88 回 税金よもやま話 第 しおかぜ 第316号 東京地方税理士会 藤沢支部 税理士 三宅周兵 海外子会社のマネジメント 運転資金は貸付? or 増資? 生産コストの低い新興国に工場を建設する、海外マーケット開拓のために現地に販売子会社を設立するな ど、海外に子会社をもつ企業が増えています。海外子会社の管理のなかでも税金のマネジメントは現地国の 税制や日本の国際税務分野の知識がないと対処が難しく、その巧拙で税金の額に大きな差が出る場合があり ます。 たとえば海外子会社で運転資金を増強する必要があって親会社からのファイナンスで支援される場合、一 時的なファイナンスとして短期間での返済を予定している場合には貸付金で、固定資産の購入など投資回収 が長期間に渡る場合には安定資本として増資を行う、といったファイナンスの機能面から検討されることが 多いかと思います。国境をまたぐ海外子会社の場合には、これに加えて税務コスト面からの検討も重要にな ります。 貸付金で行う場合、その貸付利息は、海外子会社では基本的には損金に算入され、親会社の日本では益金 となるため、日本の法人税実効税率(約 30%)で課税されることになります。 一方で増資を行う場合、その配当は、海外子会社では損金に算入されないため現地の法人税が課税されま すが、日本の親会社では「海外子会社配当益金不算入制度」が適用されるため配当額の 95%が免税されます。 ただし海外子会社の所在地国で課税された配当源泉税は日本では損金不算入となり、そのまま税務費用にな る点には留意が必要です。在インドネシアと在シンガポール子会社の例で、それぞれの国の税制を踏まえた 税務コスト算定をすると次の通りです。 子会社所在地 インドネシア シンガポール 現地国 – 法人税 現地国 – 源泉税 日本 – 法人税 税負担合計 25% 税引後配当額(100 %- 25%)×配当 源泉税 10%※ 税引後配当額(100 %- 25%)×非免 税部分 5%×日本 法人率 30% 33.6% 配当源泉税なし 税引後配当額(100 %- 17%)×非免 税部分 5%×日本 法人率 30% 18.2% 17% ※インドネシアの国内税法の配当源泉税率は 20%ですが、日本・インドネシア租税条約を適用する場合、 出資比率が 25%以上であれば 10%の限度税率が適用されます。 インドネシアに子会社がある場合、現地の法人税率は 25%と日本の法人税実効税率と比べて低いのです が、配当支払いに源泉税がかかるため、配当で還流した場合の合計税負担率は 33.6%となり、貸付金の場 合の 30%と比べて税務コストが大きくなります。シンガポールの場合は、現地の法人税率が低く配当源泉 税もないため、貸付金の場合と比べて税負担は大きく減少します。 このように現地国の税制、租税条約および日本国税制の国際税務分野を総合的に検討し、どちらの投資方 法が税務的に有利か検討することになります。実務的には上記の検討のほか、一定の負債資本比率を超える 場合に利息の損金算入を制限する過小資本税制、外国からの株式投資を業種ごとに一定比率以下に制限する 外国資本規制などの現地法規制も考慮する必要があります。 また、クロスボーダーの資本構成を検討する場合には、シンガポールなどの低税率国に設立された地域統 括会社を活用する場合があります。たとえばシンガポール子会社に増資し、そこからインドネシア子会社に 貸付ファイナンスを行うと税務コストが大幅に下がる場合があります。 6
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