IFRS解釈指針委員会での議題から却下された論点~ IAS第2号

PwC’s
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特集 :
Vol.
内部監査
4
September 2016
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会計/監査
IFRS ICによる却下通知(リジェクションノーティス)
~IFRS解釈指針委員会での議題から却下された論点~
IAS第2号「棚卸資産」
PwCあらた有限責任監査法人
アカウンティング・サポート部
はじめに
「IFRS IC リジェクション」
とは、一般に、IFRS解釈指針委
1
IAS第2号
「棚卸資産」
の却下通知
員会(以下、
「IFRS IC」)が議題として取り上げないと判断し
た論点をいいます。IFRS ICは、関係者から寄せられたさま
過去 13 年間、IAS第 2 号に関して IFRS ICに提出された議
ざまな論点を検討します。論点が議題として追加されると、
題は他の基準に比べて少なく、
「IFRS ICの却下通知」はわ
解釈指針の開発や狭い範囲の基準の修正(「年次改善」
とし
ずか 4 件で、そのうち 2 件は、割り戻しおよび値引きに関す
ての修正を含む)の検討が開始されます。一方で、多くの論
るものでした。これら 4 件の却下通知を解説するとともに、
点は、議題として取り上げることが却下(リジェクション)
され
その要旨を表1にまとめました。
ています。IFRS ICは、却下した論点について、論点の概要
と、議題にしないと判断した理由を簡潔にまとめ、ウェブサイ
トなどで公表しています。
「却下通知(リジェクションノーティ
ス)」
と呼ばれるこの情報は、基準承認の権限を有する国際
現金値引き
( 2002 年 8 月 )
IFRS ICは、財を購入した際に受け取った現金値引きをど
会計基準審議会(以下、
「IASB」)の審議を経ずに公表され
のように会計処理すべきかに関するガイダンスを要請され
るものですので基準書ではありませんが、有用な情報といえ
ました。
ます。
IAS第 2 号では、受け取った現金値引きを購入原価から控
これまでどのような論点が IFRS IC に提出され、どのよう
除することを明示的に要求していますので、IFRS ICは追加
な却下通知が公表されたのか、今回は IAS第 2号「棚卸資
のガイダンスは不要という結論を出しました。IAS第 2 号 11
産」
を取り上げて解説します。
項には、値引き、割り戻しおよびその他の類似の項目を、棚
卸資産の購入原価から控除することが示されています。
サービス提供事業者による棚卸資産の消費
( 2004 年 3 月 )
IFRS ICは、提供するサービスの一部として棚卸資産が消
費される場 合、例えば、テレコム企 業 が 固 定 期 間の通 信
サービス契約を締結する顧客に携帯電話機を無料で提供す
る場合、棚卸資産である携帯電話機の正味実現可能価額を
どのように算定すべきかに関する質問を受けました。
IFRS ICは、この論点は、サービス提供事業者に特有の論
点ではなく、直接的なキャッシュ・イン・フローがないあらゆ
る資産の回収可能性の評価に当てはまると考えました。企
業は将来の一連の収益を生み出すためにこうした棚卸資産
を利用しており、従って、他の棚卸資産と同様に測定すべき
であるという結論に達し、IFRS ICはこの論点を議題に加え
ませんでした。
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評価した将来の期間にわたって比例的に認識すべきか。
値引きおよび割り戻し
( 2004 年 11 月 )
値引きに関連するもう1 件の議題要請には、次の三つの
質問が含まれました。
IFRS ICは、この論点に関する実務上の会計処理にばら
つきがあることを示す証拠が十分にないという理由か
ら、議題として追加しないことを決定しました。
1) 買掛金を期日前に支払うことによる値引き(仕入れ割引)
は、棚卸資産の原価から控除せずに、金融収益として認
識すべきか。
棚卸資産の長期供給契約における前払い
( 2015 年 7 月 )
IFRS ICは、2002 年 8月の現金値引きに関する結論と同
IFRS ICは、原材料の長期供給契約において、原材料の
様に、IAS 第 2 号では、決済における全ての値引きを、
購入者が供給者に対して重要な前払いを行う場合の会計処
通常、棚卸資産の原価から控除することを明確に要求し
理を検討しました。質問は、購入者が長期前払いに係る利
ているという結論に達しました。
息を金利収益として認識し、同時に棚卸資産の原価を増加
させる処理を実施すべきかどうかというものです。仮に棚卸
2) その他の割り戻しは、全て棚卸資産の原価から控除す
べきか、あるいは、一部を収益として、または販売促進
増加することになります。
アウトリーチの結果、このような事例は非常に限られるこ
費用の減額として処理することは可能か。
資産の原価を増加させる場合には、最終的には売上原価が
IFRS ICは、割戻しが明確かつ真に販売促進費用の払い
とが判明しました。しかし、原材料の長期供給契約に金融要
戻しである場合には、棚卸資産の原価から控除しないこ
素が識別される場合には、その金融要素は別個に会計処理
とに合意しました。
すべきであるとの見 解を I F R S I C は示しました。ただし、
IFRS ICは、個々の契約が金融要素を含むかどうかの識別に
3) 数量に関するリベートは、閾値となる数量に達した後に
は判断が必要であるとしています。
初めて認識すべきか、あるいは、達する可能性が高いと
表1:IAS第2号に関するIFRS IC却下通知の要旨
トピック
現金値引き
(2002年8月)
結論の要旨
受け取った現金値引きをどのように会計処理すべきか?
IFRS ICは、IAS第 2号が、受け取った値引きを購入した財の原価から控除すること
を明示的に要求しているとして、追加的なガイダンスは不要という結論を出した。
サービス提供事業者による棚卸資産の消費
(2004年3月)
提供するサービスの一部として消費する棚卸資産について、その正味回収可能価
額をどのように算定すべきか?
IFRS ICは、企業は将来の一連の収益を生み出すためにこうした棚卸資産を利用し
ているため、他の棚卸資産と同様に測定すべきであるという結論に達した。
値引きおよび割り戻し
(2004年11月)
IFRS ICは、値引きと割り戻しに関連する 3 件の論点を検討した。このうち 2 件は、
IAS第 2 号に十分なガイダンスが提供されているという理由により、もう1件は実
務において会計処理にばらつきがあることの証拠が不十分であるという理由によ
り、却下された。
本文の詳しい解説を参照のこと。
棚卸資産の長期供給契約における前払い
(2015年7月)
長期前払いに係る利息を金利収益として認識し、同時に棚卸資産の原価(最終的
には売上原価)を増加させる処理を実施すべきか?
IFRS ICは、原材料の長期供給契約に金融要素が識別される場合、その金融要素は
別個に会計処理すべきであるとの見解を示した。
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