携帯電話にダウンロードす
るよう依頼し、そのアプリを使ってレシートの写真を
撮ってもらうという方法です。
ニールセンでは、この有望なデータ収集方法をテスト
するため、イギリスにおいてプルーフ・オブ・コンセ
プト(概念実証)プロジェクトを開始し、既に 6,000
人のユーザーが登録し、9 万枚以上のレシートの画像
が送られてきています。では、画像の受信後、どのよ
うに処理するのでしょうか。プロジェクトの第 1 フェ
ーズでは、クラウドソーシング(Amazon Mechanical
Turk)を利用して、人海戦術でデータを読み取ること
にしました。しかし、参加者に対して十分に実施のポ
イントを説明したにもかかわらず、重要な情報を読み
飛ばしたり間違って読み取ったりといったことが発
生しました。
現在は、高機能の OCR(光学式文字認識)ソリューシ
ョンを使って画像を処理しています。OCR には自動化
という大きなメリットがありますが、今回のような場
合、技術的な課題が数多くあります。例えば、ノイズ
の多い画像を大量に処理しなければならず、そのノイ
ズを除去するアルゴリズムの開発は簡単ではありま
せん。もう 1 つの難題は、各レシートのイメージを正
しくデータベース項目に変換することです。レシート
から関係する情報を見つけ、レシート上の位置にかか
わらず各データポイントを正確に解釈し、そのレシー
ト上の商品説明の意味を正しく判断できるアルゴリ
ズムが必要です。
これらの技術的障害のほかに、このアプローチを確立
するためには、実施面での課題を解決しなければなり
ません。必要な人材をどのように探すのか。その人た
ちにアプリを使ってもらうにはどうしたらよいか。コ
ンプライアンスを促すにはどうするのか。プロセス全
体を合理化するにはどうしたらよいか。
まず、イギリスで集めたレシート画像から有用な情報
を得る方法を模索していく予定です。私たちの目標は、
レシート上と同じ情報をデータベースに記録し、その
データの意味を理解することです。その後、そのデー
タがどれほど正確にイギリスの買物客全体の現実を
表しているかを評価していく予定です。
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Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
スナップショット 2
広告業界の見果てぬ夢:
広告接触と店頭販売実績を関連付ける
LESLIE WOOD — ニールセン カタリナ ソリューションズ チーフ リサーチ オフィサー
広告の効果を知るにはどうすればよいでしょうか。広
告キャンペーンに接した消費者に対する販売実績を
直接測定する方法はあるでしょうか。
研究者やマーケティングの専門家は、何 10 年にもわ
たり広告効果の測定に取り組んできました。1970 年代
から 80 年代初期にかけては、ラグ効果、減衰率、ア
ドストック、ラグ係数、ハーフライフなどに焦点が当
てられていました。90 年代になると、画期的な研究に
より、広告の長期的効果は短期的効果の約 2 倍の価値
があることが示されました。業界は様々な方法で広告
効果を理解しようとしたものの、消費者にリーチした
広告と実際に購入された商品を紐付けようとしても、
その拠り所となる共通のデータソースがほとんどな
く、広告と、それによって誘引しようとした行動の間
に明確な関連を見いだすことはできませんでした。
この問題に対する最も有力な対応は、「シングルソー
ス」データでした。シングルソースデータを使えば、
特定のグループの人々が何を見て何を買っているか
を追跡することが可能です。広告に触れた人と触れて
いない人が分かるため、広告を見たか、見ていないか
だけが 2 つのグループの実質的な違いとなるように十
分な変数管理を行うことで、広告がキッカケとなった
売上を特定することができます。
このコンセプト自体は 60 年代半ばから存在しますが、
シングルソース法を利用した大規模な商業実験は
2006 年のプロジェクト・アポロが最初です。大手一般
消 費 財 ( CPG ) メ ー カ ー 数 社 に つ い て 、 Nielsen
Homescan®技術を使って消費者の購買行動を収集し、
Arbitron によるテレビ接触データと組み合わせまし
た。
結果はまずまずで、多くのことが分かりました。しか
し、一世帯または一個人を対象に、視聴した番組から
購入した商品まであらゆるデータを収集するにはコ
ストがかかるため、精度を確保する代償として、集ま
ったデータは少数にとどまりました。アポロのパネル
に参加したのは、5,000 世帯、約 1 万 1000 人です。小
規模ブランドに必要な精度で結果をレポートするに
は不十分な数でした。
しかし現在は、求められる規模でトランザクションデ
ータセットを融合してシングルソースデータセット
を作成することが可能です。あるサードパーティは、
各データセットの共通識別子を使ってデータセット
をリンク、匿名化し、特定の広告に触れた人と触れて
いない人の世帯購買状況の差を示すシングルデータ
セットを作成することで、広告キャンペーンの売上へ
の効果を特定しています。
このようなデータセットの作成は容易ではありませ
ん。どうすればスモールデータの精度をビッグデータ
の規模で再現できるでしょうか。私たちは、フリーク
エントショッパーのデータ、セットトップボックスの
データ、cookie のデータなど、入手できるあらゆるビ
ッグデータを利用しています。しかし、完璧なビッグ
データはありません。例えば、セットトップボックス
のデータからは、テレビの電源が入っているかどうか、
誰が視聴しているかまで分かるとは限りません(これ
について詳しくは、本号の「ビッグデータのモデリン
グにおけるパネル調査の価値」を参照してください)。
さらに、当社のフリークエントショッパーデータベー
スには 9,000 万人が登録されていますが、ポイントカ
ードを使わずに購入したものまでは分かりません。
解決策の 1 つは、完璧なデータセットを 1 つ選び、そ
れをビッグデータのデータセットの「較正」用に使う
ことです。当社の場合、10 万世帯分のあらゆる購買デ
ータが記録された Homescan データを使っています。
Homescan とニールセンのフリークエントショッパー
データベースを「比較」すると、データセットの重複
を見つけることができます。したがって、両方のデー
タベースに含まれている人については、フリークエン
トショッパーデータベースの方に含まれていない買
い物の状況を確認することができます。この差をモデ
ル化すれば、大規模なデータベースの購買パターンを
すべて反映し、その結果から母集団全体について推定
することができます。
このような「スマートなスモールデータ」から「ビッ
グデータ」へ、さらに「スマートなビッグデータ」へ
の発展によって、現在シングルソースデータを規模に
応じて利用することが可能になり、日常的なマーケテ
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Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
ィングの意思決定を支えるのに十分な精度が得られ
るようになりました。
もちろん、精度についてはさらに改善の余地がありま
す。例えば、視聴と購買のデータセットを組み合わせ
るときに様々な問題が生じます。データには個人レベ
ルのものもあれば世帯レベルのものもあります。シリ
アル食品の”フルーツループ”の CM を見た人と”フ
ルーツループ”を買った人とが同じとは限りません。
購買への影響に関する重要な問題――誰かが何かの
広告を見て、ほかの人に買い物を頼んだ場合など――
は、今日でも解決が難しい問題です。デジタル広告の
ビューアビリティも、広告詐欺とともに重要な課題で
す。ボットによるトラフィックやその他様々な方法で、
デジタルでの広告接触率が詐欺的に水増しされる問
題です。これらの課題を解決することによって、核心
的な問題――広告視聴は購買にどのような影響を与
えるか――に、遥かに正確に答えることができるよう
になります。
最終的には、シングルソースデータセットに組み込ま
れるデータソースはほぼリアルタイム、正確、完全、
包括的である必要があり、それらの補正に使われる方
法は、結果をもとに母集団全体について推定できるも
のでなければならないと認識することが重要です。
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Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
スナップショット 3
理論から実践へ:
ニューロ サイエンスが主流に
MICHAEL SMITH — ニューロサイエンス ソリューションズ VP
Carl Marci — ニールセン
チーフ ニューロサイエンティスト
マーケティング担当者は、ブランドイメージによって
消費者の視線を釘付けにしたい、それ以上に、現代の
生活における様々な関心事よりも少しでも魅力を高
めて消費者の記憶の中にわずかでもとどまる場所が
欲しいと願い、1 日に 5,000、1 万、あるいは 2 万もの
競争相手と戦っています。こうした努力は、技術が発
展し、新しいアプリのトレンドが生まれ、ソーシャル
ネットワークがますます洗練されたターゲティング
のアルゴリズムとアプローチを開発するなど、変化し
続けるメディア情勢の上で展開されています。
このように多様化し断片化した環境で、1 つのブラン
ドが成功することはかつてより難しくなっています。
そのため、マーケティング担当者は常にブランドのパ
フォーマンスをより効果的に示し、解釈を助けてくれ
るツールを求めています。意思決定には、無意識の感
情的プロセスや記憶の活性化が重要な要因となるた
め、ニューロ サイエンス ツールでこれらのプロセス
を捉えることができれば、この分野に価値ある貢献が
できます。
ニューロ サイエンスの分野には、ここ 10 年で様々な
変化がありました。画期的な新技術が開発されたり、
医療研究から応用されたり(脳波検査法、バイオメト
リクス、フェイシャルコーディングなど)したことで、
多くの脳科学者が、それらを使って多様なマーケティ
ングの問題に答える機会を見いだしています。彼らは
この状況に熱狂するあまり、これらの技術にはそれぞ
れ強みとともに限界もあるということを忘れてしま
いがちです。これらのツールの適用範囲を広げ過ぎた
り、1 つの技術に頼って多くの問題に答えを出そうと
すると、実際は極めて複雑な人間の脳生物学的側面を
単純化しすぎることになります。
研究者が複数の脳科学的技法を慎重に組み合わせ、そ
れらの盲点を補完しようとし始めたのは、ごく最近の
ことです。1+1=2 以上になることが分かり、初めて
脳科学者たちは、どれか 1 つの技法だけで測定可能な
範囲に合わせることなく、現実的な問題に取り組むこ
とができるようになりました。
例えば、新しい自動車保険プランのメリットを謳う 30
秒のテレビ CM について考えてみましょう。EEG(脳波
検査法)を使うと、1 秒毎に、CM のどの部分が視聴者
の反応を引き出すか、特に何が視聴者の目を引き、記
憶を活性化させているかが分かり、同時に、情動反応
の「方向」(快・不快)を知ることができます。これ
は広告の成否を理解するために重要です。しかし、EEG
の表示の振幅が小さすぎて反応の強さを測定できな
いことがあります。
ここにバイオメトリクスを加えると、表示の振幅がは
るかに大きくなり、視聴者の全体的な情動反応の強さ
を測定できるようになります。広告のナレーター、ア
ニメーションの背景色、音楽などを変えてバイオメト
リックエネルギーの違いを測定すれば、どのバージョ
ンの広告が最も有効かについてさらなる情報を得る
ことができます。
フェイシャルコーディングを使うと、この視聴者反応
にさらに要素を加えることができます。視聴者は、ナ
レーターが若いドライバーの自動車事故について話
したときに顔をしかめたり(「嫌悪」)、事故を起こ
しても保険料が上がらないと話したときに笑ったり
(「好感」)するかもしれません。これらのデータポ
イントを EEG の表示と組み合わせることで、視聴者の
関心の有無や度合いを理解することができます。アイ
トラッキングを追加すると、広告の視覚的プロセスと
いうさらに別の面が分かります。
これらの技法を組み合わせることで、以前のフレーム
ワークの欠点を克服し、マーケティング担当者がテス
トしたいどのような要素の組み合わせについても、極
めて正確な測定結果を提供できるのです。これは本当
に画期的なことです。動画広告から店頭ディスプレイ、
商品パッケージ、新しい形のマーケティングコミュニ
ケーションまで、診断能力の大幅な向上によって、消
費者脳科学が急速にクリエイティブプロセスの重要
なパートナーになりつつあります。
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Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
これですべてが解決されるということでしょうか。も
ちろん、そうではありません。私たちのコンテンツの
使い方は絶えず変化しています。小さな画面のモバイ
ルプラットフォームでコンテンツを見る機会が増え、
そのような時の脳の状態は、リビングルームでゆった
りくつろいで大画面でコンテンツを見る時と同じで
はありません。活動中、あるいはほかのことに気を取
られている時の消費者の反応を捉えられるようニュ
ーロ サイエンス ツールを改良していく必要があり
ます。さらに、広告キャンペーンはマルチプラットフ
ォーム化が進んでおり、キャンペーン全体の影響に対
しそれぞれのプラットフォームがどの程度寄与して
いるかを調べることは困難です。
人間は複雑です。現代の消費者環境では簡単に注意力
を逸らされてしまいます。広告メッセージの中で最も
際立った刺激に反応するとは限りません。好きなもの
を避けたり(ダイエット中にチョコレートを避けるな
ど)、好きではないものを求めたり(安全を守ってく
れるから自動車保険に入るなど)することもあります。
まだ課題は山積していますが、これまでの進捗は大い
に励みになるものです。
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Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
スナップショット 4
新しい自動化プロセスによる
小売店売上「ユニバース(母集団)推計」の改良
TODOR TODOROV・VESSELIN KOVACHEV — ニールセン
リテール メジャメント サービス(RMS)は、ニール
センの事業を支える礎の一つです。このサービスは、
小売業界の情勢と消費者の詳細な購買行動を理解す
るために世界中のマーケティング担当者に利用され
ているものです。現在、103 カ国で 120 万以上の店舗
がサンプルとなり、毎月ニールセンの担当者による監
査を受けるか、POS データを電子的にニールセンに提
供しています。その他に RES(リテール エスタブリッ
シュメント調査)を実施し、各市場の小売店売上のユ
ニバースに関する詳細な情報をまとめています。多く
の国、特に開発途上国や新興国では信頼できるユニバ
ース情報がないため、代表的かつ予測可能なサンプル
の裏付けとしてこの調査が必要なのです。
RES のプロセスでは、データ収集のための訪問を数多
くこなします。その数は年間 850 万件以上にのぼりま
す。ほとんどの国ではユニバース推計の更新は年に 1
回なので、
データは 5~9 カ月間かけて収集されます。
ニールセンは、より正確で一貫したユニバースを生成
するため、このプロセスをより継続的に実施するプロ
セスへと移行しています。この新しいプロセスをロー
リング RES(RRES)といい、既に 54 の市場に導入して
います。年間を通じて情報を収集し、4 カ月毎に年 3
回ユニバースを更新しています。
では、なぜこれが重要なのでしょうか。RRES のような
ローリング式のデータ収集方法は、大規模な計算を必
要とするあらゆるビジネスに関して、定期データ収集
方法よりもはるかに優れています。これによって、よ
り市場の現実に即したサンプルの作成が可能になり
ます。しかし、その実施は、運用基準にプレッシャー
を与えます。第一に、サンプルの設計が難しくなりま
す。例えば、ニールセン RRES の場合、最適なサンプ
ルは適正なバランスの 3 つのサブサンプルに分ける必
要があります。これは簡単な作業ではありません。
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10
データ サイエンス
また、推計方法も高度です(例えば、調査担当者は、
特定のサブサンプルに影響を与える新しい政策を、他
のサブサンプルには影響しないように考慮する必要
があります)。また、調査後にすばやく予測を提供し、
システムの恩恵を十分に得るようにするには、ロール
アウトの速度を大幅に早める必要があります。
こうした新たな制約にはコストが伴います。従来の計
算プロジェクトを支える設計とプロセスは、一般に人
の手に頼るもので、ローリングプロセスを実現するた
めに必要なテストや検証に対応できる柔軟性があり
ません。例えば、1 カ国のサンプルを 3 つの確実なサ
ブサンプルに分ける作業を適切に実行するために、デ
ータ スペシャリストは 1 カ月の時間を要します。規
模に応じたローリングソリューションの導入を支え
るには、手法全体を標準化し、自動化する必要があり
ます。すべてのデータを集計し(さらに、そのデータ
を継続的に送信し、フォーマット変更するために時間
を浪費することを避け)、専門家がそれを利用して各
種要因(階層の数など)が最終結果に与える影響をテ
ストできるようにするため、あらゆる手順やプロセス
にわたって包括的なプロダクションプラットフォー
ムを開発する必要があります。
マニュアルプロセス(複数の分断されたプラットフォ
ームを使用)から自動化プロセス(効率的な中央集約
型データベースを利用)への切替えを成功させること
は簡単ではありませんが、データの品質という観点か
らも進めるべきです。標準化の努力には常に困難が伴
いますが、新しいコアコンピテンシーへの扉を開き、
データサイエンスが企業の業績に大きな効果をもた
らす機会を生み出します。ニールセンは現在、欧州・
アジア各国で RRES プロセスを自動化するパイロット
プロジェクトを実行しており、既に極めて有望な結果
が出始めています。
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
特
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集
ビッグデータモデリングにおける
パネル調査の価値
PAUL DONATO — ニールセン
チーフ リサーチ オフィサー
概要
視聴者の分散化が業界レポートで話題にならない日
はほとんどありません。もちろん、この現象は目新し
いものではありません。80 年代のケーブルテレビ、90
年代の衛星デジタル放送、2000 年代のインターネット
動画に続き、最近では OTT(オーバーザトップ)の選
択肢が広がり、テレビ視聴者にとっては年々番組の選
択肢が増えています。ネットワークが広がり、ニッチ
番組が増え、それらを視聴する手段も拡大しています。
パス データ)を使ってこの問題を克服できる可能性
もありますが、そのためには、RPD の制約とバイアス
を補正し、検証できることが条件となります。この記
事では、これらの制約に対してパネルを有効に補正し、
それを RPD のデータセットから得られる視聴率の検証
に役立てる方法について論じます。
パネル調査と RPD を組み合わせることで、正確で安定
した視聴率計測が実現します。
しかし、調査業界にとっては、こうした多様性の広が
りは負担をもたらすものであり、ここ数年の目覚まし
い変化によって、業界がこれまで視聴行動の分析に活
用してきたパネル調査の計測能力に限界が生じてい
ます。視聴者の少ない番組であっても安定した計測結
果を出すには大規模なパネルを集める必要があり、そ
のことが大きな課題となっているのです。
テレビのセットトップボックスからの RPD(リターン
12
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
RPD(リターン パス データ)の限界
リターン パス データとは何でしょうか。それは、視
聴者にメディアコンテンツを配信するインフラその
ものによって収集される視聴行動データです。コンテ
ンツ(テレビ番組、番組ガイドなど)が視聴者側へ送
られると、セットトップボックス、ミドルウェアシス
テム、ヘッドエンドサーバーなどの技術パスを通じて、
利用行動(チャンネルや番組の選択、クリックストリ
ーム、遠隔操作行動など)が配信側へ送り返されます。
最新機器では、メディア配信システム全体で RPD のデ
ータ収集を有効化することが可能です。このため、RPD
のデータセットは一般に何 100 万世帯もの視聴行動を
カバーし、RPD 収集世帯から作成された視聴率は極め
て安定していると言えます。しかし、RPD による計測
には 4 つの大きな制約があり、そのために、視聴率の
小数点以下の値が番組、ネットワーク、放送局の成否
を決定することすらある映像配信業界に、極めて不正
確な視聴データを持ち込んでしまうおそれがあるの
です。
それらの制約とは次のものです。
1. テレビの電源が入っているかどうかを検知できな
い
セットトップボックスは、平均で 50~80%の時間は電
源が入ったままですが、そこへ接続されたテレビ受像
機の電源が入っている時間はその約半分です。つまり、
テレビの電源が入っているかどうかを判断するモデ
ルを開発しなければならないということです。
2. リ タ ー ン パ ス デ ー タ の 使 用 に 伴 う バ イ ア ス
(世帯内と地域内)
RPD 世帯の全テレビが RPD のデータを送り返せるわけ
ではありません。例えば、衛星放送の世帯(RPD 世帯
の約 35%)では、インターネットまたは電話回線に接
続されたテレビ受像機からしかデータを送り返せま
せん。そうした受像機は、当然のことながらビデオ オ
ン デマンドへのアクセスに利用されている可能性が
高いため、世帯内の他のテレビ受像機の視聴行動を正
しく反映しません。さらに、地域の全世帯が RPD を提
供するわけではありません。ほとんどの地域では、限
られた数の MVPD(多チャンネル映像番組配信事業者)
のみが RPD のデータを提供し、それに対応するデータ
セットがカバーするのは、各地域の世帯の 15~60%で
あるとみられています。システムのライセンス方法が
原因で、MVPD は特定の郡や州に偏っていることが多い
ため、人口構成に加えて、視聴可能なチャンネルも地
域の MVPD によって異なります。
て、そのような突き合わせ自体ができない場合もあり
ます。
4. 世帯の誰が実際に視聴しているかを判断できない
RPD は個人ではなくセットトップボックスと関連付け
られているため、そのボックスに接続されたテレビを
実際に誰が視聴しているかを正確に判断することは
できません。
パネルがリターンパスデータの精度の向上に
寄与
幸い、パネル調査はこれらすべての制約に対処できま
す。それでは、一つずつ見ていきましょう。
パネルを使って、RPD でテレビの電源が入っているか
どうか検知できない問題に対処
次のグラフは、主要ピープルメーター市場における、
1 カ月間のニールセン・ローカル・ピープル・メータ
ー・パネル(LPM)で測定された「テレビ電源オン」
と、一般的な MVPD の RPD に登録された未加工データ
から推定される「テレビ電源オン」の関係を表したも
のです。RPD のデータで見ると、この地域ではほぼ 24
時間テレビの電源が入っているように見えます。この
データによると、この 1 カ月間、全世帯の 60%以上が
昼夜を問わず常にテレビを視聴していることになっ
ており、その非現実的な結論が正しくないことは明ら
かです。いずれのグラフも、予想どおり毎日プライム
タイムにピークに達しているものの、そのピークにも
十分な相関が見られません。例えば、プライムタイム
の HUT(総世帯視聴率)に注目すると、6 月 7 日から 6
月 8 日にかけ LPM のグラフは上昇している一方で、
RPD
のグラフは低下しています。
このグラフは、実際にはテレビの電源が入っていない
時間に捕捉された偽りの視聴データを除外すること
の難しさを示しています。
3. 世帯構成員が不明
通常、RPD 計測を利用する調査機関には各世帯の構成
は分からないため、サードパーティのデータセットと
突き合わせてこの問題に対処しようとしています。こ
れらのサードパーティのデータセットは正確である
とは限らない上に、プライバシーに関する方針によっ
13
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
テレビの電源はいつも入っているのか
1 カ月間の総世帯視聴率(HUT)の変動(%)
地域 B における「テレビ電源オン」の差違
RPD プロバイダー「X」、セットトップ・モデル「N」
LPM(ローカルピープルメーター)
LPM(ローカルピープルメーター)
RPD(セットトップボックス)
すべてのシステムが同じように見えるとしたら——つ
まり、テレビの電源が入っている時と入っているよう
に見える時の間に関連があれば——RPD の数値を同じ地
域のパネルの数値で修正するための単一モデルを開
発することが可能ですが、残念ながらそのようにはな
っていません。
次のグラフは、異なるモデルのセットトップボックス
が使用されている、地域 A(上)と地域 B(下)につ
いて、LPM パネルで測定された「テレビ電源オン」と、
特定の RPD プロバイダーに登録された未加工データに
よる見せかけの「テレビ電源オン」の関係を示すもの
です。
地域 A における「テレビ電源オン」の差違
RPD プロバイダー「X」
、セットトップ・モデル「M」
LPM(ローカルピープルメーター)
RPD(セットトップボックス)
RPD(セットトップボックス)
この範囲の問題を修正する唯一の方法は、多数の地域
と多数の RPD プロバイダーを測定対象にするパネル調
査を利用することです。パネルは、これらの大きなバ
イアスを修正するために必要な情報をすべて提供し
てくれるものであり、こうしたパネル(サイズ、スコ
ープ、精度)を欠いた状態では、RPD によってどの程
度視聴率が過大評価されているかを知ることは不可
能です1。
地域の全テレビからリターンパスデータを得られな
いことに起因する、世帯レベルと地域レベルのバイア
スへの対処
RPD 世帯の中に、データを送り返せないテレビが 1 台
以上ある場合もあります。全 MVPD の協力の下で全地
域の RPD が取得できたとしても、データを送り返すこ
とができるのは、米国で使われているテレビ受像機の
約半数に止まります。しかし、先に述べたように、利
用可能なデータセットでは各地域の 15~60%の世帯し
かカバーできません。
ニールセンのパネル調査では、RPD のある世帯とない
世帯の行動の違いを分析し、それに応じて RPD を調整
して実態を判断することができます。ただし、このモ
デルの有効性は、1) 対象地域における RPD 世帯のカ
バー率、2) モデルの開発に使われる RPD 世帯のカバ
ー率、3) モデル開発地域とモデル適用地域間で、RPD
端末と世帯間のバイアスが一致していることに依拠
しています。
ご想像されるとおり、地域の RPD カバー率が高いほど
RPD データのバイアスは小さくなり、データを大きく
修正する必要はなくなります。しかし、RPD カバー率
が低く、したがってバイアスの大きい地域では、より
強くバイアスを修正するためのモデルが重要です。
これについて説明するため、2 つのピープルメーター
市場(当社がパネル調査によって個人レベルの視聴デ
ータを得られる地域)に注目します。RPD 世帯が地域
全体の 42%(50 万世帯)を占めるセントルイスと、地
域全体のわずか 6%(15 万世帯)のダラスです。
*ケースにより、またプロバイダーによっては、「テレビ電源オン」に
関する情報の一部を HDMI バックチャンネルを通じて利用できますが、
これらは特定のテレビとプロバイダーの組み合わせに対応したデータ
なので、それ自体が別のバイアスを生み出します。
14
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
セントルイス KTVI(FOX)の世帯視聴率
次の図は、ダラスの FOX 系列局、KDFW の世帯別視聴率
を、ダラス以外のセントルイス(いずれも中部時間帯)
のピープルメーターデータのみを使ってモデリング
したものです。
電源オン/オフ、接続のない世帯と受像機
についてパネルに基づきモデリング
ピープルメーターによる実測値
「RPD 電源オン/オフモデリング」は、テレビの電源
が入っているかどうかについてだけモデリングした
データです。ダラスのように利用可能な RPD のデータ
が地域の 6%しかカバーできていない場合、大きなバイ
アスが存在することが分かります。この地域のピープ
ルメーターのデータとの乖離に注目してください。ニ
ールセンでは、セントルイスの RPD のデータとセント
ルイスのピープルメーターのデータの関係を調べて
開発した機械学習アルゴリズムを使い、この過大評価
を修正するモデルを開発しました。このグラフからは、
このモデルによって過大評価された RPD のデータがピ
ープルメーターによる実測データに大幅に近づいた
ことが分かります。
大幅な過大評価が生じるのは、ダラスの RPD データが
同地域の全世帯の 6%しかカバーしていないためです。
モデルはこれによるバイアスを大幅に修正するもの
の、すべてを修正しきれるわけではありません。残り
の誤差の一因は、セントルイスの RPD 世帯が全人口の
42%をカバーし、モデルの当てはまり具合は良好であ
るものの、ダラスにとっては修正度が弱すぎることに
あると考えられます。その解決策は、ターゲット地域
にできるだけ近い擬似地域を作り出して、必要な修正
モデルを開発することです。
RPD、電源オン/オフモデリング
土日 10:30pm~2am
土日 10pm~10:30pm
土日 5pm~6pm
土日 6pm~10pm
土日 3pm~5pm
土日 9pm~12pm
全曜日 2am~2am
平日 10:30pm~2am
平日 10pm~10:30pm
平日 6pm~7pm
平日 7pm~10pm
平日 5:30pm~6pm
平日 3pm~5pm
平日 5pm~5:30pm
平日 12pm~3pm
平日 7am~9am
平日 9am~12pm
平日 2am~5am
土日 10:30pm~2am
土日 10pm~10:30pm
土日 5pm~6pm
土日 6pm~10pm
土日 3pm~5pm
土日 9pm~12pm
全曜日 2am~2am
平日 10:30pm~2am
平日 10pm~10:30pm
平日 6pm~7pm
平日 7pm~10pm
平日 5:30pm~6pm
平日 3pm~5pm
平日 5pm~5:30pm
平日 12pm~3pm
平日 7am~9am
平日 9am~12pm
平日 2am~5am
平日 4:30am~7am
RPD、電源オン/オフモデリング
平日 4:30am~7am
ダラス KDFW(FOX)の世帯視聴率
電源オン/オフ、接続のない世帯と受像機
についてパネルに基づきモデリング
ピープルメーターによる実測値
このモデリングプロセスを逆転させたら(つまり、ダ
ラスの RPD とピープルメーターに基づくモデルを開発
し、セントルイスの RPD のデータに適用したら)どう
なるでしょうか。上の図は、RPD データのカバー率が
42%と高いため、RPD データを電源オン/オフモデリン
グで修正しただけでもピープルメーターの実測デー
タを十分推定できることを示しています。しかし、モ
デルが未加工データを修正しすぎ、ピープルメーター
の実測データを超える部分があることから分かるよ
うに、このバイアス修正モデルは強すぎます。
セントルイスでは RPD データのバイアスはわずかなの
で、大幅な修正は必要ありません。
同じ分析をその他 3 つの系列局について実施しました
が、いずれのケースでも、ダラスのピープルメーター
視聴率の推定値は大幅に改善しました。しかし、セン
トルイスの 4 つの系列局のうち 3 つでは、やはりモデ
ルによる過修正が起こりました。単純な電源オン/オ
フモデリングで修正した RPD データの方が、ピープル
メーターの視聴率に近づきました。
この結果として言えることは、適度なカバー率(この
ケースでは 42%)の RPD データを使って開発したモデ
ルは、RPD カバー率が 6%と低い地域のバイアスもかな
り修正できるということです。ただし、逆も真とは言
えません。モデリングを行わない(オン/オフ補正の
みの)RPD データは、カバー率が高いほど精度が高ま
るものの、バイアスの大きい(カバー率が 6%と低いた
め)モデルに基づいてさらにモデリングすると、デー
タを過修正してしまいます。
重要なことは、モデリングの補正や計測精度の確保の
ためにパネルを使用すること以外に、RPD データを使
用したテレビ視聴率の精度を高める方法はないとい
うことです。
15
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
パネルは、世帯構成の把握にどのように役立つのか
各 RPD 世帯には誰が暮らしているのでしょうか。サー
ドパーティのデータベースを利用して世帯構成を推
定できる場合もあります。しかし、プライバシー保護
を理由に、データベースを RPD 世帯と直接突き合わせ
ることを許可していない MVPD もあります。サードパ
ーティのデータベースの精度を当社のパネルに対し
て繰り返しテストした結果、世帯構成の「フィンガー
プリント モデリング」が、ほとんどのサードパーテ
ィデータよりも正確に実態を反映することが分かり
ました。
分類精度
特定の視聴者層のいる世帯
子供
18-34 歳 34-35 歳 55 歳
以上
モデルにより正確に分類できた割合
ヒスパニック系
アフリカ系
サードパーティデータにより正確に分類
できた割合(%)
フィンガープリンティングは、セットトップボックス
に対するチューニング行動全般から世帯の人口構成
をモデル化する手法です。その原理は、RPD 世帯にお
ける各受像機の視聴パターンと、世帯構成が分かって
いるパネル世帯における同様のパターンを調べると
いうものです。
ニールセンでは、モデル内の視聴行動にリンクした変
数を使って、その世帯内に特定の視聴者層が存在する
ことを推定します。サードパーティのサプライヤーは、
クレジットカード取引、自動車登録状況、購買行動な
どを使ってその推定を行っている場合があります。
2つのモデルの結果を比較すると分かりやすいでし
ょう。次のグラフは、ニールセンのテレビパネルによ
るフィンガープリントモデルと一般的なサードパー
ティデータ業者による世帯分類の精度を示したもの
です。
結果は、テレビ視聴行動が、世帯構成を推測するのに
極めて適していることを示しています。プライバシー
が重視される環境において、パネルが利用できればサ
ードパーティに頼る必要がなくなります。サードパー
ティのデータが利用できるケースでも、パネルを参照
するべきです。
パネルは、世帯内の誰が実際に視聴しているかを把握
するのにどのように役立つのか
RPD だけでは、誰が視聴しているかは分かりません。
テレビの電源が入っていることが分かり、世帯構成を
適切に推定できれば、ここでもパネルを利用して、実
際に誰がテレビを見ているかを特定することが可能
です。このようにパネルは、モデルを「鍛える」ため
に使用されるだけではなく、別のパネル調査対象に適
用し、モデルの精度を検証するための基準としても機
能するのです。
次の図は、ダラスの 4 つの主要地方局について、ニー
ルセンのモデルで予測したダラスの 18~49 歳の視聴
者構成を、パネルで実際に計測した視聴者と比較した
ものです。このモデルはまだ「第一世代」ですが、LPM
基準データと比較しても優れていることが分かりま
す。いずれのケースでも、修正後のデータはピープル
メーターの実測データに極めて近くなります。
16
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
未来に向けて
テレビ視聴率
ダラス KDFW(FOX)18~49 歳視聴率
今回の調査では、ターゲット地域と類似した RPD バイ
アスを示すと考えられる地域をベースにモデル開発
すべきであることが示されました。人口構成の違いは、
ウェイトをかけるか、人口構成の似た擬似地域を作成
してモデリングのベースとすることで調整すること
が可能です。また、RPD 世帯内で誰が実際にテレビを
視聴しているかを特定するには、フィンガープリンテ
ィング手法が有効です。
ただし、ハードワークが伴います。視聴習慣の変化を
正しく反映するには、頻繁にモデルを修正、検証して
いく必要があります。しかし、今回の調査で使用した
地域の中には、利用可能な RPD がわずか 6%という地域
もあったことを考えると、大いに期待の持てる結果と
なりました。
ダラス WFAA(ABC)18~49 歳視聴率
ダラス CBSDFW(CBS)18~49 歳視聴率
ピープルメーターによる実測値
17
土日 10:30pm~2am
土日 10pm~10:30pm
土日 5pm~6pm
土日 6pm~10pm
土日 3pm~5pm
土日 9pm~12pm
全曜日 2am~2am
平日 10:30pm~2am
平日 10pm~10:30pm
平日 6pm~7pm
RPD、電源オン/オフモデリング
平日 7pm~10pm
平日 5:30pm~6pm
平日 3pm~5pm
平日 5pm~5:30pm
平日 12pm~3pm
平日 7am~9am
平日 9am~12pm
平日 2am~5am
平日 4:30am~7am
ダラス KXAS(NBC)18~49 歳視聴率
この記事では、質の高いパネル調査を利用することで、
いくつかの大きな制約に対処し、RPD のデータセット
の価値を広げられることをご紹介しました。しかし、
他にも大きな制約はあります。例えば、新しいセット
トップボックス(ほとんどが RPD データを送り返すこ
とが可能なタイプ)は、まず高所得の加入者向けに販
売されることが多いため、人口構成の偏りが一層助長
されることになります。また、すべての MVPD がタイ
ムシフト視聴データ(一部の番組やネットワークでは、
このような視聴パターンがかなりの部分を占める場
合があります)を提供できるようにシステムを設定し
ているとは限りません。さらに、OTA(オーバーザエ
ア)や OTT(オーバーザトップ)視聴をモデル化する
には、ある RPD 地域を別の RPD 地域に従ってモデリン
グする難しさとは全く違った難しさが伴います。これ
らの分野についてはフォローアップ記事でさらに詳
しく取り上げますが、一つ確かなことがあります。RPD
のデータセットから信頼性の高い洞察を引き出そう
とする場合には、基準となるパネルがあれば便利なの
ではなく必要不可欠であるということです。
電源オン/オフ、接続のない世帯と
受像機についてパネルに基づきモ
デリング
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
ビッグデータ時代のアンケート調査
MICHAEL LINK 氏 — Abt SRBI 社長兼 CEO
JEFF SCAGNELLI — ニールセン 購買行動分析部門
データ サイエンス担当マネージャー
概要
「アンケートは死んだ! アンケート万歳!」。私た
ちは「ビッグデータ」時代に生きています。次第に多
様化するデータソースから、大量の高速データが行き
交う世界です。アンケート調査は、ほぼ 1 世紀にわた
って市場調査の主役を務めてきましたが、リードタイ
ムの長さ、サンプル数の少なさ、参加者の減少、コス
トの増大により、有効なアンケート調査を実施するこ
とは以前よりもはるかに難しくなっています。
るケースも増えてきていますが、そうした方法では、
シンプルに回答者に質問を投げかけるアンケートの
ようには、「なぜ」をうまく引き出すことができませ
ん。
ほとんどの(すべてとは言わないまでも)クライアン
トにとって、「なぜ」はいまだに重要です。幸い、そ
うした課題には様々な解決策があります。
最近、米国や海外で政治関連の世論調査の失敗が大き
く取り上げられたことがさらに状況を悪化させ、全人
口の一部のサンプルに対する聞き取り調査によって
正確な情報を収集できるのか、そもそもその必要があ
るのかなど、深刻な疑念が生じています。しかし、現
実ははるかに複雑です。今日、アンケート調査の代わ
りに別の情報収集方法(ソーシャルメディア、GPS、
SKU、センサーなどのデータに基づく方法)が使われ
18
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
変化するアンケート調査
人々の意見、態度、行動が形成され、表現され、概念
化され、測定される過程は、かつてよりはるかに多様
化しています。それと同時に、消費者の行動や嗜好を
観察し理解する必要性は、ここ数年で大きく高まって
います。
企業、政府機関、学者などは、アンケート調査によっ
て得られた母集団と、市場に関する知識に基づいて意
思決定を行い、方針を決定しています。例えば、失業
率、物価上昇率、その他今日の米国で広く使用されて
いる全国指標の多くは、今でもアンケート調査によっ
て測定されています。
消費者の態度と行動に関する質の高いデータへのニ
ーズは高く、ますます高まる傾向にありますが、従来
のアンケート調査によって情報を収集し続けるには
大きな課題があります。これらの課題に直面した調査
データ利用者の多くは、現在の調査方法に対し懐疑的
になっており、その結果、アンケート調査は岐路に立
たされているのです。
問題の大本は社会の変化と技術の進歩です。数 10 年
にわたり市場調査の主役だった電話調査は現在、ある
単純な問題に直面しています。人々が電話に出ないの
です。また、電話調査が電話勧誘と誤解されるケース
も増えています。固定電話の減少、携帯電話への自動
ダイヤルの禁止、発信者番号通知システムの普及も回
答率の低さに影響しています(下図を参照)。
アンケート調査回答率の低下(1999~2014 年)
(CBS/NYT/ABC/WP/Pew の世論調査の平均)
ょう」)へと変化しています。取引は金銭による場合
(調査を受けることに対する金銭的インセンティブ)
もあれば、「同種商品」と引換えの場合もあります。
例えば、ソーシャルメディアやモバイルアプリの場合、
参加者はそのプラットフォームを使って商品につい
て調べたり、ほかの人に意見を伝えたり画像を共有し
たりする際に、企業が自分の個人情報にアクセスする
ことに同意します。
オンライン調査も回答に関する課題に直面していま
す。アンケートへの参加を呼びかけても(バナー広告
などの方法をとる場合もあります)、実際に参加する
のはごく少数です。人々の態度の変化やコミュニケー
ション習慣の変化によって適切な調査を実施しにく
い環境が生まれており、次第に調査結果が疑問視され
るようになっています。
政治関連の世論調査は、おそらく最も目に見えやすく、
アンケート調査の有効性が疑問視されている分野で
す。2012 年大統領選挙でのミット・ロムニー候補の敗
北は、政治の「世論調査会社」がいかに簡単に選挙結
果を見誤るかを示しました。ロムニー候補自身もその
チームも、世論調査の数値をもとに、選挙当日まで勝
てると信じていました。ここ数年、ほかにも世論調査
が外れたケースが多く、中には勝者は正しく予測でき
たものの、実際の選挙結果とは票差が大きく異なる場
合もありました。また、世論調査の結果と実際の勝者
がまったく違っていたこともあります。このような問
題は米国に限ったものではなく、むしろ世界的な問題
です。2015 年だけでも、政治世論調査は、イギリス、
アルゼンチン、ポーランド、イスラエルの選挙結果を
正しく予測できませんでした。
確かに、選挙結果を世論調査から予想する場合は、最
終予測の際に投票率を正確にモデル化する必要があ
るなど、ほかの形態のアンケート調査や市場調査とは
その性質は異なります。しかし、政治世論調査は、人々
の本当の選択が選挙結果として実際に明らかになる
数少ない世論調査の一つなので、調査業界にとって指
標となる場合もあります。このように、政治世論調査
はその性質が独特である一方で、たまの失敗が悪目立
ちをし、市場調査や消費者嗜好判断など、ほかの形態
のアンケート調査の信頼性にも懸念を生じさせてし
まう傾向にあります。
出典: David Dutwin (Jan 28, 2016). “Political Polling Isn’t Dead
Just Yet.” The Washington Post, The Fix Blog
さらに、社会の情報交換に対する考え方は、より利他
的なもの(「私の意見が役立つよう、X について感じ
たことをお答えしましょう」)から、間違いなく取引
的なもの(「対価と引換えに私のデータを提供しまし
19
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
アンケート調査はインサイトを得る上で重要
である
そうは言っても、消費者の態度や行動を本当に理解す
るには、アンケート調査のデータはまだまだ必要です。
ここ数年、クレジットカード取引、ポイントカードの
データ、Twitter の投稿、携帯電話の GPS 位置情報な
どのパターンを特定するなど、ビッグデータの利用が
進んでいます。しかし、これらのアプローチでは、消
費者が何をしているかを理解し、さらにどのような人
がその行動をとっているかをある程度理解すること
はできても、消費者の行動の背景にある本当の理由を
判断することまではできません。そして、どのような
新しい商品やサービスを提供すべきか、それを誰に販
売すべきか、どこでどのように広告すべきかなど、多
数の重要なビジネス上の決定を下す企業にとって、
「なぜ」を理解することは今でも極めて重要なのです。
推論によってインサイトを構築することはできます
が、データに基づき財務上の決定を下そうという時に、
間接的なデータに頼ることにはリスクが伴います。
このため、ニールセンでは、各方面でアンケート調査
を利用しています(主な調査シリーズの一部を下の表
に示しています)。例えば、広告効果、購買決定、テ
調査シリーズ
Nielsen Scarborough
(ニールセン スカーボロー)
Global Survey Of Consumer Confidence
And Spending Intentions
(消費者景況感・消費意欲グローバル調
査)
クノロジー利用、家計・消費習慣、その他幅広い問題
に関する消費者の態度や行動について深く理解する
ために、継続的なアンケート調査を利用しています。
確かに、一部のビジネス上の意思決定には、「何を」
を迅速に細かく知ることができれば十分な場合もあ
ります。例えば、サービス復旧や金融詐欺検知のため、
対処の必要な問題領域を発見したい場合や、需要増に
すばやく対応したい場合などです。しかし、消費者の
態度や行動の背景にある本当の理由を理解するには、
アンケートに代わるものはほとんどありません。ニュ
ーロ サイエンスやバイオメトリクスは、特に動画広
告、新しいパッケージデザイン、マルチプラットフォ
ームテストなどの特殊なマーケティングコミュニケ
ーションにおいて「なぜ」を知るために広く使われる
ようになっています。しかし、アンケート調査の用途
の幅広さに対し、これらのソリューションが利用され
るのは、現段階では比較的狭い範囲の問題に限られて
います。したがって、アンケート調査が「なぜ」につ
いてインサイトを得るための重要なツールであるこ
とに変わりはありません。
しかし、そこには様々な課題があります。
内容
全米 120 以上の地方都市で、年間 20 万件以上のアンケート調査を実施。
ラジオ聴取、新聞・雑誌購読、テレビ視聴、余暇活動、購買習慣などに
ついて、電話調査と郵送調査を組み合わせて情報を収集しています。
アジア太平洋、ヨーロッパ、中南米、中東・アフリカ、北米 60 カ国以上
の消費者 3 万人以上を対象に、オンライン調査を実施しています。
米国の 13 歳以上のモバイル会員 3 万人以上に対し、毎月調査を実施して
います。データは主にオンラインで収集されますが、18 歳以上のヒスパ
ニック系回答者の情報を得るため、補完的にスペイン語の電話調査も行
っています。
約 3 万 5000 人の成人を対象に 2 年に一度オンライン調査を実施し、自動
Nielsen Insurance Track
車保険、住宅保険、生命保険など各種保険に関する行動について、消費
(ニールセン保険利用動向調査)
者レベルのデータを収集しています。
約 3 万 2000 人の成人を対象に年に一度オンライン調査を実施し、家庭で
Nielsen Technology Behavior Track
の技術利用に関する行動について、消費者レベルのデータを収集してい
(ニールセン テクノロジー嗜好性調査)
ます。
対面調査、電話調査、オンライン調査を組み合わせて、この計測サービ
Nielsen National People Meter Service
スに組み込むのに適した世帯をスクリーニングし、調査期間にわたって
(ニールセン 全米ピープル メーター
参加パネル世帯の世帯構成と消費者・メディア行動情報を収集していま
サービス)
す。
Nielsen Mobile Insights
(ニールセンモバイル インサイト)
20
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
課題を理解する
最近の世帯電話保有状況の変化
(米国 2012~2015 年)
アンケート調査には、質問票の構成方法(測定エラー)、
電話、対面、オンライン、モバイルデバイスなどの実
施手段(モードバイアス)、インセンティブを使用す
る場合はその金額と種類など、様々な要因によるバイ
アスと精度の問題が伴います。しかし、今日調査会社
が競い合っていて、そして多くのエラーを生む原因と
なっているのは、調査に参加する人々の選定方法です。
すなわち、回答者をどのようにサンプル抽出すれば、
母集団全体(例えば、特定の小売分野の E コマース顧
客、特定の地域市場におけるテレビ視聴者、特定の複
数のウェブサイトにアクセスした個人など)を十分に
カバーまたは代表しているかです。
代表性
アンケート調査は、抽出したサンプルと母集団全体の
間で、質問(または質問セット)に対する回答のずれ
を評価し、説明することができれば「代表性がある」
とみなすことができます。選定された調査参加者が、
代表すべき母集団と系統的に異なる場合、調査による
推定結果には「バイアス」が生じる可能性があります。
これは、消費者が実際に何を考え、どのように行動し
ているかについてミスリードし、誤った結論に導くお
それがあります。例えば、2015 年のイギリスの総選挙
で世論調査が正しく結果を予測できなかったことに
関して最近事後検証が行われた結果、特定層の人々
――この場合はより保守的な有権者(保守党支持者が
多い)――を網羅できていなかったことが失敗の主因
であったことが判明しました。
カバレッジ
どのようなアンケート調査にも、対象となる母集団が
あります(例: 人口全体、投票すると予想される人、
ある協会の会員、顧客など)。この「母集団」のすべ
て、またはほぼすべてを特定しアクセスすることが可
能であれば理想的です。それはつまり、母集団に含ま
れるメンバー全員の包括的リストを入手できる状況
です。しかし、このようなケースはめったになく、多
くの場合、過去に利用できたリストも現在では状況が
変わっています。例えば、次の図に示すように、もは
や固定電話というフレームの中には、わずかな世帯数
しか収まっていません。また、E メールアドレスを持
つすべての個人やほぼすべての個人といったように、
現実には(少なくとも全人口を対象としたものは)存
在しない理論上だけのフレームもあります。
携帯電話のみ
携帯電話+固定電話
固定電話のみ
さらに、無回答者がランダムに発生するとは限りませ
ん。例えば、米国国勢調査局は、1 人世帯は複数人世
帯よりもはるかに「不在」率が高く、したがって回答
率が低いとしています。このような系統的無回答はサ
ンプルデータを歪め、これらの回答者を含めるべく特
別な努力を行わない限り、母集団に対する代表性が低
下するおそれがあります。
このような場合にバイアスが生じる可能性を軽減し
ようと、調査側は様々な新しい手法を開発してきまし
た。例えば、電話調査の母集団のカバレッジを最大化
するため、現在では、固定電話フレームと携帯電話フ
レームの両方を含んだ二重フレーム調査法が求めら
れます。ニールセンは約 10 年前に、あるサービスの
調査方法を、世帯固定電話を無作為に抽出する世帯選
別方法から、住所を無作為に抽出する方法に移行しま
した。自動ダイヤル装置を使って既知の携帯電話番号
に電話をかけることが制限されたため、二重フレーム
(固定電話+携帯電話)抽出法ではコストがかかりす
ぎたことがその背景です。この移行によって、当時
日々直面していたカバレッジの問題が解決され、各指
定マーケットエリアのすべてまたはほぼすべての世
帯を包括できるようになりました。
出典: Blumberg SJ, Luke JV. Wireless substitution, National
Center for Health Statistics.
21
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
オンライン調査固有の課題
今日の課題への対処
オンライン調査は、電話調査や対面調査のコスト対策
として開発されたものですが、オンライン調査ならで
はの課題に直面しています。明白な問題は、ネットに
つながっていない人はサンプルに含まれる機会がな
いことです。それ以外にも、オンライン調査やパネル
のメンバーは、既知のリストや抽出フレームから選ば
れるのではなく、バナー広告をクリックしたり、大規
模な継続的オンライン調査パネルに参加するなどし
て、調査活動にオプトインするのが通常です。
これらの課題に対処するため、調査会社は主に 3 つの
戦略をとることができます。
ところが、このことが調査プロセスとその結果の質を
評価しにくくする場合があります。例えば、オンライ
ン調査の参加者が、全人口やネットにつながっている
全消費者といった母集団とどのように異なるのか、こ
れらの母集団を正確に代表できるのかを理解するに
は、実証的証拠、詳細な分析、優れた判断が必要です。
また、特定の商品を購入した顧客やポイントカードに
登録した顧客などのリストも完全とはいえません。不
足や重複、さらに誤りが含まれている可能性もありま
す。ニールセンでは、オンラインパネル調査の際、で
きるだけ幅広く代表性の高いオンライン調査回答者
のプールを確保する目的で、異なる戦略でパネリスト
候補を採用している複数のベンダーを利用すること
があります。
参加率の低さ
カバレッジの問題以外にも、参加を依頼された人々の
参加率の低さが問題になることがあります。調査の参
加に同意した人とそうではない人の間で態度や行動
に違いがあれば、調査による推定結果がミスリーディ
ングなものになったり、不正確なもの(つまり「バイ
アス」があるもの)になる可能性があります。アンケ
ート調査への参加率の低下は、ほぼあらゆる職業や階
層の人に見られますが、とりわけ若者や人種的に多様
な集団で目立ちます。彼らは最もアクセスしにくく、
アンケートに最後まで協力してもらうのが難しい層
です。
各調査会社は最近、アンケートへの参加率を高めよう
とあらゆる手を尽くしています。過去 10 年間、ニー
ルセンは調査サンプルへの参加率を高める方法を見
いだし改良しようと、多くの研究を行ってきました。
複数回連絡を試みたり、異なる回答方法や手法(電話、
オンライン、メール、自動音声応答など)を提供した
り、金銭もそれ以外も含め各種インセンティブを提供
したりしています。こうした努力によって参加率の低
下速度にはブレーキがかかったものの、低下傾向を止
めるには至っていません。この傾向は、市場調査業界
全体に見られます。
22
1. 母集団に対するカバレッジを拡大し、回答率を高
めるため、現在の調査活動に追加リソースを投資
し続ける。
2. 現在の調査の補強または代替策として、ソーシャ
ルメディアの利用など、新しいデータ収集方法に
切り替えた場合の影響を探る。
3. 無回答やカバレッジの誤差が大きいサンプルか
ら安定した推論ができるよう、新しい分析・モデ
リング手法を開発する。
ほとんどの市場調査会社は、いまだに業務の一部を最
初の戦略に頼っています(これには、ニールセンも含
まれます)。そうした調査には、10 年、20 年、ある
いは 50 年にもなろうかという長い継続実績を持つも
のもあり、調査会社は新しいデータ収集方法に切り替
えることによってデータの信頼性を危険にさらした
くないと考えています。年々増えるコストだけを考え
てもこのような戦略を続けることは困難ですが、いま
だに需要があり、長期的に安定したデータ収集活動と
引換えにプレミアムを支払う用意がクライアントに
あるのなら、これも現実的な選択肢の 1 つに違いあり
ません。
最近では、新しいアンケート調査や、データ収集方法
を切り替えても影響を受けにくいアンケート調査に
対しては、将来性があって従来の調査方法よりはるか
にコストがかからない新しい手法があります。例えば、
オンライン検索結果、ソーシャルメディアのデータ、
その他現代の消費者行動に基づくビッグデータのデ
ータセットは比較的アクセスしやすく、容易に分析し
てインサイトを得ることができます。多数の研究で、
アンケート調査のデータとウェブから収集したデー
タには相関があるとされています。しかし、これらの
データセットを使った予測は、いつも成功しているわ
けではありません。
ビッグデータには、カバレッジの問題や回答者の属性
情報の不足など、多くの面で弱点があることを認識し
ておく必要があります。ソーシャルメディアやその他
の形態のビッグデータは、明確に定義された母集団を
カバーしていないことがあります。それどころか、特
定のデータソースによってどのようなタイプの人や
地域がカバーされるのかを判断するのが非常に難し
い場合があります。さらに、ビッグデータはごく少数
の変数や対象分野については充実していますが、デモ
グラフィックデータとの相関やほかの分野の変数が
得られません。このため、ビッグデータの結果を特定
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
の集団と結びつけたり、複数の対象分野の動向を組み
合わせたりすることは(不可能とは言わないまでも)
困難です。
このような種類のデータセットを扱う最良の方法は、
科学的な厳密さをもってデータを扱い、躊躇せずに調
査結果を従来の方法で再検証することです。それによ
って両方の結果を比較し、落とし穴があればそれを発
見することができます。あるデータ収集方法から別の
収集方法に――例えば、電話から Facebook に――調
査を完全に移行することも可能かもしれませんが、こ
のような移行は時間をかけ秩序立てて行う必要があ
ります。プロジェクトによっては、ビッグデータに頼
るソリューションも可能ですが、データ調整のために
従来のアンケート調査を基本部分だけでも残してお
くべきです。
Facebook や Google など、ソーシャルメディアプラッ
トフォームの最大手が、従来のアンケート調査に完全
に背を向けていないのは興味深い点です。彼らは新機
能、ユーザー体験、広告内容などに対する利用者の態
度を理解するため、(その他多数の内部・外部の方法
と併せて)利用者アンケートを使っています。こうし
たアンケート調査は、従来のアプローチとは性質が異
なる傾向にありますが(多くの場合、少数のサンプル
を対象に長く詳細なアンケートを実施するのではな
く、多数の異なる層を対象に少数の質問をするのが特
徴)、ビッグデータの分野でもアンケートが依然重要
であることを示しています。
コストの制約の範囲内でアンケート調査データの正
確性を確保するため、市場調査会社は次第に高度な統
計モデリング技法によって信頼性の高い推定結果を
出すようになってきています。サンプルマッチングが
よい例です。新しいサンプルを採用してまったく新し
いアンケート調査を行うより、別々のサンプル調査で
得られた情報を組み合わせた方がコスト効果が高い
場合があるのです。別の調査とのサンプル設計の適合
性、適切なマッチング変数の選定、データセットを調
整しマッチングプロセスを促進するための加重シス
テムを慎重に検討すれば、あるサンプルのデータをほ
かのサンプルのデータとして利用できる場合もあり
ます。組み合わせた(マッチングした)サンプルを使
って、新しいデータ関係を推測することができます。
サンプルマッチングのような高度な統計モデリング
技法でも、初期サンプルの当初の質は重要ですが、従
来ほどではありません。むしろ、調査側は統計的技法
を使って収集後のデータを調整し、初期サンプリング
およびデータ収集プロセスのエラーの原因を解明し
ます。
査データそのもの以外にも追加データを利用し、これ
までよりはるかに多くの潜在的エラーを修正するた
めに生かせることです。このアプローチのためには、
モデルの前提条件や母集団に関する推定を検証する
新しい方法、あるいは少なくとも従来より厳格な方法
が必要です。
本格的なアンケート調査会社はいずれも、このような
モデルの開発に相当な時間とリソースを費やしてお
り、それらを科学的にテストし、適切にクロス確認す
るとともに、市場の情勢変化に合わせて長期的に改良
できるようにしています。これは統計科学の進化中の
分野です。調査結果の品質管理については別の見方が
必要ですが、予測可能な未来までアンケート調査を存
続させる上で、この手法が必須となる日は近いでしょ
う。
まとめ
今日のビッグデータの世界では、私たちは消費者のイ
ンプレッション数、クリック数、バイオメトリクス、
GPS 位置情報、デモグラフィックデータ、cookie、ト
ランザクション、そして冷蔵庫の温度さえも捕捉し、
インサイトや戦略を生み出す元となる関連度の高い
行動パターンを特定することが可能です。消費者が何
をしているかを知ることは重要です。しかし、最終的
には、消費者がなぜそれを選択したかを知ることが何
よりも重要です。消費者の行動を理解するための最も
信頼できる手段は、直接尋ねることです。現在、アン
ケート調査の実施は以前よりも難しくなっています
が、幸いなことに、業界はこれらの課題に立ち向かう
ために必要なツールの開発に懸命に取り組んでいま
す。アンケート調査は、今でも消費者調査に重要な役
割を果たしています。
もちろん、80 年以上前に科学的調査が始まった時以来、
このような調整は行われてきました。それらとの違い
は、現在の技法の方が洗練されている場合が多く、調
23
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
消費者計測によって IoT を主流に
JP ABELLO — ニールセン グローバル エンジニアリング R&D 部門 ディレクター
概要
IoT(The Internet of Things)は、今後数年のうちに、
何 10 億ものあらゆる種類の新しいデバイスをインタ
ーネットにつなぐと見られています。ドアの錠、電球、
コーヒーマシン、冷蔵庫からパーキングメーター、信
号機、健康測定機器、医療移植片、水道メーター、ア
セットタグ、輸送コンテナまで、今日の形のある製品
の多くが、互いに通信し合う「スマート」デバイスに
なるというビジョンが描かれています。今や、IoT が
自分たちにどのように影響をもたらし、それに備える
にはどうすべかを考えない企業はほとんどありません。
24
IoT は、産業用としては既に価値を生んでいますが(主
に、エネルギーセクター、製造、サプライチェーン管
理の効率向上と保守費用削減という形で)、最も将来
性が高い分野は、まだごく初期の段階にあります。例
えば、コネクテッドホーム、或はコネクテッドカー、
ヘルスケアなどの分野です。消費者向け IoT には、私
たちの毎日の暮らしを完全に、それも目に見える形で
変える可能性が秘められています。
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
最近、サーモスタットの Nest、カメラの Dropcam、ハ
ブの SmartThings などの新しい消費財ブランドや、
Google、Samsung などの大手企業が大型買収を行った
ことで、消費者の IoT 分野に対する意識は急速に高ま
っています。私たちの家は、互いに情報をやりとりし、
人の手を介さずにそれぞれの仕事をこなす能力を備え
たスマートなデバイスを組み込んで、1960 年代に『宇
宙家族ジェットソン』が生み出したビジョンのもっと
先を行こうとしています。
しかし、この先には多くの技術面、資金面、規制面の
障害が待ち受けています。セキュリティやプライバシ
ーの懸念、共通の技術標準の欠如によって、状況はさ
らに複雑になっています。アーリーアダプター、テク
ノロジーマニア、トレンドセッターは既に IoT を受け
入れており、初期製品の多くにはクラウドファンディ
ングで開発費が提供されています。しかし、ウェブや
モバイル、さらにその前のテレビやラジオと同様、消
費者向け IoT 市場の発展は、あらゆるユーザーのニー
ズと関心をどれだけ理解できるかにかかっています。
まだ実際の機会や主流のビジネスモデルは明らかには
なっていません。そうした中、消費者計測に基づく市
場調査によって、企業は、誇大宣伝の裏側を見通し、
IoT の可能性をフルに引き出すことができるのです。
IoT とは何か
IoT に関するニュース記事では IoT の定義がまちまち
で、その定義は多くの場合、その業界の色を反映した
ものになっています。課題の 1 つとして、IoT の究極
の目標は地球上のすべてのデバイスを接続することで
す。これを「Internet of Everything(すべての IoT)」
と呼ぶ人もいます。
IoT という用語ができたのは 15 年余り前ですが、概念
はそのはるか前から、M2M(マシン ツー マシン)通信
技術を使う業界分野に存在していました。過去 20 年間
の技術の進歩によって、この概念はさらに多くの業界
に広がり、これまでインターネットにつながったこと
のない多くの製品分野に影響を与えています。
このように急速に広がった結果、現在ほとんどの消費
者は、IoT が自分にとって、また自分の生活や仕事に
とって何を意味するかを理解できずにいます。たびた
び引用される 2014 年に Acquity Group(Accenture の
子会社)が米国の消費者 2,000 人を対象に行った調査
i
は、回答者の 87%が IoT とは何かをまだ知りませんで
した。
通信し、協調する能力を生み出すことを可能にする」
というものです。
Goldman Sachs と Internet of Things Consortium が
使用する別の定義では、IoT をインターネットの「第 3
の波」としています。最初の波はデスクトップブラウ
ザーによって 10 億の人々をつなぎ、第 2 の波はモバイ
ルによってさらに 10 億の人々をつなぎました。IoT は
既に全人口の 2 倍の数のモノをインターネットにつな
いでおり、Cisco、Juniper Research、Gartner、IDC
などの予測によると、その数は 2020 年には 500 億台に
も上ります。
この項では、IoT とは、コンピューティングコンポー
ネントの大幅なサイズとコストの削減、これらのデバ
イスをすべて相互接続するために必要な低電力、低帯
域幅 IP ネットワーク専用に設計された新しいクラス
のインターネットベースプロトコルの開発など、最近
のいくつかのブレイクスルーが合わさって実現する相
互接続されたデバイスのシステムであると考えます。
PC、スマートフォン、タブレットは除外します。これ
らはすべて、人の操作に依存する前世代の設計に基づ
いているからです。
これらの新しい IoT 技術のおそらく最も重要な特徴は、
デバイスが直接相互に通信し、集合的に環境からのデ
ータを共有できることです。これにより、IoT デバイ
スは自律的(人の入力に依存しない)かつ協調的(共
同で機能する)に動作します。
例えば、自動運転車は近くの車や物と直接通信し、ほ
かの車や周囲の道路・構造物からのセンサーデータに
アクセスできるため、人が直接操作するより安全、高
速、効率的に人を輸送することが可能です。さらに家
庭では、様々な毎日の家事をインテリジェントに自動
化することで、消費者に大きなメリットをもたらしま
す。McKinsey ii の調査によると、10 年以内に IoT デバ
イスによって、すべての世帯で家事労働(掃除、洗濯、
料理、庭の手入れ、ペットの世話など)の時間を年間
100 時間削減できるようになります。
数 10 億個の IoT デバイスをインターネットによって相
互接続することによる経済効果は計り知れません。GE
などによるいくつかの予測では、2025 年には全世界の
GDP の約半分に達するとされています。
2015 年 6 月に McKinsey Global Institute が提唱した
さらに新しい定義の一つは、IoT は「物的資産が情報
システムの要素になり、新しい方法で捕捉し、計算し、
25
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
膨張し続ける IoT への期待
技術的な障害
IoT とは何かが十分に理解されないまま、IoT に関する
誇大宣伝が展開されたことで、今後数年間で実現でき
る範囲を超えて期待が膨らんでいます。2015 年には ほ
とんどの IoT セクターで有望な成長が見られましたが、
前記のような初期の予測は、既に非現実的なものにな
りつつあります。
最初の問題は、現在 IoT の技術的環境が断片化されて
いるために、異なるブランドの IoT 製品間の相互運用
性が極めて限られていることです。つまり、IoT 業界
全体で採用される単一の技術プラットフォームがなく、
大規模で健全なエコシステムの出現が妨げられている
ということです。これは、ごく初期から HTML に準拠し
てどのブラウザでもウェブサイトを閲覧できたウェブ
の黎明期とは異なる状況です。
Gartner の「ハイプサイクル:先進テクノロジー」で
は、IoT は 2 年連続で「過度な期待のピーク期」にあ
り、「生産性の安定期」に達するまでにはまだ 5~10
年かかるとされています。さらに、消費者向け IoT の
カテゴリーの中でもとりわけ有望視される「コネクテ
ッドホーム」(ホームオートメーション、コネクテッ
ドサーモスタット、照明など)は、まだ「黎明期」フ
ェーズ、すなわちごく初期のアーリーアダプターの段
階にあります。
この結果、IoT の成長予測は縮小され始めています。
例えば、2015 年 6 月に Ericsson は、予測値を 2010 年
当時のもの(2020 年までに IoT デバイスが 500 億台に
達する)から約半分の Gartner、IDC、ABI Research の
最新予測値(約 250 億台)に沿ったものに修正しまし
た。経済効果の予想も縮小され始めており、最近の IDC
の調査では、IoT の経済的価値は 2020 年までに 1 兆
7,000 万ドルと、前回予想より約 1 桁低い数値になっ
ています。
これらの主要市場指標の下方修正は、この変革の途上
にはまだ大きな障害があることを示しています。
こうした状況になった根本原因は、以前からの M2M に
あります。M2M は様々な独自の非 IP ベース技術の上に
構築されています。ここ数年、この問題に取り組もう
と、複数の IoT 技術標準化団体が発足しています。と
ころが、これらの組織の間には十分な協調性がありま
せん。
現在、
50 以上の IoT 技術標準が開発されており、
単一で共通の IoT 基盤を築くのではなく、各組織が独
自に個々の市場の要件、仕様、ガイドラインを策定し
ようとしています。
消費者向け IoT の分野だけでも、既に複数のオープン
スタンダードと独自のイニシアチブが競合しています。
その中でも新しい 2 つが、
AllSeen Alliance
(Qualcomm、
LG 、 Microsoft が 主 導 ) と Open Connectivity
Foundation(Intel、Samsung が主導)です。いずれも
コネクテッドホーム用のオープンソース ソフトウェ
ア フレームワークを開発しており、オープン インタ
ーネットの遅延時間とセキュリティの問題を回避する
ため、ピア ツー ピア通信プロトコルを使用していま
す。ところが、これらをサポートする製品は、これま
でごくわずかしか発売されていません。
Bluetooth、ZigBee、Z-Wave はコネクテッドホームに
必須で、消費者にも広く浸透していますが、インター
ネットベースではなく陳腐化しつつある技術です。い
ずれも IP プロトコルをサポートするため仕様のアッ
プグレードに取り組んでいますが、インストールベー
スの最新バージョンへの切り替えには時間がかかるも
のと思われます。
こうした取り組みのほかに、W3C、OASIS、IETF、ISO、
IEC、ETSI、ISA、CTA、OMG、OMA、IPSO など、世界中
のほぼすべてのソフトウェア標準化団体が独自に IoT
への取り組みを開始しています。また、Apple(HomeKit)
や Google(Nest の Thread Group、Android の Brillo OS
と Weave フレームワーク)による独自の IoT イニシア
チブは、豊富な資金源と注目度の高さが強みです。
26
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
このような技術的なカオスは、共通の IoT エコシステ
ムの発展にとって好ましいことではありませんが、こ
れらの組織の中には、互いに融合したり協力したりす
る動きも出始めています。oneM2M コンソーシアムは昨
年 AllSean Alliance と契約を交わし、ZigBee Alliance
は Thread Group と提携し、Open Interconnect
Consortium は最近 UPnP Forum の資産を買収した上で、
Open Connectivity Foundation(OCF)に名称を変更し
ています。残念ながら、W3C が HTTP と HTML でウェブ
にもたらしたような影響力を持つ単一の IoT 標準に到
達するには、まだ大幅に統合を進めていかなければな
らない状況です。
セキュリティとプライバシーの障害
これらの技術的障害のほかに、プライバシーとセキュ
リティが一般消費者を踏み止まらせる大きな懸念にな
っています。2015 年後半に行われた Accenture の調
査 iii では、回答者の約 50%がこれらを最大の懸念とし
て挙げ、
3 分の 2 が最近のデータ漏洩を認識しており、
アーリーアダプターの 20%が結果として IoT デバイス
を返却しています。
これらの懸念を、データのプライバシーとセキュリテ
ィについて深刻に捉えるようになってきたウェブとモ
バイルのユーザーは既に共有しています。しかし、IoT
こうした断片化に加え、IoT を行き渡らせるために必 アプリケーションの場合、自分に関するどのような情
要な技術の中には、まだ研究開発段階のものもありま 報が何の目的のために収集されるのかを、現在の消費
す。例えば、何 10 億もの IoT デバイスの電池を交換す 者はまだほとんど知りません。自分のデータが、雇用、
るのはあまりにも非現実的なため、業界は現在、代替 信用情報へのアクセス、保険料率に影響を与え、身体
策として効率的なエネルギー採取技術(太陽光、熱、 的な危険まで及ぶような使い方をされる可能性がある
振動など)を模索しています。EnOcean Alliance は、 ことを知りません。例えば、スマートドアのキーがハ
産業分野でエネルギー採取ソリューションの提供をあ ックされれば住宅に侵入されるおそれがあり、コネク
る程度進めており、最近、消費者分野に参入しました。 テッドカーが乗っ取られれば事故につながるおそれが
例えば、Leviton の電源内蔵型無線照明スイッチは、 あります。
ボタンを押すことで放出される運動エネルギーを利用
して小型無線通信機に電気を送ります。
2015 年 10 月に Harris Interactive が行った調査 iv
また、低速で不安定なインターネット接続しか得られ
ない僻地を中心に、ネットワークリソースの使用効率
を大幅に高めることも必要です。このような省電力広
域ネットワーク(LPWAN)をサポートするため、ごく低
電力で最小限のインターネット接続を行う必要のある
デバイス向けに多数の最適化されたインターネットベ
ースプロトコル(6LowPAN、CoAP、MQTT、AMQP、XMPP、
EXI など)が開発されています。
では、米国の若い世代(現在の小中学生)は自動運転
車の概念に対し極めて受容的であることが分かりまし
た。運転ができる年齢になったら、自分で運転する車
よりも自動運転車が欲しいという回答が約半数(44%)
を占めましたが、高校生になるとこの数字は 28%にな
ります。しかし、これらの若いテクノロジーファンで
さえ、安全性(61%が自動運転車を「やや危険」または
「とても危険」とみている)とデータ漏洩については
懸念しています。
このような懸念に対する米国の対応は、暗号化と認証
の仕組みの強化に力を入れるというものです。最近の
iOS のセキュリティをめぐる Apple と FBI の対立から
も分かるように、そのこと自体が議論の的となりえま
す。
米国以外の国では、多くの政府が、国境を越えてもデ
ータのプライバシーを保護するための包括的新法の制
定を進めています。例えば、欧州議会は最近、「忘れ
る権利」を可決しました。これは、要求を拒否すべき
理由(法律、契約、政治などの理由)がないことを条
件に、個人が自分のデジタル個人データを消去させる
ことができるようにするものです。これによって、例
えば意味をよく理解せずにネットで情報を共有しすぎ
てしまった子供を保護することが可能になります。消
費者に接する企業は、刑罰を科されないようにこの法
律に従って「データ保護責任者」を任命する必要があ
ります。この措置は一層の摩擦と施行上の課題を生む
ものと思われます。
27
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
IBM など数社は、最近、従来の中央管理されたセキュ
リティ構造の代わりにブロックチェーンを使ってセキ
ュリティ上の懸念に対処することを提案しました。ブ
ロックチェーンは、コンセンサスのみによって更新で
きる(Wikipedia の仕組みに似ている)検証可能な取
引(デジタルイベントなど)の分散型台帳を提供し、
第三者によるデータ改ざんをほぼ不可能にします。エ
ストニアは既に銀行システムの基盤にブロックチェー
ンを採用しており、さらに契約管理と医療管理のシス
テムもこれに移行中です。NASDAQ も、遠隔地の株主か
らの投票記録を認証するため、ブロックチェーンを実
験的に使用しています。
残念ながら、ハッカーやサイバー犯罪者の手口はさら
に洗練化されているため、漏洩は増加し続けることが
予想されます。そして、IoT デバイスは新たなセキュ
リティ攻撃の標的やエントリーポイントになるでしょ
う。この脅威に対処するため、現場に配置された IoT
デバイスは、現在の PC やモバイルデバイスと同じよう
に、明らかなった脆弱性を修正するためのソフトウェ
アのアップデートを頻繁に受け入れる必要がでてくる
でしょう。また、少なくとも数年間は、ソフトウェア
と規制基準は急速に進化し続けることが予想されるた
め、エコシステムが陳腐化しないようにするためにも、
頻繁なソフトウェアのアップデートを推し進める必要
があるでしょう。しかし、そのような複雑な管理に必
要なインフラは、まだそこまでの規模では配備されて
いません。
不透明な価値提案
一般消費者が IoT を購入する際の最大の障壁になって
いるのは、IoT 製品とサービスのコストの高さだと思
われます。2015 年 10 月と 11 月に Accenture が 28 カ
国のネットユーザー2 万 8000 人を対象に行ったアンケ
ート調査 v によると、世界のユーザーの約 3 分の 2(62%、
ほぼあらゆる年齢層と国にわたって)が IoT のデバイ
スとサービスは価格が高すぎるとしています。
現在、コネクテッドホームデバイスのコストは、従来
型の同等のデバイスの約 50 倍です。例えば、米国では
一般的なドア錠はたったの 5 ドルですが、コネクテッ
ドドア錠は 250 ドルもします。一般的な照明のスイッ
チは約 1 ドルですが、Lutron、Leviton、Insteon のコ
ネクテッド照明スイッチは 50~100 ドルです。Nest や
Ecobee などのコネクテッドサーモスタットも、一般的
なデジタルサーモスタットの 5 倍の価格です。さらに、
これらのデバイスのほとんどは相互に接続するために
スマートハブを必要とするため、優に 150 ドルはかか
ります。
アーリーアダプターは、以前から新技術には進んでプ
レミアムを支払ってきましたが、IoT に関しては、
Kickstarter や Indiegogo 経由で多くの新製品に対す
るクラウドファンディングまで提供しています。これ
には、SmartThings の IoT ハブ(後に Samsung に買収
される)、Pebble のスマートウォッチ、LIFX のコネク
テッド電球などがあります。しかし、あまりにも多く
の種類の新しい IoT 消費者向け製品が一度に現れたた
め、アーリーアダプターでさえ混乱し始めています。
消費者が躊躇するもう一つの理由は、こうした新しい
IoT デバイスの多くが早い段階で陳腐化し、サポート
が打ち切られると予想されることです。特にコネクテ
ッドホーム用家電(冷蔵庫、洗濯機、乾燥機など)は、
従来のコンピューター製品(スマートフォンなど)よ
りはるかに買換サイクルが長く、アーリーアダプター
にとっても一般消費者にとっても、これらの高い買い
物は金銭的リスクが大きすぎるのかもしれません。
こうした懸念に加え、異なるブランドの IoT デバイス
(互換性がない場合も多い)をセットアップし相互接
続する作業は、普通の消費者には複雑すぎます。小売
業者はこの問題を十分に認識しており、既に一般消費
者の教育に乗り出している企業もあります。Amazon、
Best Buy、Home Depot、Lowe’s はいずれも、初めて
コネクテッドホーム用の製品を購入する顧客のために
分かりやすいオンラインガイドの提供を開始しました。
しかし、こうした一流の販路であっても、新しく実績
のないブランドにとってはマーケティングが失敗に終
わるリスクは相当高いといえます。例えば、Home Depot
は Wink Hub(シンプルなスマートホームハブ)を大々
的に宣伝しましたが、ハードウェア性能の問題とソフ
28
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
トウェアのバグのため、親会社は昨年破産申請を行い
ました。
米国におけるスマートテレビの普及率(2013~2015 年)
こうしたいくつもの障害を踏まえて、米国では 2022 年
までに 1 世帯当たり 500 台の IoT デバイスが普及する
という Gartner の予測は、あまりにも楽観的であると
考えられ始めています。一般消費者が本当に IoT 消費
者製品を受け入れるようになるには、もっと明確で魅
力的な価値提案と、これらの消費者の懸念に対する具
体的な解決策が必要だと考えられます。
2013年
2013年
2014年 2014年
2014年 2014年
2015年
2015年
2015年
第3 四半期 第4 四半期 第1 四半期 第2 四半期第3 四半期 第4 四半期 第1 四半期 第2 四半期 第3 四半期
信頼性のある長期的な調査が必要
ラジオ、テレビ、インターネット、モバイルなど、過
去 100 年間にわたる多くの消費者市場の発展には、一
貫性のある体系的な市場調査が大いに役立ってきまし
た。IoT 消費者市場にも同じことが起きる必要があり
ます。
現在の IoT に関する独立系調査は、報告書によって数
値がまちまちで一貫性がありません。IoT デバイス数
の予測は 5 年以内に 50 億~1 兆台、売上予測は 5000
億~20 兆ドルと幅があります。問題の一端は、コンサ
ルティング会社や市場調査会社によって IoT の定義が
異なることにあります。産業用インターネット市場を
予測に含めている会社もあれば、消費者市場に絞って
いる会社もあります。スマートフォンを含めている会
社もあれば、すべてのセンサーを 1 個の IoT デバイス
にカウントしている会社もあります(自動車などは、1
台に 50~100 個のセンサーを搭載している場合があり
ます)。
もう 1 つの課題は、十分な実績のある調査がまだほと
んどないことです。業界の成長ペース、産業セクター
別の普及率、ユーザーのプロファイルなどを追跡でき
ていません。IoT については、同じ定義と測定基準を
使い、長期にわたってより体系的な消費者調査を実施
する必要があります。このことは、IoT のエコシステ
ムを阻む様々な技術的、人的障壁に対する進歩の実績
を測定するためにも重要です。
ニールセンは、既に 2013 年から一貫した定義を使って
四半期ごとにスマートテレビの消費者普及率をモニタ
ーし、この方向へ一歩踏み出しています。2015 年第 3
四半期現在、米国の全人口の 19%がスマートテレビを
使っています。これに対し前年同期は 12%、前々年同
期は 7%でした vi。これらの情報を所得別(年収 5 万ド
ル未満の世帯では普及率が 13%だったのに対し、年収 5
万ドル以上の世帯では 26%)、人種別(アジア系世帯
の普及率は 27%)、その他の属性によって分析するこ
ともできます。長期的にこのようなデータの傾向を分
析できれば、業界全体にとって戦略的にも戦術的にも
価値が高いと考えられます。
29
Total
黒人
ヒスパニ
アジア系
ック系
出典: Nielsen Total Audience Report
保険業界では、自動車ドライバーが恩恵を受ける例が
あります。ある自動車保険会社では、自動車にモニタ
リングデバイスを設置して運転の嗜好性(速度、距離、
ブレーキ回数、夜間運転など)の計測を許可するドラ
イバーに対してディスカウント(5~30%)の提供を行
っています。ニールセンの Nielsen Insurance Track
Survey(ニールセン保険利用動向調査)vii によると、
2015 年に米国のドライバーの 32%がこの対象となり
(2013 年は 23%)、うち 2/3 近くのドライバーが計
測に応じました(2013 年は 50%強)。そして 2020
年には、90%の自動車が何らかのレベルで計測可能に
なると考えられており、継続して計測採用率を注視
してかなければ、自動車保険市場の再定義から乗り
遅れるかもしれません。
このような長期にわたる調査は、消費者 IoT 業界のポ
テンシャルの評価に役立ち、産業セクターごと、市場
ごとの最も有望な分野に開発努力を注いでいくための
推進要因となるはずです。こうした調査から得られた
インサイトは、実際の消費者ニーズに基づく共通の目
標に向け各種業界標準化団体を連携させることに役立
つかもしれません。製品や市場の定義から普及率、イ
ンフラ開発、標準化の拡大まで、堅実な長期調査は IoT
エコシステム全体の成長のために欠かせません。
IoT の詳細な消費者利用状況を計測するメリット
大部分の IoT デバイスに共通する特徴は、膨大な量の
データを生成するセンサーを搭載していることです。
さらに、一部の推定によると、未来の IoT デバイスの
うち 99%以上がまだインターネットにつながっていな
いことから、生成されたデータはこれから広まり、業
界全体に莫大な価値を生み出すと予想されます。
完全に相互接続された IoT エコシステムの中で最も実
用的なデータは、使用状況の分析と最適化に生かせる
Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
データです。これは、旧来の M2M システムや初期の IoT
デバイスのように、もっぱら診断とリアルタイム制御
用に設計され、メーカーと第三者データアグリゲータ
ーの間で共有することのできない遠隔測定法のデータ
よりもはるかに優れています。
広告プラットフォームで広告効果を高められる可能性
が大いにあるでしょう。
製品費用の助成
現在、IoT の消費者分野では、依然として IoT サービ
スの価格全額を消費者が負担しなければならない状況
ですが、このことはインターネット世代にとっては極
めて異例なことです。そのコストが普及の重大な障害
になっており、ハードウェア自体が無料かかなりの安
価で提供されるようになれば、IoT サービスは消費者
にもっと浸透し、利用しやすいものになるはずです。
消費者は、サービスプロバイダーや広告主に自分のデ
ータを共有することを許可することで、データから生
み出される価値と引換えに、製品やサービスの多くを
新しいタイプの消費者セグメンテーション
無料で入手できるようになるかもしれません。このモ
デルは、既に保険分野で試されています。住宅保険会
IoT の消費者利用状況データが得られれば、まったく 社の Liberty Mutual と American Family Insurance の
新しい消費者セグメントを生み出せるようになります。 2 社は、煙感知器のデータを共有することに同意した
例えば、夜に数時間しか寝ないヘビーコーヒードリン 顧客に対し、煙感知器(99 ドル相当)を無償提供し、
カー、通勤に 1 日数時間かかる人、よく運動して冷凍 さらに一部の市場では保険料の 5%をキャッシュバック
食品を調理する人などです。このような消費者セグメ しています。
ンテーションにより、マーケティング企業は実際の消
費者の日常的習慣をきめ細かく理解できるため、それ IoT の計測方法
に基づき、従来のメディアや小売のセグメンテーショ
ンから踏み出すことができます。
こうした新しいメリットが実現されるようになるため
には、IoT 市場に消費者計測ソリューションを広く導
製品デザインの向上
入する必要があります。計測方法は、様々な消費者向
けデバイスにわたり、急速な技術の変化を超えて応用
IoT デバイスメーカーとサービスプロバイダーは、よ できる必要があります。これはつまり、現在ウェブや
り充実したデータインサイトを利用することで、特定 モバイルで行われているのと同じようなセンサス(全
の消費者セグメントの特性やニーズを考慮して、製品 数調査)方式を消費者計測に利用するということです
の主な特長の設計優先順位を決定できるようになりま が、IoT のエコシステムは、そもそもこのようなデー
す。例えば、自宅での調理頻度が高い消費者には、煙 タ収集に対応するように考えられていないため、はる
感知器と連動して自動的に換気扇を作動させるレンジ かに断片化されています。
フードが喜ばれるかもしれません。あるいは、コーヒ
ーをよく飲む人にとって嬉しいコネクテッドコーヒー 組み込み式計測
マシンの機能は、朝はアラームクロックと、夜はガレ
ージのドアと同期する機能かもしれません。
センサスベースで使用状況計測を実施する簡単な方法
は、IoT デバイス自体に直接専用ソフトウェアを組み
スマートなコンテキストベースの広告
込むことです。しかし、集計と分析に適したデータを
作成するには、多様なデバイスの種類やメーカーブラ
最適な時に最適な場所で消費者にリーチしたいと考え ンドで一貫した方法をとる必要があり、さらにソフト
る広告主にとって、詳細な IoT データは特に魅力的で ウェアの修正に常に対応する必要があります。各メー
す。例えば、消費者がいつ洗濯を行っているのかが分 カーとの個別の関係によってこれほどの作業を行うの
かれば、ある洗剤ブランドのテレビ CM を流したり、割 はほぼ不可能です。
引キャンペーンを提供したりするのに適したタイミン
グのヒントになるかもしれません。Internet of Things さらに管理しやすく拡張可能なアプローチは、なるべ
Consortium が 2014 年 11 月に行った調査 viii では、 く多くのメーカーが使用する共通のコードベースに消
「Smart Home のコストを削減するものであれば、広告 費者計測を統合する方法です。このための手段は、
やマーケティングへの許容度は驚くほど高い」ことが OpenWRT(多くのホームルーターや IoT ゲートウェイで
分かりました。スマートなコンテキストベースの広告 使用されている)などのオープンソフトウェアプロジ
を詳細な IoT 消費者データと連動させれば、あらゆる ェクト、または Windows や Android など広く利用され
ているオペレーティングシステム、または現在 IoT 消
消費者行動を分析できるようにするには、現在の IoT
のソフトウェアプラットフォームと業界標準を拡張し、
汎用的に設計された使用イベント(「コーヒーマシン
の使用」とか「濃いブラックコーヒーの抽出」のよう
な)を収集する能力を加える必要があります。これに
より、多様な種類やブランドの IoT デバイスで一貫し
た方法で消費者計測を実行でき、あらゆる関係者にと
って新しい重要なメリットが生まれるはずです。
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Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
費者分野向けに開発されているオープン標準フレーム
ワークの 1 つを利用することです。ほとんどの IoT メ
ーカーは、複雑なソフトウェアフレームワークを一か
ら開発する資源は持っておらず、通常は業界が積極的
に推進するオープンソース プロジェクトを採用する
方がよいと思われます。また、これらのフレームワー
クに既に消費者計測が統合されている場合、メーカー
がそれをそのまま継承すれば、保守とサポートのコス
トも最小限で済みます。
現在、このような IoT オープンソース フレームワーク
に最適の候補は、AllSeen Alliance の AllJoyn と OCF
の Iotivity でしょう。これらはいずれも、積極的に開
発に取り組み、ごく近い将来、すべての種類の IoT 消
費者向けデバイスに広く普及することを目指していま
す。
ZigBee、Z-Wave、Bluetooth は既に多くのインストー
ルベースを持っていますが、これらはインターネット
ベースではないレガシー技術です。これらをアップグ
レードして IP プロトコルに対応させる取り組みも進
んでいますが、これらのデバイスの大半でソフトウェ
アスタックをアップデートするのは簡単なことではな
く、ほぼ実現不可能と思われるため、これらの取り組
みは新しい IoT フレームワークに追いつくのがやっと
でしょう。
エッジでのデータ収集
組み込み計測法でも、これらの IoT フレームワークか
らデータを収集できるとは限りません。これらの多く
は、主にデバイス間の直接ピア ツー ピア通信を実現
するためのもので、ほとんどのデータはクラウドに現
れません。実際、IoT 消費者向けネットワークの大部
分はエッジネットワーク、あるいは Cisco のいう「フ
ォグネットワーク」で、データトラフィックはローカ
ルに限定されています。
これは特にスマートホームに言えることです。スマー
トホームにはインターネットルーターと IoT ゲートウ
ェイがありますが、いずれも重要なプライバシーとセ
キュリティのレイヤーを提供し、主要なブロードバン
ドネットワークの遅延や負荷の制約を回避するための
ものです。既に現在、一般的な住宅のデータトラフィ
ックの大部分は、Bluetooth、Z-Wave、ZigBee、Wi-Fi
で直接デバイス間で通信され、外へ出ることはありま
せん。また、スマートフォンやコネクテッドカーのよ
うにデバイスを家の外に持ち出しても、ゲートウェイ
を通じてローカルネットワークに「トンネル」バック
する方法を見つけるため、実質的に IoT エッジネット
ワークの一部であることに変わりはありません。
ーカルネットワーク上で計測機能を提供する別の専用
デバイスなどのエッジで実行した上で、将来の融合と
分析のためにクラウド上の信頼できるサードパーティ
に送信できるようになるでしょう。
このようなローカル集計機能は、現在策定中の IoT 標
準の一部として提供できれば、広範囲のエコシステム
に体系的に採用されるかもしれません。あるいは、市
販の消費者向けルーターや IoT ゲートウェイに使用さ
れるようになってきた OpenWRT などの既存のオープン
ソース プロジェクトに対する拡張機能またはダウン
ロード可能なモジュールとして提供できるようになる
かもしれません。いずれの場合も、エッジの測定・集
計コンポーネントにユーザー・オプトイン機能を組み
込むことで、IoT データを収集し信頼できるサードパ
ーティにアップロードする処理を安全に認可します。
パネルベースのデモグラフィックデータ
個々の IoT デバイス、エッジの IoT ゲートウェイ、中
央のネットワーク機器のいずれで収集されるにせよ、
センサスベースの計測データには、一般に市場調査に
必要とされるユーザーのデモグラフィックデータ、ラ
イフステージの詳細、その他の豊富な記述的属性が欠
けていると考えられます。これはテレビ分野の状況に
似ています。セットトップボックスによって一度に数
100 万世帯のきめ細かなチューニング情報は得られま
すが、実際に誰が視聴しているかを正確に把握するこ
とはできません。
このような場合、慎重に選定した消費者パネルが解決
策を提供します。ニールセンは、テレビ視聴、インタ
ーネット利用、食品ショッピングなどの多様な活動に
ついて、正確な「真実を語る」デモグラフィックデー
タを提供するセンサス手法を開発しています。このア
プローチは、現場でのセンサスデータ(デバイスから
の匿名ユーザーデータ)収集を、慎重に選定、管理さ
れたユーザーパネルのデータと組み合わせて、高度な
機械学習アルゴリズムを使ってデータセットだけでは
実現できないインサイトを作成するものです。この「セ
ンサス+パネル」手法は、IoT 消費者分野のニーズに
適しています。
このため、計測に必要な IoT データの収集と集計の大
部分は、おそらく IoT ゲートウェイ内部、あるいはロ
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Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
データ分類法の重要性
可能な限りすべての IoT デバイスの消費者利用状況デ
ータを組み合わせるには、すべての情報ソースで各デ
ータが同じ意味を持つことが重要です。これはつまり、
すべての計測データが、計測すべき個々の消費者行動
とイベントを網羅した、共通の分類法に従う必要があ
るということです。
例えば、消費者がコネクテッド冷蔵庫を使用する場合、
「冷凍庫の扉が開いた」、「ウォーターディスペンサ
ーが作動している」などのイベントは、消費者がどの
ようなニーズを満たそうとしているかに関するインサ
イトを提供してくれます。「睡眠中」というイベント
はシンプルで標準化しやすい概念に思えますが、現在
市販されている最高級のフィットネスリストバンドは、
それぞれで睡眠の追跡方法が大きく異なっています。
「冷凍庫の扉が開いた」、あるいは「睡眠中」などの
意味がブランドメーカーによって異なるとしたら、計
測する会社は「イベント変換」テーブルのメタライブ
ラリを構築する必要がありますが、それを維持管理す
るのは極めて困難となるでしょう。
そこで共通の IoT 分類法が重要になってきます。理想
は、共通のデータ標準をすべての IoT 標準化団体が参
照することです。既に 2 年前から進んでいるこのよう
な取り組みの 1 つが、オープン スタンダード コミュ
ニ テ ィ の OASIS が 開 発 中 の Classification of
Everyday Living ix(COEL)です。
COEL には現在、日常生活のイベントをエンコードする
約 5,000 の要素がありますが、消費者計測用に使用す
るには、それで十分であるとは到底言えません。さら
に細かいイベント(「車を運転する」ではなく「車の
ロックを解除する」というレベル)と属性(イベント
全体の継続時間と頻度など)も必要です。次の図は、
COEL の現在の開発状況と、さらにどれほどの情報が足
りないかを示しています。
これは計測のために極めて重要なステップです。この
ような共通のデータ分類基準が業界全体に採用されれ
ば、はるかにデータを集計しやすくなり、IoT エコシ
ステムの成長を加速するために必要な実用的インテリ
ジェンスを提供できるようになります。
まとめ
IoT が消費者分野に拡大し、現在の断片化した状態を
超えてエコシステムが成長し、IoT が主流になるため
には、独立サードパーティによる包括的な消費者計測
ソリューションが鍵となります。
製品側から見れば、計測によって消費者に最も影響を
与える製品とサービスの開発に焦点を絞ることができ
るようになります。また、競合する各種 IoT 標準の連
携を促進し、最終的に共通の IoT ソフトウェア基盤の
形成を促進できる可能性もあります。
価値という点で見ると、計測は IoT 製品の価格を下げ、
消費者への普及率を高めるのに役立ちます。広告業界
は、デバイスが生成するデータを利用して消費者のコ
ストの大部分を助成することで、これまでよりも効果
的に新しいセグメントの消費者層に到達することが可
能になり、最大の価値を実現できるようになります。
しかし、これが実現するためには、計測は多くの課題
を克服する必要があります。これから生成されるかつ
てない量のデータを処理し、それらを整理、集計する
方法を理解し、今日の断片化されすぎたエコシステム
に対するソリューションを見いださなければなりませ
ん。こうしたデータは、私たちの日常生活の中心にあ
り、適切な安全策をとらなければ悪用されやすいもの
であることから、極めて慎重に扱う必要があるでしょ
う。
IoT 業界は、意欲的な約束を果たし、新たな時代のイ
ノベーションと消費経済の成長を先導するため、独立
機関による計測を最優先課題とし、これらの課題に立
ち向かう必要があります。
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Nielsen Journal of Measurement, 第 1 巻第 1 号
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Accenture, Igniting Growth.
vi
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