【PDF1枚閲覧可能】 【お試し版】「看護職賠償責任保険制度News」Vol.23

看護職賠償責任保険制度
VOL.
23
特集
誤薬を防ぐ
法律に関する基礎知識
Part22
看護職も知っておきたい
「働く時間」に関するルール
公益社団法人
表紙イラスト 日影ひろみ
特集
誤薬を防ぐ
医療が日々、高度化、複雑化する中、薬剤投与に関わる事故は後を絶ちません。
たとえば、多くの医療機関で、抗がん剤や血糖降下剤、高濃度カリウム製剤、
筋弛緩剤など、誤って投与されると生命を脅かすハイリスクの薬剤が使用されて
います。また、ジェネリック薬の使用が増えていることや、入院時に持参薬が持ち
込まれることなども、薬剤のチェックを難しくしています。
全国の医療機関から報告された事故やヒヤリ・ハット事例の分析を行っている
日本医療機能評価機構の医療事故情報等収集事業によれば、平成 26 年度の一
年間に、210 件の薬剤に関わる事故が報告されました。また、薬剤に関わるヒヤリ・
ハット事例は 20 万件以上報告され、その中には、もし実施されていれば「死亡、
または重篤な事態となった可能性のある事例」が 800 件以上ありました。
薬剤の投与の過程には多くの人が関わっており、看護職もその中で大きな役割
を果たしています。事故防止のためには、看護業務の特性をふまえた管理や教育、
組織体制の構築、組織横断的なチームとしての医療安全活動の促進などが求め
られています。1)
本特集では、
「誤薬を防ぐ」
をテーマに、はじめに、臨床
現場で起こりうるいくつかの
事例をもとに、具体的な事
故防止の取り組みについて
解説します。後半には、
ヒュー
マンエラーを起こす人の特
性の理解に基づいた安全対
策の考え方を、組織に求め
られている対 応も含め、多
角的な視点で解説します。
02
看護職賠償責任保険制度News vol.23
特集
よくあるエラーが重大な事故に
−絶対に防ぎたい誤薬− CASE
誤薬を防ぐ
1
口頭指示の
リスク
新人看護師が先輩看護師と膝関節内注入の介助についたとき、医師か
ら「ゲンタシンを注入します」と言われた。医師はゲンタシン注10mgを
指 示したつもりだったが、新 人 看 護 師は6 0 m gと1 0 m g の2種 類があ
ることを知らず、60mgを注射器に用意して医師に手渡した。先輩看護
師が「それ10mg?」とたずねたため、60mgと10mgの2種類がある
ことに気づいた。2)
解説
この事例では、医師が口頭で指示するときに規格を伝えず、新人看護師はその薬剤
に2つの規格があることを知らずに、
「ゲンタシン」
と聞いただけで、自分の知っている
60mgを準備してしまいました。口頭指示では、情報があいまいに伝達され、正しく投
与するために必要な情報も不足しがちです。
また、
口頭指示では、言い間違いや聞き違
いのリスクがあります。医師から
「ハントウ(半筒)」
と指示された看護師が「サントウ(三
筒)」
と認識して薬剤が過量に投与された事故例もあります。
さらに、指示内容の記録
が残らないために記憶違いや、指示を忘れてしまうというリスクもあります。
口頭指示は
できる限り行わない、受けないことが原則です。
ただ、
日常診療の場では、緊急時、夜間、手術・処置中など、医師によるオーダー入
力や指示書への記載ができないときに口頭指示が必要な場合があります。口頭指示
を受けるときは、必ず指示内容をメモしてください。患者氏名、薬品名、用量などの項目
の欄が印字されている院内共通の口頭指示用のメモ用紙 3)を使うことをルールにして
いる病院もあります。
このような専用のメモ用紙を使うことで聞くべき内容を漏れなく聞
き取ることができ、
メモに沿って復唱して確認することができます。
また、
メモは、薬剤準
備時や投与前に、指示内容を確認するツールにもなります。
なお、注射薬の口頭指示では、用量の単位間違いのエラーが少なくありません。
「●
●ミリ」ではなく、
「 ●●ミリグラム」
「 ●●ミリリットル」のように省略しないで伝え合う
ことを習慣にしましょう。
そして、実施後は、看護師は実施内容を記録し、医師は指示内容をできるだけ早く
診療録に記載する必要があります。安全のために、口頭指示は限られた場合にのみ行
い、
口頭指示を行う際のルールを遵守することが重要です。
看護職賠償責任保険制度News vol.23
03