現代社会論(第2回).

現代の貧困
(第2回)
川端 浩平
[email protected]
ワークシートの課題
Q. 授業の内容を踏まえて、なぜ現代日本
社会において貧困問題に対するリアリティ
を実感しにくいのかを答えてください。
1.貧困が見えていた時代
貧困が社会で可視化されていた時代
(高度経済成長期までの日本)
~梶原一騎の作品から見えてくるもの~
『タイガーマスク』(1968-1971)
『週刊マガジン』など
『巨人の星』(1969-1971)
『週刊マガジン』
『あしたのジョー』(1967-73)
『週刊マガジン』
タイガーマスク
巨人の星
あしたのジョー
都市の下層文化
梶原一騎の漫画作品には、山谷(東京都荒川区)
などの「寄せ場」(日雇い労働者の街)、浮浪児、
孤児院、労働者が住む長屋といった貧しい労働者階
級の生活の雰囲気が描かれている。
cf. あいりん地区(大阪市西成区)、寿町(横浜市
中央区)など
「ドヤ」~「ヤド」へ
(日雇い労働者のまちからBackpackerの滞在先へ)
山谷(1960年~61年頃)
山谷(1977年頃)
現在の山谷
「ドヤ」(簡易宿泊所)
「ヤド」
2.「中流」イメージの形成と
不可視化される貧困
「一億総中流社会」

「一億総中流社会」

村上泰亮、『新中間大衆の時代』(中央公論社、1
984):日本版の中間階級論の理論的支柱。197
5年に行われた「社会階層と社会移動全国調査」
(SSM調査)のデータを利用。

OECD「ソーヤー報告」(1976)⇒日本が先進国
の中でもっとも平等な国のひとつであることを報告し
ている。
中流のイメージ
三種の神器(電化製品)
マイカー
マイホーム
「パパは何でも知っている」
(1958~1964)
中流イメージを構成するもの

サラリーマン(終身雇用、年功序列)+専業主婦

マイホーム、マイカー、電化製品(TV、冷蔵庫、
洗濯機など)⇒ローンで購入

中流イメージを支えた未来に対するイメージ
⇒ 労働と消費の調和
⇒
右肩上がりの人生
3.格差社会の到来
「中流」崩壊論と格差社会

佐藤俊樹『不平等社会日本』(中央公論新社、20
00):1995年に行われたSSM調査に基づき、1
970年代以降、つまり高度経済成長が終わってから
は、日本社会では階層が再生産され、「機会の不平
等」が生じていることを論じた。

橘木俊詔『日本の経済格差』(岩波書店、199
8):日本における貧富の差が、他の先進国と比べて
も大きいことを明らかにした。

山田昌弘『希望格差社会』(筑摩書房、200
4):山田は、現代日本社会の格差とは、自分の親の
ステータスによって「希望」が持てる者と持てない者
とのあいだに現れていることを指摘。
格差から貧困へ
 「中流」への帰属のリアリティの消滅と格
差に対する実感と不安
 相対的な概念としての格差
 貧困という問題の再浮上と取り組み
 可視化(社会問題化)される貧困の領域と
不可視化される貧困の領域
地域社会において
可視化/不可視化される貧困
1.様々な地域活性化のプロジェクト
e.g. 再開発、まちづくり
⇒「中流」の不安を解消するための取り組み?
2.可視化されるマイノリティの問題
⇒ホームレス対策
e.g. 年越し派遣村、ホームレス自立支援
4.フィールドワークから
見えてくる貧困
――もう一つのジモト――
前景化する地域イメージ
後景化する地域イメージ
(野宿者の生活の場所)
排除系ベンチ
両義性を考える(対話する)
消費社会による排除
貧困ビジネス
ホームレスをめぐるステレオタイプ
(1)転落人生としてのイメージ
(成功から失敗へ)
(2)サクセス・ストーリー
(失敗から成功へ)
(3)新しい貧困イメージとしてのネットカフェ難民
⇒不安定な雇用(派遣など)の問題として
語られる。それぞれの人びとの背景が顧
みられることはない。
ホームレス

ホームレス(homeless)とは状態を示す
人を示す場合は、homeless people

厚生労働省:「野宿者」=目視=ホームレス

広義な意味でのホームレス(居場所がない)
⇒我々と無関係ではない(対話の重要性)
e.g. 「コンビニにたむろする若者」
「仕事帰りにスナックへ立ち寄る中年男性」
ホームタウンのホームレス
河島君(仮名)の場合
河島君の背景と現在

1975年生まれ、岡山市出身

父親、継母、異母の弟・妹

高校卒業後(土木科)、上京して建設会社勤務

大阪に転勤し、その後転職

ヒモ生活がはじまる

岡山に戻る、仕事を転々とする

2001年からホームレス生活をはじめる

2008年、アパートを借りて一人暮らしを始める

ヒモ生活に戻る
河島君と仕事

古着⇒古着屋

貴金属、鞄など⇒中古ブランド専門店など

鉄屑⇒鉄屑屋

中古CD、漫画、書籍など⇒中古レコード屋、古
本屋など

アルバイト
河島君の収入(1)
河島君の収入(2)
ゲームセンターの人間関係
徳永君の場合
徳永君の背景と現在

1980年生まれ、岡山市出身

市内の児童養護施設で育つ

13人きょうだい(三人の父親)

市内中学校卒業

フリーター

母親とは絶縁関係

2006年から路上生活、空ビル生活

野宿者自立支援のボランティア

飲食店でのアルバイト(居候生活)

河川敷での生活
河川敷での集団生活
尾崎君の場合

1980年生まれ、福岡県飯塚市出身

5人兄弟の次男、異母の姉と兄、姉と妹

両親は生活保護で生活

「放任主義」⇒「親は親であって親でない」

12歳でパチンコ屋で出会った女性(15歳年上)とのあい
だに子どもが生まれる。3人の子ども。

12歳~15歳(新聞配達)、15歳~16歳(型枠解体
工)、16歳~18歳(うどん屋)、その後、派遣社員、カ
ラオケ屋、パチンコ屋、ごみ収集運転手、ヤクザ

パートナーが交際していた男性に対する傷害事件で逮捕、1
年半の服役
「溜め」

金銭、人間関係、精神などの有形・無形さまざま
の「溜め」は、外界からの衝撃を吸収してくれる
クッションの役割を果たすとともに、エネルギー
を汲みだす力となる。
*湯浅誠(2008)『反貧困』