平成 27 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ 論文題目 R

平成 27 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ
論文題目
R-フルルビプロフェンによる神経障害性疼痛の分子
機序:内因性カンナビノイドの関与
に関する研究
Reduction of Neuropathic Pain by R-flurbiprofen:
Modulation of Endocannabinoid System
薬効薬理学研究室 4 年
12P099 阿部 小海
(指導教員:川原 浩一)
要旨
多発性硬化症は、神経軸索を覆っている髄鞘が障害されることにより神経障害
性疼痛が誘発される。しかしながら、多発性硬化症に伴う神経障害性疼痛に対
する有効な治療薬はいまだに少ないのが現状である。R-フルルビプロフェン
(RF) は、シクロオキシゲナーゼ阻害作用なしに鎮痛作用があるが、そのメカニ
ズムは十分にわかっていない。そこで、本研究において、ラットやマウスの神
経障害性疼痛モデルにおける RF の鎮痛作用機序について文献調査した。この文
献では、以下のことが示された。
・ 神経障害性疼痛モデルにおいて、RF 投与動物は機械的痛覚過敏の閾値を有
意に回復した。
・ 内因性カンナビノイドであるアナンダミド(AEA)は、N-アラキドノイルホ
スファチジルエタノールアミンホスホリパーゼ D (NAPE-PLD) により合成
され、脂肪酸アミド加水分解酵素 (FAAH) によって代謝される。神経障害性
疼痛モデルにおいて、FAAH の発現は増加したが、RF 投与により FAAH 活
性は抑制された。
・神経障害性疼痛モデルにおいて、NAPE-PLD の発現は減少したが、RF 投与
により NAPE-PLD 発現抑制は妨げられた。
以上より、RF は FAAH の活性抑制と NAPE-PLD の発現低下の抑制により内
因性カンナビノイドを正常化し、軸索障害後の安定性を回復することが明らか
にされた。従って、慢性的な神経障害性疼痛を回復しようとする内因性メカニ
ズムを改善し、慢性的で難治性の疼痛治療において魅力的な新規の治療薬開発
に貢献することが示唆される。多発性硬化症による神経障害性疼痛においても、
RF が治療効果を示すかどうかは今後の検討課題である。
キーワード
①多発性硬化症 ②R-フルルビプロフェン ③カンナビノイド
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1.文献調査の目的および意義
多発性硬化症は、神経軸索を覆っている髄鞘が障害されることにより神経障
害性疼痛が誘発される。しかしながら、多発性硬化症に伴う神経障害性疼痛
に対する有効な治療薬は、いまだに少ないのが現状である。RF は、シクロ
オキシゲナーゼ阻害作用なしに鎮痛作用があるが、そのメカニズムは十分に
わかっていない。そこで、本研究において、マウスの神経障害性疼痛モデル
における RF の鎮痛作用機序について文献調査した。
2.調査結果
痛
覚
過
敏
の
閾
値
[g]
[Day]
図1 神経障害性疼痛モデルを使用し、結紮した後ろ足をフィラメントで刺
激して、逃避行動がみられるまでの閾値をグラフにした。
手術をした日を境に痛覚過敏の閾値が下がり、S-フルルビプロフェンや
vehicle 投与マウスでは弱い刺激で逃避行動を示すのに対し、R-フルルビプ
ロフェン投与マウスでは痛覚過敏の閾値が回復した。
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内因性カンナビノイドであるアナンダミドは、脳や脊髄に存在するカンナビ
ノイド受容体1 (CB1) の部分アゴニストである。CB1 受容体は7回膜貫通
の G タンパク質共役型で、G タンパク質は Gi または Go であり、生理作用
には鎮痛作用がある。アナンダミドは NAPE-PLD により合成され、FAAH
により代謝される。RF はこの2つの酵素のバランスを改善し、鎮痛作用を
強めることがわかった。図2で NAPE-PLD 発現量の変化を、図3、4で
FAAH 発現量の変化を示す。
相
対
量
相
対
量
①Naïve
②vehicle 投与神経障害性疼痛モデル
③RF 投与神経障害性疼痛モデル
図2 ① ② ③ ② ③
神経障害性疼痛モデルにそれぞれ、RF 4.5mg/kg と vehicle を障害後に 1 日
2 回投与し、7日後に NAPR-PLD 発現量を測定
①と②を比較すると、②はアナンダミド合成酵素の NAPE-PLD 発現が低下
したが、RF を投与した③では増加した。従って、RF を投与すると、
NAPE-PLD が増加することで、アナンダミド量が増加し、鎮痛作用を示す
と考えられる。
3
相
対
量
相
対
量
[Day]
図3 FAAH 発現量の時間経過 ①
②
図4 FAAH の発現量
①Naïve
②RF 投与神経障害性疼痛モデル
図3は、アナンダミド分解酵素の FAAH 発現量の時間経過をグラフにした
ものである。0日が神経を障害した日で、7日で発現量が一番多くなり、21
日経っても神経障害前より FAAH が増加していた。従って、神経を障害す
ると、アナンダミドの代謝酵素である FAAH が増加し、アナンダミド量が
減少することから、鎮痛作用が弱くなることが考えられる。
図4は、何も処置していないマウスと RF を投与した神経障害性疼痛モデル
の FAAH 発現量をグラフにしたものである。RF を投与することにより、
FAAH の発現量が減少することから、アナンダミド量の減少を抑制し、鎮痛
作用は強くなると考えられる。
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アナンダミド量
①Naïve
図5 ① ② ③
②Vehicle 投与神経障害性疼痛モデル
③RF 投与神経障害性疼痛モデル
アナンダミドにおいて、Vehicle 投与神経障害性疼痛モデルは Naïve より約
50%減少したが、RF 投与モデルは Vehicle 投与モデルより増加した。
3. まとめ
RF は NAPE-PLD の発現増加と FAAH の発現抑制により内因性カンナビノ
イドであるアナンダミドを増加させ、神経障害後の疼痛を回復することが明
らかとなった。従って、慢性的な神経障害性疼痛を回復しようとする内因性
メカニズムを改善し、慢性的で難治性の疼痛治療において魅力的な新規の治
療薬開発に貢献することが示唆される。多発性硬化症による神経障害性疼痛
においても、RF が治療効果を示すかどうかは今後の検討課題である。
4.謝辞
本研究を進めるにあたり指導して頂いた川原浩一教授、また、多くの示唆を
頂いた薬効薬理学研究室の皆様に、この場を借りて感謝申し上げます。
5.引用文献
Bishay P. et al. Plos One 5 (5): e10628, 2010
日本薬理学雑誌 138: 8-12, 2011
薬学雑誌 126 (2): 67-81, 2006
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