速 報 平成28年度 福岡県小学校長会 東北被災地視察研修報告 福岡県小学校長会では、平成26年度から宮城県に視察団を派遣し、被災地の現状や防 災教育の取組について視察研修を行ってきました。本年度は、宮城県南部の亘理町、山元 町を中心に視察を実施しました。 本研修の実施あたり、宮城県小学校長会をはじめ山元町教育委員会の皆様に大変お世話 になりました。この場をかりまして、心より御礼申し上げます。 なお、詳細な報告につきましては、後日、報告書を発刊するとともに、県内各地域にお きまして、参加者による報告会を行いますので、この場では簡単な報告とさせていただき ます。 東 北被 災地視 察団 1 団長 原口 一夫 目的 (1)東北被災3県における震災被害、並びに復興の実態を継続的に視察することによ り、震災の事実を風化させることなく、福岡県の防災・安全教育の活性化を継続 的に図ることに資する。 (2)各地区代表による視察研修を行い、県域各地区で報告・協議を行うことで、福岡 県小学校長会における防災教育・安全教育の組織的取組の推進を図る。 2 実施期間 平成28年8月1日(月)~3日(水) 3 視察団組織 団 長 福岡県小学校長会 対策部長 原口 一夫(新宮町立新宮小学校) 副団長 福岡県小学校長会 対策副部長 振原 基治(福岡市立西戸崎小学校) 団 北九州市地区 筒井 智己(北九州市立上津役小学校) 福岡市地区 村上 慶太(福岡市立賀茂小学校) 福岡地区 渡辺 清二(大野城市立大野小学校) 北筑後地区 深山 嗣典(久留米市立長門石小学校) 南筑後地区 内藤 妙子(柳川市立中島小学校) 筑豊地区 吉丸 みさ子(飯塚市立高田小学校) 北九州地区 西 秀樹(岡垣町立吉木小学校) 京筑地区 小林 正尚(築上町立上城井小学校) 員 4 行程及び研修内容(報告) 1日目(8月1日) 午前 福岡空港→仙台空港 午後 仙台空港から、研修会場である公立共済組合ホテル白萩に向かう。 宮城県小学校長会の役員の皆様が出迎えてくれた。応対していただいたのは、 宮城県小学校長会長の若生充行校長、副会長の丸山千佳子校長、副会長の大沼 透校長、副会長の吉木修校長の4名であった。 研修1 「仙台管内の状況と視察地の概要」 講師 宮城県小学校長会 名取市立増田小学校 副会長(仙台地区校長会長) 吉木 修 校長 「 仙 台 管 内 の 状 況 と 視 察 地の 概 要 」 と い う 演 題 で 、吉 木 校 長 か ら 話 を し て頂 い た 。 仙台管内での被災状況は、死者・行方不明者数、児童・生徒が37名、教職員1名で ある。宮城県全体では、死者・行方不明者数、児童生徒362名、教職員19名であ る。被災地のある学校では、就学援助受給者数が1割を超えている状況がある。校舎 が被災している学校は、他の学校で併設し て授業を実施していたが、5年が経過し新 築された校舎での授業が始まった学校もあ る。震災後の人事関係の状況としては、他 県から123名が応援として派遣されてい る。文部科学省から復興支援として240 名が加配されている 。防災担当主幹教諭( 本 【吉木校長のプレゼンの様子】 年度から安全担当主幹教諭と名称変更)とし て75名が加配されている。加配ではないが 全ての小・中・高校に防災主任が配置されている。 学校の教員が児童生徒に対して「自然災害等における被害を最小限にするために災 害・安全に関する知識と行動力を身につけさせること」を防災教育のねらいとしてい る。ねらい達成に向けて、5つの児童・生徒像を設定している。①自らの命を守り乗 り切る力(自助 )。②知識を備え行動する力(自助 )。③地域の安全に貢献する力(共 助 ・ 公 助 )。 ④ 安 全 な 社 会 に 立 て 直 す 力 ( 共 助 ・ 公 助 )。 ⑤ 安 全 安 心 な 社 会 づ く り に 貢献する心(公助 )。 防災教育推進に向けた宮城県の取組としては、①みやぎ学校安全基本指針の作成。 ②みやぎ防災教育副読本「未来への絆」の作成。③みやぎ防災教育推進ネットワーク 会議の設置。④安全担当主幹教諭、防災主任等の研修会。⑤「心のケア・いじめ・不 登 校 等 対 策 プロ ジ ェ ク ト チ ー ム 」 を 義務 教 育 課 内 に 新 設 。「 児 童 生 徒の 心 のサ ポ ート 班 」 を 東 部 教育 事 務 所 内 に 新 設 ( 平 成2 8 年 度 か ら )。 東 部 教 育 事 務所 に は石 巻 市が 含まれおり、被災した児童が多く存在し、現在でも仮設住宅からバスで通ってきてい る児童も多く、心のケアが喫緊の課題となっている。心のケアに関しては長い時間が かかるだろうと言われていた。 研修2 「本吉地区(南三陸町戸倉地区)の被災状況」 講師 宮城県小学校長会 総務部副部長(前南三陸町立戸倉小学校長) 富谷町立東向陽台小学校 麻生川 敦 校長 麻生川校長から戸倉地区の被災状況について話をしていただいた。戸倉小学校区は 甚大な被害を受けている。 校舎、体育館、プール全壊。校庭にあった遊具、植栽、建物全て流出。児童の家庭 の8割が全壊。保護者1名死亡、児童1名死亡。教職員の家庭の5割が全壊。教員1 名死亡。 震災時、屋上に避難するか、国道を渡る高台に避難するか迷ったが、高台への避難 を決定する。その後、さらに高い場所にある神社に避難する。次の場所に避難するか 判断に迫られたが、その場所で野宿をすることを 決断する。余震があるたびに木々が割れるような 音がする。寒さの中、低学年・中学年児童は神社 の中に入れ、高学年児童と教職員は6つのたき火 をし、夜を明かす。次の日、自衛隊のヘリが降り 立っている戸倉中学校に移動する。校庭には遺体 が転がっており、教職員で体育館まで遺体を運ん だ。毛布1枚を3人で分け合い横になる。次の日、 【麻生川校長のプレゼンの様子】 消防団の人たちが切り拓いてくれた道を通って屋根 がある建物に到着する。 改めて避難を振り返って、自分の対応がどうで あったか。 緊急事態では、正解のない判断が必要になる。 ベストの判断で迷い決められないより、ベターの 判断で行動することが必要。自然災害に「絶対の 安全」はない。想定の完成度は最高75%程度と とらえる。判断場面の想定では、20%の選択の 【震災後校舎の様子】 余地を残すことが必要。5%の想定外の事態も覚悟 しておくことも必要である。想定がすべてではな く、臨機応変の行動が求められる。 防災の力として3点の提言を頂いた。 ①天災は忘れたころにやってくる。からぶりは当た り前ととらえる。忘れない工夫として、マニュアル を検証し、話し合い、引き継ぐこと。その地域なら ではの危険性の把握と危機意識の継続が必要であ る。②地域力こそ防災の要である。③判断する力を 【震災時校区の様子】 付けるためには、場数を踏むこと、失敗から学ぶこ とが大切である。 2日目(8月2日) 研修3 「荒浜小学校視察」 講師 亘理町立荒浜小学校 大村 進 鹿又 政信 校長 主幹教諭 荒浜小学校を訪問し、被災状況と防災教育の実際につ いて話をして頂いた。亘理町の震災被害の概要は下記 のとおりである 。町民の死者306名 、行方不明6名 。 住宅被害は全部で6,221棟。内訳は、全壊2,5 68棟、大規模半壊285棟、半壊920棟、一部損 損壊2 ,448棟。津波浸水面積は約35K㎡、亘理 町の面積の約48%が浸水。荒浜小では、児童、地域 【非常階段】 住民を合わせて850人が屋上に避難し、難を逃れる ことができた。 校舎施設の見学をさせてもらった。緊急避難用に幅 の広い非常階段が設置されている。屋上には、救出用 ヘリコプターが降りられるヘリポートがあった。災害 避難に備え、様々な防災グッズが備蓄されていた。テ ィッシュ・紙おむつ・飲料水・クラッカー・毛布・簡 易トイレ・発電機・ガソリン・脱出用ボート等々であ 【緊急備蓄品】 る。停電時も情報をキャッチできる無線機も設置され ていた。 防災教育については 、行事 、教科 、道徳 、特活等で 、 「みやぎ防災副読本 未来への絆」を活用して行われ ている。また、3年~6年の総合的な学習の時間の1 5時間を使って防災教育を実施している。5年生の総 合的な学習「それゆけ!荒浜安全見守り隊」では 、「簡 易トイレを使ってみて 」「学校にある防災備蓄品は?」 【停電時も使える無線機】 「救命胴衣の着用体験」などの学習が行われている。 また、学校全体では、清掃時、休み時間等様々な時間 帯を想定した避難訓練が行われている。 震災時、児童の安否確認に1週間かかったという経 験から、保護者と安否確認ができるメールシステムが 確立されている。学校、保護者、双方向のメールが可 能になっている。年に4回、試験メール配信を実施し ている。保護者のメール加入率は100%である。こ 【防災風呂敷】 の他、日常的に防災を意識できるように注意事項を書 いた「防災風呂敷」をランドセルに入れている。 研修4 「荒浜中学校視察」 講師 亘理町立荒浜中学校 渡邉 裕之 校長 震災時の津波による被害で荒浜中学校は校舎の再建を余儀なくされた。平成26年 7月まで町内の逢隈中学校内に併設されていたが、同年8月に全面改築された。新校 舎は1階部分がピロティになっており、津波等から住民を守るための工夫がなされて いる。 【1階ピロティ】 【1階ピロティ】 【災害時地域の方が校舎に入れる 【災害時ち、地域の方が外から 車椅子にも対応したスロープ】 校舎の中に入れる外ノブ】 【災害時も水が流れるトイレ】 【災害時石膏ボードが落ちないよう ボードがない体育館天井】 研修5 「山元町 講師 旧中浜小学校 校舎見学」 山元町教育委員会 山元町立坂元小学校 森 憲一 作間 教育長 勝司 校長 中浜小学校。震災当時は全校児童数59名。2階の上、屋根裏で一夜を過ごし、翌 日自衛隊のヘリコプターによって全員救助された。学校の被害状況は、校舎2階天井 付近まで届く津波の直撃を受け、校舎内、体育館は大破し、耐火金庫以外、学校のほ とんど全ての物は流出した。校舎及び体育館の窓は窓枠ごと吹き飛んで瓦礫が流れ込 み、体育館フロアーは全面めくれ上がっていた。校庭の遊具は全て流出した。地域の ほとんどが津波の被害を受け、家は土台だけを残して流され、更地のような状況にな った。 【校舎2階 【1階 青い表示まで津波が到達】 耐火金庫だけが残っている】 【一夜を過ごした2階上 屋根裏部屋 】 【1階教室】 【1階 廊下】 【校舎の周りにあった家は流され更地の ようになっている 。護岸工事が進行中 】 研修6 「山元町の復興の様子 講師 山元町教育委員会 山元町立坂元小学校 森 憲一 作間 教育長 勝司 校長 瓦礫の処理だけでも何十年もかかると言われていた山元町だが、復興に向けた取組 が様々な場所で進められていた。 【仮設住宅】 【 流された山元駅の新駅舎建設 】 【地場産業苺の栽培復活】 【 復興住宅による新たなまちづくり 】 【役場に設置された放射線量表示版】 【 12月開通が見込まれるJR常磐線 】 【学校の新築】 【 復興住宅による新たなまちづくり 】 3日目(8月3日) 研修7 「宮城県における防災教育・安全教育の実践事例」 講師 岩沼市立玉浦小学校 (平成 27 ・ 28 年度 平間 正信 主幹教諭 みやぎ防災教育推進協力校) 岩沼市立玉浦小学校は、平成27・28年度宮城県の「みやぎ防災教育協力校」に 指 定 さ れ 、「 地 域 連携 の 組 織 づ く り 」 と 「 防災 教 育 副 読 本 を 活 用 し た授 業 」の 2 点か ら研究・実践を積み重ねてきている。 連携組織として、①保護者、PTA②地域学校安全委員会③岩沼市学校防災推進委 員会、があげられる。地域学校安全委員会では、学区内の防災教育・防災管理につい て意見交換を行っている。岩沼市学校防災安全委員会では、市防災課、消防、幼稚園 等が参加し、情報交換や意見交換を年3回行っている。その他、東北大学とも連携を して研究を進めている。 地域連携の具体的例としては、集団登校のリーダー育成、地域住民との合同の避難 訓練、PTA主催の防災教室等を実施している。地域との合同避難訓練の際、備蓄品 の食料を食べる体験活動を行っている。アレルギーフリーの表示がはっきりとわかる 備蓄食料にしている。 防災教育副読本を活用した授業では、教育課程に防災教育を位置付けて取り組んで いる。総合的な学習の時間の15時間を使っている。4年生では「宮城県の災害の歴 史 に つ い て 知 ろ う 」、 5 年 生 で は 「 地 域 防 災 マ ッ プ を 作 ろ う 」、 6 年 生 で は 「 玉 浦 の 未来を考えよう」というテーマで学習を進めている。授業計画は、県が作成したもの を基本にしながら 、自校分の指導計画の作成とあわせて職員研修計画を作成している 。 学校全体で取り組むことで職員の意識にも変化があらわれ、より積極的に授業実践に 取り組んだり 、学年通信 、学級通信での防災教育の発信が見られるようになってきた 。 玉浦小では 、多様な避難場所と自然災害を想定しての避難訓練を月1回実施している 。 業 間 時 間 ( 告 知 あ り ・ な し )、 昼 休 み 時 間 ( 告 知 な し )、 掃 除 時 間 ( 告 知 な し ) 等 で ある。いつでも、どこにいても自分の身を守ることができるように、パターン化し行 動様式を徹底している 。回数数を重ねるごとに 、児童の参加意識も向上している 。 (振 るかえり用紙の集計より)登下校時、在宅時の一人一人の避難計画を個人マニュアル 票として、学校が1部教室に保管、家庭が1部保管している。また、震度6以上、津 波注意報以上が発令中は、保護者への引き渡しをしないとの申し合わせをしている。 【机の下に避難】 【防災頭巾をかぶって待機】 【多用な避難訓練】 研修8 「気仙沼市の被災状況と復興教育」 講師 宮城県小学校長会 副会長(本吉地区校長会長) 気仙沼市立気仙沼小学校 小野寺校長からは、前任校 小野寺 正司 校長 階上(はしかみ)小学校での取組の報告をしてもらっ た。気仙沼市では、死者1,362人、行方不明者226名、住宅被災棟数15,8 15棟の甚大な震災の被害を受けている。 【震災時の様子】 【陸に打ち上げられたマグロ船】 【子ども達の様子】 震災から5年5カ月が経過し、今被災地が抱えている課題を5点提示していただい た。①震災の教訓をどう生かすか。②防災・減災教育の在り方。③震災を経験した子 ど も の 心 の ケア 。 ④ 学 力 向 上 対 策 ( 仮設 住 宅 か ら 通 っ て く る子 ど も )。 ⑤ 運動 量 の不 足と体力向上対策(スクールバスで通う子 )。 五つの課題の中から、子ども達の心のケアを中心に報告があった。子ども達の心の 現状として 、 「 風の音でPTS D を発症する子 」 「 天国の母へ隠れて手紙を書く子 」 「机 を 動 か す 音 で 地 震 を 思 い 出 す 子 」「 震 災 後 父 が 自 殺 し た 子 」「 防 災 の 授 業 で 具 合 が 悪 く なる 子 」「家 が 津波 で 流さ れ た子 」「 震災 で 母が う つ病 に なっ た 子 」「 避難 訓練 に参 加できない子」等々が挙げられた。まじめな子ほど心にふたをする。心にふたをする と膿んでくる 。そしてそれはいつか爆発する 。階上小学校では 、 「 心の傷は心で癒す 」 との考えから、心の復興プロジェクトを実践された。その内容は、①防災教育による 心の安心②支援する人と心がつながりを持ち感謝の心を育む③心の表現活動を大切に する(絵画と音楽)である。絵画の取り組みでは、全校児童のとびっきりの絵顔を玄 関に掲示。また、全校で「巨大こいのぼりを作ろう」に取り組み、本年度は「命のひ まわりを咲かせよう」プロジェクトが進行中である。 【階上小玄関前のとびっきりの笑顔】 【命のひまわりを咲かせよう】
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