知ってとくとく鳥獣被害対策:現地調査の基礎 パート2 ∼トレイルカメラで動かぬ証拠をゲット!!∼ 辻井 修(農業総合試験場企画普及部広域指導室) 【平成28年8月15日掲載】 【要約】 トレイルカメラは、野生鳥獣を赤外線センサーで感知して自動撮影する野 生鳥獣観察用カメラである。加害鳥獣種と侵入経路の特定が可能になること から、鳥獣害対策での利用価値が高い。動画を撮影すれば、鳥獣の行動の様 子が手に取るようにわかる。捕獲用のわなの付近で撮影すれば、わな設置場 所の選定や誘導用の餌の配置方法などをより的確なものとすることができる。 現地調査において、感覚に頼らざるを得ない踏査及び痕跡調査の結果に決定 的な裏付けを与えるツールとなる。 1 はじめに トレイルカメラは野生鳥獣を観察するために野外で使用するカメラで、野生 鳥獣を赤外線センサーで感知して自動撮影する(写真1)。トレイル(trail) は痕跡、手掛かりを意味する。鳥獣種を特定する動かぬ証拠が得られるだけで なく野生鳥獣の知られざる行動も明らかになり、感覚に頼らざるを得ない踏査 及び痕跡調査の結果に決定的な裏付けを与えるツールとなる。一定の範囲での 野生獣生息状況を調査する目的でも使用され 1)、糞や足跡による調査とは比べも のにならない高精度な情報が得られる。ここではトレイルカメラの活用方法に ついて、具体例を交えて紹介する。 写真1 トレイルカメラ(左:外観、右:内蔵モニター) 2 基本的な機能 静止画と動画がモード選択でき、データサイズ(3段階程度)、動画の1回当 たり撮影時間、一度作動してから次に作動するまでのインターバルを設定する ことができる。被写界の状況や想定される鳥獣種により、赤外線センサーの感 度も3段階程度で選択することができる。夜間はLEDフラッシュが作動し、 街灯の光が届かない山中での撮影が可能である。電源は汎用の電池で、データ はSDカード等に記録される。データの取り扱いは、通常のデジタルカメラと 同様である。 以前は5∼6万円の価格帯が主流であったが、最近では3万円弱で購入でき る機種も出回っている。鳥獣被害対策に使用する場合、安価な機種でも機能的 には十分である。 3 使い方の基本と注意点 (1)使い方の基本 立木や三脚を使い、撮影ポイントを狙って設 置する(写真2)。センサー感度の設定によって 異なるが、設置地点から 0∼20m程度の範囲で 動くものを感知する。撮影された画像等を内蔵 モニターで確認できるので、設置時はイメージ どおりに撮影されるかどうか、カメラの前を歩 き回って試験し、場所や角度を調整するとよい。 調査期間中は定期的にSDカードを回収し、 パソコンやタブレットの画面で記録された画 像・映像を確認する。 写真2 立木に取り付け山林内を撮影 (2)使用上の注意点 設置に先立って現地調査(踏査、痕跡)を行い、設置場所の見当をつけてお く。自動撮影による誤解を招かないよう、近隣住民にも事前に了解を取ること が望ましい。撮影行為を多くの関係者に周知することは、機材の盗難防止にも 役立つ。防水機能は不十分なので、豪雨が予想される場合は一旦回収する。 動画撮影は電池の消耗が激しくデータサイズも大きいので、電池の取り替え とデータ回収を頻繁に行う。被写界に常時動くものがあると不要な画像が大量 に撮影されるので、草木をあらかじめ刈り取る、交通量の多い公道に向けて設 置しないといった配慮が必要である。また、スイッチの入れ忘れによる失敗が 多いので、確認を習慣づける。 4 具体的な活用方法について (1)鳥獣種と侵入経路を特定する ア 特定のほ場の場合 ほ場内外の痕跡を調べ、侵入が疑われる場所を狙って撮影する(写真3)。動 画モードの方が鳥獣の行動の様子がよくわかる。1週間程度撮影して鳥獣の姿 が捉えられない場合は、角度や設置場所を変える。園芸施設や果樹園では、ほ 場内外から撮影するとよい。 写真3 イチゴ栽培ハウスで食害が見つかり(左) 、付近を撮影したところハクビシンの 侵入を確認(右) イ 集落や大規模な栽培地帯の場合 集落周辺の踏査を行い、被害地点や侵入が疑われる場所を狙って撮影する。 野生獣の行動パターンは季節によって変化するので、最初はある程度の期間(1 ∼2か月)、静止画を撮影するとよい。複数の地点にカメラを同時に設置して場 所による撮影頻度の違いを比較すれば、侵入されやすい場所や方角、地理的要 因との関係を推定することができる。 (2)行動の様子を観察する 動画撮影で観察することで、農作物等に加害する野生獣の行動と生態の一端 を知ることができ、対策の精度向上に役立てることができる。電気さくから1m 以内に近づいた回数など、特定の行動パターンを記録するのも効果的である。 特に興味深い行動が記録された動画には名前をつけ、別のフォルダに保存する とよい。 (3)もうひとつの重要な活用術 ∼わな捕獲での活用∼ 捕獲わな付近で撮影することで、わなの設置場所の選定や餌置きなどの管理 方法をより的確に判断することができ、失敗が少なく効率的な捕獲につながる。 わな捕獲は従事者の経験と勘に頼る部分が大きく、けもの道を推測して場所 を選定し、餌の減り方や足跡などを観察して餌の配置方法や仕掛けの位置など を工夫する。わな捕獲が「野生獣との知恵くらべ」といわれるゆえんで、観察 が的外れだと捕獲実績が上がらないだけでなく、誤って目的外の鳥獣を捕獲し てしまう事例がある。トレイルカメラを活用すれば、勘だけに頼らず捕獲活動 を実施することができる。 わな付近に姿を見せる鳥獣種が特定できるので、ニホンカモシカなどの錯誤 捕獲を未然に防ぐことができる。また、個体数、群(むれ)の構成、体格など に応じ、仕掛けの位置などを決めることができる(写真4)。はこわな付近を動 画撮影すれば、警戒行動や食べ方に応じた餌の置き方を検討することができる。 くくりわな捕獲においては、けもの道の歩き方を動画で観察し、高い確率で四 肢をつく場所を見きわめることができる。 写真4 はこわなの前に現れたイノシシを撮影(奥 の小さい個体だけを先に捕獲してしまわ ないように、手前の大きい個体に合わせて 仕掛けの位置を決める) 5 参考文献 (1) 三宅隆、佐々木彰央.自動撮影カメラを用いた静岡市中山間地の哺乳類の 確認とその有効性について.東海自然誌(静岡県自然史研究報告) 4:15-24(2011) Copyright (C) 2016, Aichi Prefecture. All Rights Reserved. ∼農業に役立つ情報をお届けします!∼ 「ネット農業あいち」(http://www.pref.aichi.jp/nogyo-keiei/nogyo-aichi/index.html)
© Copyright 2024 ExpyDoc