第 288 回数学検定 (2016.07.24 実施) 1 級 1 次:計算技能検定 解答例 ※ 本解答例は、概ね次のような構成になっています。 • 問題 問題文です。日本数学検定協会実施の、頭記の検定問題より引用させていただきました。 • ズルい解答 「数学的には」よくないけれど、時間を節約するためならなりふり構ってられない、という 解き方があれば、書きます。 • 普通の解答 数学的にまともで、また時間的に現実的な解き方です。ただし、若干省略して書いている場 合があります。本解答例のメインの部分です。 •(補足) • コメント 1. 問題 x + y + z = p, xy + yz + zx = q, xyz = r とおきます。このとき x4 + y 4 + z 4 − 2x2 y 2 − 2y 2 z 2 − 2z 2 x2 を p, q, r の展開した多項式で表しなさい。 ズルい解答 ズルを考えるより、後回しないし捨て問にする決断が肝要でしょう。 普通の解答 まず 2 次式 x2 + y 2 + z 2 について考察してみることから始めてみる。 (x + y + z)2 = x2 + y 2 + z 2 + 2xy + 2yz + 2zx より、x2 + y 2 + z 2 = p2 − 2q . これを参考に、 x2 y 2 + y 2 z 2 + z 2 x2 = (xy + yz + zx)2 − 2(xy 2 z + xyz 2 + x2 yz) = q 2 − 2pr x4 + y 4 + z 4 = (x2 + y 2 + z 2 )2 − 2(x2 y 2 + y 2 z 2 + z 2 x2 ) (与式)= (x2 + y 2 + z 2 )2 − 4(x2 y 2 + y 2 z 2 + z 2 x2 ) = (p2 − 2q)2 − 4(q 2 − 2pr) = p4 − 4p2 q + 8pr …(答) コメント 1 問目から、少々きつい計算問題でした。(x + y + z)4 をゴリゴリまともに計算すれば解けます が、それでは計算ミスのリスクが高く、苦労したのに点がもらえないという残念な結果になること を覚悟しなければなりません。 後回しにして一度冷静になるのが、賢明な選択だったのではないかと思います。 2. 問題 数列 {an } を a1 = 0, a2 = 1, an+2 = (n + 1)(an+1 + an ) (n = 1, 2, 3, · · · ) によって定めるとき、次の問いに答えなさい。 ⃝ 1 bn = an+1 − (n + 1)an で定められる数列 {bn } の第 n 項を求めなさい。 an ⃝ 2 極限値 lim を求めなさい。 n→∞ n! ズルい解答 数列の問題は、最初の数項を計算してみると答えがわかるかもしれません。 普通の解答 ⃝ 1 b1 , b2 , b3 あたりを計算して一般項を推定するのが普通の解き方だが、 ここでは {bn } について以下の検討をしてみる: bn+1 + bn = an+2 − (n + 2)an+1 + an+1 − (n + 1)an = an+2 − (n + 1)(an+1 + an ) = 0 したがって bn+1 = −bn であり、また b1 = 1 なので bn = (−1)n−1 …(答) ⃝ 2 (−1)n−1 = an+1 − (n + 1)an より両辺を (n + 1)! で割ると an (−1)n−1 an+1 − = であるので、 (n + 1)! n! (n + 1)! ∑ (−1)k ∑ (−1)k an a1 ∑ (−1)k+1 = + =0+ = n! 1! (k + 1)! k! k! lim n→∞ an = n! n−1 n n k=1 k=2 k=0 ∞ ∑ (−1)k k=0 k! = e−1 (答) 1/e (補足) 一部ミスプリに見える部分がありますが、ミスプリではありません…。ご了承ください。 コメント この問題も、上記の変形に気づくまでに若干時間を要するように思います。いろいろ考えて時間 を浪費してしまうよりは、いったん後回しにして次の問題に取り組むのがよいのではないでしょ うか。 3. 問題 次の行列の固有値をすべて求めなさい。ただし、i は虚数単位を表します。 1 −i −i i i 1 i −i 1 ズルい解答 ズルをする必要はありませんが、問題の行列がエルミートであることは留意しておきたいところ です。 普通の解答 普通に固有多項式を計算していく。 1 − λ i i −i 1−λ i = (1 − λ)3 − i + i − 3(1 − λ) = (1 − λ)[(1 − λ)2 − 3] −i −i 1 − λ √ したがって固有値は、λ = 1, 1 ± 3 …(答) コメント 基本の問題であり、さすがにこれは正解しないと合格はおぼつかないでしょう。 4. 問題 次の行列の逆行列を求めなさい。 1 2 2 0 3 1 −2 1 −2 ズルい解答 普通に解けばよいので、ズル無用ですね。 普通の解答 掃き出し法で計算していく。 1 0 2 3 2 1 1 → 0 0 1 → 0 0 (答) −2 1 −2 0 3 1 0 1 0 −7 6 −4 1 0 0 1 0 0 0 0 1 −2 1 0 0 1 0 −2 5 −2 1 0 → 0 1 2 2 −2 0 1 0 3 5 −2 1 0 0 1 0 0 2 −2 0 1 → 0 1 0 −1 4 1 −3 0 0 1 −2 2 −1 1 0 0 −2 0 1 −2 1 0 −7 −2 6 6 2 −5 −4 −1 3 6 −5 3 コメント この問題も特にひねりはなく、問題なく解けるはずです。合格のためには取りこぼしたくないと ころです。 5. 問題 平均 m, 標準偏差 σ の正規分布に従う確率密度関数は (x−m)2 1 f (x) = √ e− 2σ2 (e は自然対数の底) 2πσ で表されます。これを用いて、次の定積分の近似値を求め、答えは小数第 3 位を四捨五入し、小数 第 2 位まで答えなさい。解答の際には○○ページにある正規分布表の値を用いなさい。 ※正規分布表は紙面の都合で省略させていただきます*1 。 検定冊子末尾には、小数第 5 位までの値の表がありました。 ⃝ 1 ⃝ 2 ∫ 7.63 6.59 +∞ ∫ 52 2 (x−7) − 1 2·( 1 )2 2 √ e 1 2 2π (x−50)2 1 √ e− 200 10 2π ズルい解答 ズルを考える必要はないでしょう。 普通の解答 ⃝ 1 被積分関数は m = 7, σ = 1/2 の正規分布の確率密度関数なので、 問題の定積分は正規分布の −0.82σ ∼ +1.26σ の範囲の値となり、 0.29389 + 0.39617 ∼ 0.69 …(答) ⃝ 2 被積分関数は m = 50, σ = 10 の正規分布の確率密度関数なので、 問題の定積分は正規分布の +0.20σ ∼ +∞ の範囲の値となり、 0.5 − 0.07926 ∼ 0.42 …(答) コメント 正規分布の基礎の問題であり、特にひっかけもありません。今では高校の数学 B でも習う内容 ですね。 *1 表が必要な方は、ネットで適宜ご覧ください。 http://www.koka.ac.jp/morigiwa/sjs/standard normal distribution.htm など 6. ∂3f 問題 2 変数関数 f (x, y) = (1 − y )Arctan (x + y) について、偏微分係数 ∂x2 ∂y π π 値を求めなさい。ただし、− < Arctan x < とします。 2 2 2 ( 1 1 , 2 2 ) の ズルい解答 ズルを考えるくらいなら、後回しにしたほうがいいと思います。 普通の解答 (Arctan x)′ = 1 より、 1 + x2 1 ∂f (x, y) = (1 − y 2 ) ∂x (x + y)2 + 1 ∂2f −2(x + y) (x, y) = (1 − y 2 ) 2 ∂x ((x + y)2 + 1)2 ∂3f −2(x + y) −2 8(x + y)2 2 2 (x, y) = (−2y) + (1 − y ) + (1 − y ) ∂x2 ∂y ((x + y)2 + 1)2 ((x + y)2 + 1)2 ((x + y)2 + 1)3 ( ) ( ) ( ) 3 1 1 −2 1 −2 1 8 ∂ f , = (−1) 2 + 1− + 1− 2 2 2 2 2 ∂x ∂y 2 2 (1 + 1) 4 (1 + 1) 4 (1 + 1)3 1 3 3 7 = − + = …(答) 2 8 4 8 コメント 計算自体は単純なのですが分量が多く、限られた時間で正確に解くという意味では少々難しかっ たかもしれません。 7. 問題 次の連立微分方程式の解 y = y(x), z = z(x) を求めなさい。 dy = y + 2z + 1 dx dz = 2y + z + 3 dx y(0) = z(0) = 1 3 ズルい解答 ズルは考えても正解は難しそうです。 普通の解答 第 1 式と第 2 式を辺々足し算すると dy dz + = 3y + 3z + 4 dx dx ( ) ( ) d 4 4 y+z+ =3 y+z+ dx 3 3 初期条件を考慮すると、y + z = 2e3x − 4 . 3 次に第 1 式と第 2 式を辺々引き算して同様に計算すると、y − z = 2e−x − 2 . これより、 y = e3x + e−x − 5 1 , z = e3x − e−x + 3 3 コメント 単純な辺々足し引きで処理できるので、連立微分方程式とはいえ若干解きやすい方ですが、定数 項があるため少々計算に気を使う必要があったかと思います。 今回の難易度ですが、全般的には標準∼やや難かと感じます。ただ 1 問目 2 問目でハードな問題 が続いたため、こちらで時間を使いすぎることでより合格率が下がるということを懸念します。
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