46　D─各　論 □□ 36　68 歳の男性。昨日，咽頭痛のため耳鼻咽喉科を受診し，右扁桃周囲膿瘍と診断されて治療が開始された。今朝，突然の胸痛と呼吸困難とが出現したため搬入された。体温 39.4℃。脈拍 116/分，整。右扁桃周囲は発赤が強く，白色膿が付着している。白血球 15,000。CRP 15.2 mg/dl。胸部エックス線写真（別冊 No. ★ A）と胸部単純 CT（別冊 No. ★ B）とを別に示す。まず行うべき処置はどれか。ａ　縦隔鏡検査ｂ　肺動脈造影ｃ　冠動脈造影ｄ　気管支鏡検査ｅ　超音波内視鏡検査アプローチ扁桃周囲膿瘍は危険な感染症であり，本問のような合併症を起こすことがある。画像診断胸部エックス線写真では上縦隔影の拡大および右側の胸水貯留が認められる。胸部単純 CT では右側の胸水貯留および心嚢液の貯留が認められる。 B A 上縦隔影の拡大胸水貯留胸水心囊液の貯留鑑別診断発熱，それに伴う頻脈，白血球増加，CRP 上昇から急性の細菌感染症を考える。扁桃周囲膿瘍の病歴を考え合わせ，画像所見を冷静に検討すれば，急性縦隔炎を考えることは容易である。確定診断扁桃周囲膿瘍，急性縦隔炎選択肢考察 ○ａ　縦隔炎を発症しているため，縦隔ドレナージを考慮する必要がある。 ×ｂ　肺血栓塞栓症は考えられない。 ×ｃ　心疾患は否定的である。 ×ｄ　縦隔炎の診断や治療に，気管支鏡は有用ではない。 ×ｅ　食道癌の深達度診断などに有用であるが，本例では有用性は期待できない。 D─各　論　47 参考＆正解＜正解＞ａ bedside memo 急性縦隔炎の原因の多くは縦隔臓器の穿孔であるが，咽頭炎，口蓋扁桃炎，舌炎，口蓋垂炎，耳下腺炎，Ludwig angina および歯槽膿漏などの頭頸部の炎症に続発することがある。頭頸部領域の膿瘍が頸部の retropharyngeal space，pretracheal space，perivascular space などを通り縦隔へ波及し，急性縦隔炎を発症する。まれな疾患ではあるが，死に至ることも多く注意が必要である。自覚症状として突然の呼吸困難，呼吸不全および嚥下困難が特徴である。臨床マニュアル縦隔炎は早期診断・治療を行わないと致命的となる。治療は抗菌薬投与および外科的処置の併用である。特に縦隔ドレナージの挿入時期を逸してはならない。