スピリット・マイグレーション:外伝

スピリット・マイグレーション:外伝
ヘロー天気
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︻小説タイトル︼
スピリット・マイグレーション:外伝
︻Nコード︼
N5955O
︻作者名︼
ヘロー天気
︻あらすじ︼
欠けた記憶と生前の思考を内在したとある一つの精神が、元居た
場所とは別の世界へと零れ落ちた︱︱︱︱幽霊もどきな主人公が次
々と身体を乗り換えながらその世界と人々に関わっていくお話。※
書籍化と規約変更に伴い、ダイジェスト版及びWeb版を削除移動
しました。今後、外伝と後日談などが増える場合があります。
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外伝:ニーナの冒険
財宝の眠る地下迷宮が存在し、人の生活圏から外れた森や山には
凶暴なモンスターが徘徊する、剣と魔法と冒険の大地フラキウル大
陸。
多くの冒険者達が活躍するこの大陸には、様々な困難に挑む冒険
者達をサポートする組織が存在する。そんな﹃冒険者協会﹄が運営
する施設の一つ、グランダール王国の国境の街バラッセにある訓練
学校では、日々新たな冒険者が育成されていた。
その日、いつもより早く目覚めたニーナは、支度を済ませると緊
張した面持ちで訓練学校の校舎に向かう。今日は昇級試験を受ける
日だ。
﹁ニーナ!﹂
﹁あ、ルカベル﹂
校舎前で幼馴染のルカベルに声を掛けられる。冒険者の両親を持
ち、自身も既に一人前の冒険者としての資格を持つ彼は、今もこう
して訓練学校を訪れては、ニーナの様子を見に顔を出す。
﹁今日は昇級試験なんだって?﹂
﹁うん、エルメール先生とリシェロ先生が担当してくれるの﹂
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訓練学校の段位は四段階まである。一番最初の基礎を学ぶ期間に
ある者を﹃初心者﹄クラスとして、基礎知識や戦闘訓練を一ヵ月か
ら二ヶ月ほど受ける。基本的に実戦は無し。
一つ上がって﹃未熟者﹄クラスになると、応用を学び始める。約
三ヵ月、実戦訓練で引率者とダンジョン等へ赴くようになる。
更にクラスが上がると﹃修行者﹄となり、そろそろ力が付き始め
て自分の方向性を決める時期に入る。こちらも約三ヵ月。試験内容
として、冒険者協会から簡単な依頼なども受けられる。
そうして訓練学校の課程を全て終えると﹃修業者﹄となり、卒業
して一人立ち出来るようになる。現在ニーナは﹃未熟者﹄クラス。
今回の昇級試験を合格すれば﹃修行者﹄クラスに上がれる。
未熟者クラスでは一部の例外を除いて殆どの生徒が、まだ自分の
スタイルを確立させていない。近接戦闘型なのか、魔術を扱うのか。
スタイル
はたまた弓のような飛び道具を使うのか、或いは支援系の治癒術か。
冒険者協会には数多くの冒険者としての職業が登録されているの
で、それら先人の記録や資料を参考に、自分のスタイルを決めるの
だ。大抵の場合、既存の職業の何れかから自分に合ったものを選ぶ
事になる。
全く新しい独自のスタイルを生み出す者もいるが、様々な状況下
でその職業が抱える問題の洗い出しも済んでいる、実績ある既存の
職業に就いた方が無難だからだ。
﹁ニーナは、やっぱり弓士を目指すのかい?﹂
﹁うーん、ずっと使ってるけど、あんまり自信ないのよね⋮⋮﹂
弓を選んだそもそもの理由が﹃敵に近付かなくていいから﹄なの
だ。
﹁やっぱり冒険者に向いてないんじゃないか?﹂
﹁⋮⋮頑張るもん﹂
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ルカベルは今でも、ニーナが冒険者になる事には反対の立場を取
っている。
彼女を危険な目に遭わせたくないというのが彼の本心でもあるが、
モンスターに同情心を懐く等、過酷な冒険者の在り方に向いていな
いと思うのも理由の一つであった。
しかし、ニーナは諦めない。彼女の秘めたる気持ち。それは、ル
カベルと同じ場所に立って一緒に歩きたいというものだった。
︵追い掛けるって訳じゃないけど⋮⋮待つよりは付いて行く方がい
いよね︶
本人には照れくさくて絶対に言えないが、そんな思いを胸にニー
ナは冒険者への道を歩む。
﹁それじゃあ、気を付けてな。くれぐれも無理しちゃ駄目だぞ﹂
﹁うん、分かってる﹂
校舎の出入り口でルカベルと別れたニーナは、講師のエルメール
達が待つ準備室へと向かった。
﹁来たか、ニーナ﹂
﹁エルメール先生、リシェロ先生﹂
剣士エルメールと治癒術士リシェロ。準備室では、試験官を担当
してくれる二人が待っていた。バラッセのダンジョンはモンスター
が居なくなって試験に使えないので、以前、強化合宿で訪れた山の
麓まで赴いての試験となる。
﹁直ぐに出発するぞ、準備は出来ているな?﹂
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﹁はい、大丈夫です﹂
荷物を背負ったエルメールの問いに、ニーナは自分の鞄を確認し
ながら頷いて答えた。リシェロは緊張気味なニーナを気遣いつつ注
意事項を告げる。
﹁道中の行動も試験の観察対象になるから、油断しないようにね﹂
﹁はい、よろしくお願いします﹂
二人の後に続いて訓練学校の馬車乗り場へと向かう。護衛に防衛
隊のガシェ達も来るので、安心して試験に挑めるという訳だ。
馬車乗り場に着くと、部下達と雑談していたガシェが声を掛けて
来た。
﹁いよぉ、来たか。そんじゃ出発だな﹂
こうしてニーナの昇級試験が始まった。
お昼頃、目的地の麓に到着したニーナ達は、早速キャンプのテン
トを張り終えると、試験内容の確認を行う。
﹁道中と拠点の構築には特に問題は無い。今日は山中の夜間行軍も
行うから、そのつもりでな﹂
﹁はい、頑張ります!﹂
簡易テーブルに地図を広げて、エルメール教官から告げられた行
軍ルートを、ニーナが地図上に記していく。
一応、この辺りには変異体の猛獣も確認されているが、強化合宿
に使われる場所なので、ある程度は定期討伐で数を減らしてある。
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ダンジョンに比べると危険度は低い方であった。
夕方までは休息も兼ねて座学の復習などして過ごし、日が暮れる
頃から山中へと踏み入る。
ルートは麓から山奥に入る少し手前の、切り立った崖の壁面まで。
強化合宿の時に遭遇した、大蛇の変異体が下りて来たと言われてい
る滝を目的地に進む。
そこで半日ほど野営し、深夜過ぎに出発して明け方に麓のキャン
プまで戻って来る道程だ。普通の猛獣や変異体との戦闘も予想され
る。
戦闘は回避しても良いし、そのまま戦っても良い。その場その場
でニーナ自身が適切な判断を下し、それをエルメール達が採点する
という方式。
しんがり
﹁頃合いだ、出発するぞ。ニーナ、隊列の編成を決めろ﹂
﹁は、はいっ、ええと、エルメール先生が先頭で、殿をリシェロ先
生、間にわたしの編成で﹂
﹁分かった。それじゃあ行こうか﹂
隊列を組んで出発する試験一行。麓のキャンプには護衛で同行し
て来たガシェ達が残っている。彼等はイザという時に救援に向かえ
るよう、朝まで待機するのだ。
﹁がんばれよー﹂
ガシェ達に見送られ、ニーナの試験パーティーは夜の山中へと踏
み入った。
キャンプ地に焚かれる篝火の明かりも届かなくなって来た頃、足
元も見え辛い暗闇が広がる山道を前に、ハッとなったニーナが慌て
て指示を出す。
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﹁あ、明かりをっ、ええと、リシェロ先生が魔術の光源を出してく
ださい!﹂
﹁りょーかい﹂
くすっと、ほほ笑みながら了承したリシェロが、魔術の光源を出
して周囲を照らし出す。
﹁ようやく気付いたか。まあ、この位であれば減点対象にはならん
な。今回は見逃してやろう﹂
エルメールは厳しいながらも、初めて現場に出ての実践試験なの
で、パーティー内での行動指示を忘れていたニーナの失点には目を
瞑った。
﹁うう⋮⋮すみません﹂
今回の試験はニーナの冒険者としての資質を測る為のものなので、
彼女がパーティーのリーダーとして各種行動を判断し、仲間に適切
な指示を与えなければならない。
誰かと組む場合も、従える場合も、様々な状況での立ち回りを覚
えておかなければ、仲間を窮地に追いやり、即座に死に繋がる危険
もあるのだ。
暗い山道を慎重に登って行く。時折、前方や上空に光源を飛ばし
て周囲の安全確認をするニーナの行軍スタイルは、少々慎重過ぎる
きらいがあるものの、安全第一という面では評価された。
﹁前方の木の枝に蜂の巣があるようだな。周囲に五、六匹の虫を確
認﹂
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﹁迂回しましょう。エルメール先生は接近する虫に警戒を。リシェ
ロ先生は虫除けの術をお願いします﹂
エルメールの蜂の巣発見報告に、速攻で迂回の判断を下すニーナ。
逃げの一手ではあるが、決断の速さは評価出来ると頷くエルメール。
そんな調子で目標地点を目指し、やがて壁面の滝の前に到着した。
慎重過ぎて予定よりも到着が遅れているが、道中の堅実な立ち回り
は、決してマイナス点にはならない。
﹁リシェロ先生は火を熾したら食事の用意を、エルメール先生はわ
たしと水汲みをした後、テントの設営に入ってください﹂
指示を出す事にも大分慣れて来た様子のニーナは、リシェロが焚
き木に火を灯したのを確認してから、エルメールと共に滝の傍まで
水汲みに出た。
﹁あの、エルメール先生﹂
﹁うん? どうした﹂
﹁わたし、やっぱり消極的過ぎるでしょうか?﹂
﹁ふむ⋮⋮確かに、今まで見て来た生徒達に比べると、格段に大人
しいとは言えるな﹂
滝の音を近くに聞きながら水汲みをしつつ、おずおずと訊ねて来
るニーナに、エルメールはそう答えて反応を見る。
﹁やっぱりそうですか⋮⋮﹂
﹁だが、積極的では無いというわけでも無いぞ?﹂
﹁? どういう事ですか?﹂
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﹁危機回避や安全確保の為の決断は、寧ろ飛び抜けて早いと言える
な﹂
少しでも気になる場所があれば、必ず安全の確認をしてから進む。
完全に習慣化して身についている動きだとエルメールは言う。
﹁ある程度の実力を身に付けた者は、気持ちに余裕が出来た分、慣
れが生じて油断するモノだ﹂
あまり危険の無い試験場でなら、多少何かのトラブルが起きても
対処出来るという自負に加えて、何かトラブルが発生した方が試験
的にも美味しいと考える傾向がある。
そんな心理も手伝って、僅かな危険の兆候を見過ごす場合がよく
あるのだと。
﹁だが、お前はそれら危険の兆候を全く見過ごさない。これは常に
危険と隣り合わせにある冒険者にとって、かなり重要な資質だ﹂
危険を顧みず挑む姿勢も冒険者の醍醐味ではあるが、その中で常
に危険を察知し、安全策を把握して仲間に提示出来る才能を持つ者
は、パーティーにとっても必要不可欠な人材と言える。
﹁要は、自分に合ったやり方でその冒険を成功させれば良いんだ。
スタイルの違う他人に考慮してやり方を変える必要は無い。これは
お前の冒険者としての資質を確かめる試験なのだからな﹂
﹁は、はい。ありがとうございました﹂
そんなこんなで試験の行程も半分を過ぎ、休憩のテントを片付け
て壁面の滝を出発したニーナ達は、麓を目指して下山を始める。
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﹁ルートはどうする?﹂
﹁えーと、元来た道を戻ります。途中の蜂の巣に注意です﹂
下山ルートは複数あって、滝から流れる川沿いに下るルートが比
較的勾配もなだらかなのだが、ニーナは登山ルートを戻る選択をし
た。既に道中の安全を確認しているからというのが最大の理由であ
った。
登山時に十分な安全確認をした事が、山中を徘徊する獣除けにも
なっており、一行は何事も無く下山する事が出来た。
朝焼けに染まる山麓のキャンプ地に辿り着いたニーナ達を、留守
番のガシェ達が出迎えてくれる。
﹁よう、おかえり。無事に戻ったみたいだな﹂
﹁留守役ご苦労。早速で悪いが撤収準備に入ってくれ﹂
﹁お疲れ、ニーナ。一応実践の試験はここまでだよ。よく頑張った
ね﹂
﹁あ、ありがとうございます﹂
リシェロの言葉に緊張を解いたニーナは、ほぅ∼と一息吐いてそ
の場に座り込んだ。
戦闘もありうると構えていた分、少々拍子抜けする部分もあるが、
無事に終わって良かったと、荷物に身体を預けて横になりかける。
そこでふと、山の中腹から落ちる滝が目に入った。
︵あ、ここで気を抜いちゃだめだ︶
壁面の滝でエルメールに言われた事を思い出したニーナは、街に
帰還するまでは油断しないよう気を引き締める。
その様子をこっそりと観察していたエルメールとリシェロは、二
人して頷き合う。試験の名目で動いている間の行動と、それ以外の
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時の行動も、試験官の目は常に対象を観察しているのだ。
陽も昇り切る朝、一行はバラッセの街を目指して帰還の途に就い
た。順調に行けば、昼過ぎには街に到着出来るだろう。
﹁そう言えばニーナ、お前は冒険者になるとして、どんな役割に就
くつもりなのだ?﹂
今回の﹃修行者﹄への昇級試験は問題無くクリア出来そうだが、
弓も剣も満足に扱えない状態では、冒険者協会の簡単な依頼を受け
るという修行者クラスの試験全般がかなり厳しくなる。
一番簡単な採取系の依頼でも、採取場所にはそれなりの危険が潜
むのだ。常に戦える誰かと組むという手もあるが、単独で小型の変
異体討伐程度はこなせる腕が無ければやっていけない。
﹁わたし、治癒術を学ぼうかと思ってるんです﹂
﹁ほう? 魔術の才能があったのか?﹂
﹁いえ、実はまだ視てもらってないです⋮⋮﹂
試験が終わってから魔術の才能の有無を鑑定してもらうつもりだ
ったという。
﹁魔術が扱えれば、簡単な術でも使い方次第で色々出来るんじゃな
いかなって﹂
﹁ふむ、確かにその通りだ﹂
初歩的な魔術でも、上手く使えば目くらましや強力な罠にもなる。
術者の創意工夫で色々な効果を望めるのが魔術の醍醐味だ。
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﹁それなら、君に術者の才能があった暁には僕が治癒術の手解きを
してあげようかな﹂
﹁ほんとですかっ、リシェロ先生!﹂
﹁ああ、個人授業でじっくりと︱︱って、エルメール、剣に手を掛
けるのはやめてくれないか﹂
﹁気にするな、剣士としての習慣だ﹂
﹁お前ら、楽しそうだなぁ﹂
帰りの馬車の中で和気あいあいと親睦を深めている講師と教え子
達に、御者台のガシェが声を掛けたりする。そんなノンビリとした
雰囲気で街道を行く訓練学校の馬車隊。
と、その時、先頭を走る護衛の馬車が速度を落として、前方の異
変を知らせて来た。見れば、街道の先に旅人風の男が座り込んで手
を振っている姿。
何かトラブルでもあったのだろうかと、ニーナ達を乗せた馬車も
徐々に速度を落としていく。男が座り込んでいる街道の脇には、横
転した馬車が見えた。
﹁どうやら事故みたいだな、街まで送ってやるか﹂
御者台のガシェがエルメール達にそう告げると、護衛の馬車を救
援に向かわせようとした。その様子を馬車の窓から見ていたニーナ
は、ふと違和感を覚えた。
﹁待ってください﹂
実践試験で指揮を執っていた感覚を引き摺っていたせいか、思わ
ず口に出してしまう。
﹁うん? なんだ?﹂
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﹁どうした? ニーナ﹂
﹁あ⋮⋮いえ、その﹂
思わず口を押さえて赤くなるニーナだったが、リシェロが﹁何か
気になる事でもあったのかい﹂とフォローに回る。エルメールも﹁
気付いた事があるなら話すように﹂と促した。
ニーナは恐縮しながらも、自分の考えを告げる。
﹁あの、このまま普通に近付くんじゃなく、護衛の馬車の荷台に防
衛隊の甲冑の人を立てて、間に予備の弓とかも立てて、魔術の光源
で周囲を照らしながら声を掛けた方がいいかなって⋮⋮﹂
﹁ふむ。こちらの戦力を誇示しながら、誰何に近い方法で慎重に接
触を図れと言いたい訳だな? あの怪我人を警戒する理由は?﹂
冒険者の顔になっているエルメールの問い掛けに、ニーナは横転
した馬車を指して言う。
﹁あの馬車、貨物用の幌付き中型車ですよね。前に同じ型の馬車を
修理している所を見た事があるんですが、あの型って馬を繋いだま
ま横向きにしても大丈夫な作りになってるんです。なのに馬が居な
いし、地面に車輪で削れた跡も見えないし、それに横転しちゃうほ
ど荷物を積んでいたなら、幌がもっと崩れててもおかしくないのに、
テントみたいにしっかり張られたままだし、何だか不自然だなって
⋮⋮思ったんです﹂
﹁⋮⋮なるほど﹂
エルメールが鋭い眼つきでリシェロとガシェに目配せすると、ニ
ーナが提案した布陣が直ちに護衛の馬車と訓練学校の馬車で構築さ
れる。
がっちり甲冑を着込んだ防衛隊の戦士が荷台に並び、その隙間に
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弓を持った軽装の戦士が控える事で、何処から見ても武装馬車とい
う威圧感溢れる風貌となった護衛の馬車に、魔術の光源を四つほど
同時に打ち上げながら続く訓練学校の馬車。こちらは魔術士が複数
乗り合わせていると感じさせた。
ニーナ達の馬車隊が街道脇で横転している馬車の近くまで来た時、
街道に座り込んでいた男は突然立ち上がると、森に向かって走り出
しながら叫ぶ。
﹁くそっ! ハズレだっ! ずらかれ!﹂
途端に、横転した馬車の幌から複数の人間が飛び出しては、彼の
後を追って行く。どうやら待ち伏せ盗賊団だったらしい。
こちらの狙い通り、バラッセの冒険者協会関係者の戦闘集団が、
何らかの任務で動いてると誤認したようだ。
先程ニーナが声を上げず、護衛の馬車があのまま近付いて行った
としても、乗っているのが甲冑に身を固めた戦士達だと気付けば盗
賊達は逃げ出していたであろう。
しかし、ニーナ自身が持つ知識から、違和感に気付いて警戒を促
し、盗賊達に襲撃を諦めさせて安全に追い払えた功績は大きい。
﹁街に戻ったら、討伐隊を差し向けるよう協会に報告しよう。良い
判断だったな、ニーナ﹂
﹁君が居ると悉く戦闘を避けられるようになるかもしれないね﹂
これは一種の才能として誇って良いと、エルメールとリシェロに
称えられたニーナは、嬉しくも恥ずかしくて照れてしまい、思わず
俯く。
そんなニーナに、ガシェが声を掛けた。
﹁お、見ろよ! 王子の魔導船団だ! 多分コウも乗ってるぜ﹂
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はっと空を見上げたニーナの視線の先を、三隻の魔導船が複数の
魔導艇を曳航しながら通過して行く。グランダール王国の第一王子、
レイオス王子が率いる魔導船団の冒険飛行。
東の空へと消えていく魔導船団を見送りながら、ニーナはとある
友人に心の中でエールを送る。
︵頑張ってねコウちゃん。わたしもいつか、ルカベルやコウちゃん
達と一緒に冒険出来るようになるから︶
彼
の始まりの街でもあるバラッセの街へと帰還するの
今や自分の手の届かない存在になってしまった友人を想いながら、
ニーナは
だった。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n5955o/
スピリット・マイグレーション:外伝
2016年8月31日18時01分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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