平成 28 年度高齢者虐待防止対応人材養成研修レポート

平成 28 年度高齢者虐待防止対応人材養成研修レポート
急速な高齢化の進展に伴い、認知症や支援の必要な高齢者が増加することが予測されると同時に、老々
介護、家族構成の変化、介護離職等家族の介護力の低下も予測される。今後高齢者虐待の生じやすい状況
が増えてくると考えられ、高齢者虐待防止の責任主体である市町村や地域包括支援センターにおいては、
高齢者虐待発生予防を含めた地域の体制整備の構築が一層重要となってくる。
今年度の研修は、高齢者虐待発生時の基本的な対応を修得するとともに、虐待の背景要因から発生予
防・早期発見の方法を考えることに重点を置いた。また、例年要望の多い市町村等の取り組み事例につい
ても 2 か所を選定し報告を得た。さらに、他市町村・多機関、多職種等を考慮したグループで検討する時
間を多く取り、情報交換の機会とした。
1.目的
高齢者虐待に対応する職員が、虐待を受けたあるいは受ける恐れのある高齢者へ、迅速かつ適切な対
応及び養護者に対する支援を行うために、介入方法や関係機関とのネットワークを活かした支援方法を
学び、高齢者虐待予防及び支援に資することを目的とする。
2.対象者
市町村高齢者福祉担当課職員、保健センター保健師、地域包括支援センター職員、保健所職員、医療
ソーシャルワーカー、社会福祉協議会職員で高齢者虐待防止及び対応に取り組んでいる者、今後取り組
む予定の者
3.開催日、参加者の状況等
受
講
者
数
地 区
日 程
三河地区
6月29日(水)
尾張地区
7月6日(水)
開催場所
西三河総合庁舎
大会議室
あいち健康プラザ
プラザホール
参加者計
26名
106名
0名
16名
2名
150名
39名
66名
1名
28名
2名
136名
65名
172名
1名
44名
4名
286名
行政職員(高齢・保健センター)
地域包括支援センター職員
保健所職員
医療機関等職員
社会福祉協議会職員
合計
4.研修カリキュラム
内容
【1時限目】30分
講義
『養護者による高齢者虐待と
愛知県の高齢者虐待防止対策の現状について』
講師
愛知県健康福祉部高齢福祉課
主査 山嵜 真穂 氏
【事例報告者】
(三河)
大府市福祉子ども部 福祉課 ふれ愛サポートセンター
【2時限目】110分
(大府市高齢者・障がい者虐待防止センター)
事例報告・グループワーク
館長 土井 郁代 氏
『次なる虐待を防ぐために~実際の事例を参考に考える~』
大府市高齢者相談支援センター
主任(社会福祉士) 安居 智 氏
≪事例報告≫
(尾張)
(三河)「本人の精神症状の悪化に伴い、養護者の介護負担が増えた事 名城病院 医療福祉相談部
例」
部長 小林 哲朗 氏
(尾張)「病院での高齢者虐待発見チェックリストの活用により早期発見に 名古屋市西区北部いきいき支援センター
結び付いた事例」
社会福祉士 伊藤 健二 氏
≪グループワーク≫
次なる虐待を地域で防ぐために、専門職としてできること
【3時限目】180分
講義・演習
『高齢者虐待対応の基本的流れと虐待予防
~通報から分離・措置及び終結を学び、虐待の要因について考える~』
【コメンテーター】
名城病院 医療福祉相談部 部長/愛知県医療ソーシャルワーカー協会 副会長
小林 哲朗 氏(愛知県高齢者虐待防止対策検討会議委員)
あいち介護予防支援センター
センター長 津下 一代
(三河)豊橋市中央地域包括支援センター
管理者 神野 拓郎 氏
(尾張)愛知県社会福祉士会 高齢者・障害者虐待対応委員会
委員長 塚本 鋭裕 氏(愛知県高齢者虐待防止対策検討会議委員)
5.講義の要旨
あいさつ
津下センター長から、高齢者虐待の対応は、高齢者の人権・命・生活を支える視点が大事である一方で、
「防げる虐待はないか」
「養護者をどう支援するか」
「地域でどう見守るか」という視
点で考えることが必要と伝えられた。閉鎖性が虐待を生む一因であるため、高齢者の
生活に多くの人の目を入れていくことが予防につながり、その役割を担うのが地域包
括、介護事業所、医療機関等の現場である。誰もが当事者意識を持ってできることか
ら始め、よりよい取り組みを広げていけることや、地域の様々な人と繋がりを持ち担
当者が一人で抱え込まないことが大切だと伝えられた。
1 時限目
講義『養護者による高齢者虐待と愛知県の高齢者虐待防止対策の現状について』
・高齢者虐待防止法における定義と各主体の責務
・愛知県での高齢者虐待実態調査等から市町村別通報件数、相談・通報者別内訳、
高齢者虐待対策の種別、発生要因、虐待対応
・県内市町村取組状況調査から、虐待防止に関する普及啓発の取組状況、コアメ
ンバー会議開催状況、個別ケース検討や課題等
以上について報告があり、高齢者虐待の対策は関係機関や地域でのネットワークを形成し、様々な制度
を活用しながら高齢者の生活を支援していくことが必要と伝えられた。
2時限目
事例報告・グループワーク『次なる虐待を防ぐために~実際の事例を参考に考える~』
大府市(三河地区)
・名古屋市(尾張地区)から、実際の虐待事例の対応について、判断の根拠や課題、
苦労した点、各々の所属機関における体制等の報告を行った。
三河地区では、本人(高齢者)の精神症状の悪化に伴い養護者の介護負担が増し
て虐待となった事例で、関係者が連携して養護者の介護負担を軽減したことで、
本人と養護者の関係が改善し、終結を迎えた経過が報告された。
尾張地区では、病院が虐待のチェックリストを用いて発見・通報した事例で、通
報を受けた地域包括がリスクアセスメント表・高齢者虐待緊急性判断シートを活用
し、コアメンバー会議を通して客観的に判断・対応後、在宅生活に戻り終結を迎え
た経過が説明された。
両事例とも、①地域包括・行政が情報を共有して組織的に判断する、②医療機関との日頃からの協力体
制、③ケアマネジャー支援や養護者支援への役割分担、が迅速な対応のポイントとして示された。
続いて、『次なる虐待を地域で防ぐために、専門職としてできること』と題してグループワークを行っ
た。高齢者虐待はどこにでも起こり得ることと捉え、専門職としてできるサポートを、本人・家族・地域
と対象別に背景要因から考えた。
「本人が気軽に通える場(介護教室・サロン等)の紹介」
「地域包括に情
報が集まる仕組みづくり」「地域での横のつながり」
「警察との連携」等活発に意見交換がされた。
コメンテーターの名城病院医療福祉部 小林氏からは、
「医療機関は通報後、
地域の動きがわからないのでフィードバックがあると通報した意義を感じ
次につながる」という意見や、病院機能評価における高齢者虐待の体制整備
に関する情報提供があった。津下センター長からは、支援者と繋がっておら
ず発見しにくいケースに注意が必要ということや、虐待防止の啓発・教育は、
介護する立場・される立場になる前に行う方が有効である等の助言があった。
3時限目
講義・演習『高齢者虐待対応の基本的流れと虐待予防~通報から分離・措置及び終結を学び、
虐待の要因について考える~』
身近に感じられる内容の架空事例を当センターで作成し、事例の流れに沿ってグループワーク、発表、
コメント、解説を行った。演習の流れと解説は当センターが平成 27 年度末に新たに作成
した『愛知県高齢者虐待対応演習ワークブック』を使用し、虐待の判断、措置分離の判
断、分離後の対応、終結の判断、虐待予防について等、対応の根拠
や考え方を確認していった。主なポイントとして、①虐待の判断・
対応は市町村の責務であり、個人で判断せずに組織的に判断する、
②対応は具体的な状況や期間や役割分担を決めること、が各講師から示された。
当センターからは、本研修を参考にして各職場や地域での研修や OJT でワークブッ
クを活用し、対応力向上に繋げてもらうよう受講生へ呼び掛けた。
6.アンケート結果
(1)アンケート回収内訳
【市町村・地域包括・保健所・社協】 受講者数:242 人 回収数:238 人(回収率:98.3%)
【医療機関等】
受講者数:44 人
≪所属機関別内訳 n=282≫
回収数:44 人(回収率:100%)
≪経験年数別内訳≫
(2)高齢者虐待の発生予防や早期発見・早期対応、体制整備の取り組み(市町村・包括・保健所・社協)
事前回答
・「その他」の内訳は、行政との連携、基幹包括・市との連携、地域サロン、居宅・包括との連携だった
(3)所属医療機関での高齢者虐待対応経験等(医療機関)
事前回答
(4)講義の参考度
(5)高齢者虐待対応で困る事(市町村・包括・社協・保健所)
(6)愛知県高齢者虐待対応演習ワークブックの活用状況(市町村・包括)
平成 28 年 3 月末に県内市町村・地域包括へ配布
しており、約 3 か月後の研修受講時点での活用状況
を確認した。すでに活用しているという回答が 4
名、活用予定が 25 名だった。虐待事例は日常的に
発生するものではないため、本書を有効に活用して
地域の対応力向上に役立てていただきたい。
(7)研修会に対する感想・意見(自由記述より抜粋)
①高齢者虐待予防に向けて今後取り組みたいこと
≪普及啓発≫
・関係機関や地域住民に虐待についての知識を高めてもらえるよう啓発活動に取り組みたい(包括)
・虐待の予防のためにも、早めに相談いただけるように企業向けに地域包括の PR をしていく(包括)
・虐待要因や対応について理解を深め、まずは院内から周知できるよう取り組みたい(医療機関)
≪連携・ネットワーク≫
・迅速に対応できるよう行政との連携を確認していきたい(包括)
・ケアマネジャーや福祉サービス事業所、医療機関、地域住民との連携を深める必要性を強く感じた。
すべての事案に包括だけでは対応できないので、共に動いてくれる関係を構築していきたい(包括)
・疑いも含めて、市町村に相談や通報をしていくことが連携の第一歩となると感じた(医療機関)
≪家族支援≫
・個別支援時に家族の負担(気持ち)について、話しやすい対応を心がけていきたい(包括)
・介護者同士の交流支援や、参加しやすい介護教室等の開催(行政・包括・医療機関)
・養護者を孤立させないよう、受診に付き添ってきた家族の変化にも目を向けていきたい(医療機関)
≪地域づくり≫
・認知症があっても地域に出かけられる場所作り。養護者が思いを語れる場所作り(包括)
・認知症サポーターの養成、認知症カフェを増やす(包括)
≪虐待対応≫
・初動期の対応を早くする。コアメンバー会議を早急に実施する(行政)
・虐待届出票の見直し(包括)
・市の虐待マニュアルを作り、関係者が共通理解をする事で予防や早期発見につながると思った(包括)
・院内マニュアルの整備、見直し。対応の院内周知、研修、システム作り(医療機関)
≪相談援助技術・知識の向上≫
・未然に防げるように自分のアセスメント技術の向上。相談してもらえる人材になること(包括)
・虐待対応に関し、もう少し勉強する必要を感じた(行政)
・退院支援をする上で、介護負担の軽減等をしっかり考えていきたい(医療機関)
②研修内容に対する感想・意見
・大切なことは、本人の思いを聞くことだと思うので、専門職の独断と偏見で先走ってしまわぬよう、
かといって、見過ごさないようにしっかり取り組んでいきたい(包括)
・研修会に参加して、改めて他機関との関係作りが必要なことがわかった。またどうしたら虐待が起こ
らないようにできるか?
早い段階での働きかけが必要だと感じた(包括)
・立場も地域も違う方々と意見交換ができてよかった。地域の取り組みが聞けた(包括)
・グループワークは自分達で考える機会ができてよかったと思う。時間制限があるので、進行が難しい
と感じた(包括)
・日々の活動の見直し、意識を再確認できた。常にアンテナを張り、適切な支援ができるよう支援者自
身も抱え込まずに対応したい(包括)
・事例を通して各機関の責務や役割がわかりやすく理解できた。あり得そうな事例だったので、身近な
こととして考えられた(行政)(包括)
・今後虐待対応経験者、未経験者と習熟度別で開催してもいいかもしれない(包括)
・事例を通して学ぶことは多く、また、グループワークにより実際の相談援助スキルの向上や動機付の
機会となり大変良い。コアメンバー会議等のシミュレーションは極めて重要だと思う(医療機関)
・病院が市・包括へ虐待通報した後にどのような動きをしているのか、病院から離れた後どのように対
応しているのかを、事例を通して理解できた(医療機関)
③高齢者虐待対応・防止に関して今後学びたいこと
・地域の事例をもっと知りたい…介入拒否、養護者が精神的に不安定、金銭搾取、ネグレクト、多問題
家族等の困難事例、虐待を防ぐことができた事例、失敗事例等
・措置のタイミング、受入先、養護者への対応等他の市町村担当者がどのように対応しているか
・包括としての動き、行政としての動き等各々役割のイメージづくりができるようになりたい。虐待が
起こったときの他職種、行政などとの連携の仕方
・法律について詳しく知りたい。今後の法律等の動きがあれば、それについて学びたい
・アセスメント、面接技術、介入方法、ロールプレイ
・効果的な普及啓発の方法、各市町村での虐待を未然に防ぐ取り組み、活動の内容を知りたい
・施設内虐待の対応について
・県内で虐待および事件が起こらないようにするには、今回のような内容での継続的な研修が必要
・虐待相談を現在は受けていないので対応の流れを忘れないよう年 1 回は受けたい
7.まとめ
・虐待予防は、虐待の背景要因にアプローチすることと、地域での仕組みづくりが必要であることを継
続して伝えてきている。グループワークの様子やアンケートの記載内容から、受講生の考え方が具体
的になってきていることがわかる。防げる虐待を可能な限り防ぐ取り組みが重要である。
・事後アンケートでは 2 時限目の事例報告と 3 時限目の演習の参考度が高く、自由記載でも参考になっ
たとの声が多い。県内市町村の取組報告は身近に感じられること、演習の事例はどこにでも起こり得
る内容であったことから、参考にしやすく効果的だったと考えられる。しかし一方で、困難事例の介
入方法を学びたい、習熟度別の研修を受けたいという希望もあった。
・グループワークで他市町村や他機関と情報交換することができてよかったという意見も多い。研修を
通して新たな関係作りができることで、県内各地でのスムーズな連携に繋がっていくと考えられる。
8.高齢者虐待防止対応人材養成研修 7 年間のまとめ
・本研修を当センターが実施するのは今年度で最後となる。企画においては、初動期の基本的な対応を
修得することを基本として、毎回、受講者の声を反映させてきた。平成 26 年度からは徐々に虐待予
防に焦点を当て、虐待を防ぐことのできる地域づくりの必要性を伝えている。今後は愛知県が研修を
行う予定であるため、当センターで積み上げた研修成果や受講者の声を県に伝えていく。
・研修会で得た課題を参考に、様々な刊行物を発行してきた。平成 22 年度の当センター開設当初に作
成した愛知県版の虐待対応マニュアルは、平成 24 年度末に改編し、よりイメージしやすいよう映像
版DVDを作成した。平成 23 年度には医療機関向けリーフレットを作成し、医療機関との連携強化
を目指した。平成 27 年度には、毎年度の研修で評価が高い虐待対応の演習を、研修の場だけでなく
各地域や事業所、個人でも活用できるよう『高齢者虐待対応演習ワークブック』として作成した。こ
れらはすべて県内市町村、地域包括に配布してきた。ホームページからもダウンロードでき、多くの
方に活用していただけるものとしているので、今後も継続して活用していただきたい。