Economic Monitor

Aug 26, 2016
No.2016-038
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
主任研究員 石 川
誠
03-3497-3616 [email protected]
「力強さ」には欠けるが「粘り強さ」を見せるユーロ圏経済
ユーロ圏における 4~6 月期の実質 GDP 成長率は前期比年率 1.1%と、潜在成長率並みの伸びを
確保。1~3 月期に生じた暖冬効果の反動などから需要の伸びは弱かったが、輸入が減少したため、
圏内の生産活動は緩やかに拡大した模様。輸入の減少は、ユーロ安に伴う圏内生産品への代替に
よって生じた可能性がある。
先行きも、Brexit を巡る先行き不透明感や、イタリアの不良債権問題および政局リスクといった
懸念材料はあるが、基本的には、失業率の低下などファンダメンタルズの改善が続いていること、
ECB が今年中にも一段の金融緩和に踏み切ると見込まれることから、緩やかなペースでの成長
が続くと予想される。
4~6 月期の成長率は大幅減速を回避
ユーロ圏経済は緩やかなペースでの成長が続いている。8 月 12 日に公表された 4~6 月期の実質 GDP 成
長率(2 次速報値)は前期比 0.3%(年率換算 1.1%)となった。暖冬で押し上げられた 1~3 月期の高成
長(前期比 0.6%、年率 2.2%)1からは減速したが、欧州委員会が 1.0%と推計する潜在成長率2並みの伸び
を確保した。
主要国の成長率を見ると、フランス
(1~3 月期前期比 0.7%→4~6 月期▲0.04%)
とイタリア(0.3%→0.01%)
がゼロ成長にとどまったものの、ドイツ(1~3 月期 0.7%→4~6 月期 0.4%)の減速が小幅にとどまった
ほか、スペイン(0.8%→0.7%)とオランダ(0.6%→0.6%)が堅調な伸びを維持し、全体を下支えした。
需要項目毎の内訳は未発表(9 月 6 日発表予定)である。しかし、
既に公表されたドイツ・フランス・オランダの内訳や各種経済指標
に基づけば、4~6 月期は、個人消費や固定資産投資(建設投資お
よび機械設備投資)といった圏内需要に 1~3 月期の高成長の反動
が出たほか、輸出の低調3も続いたが、一方で輸入が約 4 年ぶりの
減少に転じ、成長率を大きく押し上げたと考えられる。この輸入の
減少については、一時的な動きの可能性もあるが、ユーロ安地合い
が長期化する中で、ユーロ圏外からの輸入品から圏内生産品への代
替が生じている側面も考えられる。その見方が正しければ、ユーロ
圏経済は「力強さ」には欠けるが、「粘り強さ」が備わってきてい
るということになろう。
ユーロ圏の実質GDP (%、季節調整済前期比)
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
▲0.2
▲0.4
▲0.6
▲0.8
▲1.0
※2016年4~6月期の需要
項目別寄与度は当社試算。
2013
個人消費
在庫投資
2014
2015
政府消費
純輸出
2016
固定資産投資
輸入
(出所) Eurostat (注)輸入の増加は成長率に対しマイナスに寄与。
1~3 月期は記録的な暖冬が衣料品など春物商品の売れ行きや建設工事の進捗に好影響を与え、成長率を押し上げた。
潜在成長率とは、資本のストックや労働力を過不足なく利用した場合に産出できると考えられる GDP(潜在 GDP)の伸び率
のことであり、
“中長期的な経済成長の実力”とされる。
3 通関(名目)ベースのユーロ圏外向け輸出は、1~3 月期に前期比▲1.3%と落ち込んだ後、4~6 月期も同▲0.2%と減少が続い
た。仕向地別には、アジア向けの持ち直しが続き、米国・アフリカ向けも下げ止まったが、一方でユーロ圏外向け輸出の約 3 分
の 1 を占める中東欧向けの減少が続いた。
1
2
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研
究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告
なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。
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2017 年にかけて 1%台半ばの成長率を維持する見通し
こうした評価の真偽はともかく、ユーロ圏では、①失業率(6 月
ユーロ圏の失業率と設備稼働率 (%、季節調整値)
10.1%)が 2011 年 7 月以来のレベルまで低下してきたほか、②
96
81.6%)が高水準を維持4するなど、フ
92
10
88
8
84
6
また、ECB(欧州中銀)
が今年中にも一段の金融緩和に踏み切り、
80
4
これが、①金利抑制や銀行融資促進を通じて圏内需要を下支えす
76
2
るほか、②ユーロ安地合いの持続を通じて輸出の底割れを回避さ
72
0
鉱工業の設備稼働率(7 月
ァンダメンタルズの改善が続いている。
せる要因になると期待できる。金融市場ではこのところ、Brexit
選択後の混乱が取り敢えず一服しているため、ECB の追加緩和
設備稼働率
12
失業率(右目盛)
▲2
68
2004
2006
2008
2010
2012
2014
2016
(出所) Eurostat、欧州委員会
観測も 6~7 月に比べ後退しているが、(1)Brexit を巡る不確実性
は大して解消されておらず、景気下振れリスクとして燻り続けて
いること、(2)インフレ率(消費者物価の前年同月比、7 月 0.2%)
が ECB の政策目標(2%近傍)を大幅に下回り続けていることを
踏まえると、やはり ECB は遠からず「次の一手」を繰り出すの
ユーロ圏の消費者物価 (前年同月比、%)
4
3
2
ではないだろうか。
1
その Brexit 問題であるが、英国の離脱通知時期が 2017 年入り後
になることを英・仏首脳が容認したこと以外、殆んど進展が見ら
れない。このもとで、①英国経済の悪化やポンド安ユーロ高に伴
0
▲1
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
エネルギーおよび非加工食品を除く
う対英輸出の減少、②企業・消費者マインドの慎重化などを通じ
て、当面のユーロ圏経済に負の影響を及ぼすことは避けられない
全品目
(出所) Eurostat
であろう。
ユーロ相場の推移 (ドル/ユーロ、週末値)
ただし、Brexit 問題は、対ドル・対円などではユーロ安要因と考
1.60
えられ、対英以外の輸出には追い風という側面もある。また、今
1.50
後の英国・EU 間交渉の展開によっては、世界各国からの対英投
1.40
資の抑制がユーロ圏内に振り向けられ、圏内投資の拡大や資産価
1.30
格の上昇を通じて、負の影響を緩和する可能性もある。
1.20
また、Brexit 問題とは別に、4~6 月期もゼロ成長にとどまった
イタリアで不良債権問題5や政局リスク6が燻っていることも懸念
材料である。しかし、EBA(欧州銀行監督機構)が 7 月 29 日に
↓ユーロ安
1.10
1.00
2003
2005
2007
2009
2011
2013
2015
(出所) ECB (注) 直近値は8月25日。
具体的には昨年 12 月以降、前回の設備投資拡大局面の初期にあたる 2005 年の平均レベル(81.4%)を持続的に上回っている。
イタリアの不良債権比率は昨年 6 月時点で 18.0%と、ドイツの 2.3%(2014 年末)
、フランスの 4.0%(2015 年末)
、スペイン
の 6.3%(2015 年末)を大幅に上回っている。こうした中、伊 3 位で同比率が 41%とされるモンテ・デイ・バスキ・ディ・シエ
ナ銀行について、市場などで公的資金投入が避けられないとの見方が強まっている。ただし、公的資金投入に際しては、EU が
今年 1 月に株主や債券保有者に一定の損失を負わせるルールを設定。そのため、イタリア当局は公的救済に二の足を踏んでいる。
6 イタリアでは、一連の構造改革の加速に向けて、上院の定数や権限を縮小するなどの憲法改正案を問う国民投票が 10 月 30 日
または 11 月 6 日に実施されるが、レンツィ首相は「否決されれば辞任する」と公約。仮に否決されれば、構造改革路線の頓挫や
経済政策運営の迷走につながり、景気底割れリスクも高まると見られる。
4
5
2
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公表した欧州主要 51 行の資産査定結果によると、51 行全体の中核的自己資本比率は 2012 年末の 11.1%
から 2015 年末には 13.2%へと改善。ユーロ圏経済の失速を想定したストレステストでも、イタリアの一
部機関で資本不足に陥るリスクはあるが、それ以外で銀行経営に重大な支障が生じる可能性は低いとの結
果が示された。
以上を踏まえると、ユーロ圏経済の先行きについ
ユーロ圏の成長率予想
て最も蓋然性の高いコースは、
「成長加速は難しい
が、大崩れにも至らない」というものであろう。
%,%Pt
実質GDP
2013
2014
2015
2016
2017
実績
実績
実績
予想
予想
▲0.3
0.9
1.7
1.5
1.4
0.8
当研究所は、4~6 月期 GDP の内容を踏まえてユ
個人消費
▲0.7
0.8
1.7
1.3
ーロ圏の成長率予想を見直し、固定資産投資や輸
固定資産投資
▲2.6
1.3
2.9
2.7
3.6
在庫投資(寄与度)
(0.2)
(0.0)
(▲0.0)
(0.1)
(▲0.1)
出の伸びを下方修正したが、同時に輸入の伸びも
政府消費
下方修正し、その結果として、2016 年 1.5%、2017
純輸出(寄与度)
年 1.4%と 2015 年の実績(1.7%)から小幅な減速
にとどまるとの予想を据え置くこととした。
0.2
0.8
1.3
1.2
0.7
(0.4)
(▲0.0)
(▲0.1)
(▲0.2)
(0.2)
輸 出
2.0
4.1
5.3
2.4
4.4
輸 入
1.2
4.5
6.1
3.0
4.4
(出所)Eurostat (注) 2013年は17ヵ国、2014年は18ヵ国、2015年以降は19ヵ国ベース。
3