特定農薬(食酢,重曹)のウメ主要病害に対する 防除効果

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植 物 防 疫 第 70 巻 第 9 号 (2016 年)
特定農薬(食酢,重曹)のウメ主要病害に対する
防除効果
和歌山県果樹試験場うめ研究所
和歌山県農業試験場
武田 知明*・沼口 孝司
菱 池 政 志
長量)× 100/無添加培地での伸長量
は じ め に
黒星病菌に対する菌糸伸長抑制率は,食酢の 10 倍で
近年,食の安全・安心への関心の高まりや環境負荷軽
100%,50 倍で 29.7%,100 ∼ 5,000 倍で 0%となった。
減の観点から,環境保全型農業が推進されている。和歌
一方,重曹では 10 ∼ 100 倍で 100%,500 倍で 87.4%,
山県の一部のウメ産地においても,節減対象農薬と化学
。
1,000 倍で 61.3%,5,000 倍で 28.3%であった(図―1)
肥料を慣行の 50%以下に減らして栽培する特別栽培農
すす斑病菌に対する菌糸伸長抑制率は,食酢の 10,
産物や有機 JAS 規格に適合した有機農産物を生産する
50 倍で 100%,100 倍で 99.2%,500 ∼ 5,000 倍希釈培
取り組みが行われている。食酢および重曹は特定農薬
地 で ほ ぼ 0% と な っ た。一 方,重 曹 で は 10,50 倍 で
(特定防除資材)に指定されており,有機 JAS 規格でも
100%,100 倍 で 97.8%,500 倍 で 31.5%,1,000 倍 で
使用可能な資材である。食酢はイネもみ枯細菌病,メロ
。
24.8%,5,000 倍で 10.2%となった(図―2)
ン果実汚斑細菌病等,重曹はカンキツ緑かび病,キュウ
II 圃 場 試 験
リうどんこ病,ワサビうどんこ病等の防除に有効である
と報告されている(本間ら,1981;円谷ら,1992;草野
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調査方法
植物防疫
ら,2009;永島ら,2011;井沼ら,2012)。しかし,ウ
発病調査は,1 樹につき 100 果(100 果に満たない場
メの病害に対する防除効果についての知見はない。そこ
合はすべての果実)について発病指数別に計数し,下記
で今回は,ウメ主要病害である黒星病,すす斑病および
の式により発病度を算出した。
かいよう病に対する食酢および重曹の防除効果について
発病度=Σ
(指数×程度別発病数)
× 100/
(6 ×調査
検討した。
数)
黒星病発病指数,0:病斑なし,1:病斑が 1 ∼ 3 個,2:
I 食酢および重曹の菌糸伸長抑制効果
病斑が 4 ∼ 8 個,4:病斑が 9 ∼ 20 個,6:病斑が 21 個
まず,食酢(穀物酢,酸度 4.2%)および重曹の黒星
以上
病およびすす斑病に対する菌糸伸長抑制効果を培地上で
すす斑病発病指数,0:病斑なし,1:わずかに発病が認
調査した。食酢および重曹を希釈倍数が 10 倍,50 倍,
められる,3:一見して発病が認められるが果面の 1/2
100 倍,500 倍,1,000 倍 お よ び 5,000 倍 と な る よ う に
以下,6:果面の 1/2 以上に発病が認められる
PDA 寒天培地に添加し,平板培地とした。平板培地の
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中央に直径 4 mm のコルクボーラーで打ち抜いた黒星病
上述 I 章の結果から,黒星病およびすす斑病に対して
菌(4 菌株)およびすす斑病菌(6 菌株)の含菌寒天を
効果的な希釈倍数は,食酢で 50 倍以下,重曹で 500 倍
菌そう面を下にして置床した。黒星病菌については 22
以下が望ましいと考えられたが,まずはコスト面から実
日間,すす斑病菌については 30 日間,25℃,暗黒下で
用的と考えられる 500 倍液の効果について検討した。
培養した後,菌そう直径を測定し,下記の式により抑制
食酢および重曹の 500 倍希釈液による防除効果
2011 ∼ 12 年に 10 ∼ 11 年生の「南高」を供試し,食
酢(穀物酢酸度 4.2%)500 倍希釈液のみを散布した食
率を算出した。
抑制率=
(無添加培地での伸長量−添加培地での伸
酢区,重曹 500 倍希釈液のみを散布した重曹区,食酢お
よび重曹の使用により平成 23 年度和歌山県農作物病害
Control of Japanese Apricot Diseases by Vinegar and Sodium
Bicarbonate. By Tomoaki TAKEDA, Koji NUMAGUCHI and Masashi
HISHIIKE
(キーワード:特定農薬,食酢,重曹,ウメ,黒星病,すす斑病,
かいよう病,防除効果)
*
現所属:和歌山県那賀振興局農林水産振興部農業水産振興課
虫及び雑草防除指針(以下,防除指針)の防除暦例から
化学合成農薬の散布回数を半減した半減区,防除暦例通
り散布した慣行区を設け,表―1 の通り供試薬剤を散布
した。試験は 1 区 1 樹 3 反復で行い,5 月下旬∼ 6 月下
旬にかけて発病を調査した。
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