平成 27 年度 県立高等学校教育課程課題研究(情報研究班)B班 情報技術の進展と情報モラルにおける思考力・判断力・表 現力の指導方法と評価についての研究 -「安心して使える魅力あるスマホ」のポスター作成授業を通して- 1 単元や課題の設定理由・ねらい 情報技術が進展し,スマートフォンや携帯情報端末が生徒に普及する中,SNSの利用 に伴う人間関係のトラブルや犯罪被害,長時間利用による健康問題,情報漏えいなどさま ざまな問題が取り上げられることが多い。 そこで,これまでに学んだ情報モラル等の知識を生かし,将来登場する新しい技術やサ ービスに対して,主体的に考え,適切に活用することができるよう, 「安心して使える魅力 あるスマホ」を考案するパフォーマンス課題を用いた授業を行った。 2 研究内容 (1)目標 情報社会の中で新たな情報技術やサービスに対して,主体的に考え適切に活用するこ とができる。 (2)学習活動に即した評価規準(思考・判断・表現の観点のみ) ア 現在のスマートフォンで利用されている機能やサービスについてのメリット・デメ リットを考察し,判断することができる(個人学習)。 イ 「安心して使える魅力あるスマホ」を考え,ポスターにより説明することができる (協働学習)。 (3)パフォーマンス課題及びその概要 「中学生が新しくスマホを持つことになりました 。携帯電話会社の社員であるあなた は『安心して使える魅力あるスマホ』として,新しい機能やアプリ,サービス等を考え, 多くの人たちに利用してもらわなければなりません。中学生が使いたくなるような スマ ートフォンを紹介する ポスターを作成してください。」というパフォーマンス課題を提 示して以下の手順で取り組む。 ア 現在のスマートフォンの機能やサービス(SNS等)におけるメリット・デメリ ットを個々で考えさせる。 イ 数人のグループを構成し,個々で考えたメリットやデメリットを発表させた上で, 新しい機能やよりよいサービスについて話し合わせ,ポスターを作成させる。 ウ 作成したポスターを提示し,どのポスターが最も条件を満たしているか相互評価 させる。 15 (4)ルーブリック 観点 達成度 A (十分満足できる状況 ) B (望まれる全員に到達し てほしい状況) C (努力を要する状況) ア 現在のスマートフォンで利用されている機能 やサービスについてのメリット・デメリットを考 察し,判断することができる(個人学習)。 複数の立場・観点からメリット・デメリットをあ げ判断することができている。 メリット・デメリットを 適切に判断し,プリント に記入することができている。 プリントに空欄が多くあり ,メリット・デメリッ トの判断ができていない。 (5)指導の流れ 時 学習活動 限 ○ 中学生向け新スマートフォンの 指導上の留意点 企画 ・現在のスマートフォンの機能やサー ビスのメリットやデメリットを考 える。 ・課題の内容と取り組みの流れを説明す る。 ・メリットやデメリットは,はじめに個人 で考えさせ,後にグループでまとめさせ る。 1 ・健康・人権・安全などの観点や,本人・ 保護者・学校などの立場を考慮するよう 促す。 ・ 「中学生が安心して使える,魅力ある ・デメリットとして挙げた機能を省くだけ スマホ」の機能を考えポスターを作 では, 「魅力あるスマホ」にならないこと 成する。 を説明する。 ○ 中学生向け新スマートフォンの 評価 ・他グループのポスターを見て,良い ・それぞれの機能やサービスについて,さ 点・改善点について相互評価する。 まざまな観点や立場から見たときに,偏 りがないかを確認させる。 ・改善点については,理由と改善方法につ 2 いても考えさせる。 ○ まとめ ・各自のスマートフォンの使い方につ いて改めて考える。 ・スマートフォンに限らず,新しい技術や サービスを利用する際は,さまざまな観 点や立場からメリットやデメリットを 考えて活用していくよう促す。 16 平成 27 年度 県立高等学校教育課程課題研究(情報研究班)B班 (6)評価の進め方(評価方法) ア プリント(個人学習) 主に1時限目に作成する,現在のスマートフォンのメリット・デメリットを考える プリントにおいて, 「B(望まれる全員に到達してほしい状況)」を基準に評価を行う。 イ ポスター(協働学習) 主に1時限目の後半にグループごとで作成するポスターにおいて行う。特に,デメ リットとなる機能を安易に削除するのではなく,メリットとなるような工夫をし,魅 力を感じさせるものとなっているか,また,健康・人権・安全の観点から表現できて いるかという点を基準として,評価を行う。 3 授業の状況 (1)今回の課題で指導するにあたって留意したこととその理由 スマートフォンを使用する上で,デメリットと感じられることの多くは,機能そのも のではなく,活用の仕方によるものである。そのことを気付かせるため,デメリットと して挙げた部分を排除するだけでは中学生にとって魅力あるスマホにならないことを 強調した。また,利用の仕方を工夫することで上手にメリットとして活用できることを 意識させた。 今後の技術の進展による変化に対応していくために,新しい技術やサービスに対して はメリットやデメリットを自ら考察して利用していくことが大切であると指導した。 17 (2)授業実践後に協議して設定した評価基準と,それぞれの基準の典型的な作品例 観点 達成度 スマホ機能やサ ービスについて のメリット・デ メリットを思考 し判断すること ができる。 生徒の作品例 全ての立場・観 点からのメリッ ト・デメリット をあげ,適切な 判断をすること ができている。 A (十分満足 できる状 況) それぞれの立 場・観点につい て,概ねメリッ ト・デメリット の記入ができて いる。 B (望まれる 全員に到達 してほしい 状況) 18 平成 27 年度 県立高等学校教育課程課題研究(情報研究班)B班 (作品例省略) C (努力を要 する状況) プリントに空欄 が多くあり,メ リット・デメリ ットの判断がで きていない。 (3)「C(努力を要する状況)」と評価した生徒への指導の手だて 立場や観点を限定させてメリット・デメリットを考えさせる。また,他者の意見を参 考にして共感できるものを挙げてまとめさせる。 4 まとめ及び考察 (1)実習課題について(生徒の取組状況も含めて) 個別にメリット・デメリットを考えさせる 時点ではあまり積極的でなかった生徒が, グループ活動の話し合いでは素直に意見を発言できていた。また,ポスター作成におい てもグループ活動にすることで積極的に意見交換を行い,作成をしていた。ただし,話 し合いの時間を長くとりすぎると,全体のまとまりがなくなるため,時間配分を適切に 設定することが必要である。 (2)評価について 生徒の記述の中には,健康・人権・安全の三つの観点では区分できないものもあり, 評価することが難しいものがあった。また,観点・立場の欄に○がついていない場合や, ○がついていてもその判断が適切でない場合もあり,評価基準が曖昧になってしまった。 評価基準を明確にするためにも,観点を先に指定した状態で生徒に記述させるべきであ った。 (3)授業実践の改善に向けて ポスター作成の場面では,実現可能かどうかにはこだわらず自由な発想でスマートフ ォンの新しい機能やサービスを書いたグループもあり,評価の判断が難しかった。この 授業実践の目標や評価規準を生徒に確認しながら進めていく必要がある。 また,スマートフォンを持っていない生徒に対応できるような計画をする必要があっ た。最初の個人学習のみで評価するのではなく,個人での学習の後,グループによる協 働学習,そして再び個人単位での学習という段階別の学習計画をすることで,個人の置 かれている環境(スマートフォンの所有状況や各家庭における利用制限など)に偏らな い評価につなげていきたい。 (4)その他 今回の実践授業では,ポスターの評価基準についての十分な検討ができなかった。ポ スターのキャッチコピー作成については生徒の反応がよかったので,さまざまな企業の キャッチコピーの紹介などを加え,表現への取り組みを活性化させることで,評価につ なげていきたい。 19
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