29 暗 示 横田整形外科医院 横 田 文 彦 手塚治虫作のブラック・ジャックの中にこのよ ります)を検索すると、確かに第12胸椎圧迫骨折 うな話があります。 で入院しています。あまりお行儀が良い(安静に 無免許ですが名外科医のブラック・ジャックが していない)入院患者ではなかったような記述が ある日突然右手が自由に動かせなくなり、彼の外 あります。だんだん記憶が蘇りました。確かにお 科医生命もこれで終わりといわれるようになりま となしく入院していない彼とやりあって「骨折し した。 ているところは脊髄の重要な所に近く、これ以上 子供の頃ブラック・ジャックこと黒男は生死に 変形すると神経を圧迫して手術しても今は良くて 関わる大怪我をし、本間丈太郎という名医に数度 も今後歩けなくなるかもしれないぞ」と言ったの に分けて外科 整形外科 皮膚科等の手術を受け は確かです。 その後困難なリハビリを耐え抜き回復します。 現在状態はレントゲンで第12胸椎は楔状変形は その時の右上腕の再接合手術直後に本間医師に 有るもののよく骨癒合して脊柱管は保たれていま 同僚の浅草医師が「手術なんかしても20年後には す。MMT も下肢の筋肉全て5ですし見た目の萎 手が動かせなくなるから駄目だ」と話したのが耳 縮もありません。腱反射も全く異常なしです。し に残り、それが暗示として20年後に右手の自由が かし杖にすがってよろよろ歩く姿は詐病にも見え きかなくなるという身体症状になってしまったの ません。そこで本人に「現在診察して異常は全く でした。ブラック・ジャックはその言葉を話した ないということ、入院中に言った言葉の意味は、 浅草医師に「自分のかつての意見は間違っていた、 この入院中安静にしていない場合、脊椎がさらに 君の腕は正常に動く」と言ってもらい即座に右腕 潰れて脊髄を圧迫するかもしれない、という警告 が回復し、元に戻ったというものです。当然漫画 の意味合いで言ったので20年後に足が動かなくな のお話ですので面白く読んでこんなこと現実には ると予言したのではないこと。今は心配した状況 ないだろうと考えていました。 にはなっていないので、身体障害者になるよりも 昨年当院の外来に30代後半の建設作業員の男性 まずは自信を持ってリハビリをしましょう」とお が「最近足が重くて歩行困難になった。先生に刈 話ししておきました。その後、体操や筋トレの指 羽郡総合病院で背骨の骨折で診てもらったが、そ 示をしましたが彼は当院にはその後再来しません の時20年経ったら歩けなくなるといわれていたの でした。 で身体障害者の書類を書いてくれ」 と現れました。 しかし会計を終わって玄関を出て車に乗り込む 突然そんなこと言われても覚えているわけないの 後ろ姿は杖をつかず来院時よりずっと歩様が良く でデータベース(私は研修医時代から全担当入院 なっていました。嘘のような本当のお話。 患者のデータをデータベースソフトに入力してあ (柏崎市刈羽郡医師会報 平成28年6月号より) 新潟県医師会報 H28.8 № 797
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