第 2 章「新シルクロードを掲げる中国の野望」

ATTAC 関西グル—プ・連続学習会☆宮田律『石油・武器・麻薬 – 中東紛争の正体』②
第 2 章「新シルクロードを掲げる中国の野望」
2016/8/28
「前章では武器の輸出入という切り口から中東の「いま」を説明したが、本章ではより視
野を広げ、ユーラシアの「地政学」という観点から、国際政治情勢の分析を試みたい」
地政学とは(ウィキペディアより抜粋)
「地政学とは地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済的な影響を巨視的な視点で
研究するものである。イギリス、ドイツ、アメリカ合衆国等で国家戦略に科学的根拠と正当性を
与えることを目的とした。
「地政学的」のように言葉として政治談議の中で聞かれることがある。
「より「政治地理学」という名称を用い、体系的に政治と地理の関係について論じたのは 18
世紀のドイツの哲学者カントであると考えられている。この研究は・・・地理学者フリードリヒ・
ラッツェルによって引き継がれ、スウェーデンの政治学者ルドルフ・チェレン(Rudolf Kjellen)
がさらに体系化を加えて「地政学」との名称を与え、20 世紀のドイツの陸軍将校であったカー
ル・ハウスホーファーによって国家は国力に相応の資源を得るための生存圏(レーベンスラウム)
を必要とするという大陸国家系の地政学の説を唱えた。
ドイツにおいてこういった理論が集中的に発展した背景については、ドイツがヨーロッパの
中央部に位置し、しばしば外国との戦争によって国土を破壊され、国家の発展がしばしば頓挫し
た歴史が関係していると考えられる。
米国:ユーラシア地域における影響力の低下
ロシア:旧ソ連時代から「裏庭」、現在も国際的孤立の緩和と武器輸出先としての中央アジ
ア諸国やシリア、イラクなどの中東諸国の戦略的重要性
中国:地理的近接性、エネルギー資源の必要→影響力の拡大へ
■新シルクロード構想
(アフガン・イラクでの)米国の中東政策の挫折
→2013 年に中国が中東諸国との最大の貿易パートナーに(2 位は EU、以下、米国、イン
ド)
中国:エネルギーの需要。アフリカ・モデル? 内政に干渉しない
但し「アフリカ・モデル」には環境破壊や腐敗、中国人労働者の雇用(現地の雇用増につ
ながらない)等の問題
新シルクロード(一帯一路)構想
2014 年 11 月の APEC 首脳会議(北京)で習近平国家主席が提唱
2014 年 11 月 18 日、中国浙江省の義烏とスペインのマドリードを結ぶ貨物鉄道が開通。ロ
シア、ベラルーシ、ウクライナ、ポーランド、ドイツ、フランスなど 8 カ国を経由。
中国はドイツへ至る鉄道貨物路線を、内陸部の重慶と西部の工業都市・デュイスブルクを
結ぶ路線と、首都・北京と北西部の港湾都市・ハンブルクを結ぶ路線の 2 つをすでに確保
している。
莫邦富「中国貨物列車のイラン到達は一帯一路の大きな一歩」
「ダイヤモンドオンライン」2016 年 3 月 3 日より抜粋
http://diamond.jp/articles/-/56232
2014 年 7 月 17 日、私はこのコラムで「欧亜を結ぶ壮大な路線計画をテコに 高速鉄道の海外輸出を加速
させる中国」と題して、中国版新幹線、高速鉄道の海外進出の動きを取り上げた。
同年 6 月中旬、ロンドンを訪れた李克強首相がイギリスのキャメロン首相と会談し、中英両国は原子力発
電や高速鉄道などのインフラ建設で協力関係を築くべきであると働きかけた。実際、高速鉄道は、中英の共
同声明内にも盛り込まれ、中英双方の市場で高速鉄道分野での実質的な協力を促進することに同意した。
世界への進出を考えている中国の高速鉄道戦略の一端がこうした動きから伺われる。
上記のコラムでは、
「中国は 2009 年にすでに、欧亜(欧州—アジア)高速鉄道と中亜(中国—アジア)高
速鉄道、汎亜(汎アジア)高速鉄道という三本柱からなる国際高速鉄道計画を決定しており、そのうちの 2
路線がヨーロッパに到る。中亜鉄道はかつてのシルクロードと重なっており、キルギス、ウズベキスタンな
どの中央アジア国家を通り、イラン、トルコを経て、最後はドイツに到る」と紹介している。
中国の貨物列車が初めて
イランに到着したことの意義
高速鉄道の実現はまだまだ先だが、その中亜鉄道に絡む話として、目を惹く新情報があった。中国企業が
工事に参加するイラン鉄道電気化改造プロジェクトの着工にあたり、中国を出発してシルクロード沿いを走
る初の貨物列車が 2 月 15 日、イランに到着した。
この貨物列車は 1 月 28 日、寝具・工具・アクセサリーなどといった商品を 32 個の 40 フィートのコンテ
ナに積んで、浙江省の「雑貨の町」という呼び名で知られる義烏を出発し、新疆ウイグル自治区の阿拉山口
から中国国境を出た。・・・
■中央アジア
ロシアの低迷と中央アジア諸国経済の冷え込みの中で、中国が地政学的、地経学的に有利
カザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン・・・天然ガスの輸入、借款の供与
*新疆ウイグル自治区
[中央アジアについては後述]
■パキスタン
15 年 4 月、習国家主席が訪問、460 億ドルの援助を約束、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)
米国は 08 年から 75 億ドルの援助
輸出相手国:アメリカ 15.6%、中国 10.9%、アラブ首長国連邦 7.5%
輸入相手国:アラブ首長国連邦 15.8%、中国 11.8%、サウジアラビ
ア 10.2%
CPEC・・・グワダルから新疆ウイグル地区までの
3000 キロ。道路や鉄道、パイプラインなどのインフ
ラ整備、中東からの原油輸送ルートを大幅に短縮
中国にとってのパキスタンの重要性
①政治的(インドとの国境紛争、米国との対抗、イ
スラム教武装勢力の鎮圧)
②地理的・・・中国北西部への中継点
③経済協力 [米国は援助の 70%が武器]
リスク
★バロチスタン(バルチスタン)問題
分離独立運動
経済発展から取り残されていることを背景に
★連邦直轄部族地域
アフガンからの鉱物資源の通過路
パキスタン・タリバン運動の反発
★ウイグル人たちが部族地域やアフガニスタンで活
動
■アフガン利権
2012 年 6 月 中国・アフガニスタン戦略協力パートナーシップの覚書に調印
2013 年に 2 億元の支援を約束
ガニ政権、中国重視の外交政策
タリバン指導者を北京に招く(14 年 11 月)
鉱山、油田の開発に大規模な投資
アフガンをめぐるインドとパキスタンのせめぎ合い
カルザイ政権、インドとの友好
パキスタンのムシャラフ大統領(当時)はタリバンへの攻撃に非協力的
インドとパキスタンの「代理戦争」
2011 年 10 月、カルザイ政権とインドが戦略的パートナーシップ、治安部隊への訓練、兵
器の提供
14 年にガニ大統領がパキスタンを訪問、前政権の親インド的政策の修正
タリバンとの和平を追求→和平が成立してタリバンが政権に入ればパキスタンの影響力が
拡大する可能性
■中央アジア
米国は1990年代にトルクメニスタン、ウズベ
キスタン、カザフスタンのガス、石油をアフガニ
スタン、パキスタン経由でインドへ送るガスパイ
王ラインを構想、タリバン政権を支援→9・11
以降の「テロとの戦争」のために挫折
トルクメニスタン
15 年 1 月にベルディムハメドフ大統領が天然ガスの増産計画を発表
天然ガスパイプライン(インドまで)の早期建設を指示。米国、パキスタン、インドが関
心。
米国内の保守派は、対イランの観点からトルクメニスタンに注目
カザフスタン
ナザルバエフ大統領(1990 年から、事実上「終身大統領」)
2014 年 5 月 29 日、ユーラシア経済連合を創設。ロシア、ベラルーシ、カザフスタン。そ
の後アルメニア、キルギスが加盟。
ユーラシア経済連合(ウィキペディアより抜粋)
・・・2015 年 5 月 8 日にプーチンと習近平はユーラシア経済連合と中国のシルクロード経済ベルト構想を
連携させるとする共同声明を発表し、同年 5 月 29 日にはユーラシア経済連合は初の自由貿易協定をベトナ
ムと締結した。同年 11 月 17 日にプーチン大統領はアメリカの主導する環太平洋戦略的経済連携協定を批判
して中国のシルクロード経済ベルトとロシアのユーラシア経済連合の連携がアジア太平洋の繁栄をもたら
すとする寄稿を世界のメディア各紙に行った。2016 年 6 月にはサンクトペテルブルグ国際経済フォーラム
でプーチンは、中国・インド・パキスタンなどの上海協力機構参加諸国とユーラシア経済連合を軸に築く「大
ユーラシア・パートナーシップ」と第一段階として中国との交渉協議の計画を発表した。
■中央アジア諸国のリスク
1)イスラム過激派の脅威
14 年 8 月 上海条約機構(中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベ
キスタン・インド・パキスタンの 8 カ国)による合同軍事演習
集団安全保障条約機構(CSTO。ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギ
ス、タジキスタンの6カ国)の枠組みの下での連携
その一方で、人権問題
キルギス・・・ウズベク人(人口の 14%)、一部が IS へ参加
2)石油価格の低迷とインフレ、ロシアへの経済制裁の影響も(ロシアへの移民など)
3)麻薬ネットワーク
*バルカン・ルート→西ヨーロッパ
年間 200 億ドル
*北方ルート→ロシア
年間 130 億ドル
*CIAの関与、米軍はアヘン根絶に消極的(戦費に利用?)
参考:新華網北京 1 月 19 日
(新華社記者李震)
「我が家は全員が中国商品がとても好きで、ドバイのドラゴンマート二期が開業したと
聞き、従兄と一緒に見に来た。商用視察でもあり、週末のショッピングも楽しめる。」アン
マンの商売人、ファルクさんは電動バランスカーを選びながら、記者にこう語った。
ドバイのドラゴンマートは2004年に開業し、現時点で中国系の商業店舗は約3,50
0店に上る。中国の海外最大の商品集約貿易センターとして、ドラゴンマートは急速に発
展する中国と中東の各国の貿易取引を見届けてきた。
「一帯一路」構想が提唱されたのは、まさに中東各国と中国が経済モデルの転換を推進
する時期で、双方の協力は新しい未来を切り開くものだ。中東地域は「一帯一路」の合流
点に位置し、関係国がその中に参与することは、中国と地域内の国の各要素の流動と配置
の改善に益する。資源、資金、人材、技術及び市場などの方面で連結し、重合促進効果が
生まれ、参加国が成長するための新しいエンジンになる。「一帯一路」と呼応し、中東の多
数の国はアジアインフラ投資銀行の創始メンバー国になっている。
現在は原油価格の下落によって、中東のエネルギー大国は経済モデル転換のペースを加
速し、石油貿易への過度な依存から脱却している。サウジアラビアを例に挙げると、原油
価格の急落で昨年の財政赤字は980億ドルに上り、政府は800億ドル余りの外貨準備
高を利用し、200億ドルの債券を発行してこれに対応した。2016年、サウジアラビ
アは新しい「5年計画」を実施し、経済の多元化を促進し始める。アナリストによると、
製造業で優位性のある中国とエネルギー、投資・融資分野で優位性のあるサウジアラビア
が「一帯一路」の枠組みのもとで協力することは、双方の経済モデル転換とアップグレー
ドの推進にプラスになる。
エジプトはハイテク産業を主導とする「スエズ運河走廊経済ベルト」を計画中で、中国
とエジプトなどの中東諸国とのハイテク産業分野での協力は将来性が明るいと言える。全
体を見ると、アラブ諸国は中国の7番目の貿易パートナーで、中国はアラブ世界の2番目
の貿易相手国になっている。今後10年にかけて、中国とアラブの二国間貿易額は6,00
0億ドルに達すると見込まれる。
イランについて、イランの核問題が解決に向かうと、中東地域の緊張情勢が「緩和」し、
イランが対外経済貿協力を再開するための道を作る。予見できることは、中国とイランは
高速鉄道、航空、通信、電力、エンジニアリング機械、産業ハイテクパークなどの分野の
協力で大きな潜在力があり、両国の発展戦略をリンクさせることで、中東地域の「発展」
のためにポジティブエネルギーが注入されることだ。