微生物によるアルカリ等前処理無しの 草本系バイオマスの直接高糖化 中部大学 応用生物学研究科 応用生物化学科 教授 倉根 隆一郎 リグノセルロースの 前処理の弊害 酸・アルカリ 粉砕・熱水 コスト増 廃液 表面積の増大、セルロースの露出 酸・アルカリ・水熱処理等過酷な前処理 利点:処理後洗浄すればセルラーゼにより 容易に分解でき、高い分解率 問題点: ①(セルロース・ヘミセルロース由来)糖の 過分解による収率低下 ②糖の過分解に由来するフラン・有機酸の 生成による発酵阻害物質の生成 ③リグニン分解産物による着色廃液の生成 ④リグニン分解産物によるセルラーゼ阻害 および発酵阻害(フェノール類) ⑤(酸・アルカリで)処理後中和することで塩が 形成され、酵素反応および発酵を阻害 粉砕・爆砕等緩和な前処理 利点:上記の問題点が存在しない 問題点: ①分解率が低い ②より多くセルラーゼを添加する必要がある 緩和な前処理である粉砕処理のみでよく働くセルラーゼ(群)の探索を試みた。 処理した小麦わらの粒度は顕微鏡観察で約50μmであった。 左図:総産研プレスリリース http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20080131/pr20080131.htmlの改変 2 従来技術とその最大問題点 非食糧バイオマス(草本系・木質系)からの バイオエタノール・バイオ化成品生産に向 けての現状と問題点:特に脱リグニン工程 の現行のアルカリ等前処理工程を含めた 糖化プロセスに問題点が山積 草本系等バイオマス前処理工程による3大問題点 ① 廃液(黒液)処理必要(可溶性リグニン) 廃液濃縮エネルギー過大、高コスト ② アルコール発酵阻害物質副生 アルコール発酵効率大幅低下 ③ 可溶性リグニンによる糖化酵素吸着 糖化酵素必要量膨大、高コスト 実用化への壁の4大問題点 ①、②、③アルカリ等前処理工程に 起因する3大問題点 ④有効バイオマス成分(へミセルロース) 糖化に関して実用的にも有望なヘミセ ルロース高糖化酵素群無し 対象バイオマス賦存量 • 稲わら – 日本国内 – 全世界 853万トン/年 5.8億トン/年 • 小麦わら – 日本国内 – 全世界 111万トン/年 7.9億トン/年 農林水産省、飼料をめぐる情勢(2012) Reddy and Yang, J Agric.Food Chem (2006) 54, 8077−8081 農林水産省、作物統計調査(2012) Ruiz et al., Appl Biochem Biotechnol (2011) 164:629–641 小麦わらの賦存量は、日本国内では稲わらより少ないが、 世界的には稲わらを上回る! 粉砕小麦わらの糖化率を現時点で最強酵素である Cellic CTec2(Novozymes)と比較した。 本技術の特徴と技術的優位性 ①現行のアルカリ等前処理無しの草本系バイオマス を直接高糖化を可能にした →低コスト化・使用エネルギー小 ②対象バイオマス(粗粉砕のみ)の拡大 稲ワラ+麦ワラ(全世界の廃棄草本系バイオマスの 約8割) →事業拡大(東南アジア及び全世界に適用可) ③へミセルロース画分の高糖化率 →市販最強とされている酵素群を凌駕 →糖化酵素(群)の強化(又は参入) 発明の技術的優位性(前処理不要) 草本系・木質系バイオマス糖化の前に現行法 ではアルカリ(又は酸)前処理による脱リグニン 工程が必要である。 本発明の最大の特徴① (イ)粉砕処理のみのアルカリ等前処理無しの草 本系バイオマスに直接高糖化に成功(黒液非 排出型) (ロ)全世界で廃棄されている草本系バイオマス 量の約8割を占める稲ワラ及び麦ワラに対象 を拡大 1. 2. 発明の技術的優位性 (ヘミセルロース糖化) 本発明の最大の特徴②:草本系バイオマス糖化酵素群の中で、産業界 より最も期待されているヘミセルロース画分の糖化率向上に関するもの である。草本系バイオマスの2大成分(セルロース画分+ヘミセルロース 画分)を高効率に糖化する新規微生物、ペニシリウム属、を見出した。 本菌株の特徴 A) セルロース画分糖化:これまでに報告あるいは入手可能なセルラーゼはア クレモニュウム属が生産するセルラーゼであり、本菌株はこのアクレモニュ ウム・セルラーゼと同等以上のセルラーゼを生産する。 B) ヘミセルロース画分糖化:キシロース糖化率向上に寄与出来得る微生物は 現状では実用化の面で大きな壁にぶち当たっており、産業界より、キシロー ス糖化率向上に寄与出来得る酵素群が切望されていた。本菌株はこの大 きな壁を乗り越え、キシロース糖化率95%以上とこれまで報告例がない糖 化率を示すことを明らかにした。 セルロース糖化とヘミセルロース糖化を同一の微生物の糖化酵素群で可 能にしたことは、実用化の面からも大きなコストダウンに貢献できる。 C) 代替技術との技術優位性 (有効バイオマス画分糖化) 1. 草本系バイオマス成分の中、セルロース画分 については入手可能なアクレモニュウム属の セルラーゼで代替も出来得るが、もうひとつの 成分であるヘミセルロース画分を糖化出来得 る酵素群については、本菌株の生産するキシ ラナ―ゼ群がはるかに優位であることから代 替技術は現状では無いものと考えられる。 2. 単一種微生物でセルロース画分+ヘミセル ロース画分を実用的に糖化する微生物種は 今まで報告が無い。本菌株は両画分を実用 的に高効率糖化可能である。 代替技術との優位性 • ①対象草本系バイオマス源の拡大 – 稲ワラの実施例 – 麦ワラの実施例 • ②必要酵素量の低減化 – 本酵素群は市場最強酵素群である CTec2(ノボザイム)の1/4量で同等以上の 糖化(分解)可能 • ③現行前処理法(酸またはアルカリ) 不要な微生物酵素群直接糖化(分解)法 展望 • 稲わら、小麦わらのどちらも効率的糖化が 可能であったため、組成が近く、バイオエタ ノール原料と考えられている他の草本系バ イオマスも可能性がある。 (例、エリアンサス、ネピアグラスなど) • 稲わらでは本酵素(群)使用量が1/4まで少 なくしても、CTec2よりも高い糖化率を示した。 低酵素量で働くという特徴も分かった。→酵 素添加量の削減に貢献*。 *バイオエタノール生産において、酵素価格が半分以上を占める。 佐賀ら(2012) Journal of Japan Society of Energy and Resources, 34(1) 想定される用途 優位性 ・前処理不要な草本系バイオマスの直接高糖化 ・黒液非排出型 ・ヘミセルロース画分高糖化(市販最強酵素群を凌駕) 用途 ・バイオマス生産用バイオマス糖化(省エネルギー・黒液非排出型) ・バイオ化成品生産用バイオマス糖化(省エネルギー・黒液非排出型) ・糖化酵素(群)への強化又は参入 実用化に向けた課題 (現行) ・ラボレベルでの草本系バイオマス直接高糖化 (黒液非排出型)を確認 (今後の課題) ・バイオエタノール生産(又はバイオ化成品生 産)一貫プロセス(含む排水処理)の構築 企業への期待 • バイオ一貫プロセスの技術を持つ、企業との 共同研究を希望。 • また、バイオエタノールを開発中の企業、糖 化酵素分野への展開を考えている企業には、 本技術の導入が有効と思われる。 配布資料と当日プレゼン資料について 未公開特許情報を基にしてますので発 表当日には、配布資料に載せていない 未公開データ(実験結果等)があります。 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称: 「バイオマス糖化酵素群を有する微生物 およびその利用」 • 出願番号:特願2013-55080 • 出願者:中部大学 • 発明者:倉根隆一郎、他3名 連携の経歴 • H24年度 JST探索タイプ事業に採択 お問い合わせ先 中部大学 コーディネーター 杉山 聰 TEL 0568-51-4852 FAX 0568-51-4859 E-mail [email protected]
© Copyright 2024 ExpyDoc