3 次元 CG を使用した歩行空間のバリアフリー照明デザインに関する研究

3 次元 CG を使用した歩行空間のバリアフリー照明デザインに関する研究
日大生産工(院)
日大生産工
小糸工業(株)
1.はじめ
○飯田 篤弘
山家 哲雄・大谷 義彦
藤田 淳一・小平 恭宏・松本 泰幸
えたりと、様々な障害を引き起こすと言われ
近年、高齢者人口の占める割合は、世界規
ている。我々は加齢に伴い、視覚機能の低下、
模で年々増加傾向にある。我が国においても
または視覚障害が生じてくると言われ、それ
例外ではなく、2015年には4人に1人が
らの主な症状としては、
高齢者と言う、未だどの国も経験したことの
ない超高齢社会の到来が現実の問題として認
識され始めた。同時に、1990年代頃から
バリアフリーの概念が、我々の生活のいろい
ろな場に深く浸透し始め、バリアフリーの対
策が施されてきている。
・視力の低下
・まぶしさ(グレア)への過敏反応
・輝度差識別能力の低下
・暗順応の適応能力の低下
・色差弁別能力の低下
などが挙げられる。
本研究では、健常高齢者の方々が夜間の歩
これら高齢者特有の視覚機能低下、または
行空間を安全に、そして安心して歩くことが
視覚機能障害は、水晶体、瞳孔、神経系・大
できるように、
「歩行空間におけるバリアフリ
脳皮質などの加齢変化が、主な原因と言われ
ー照明デザインのあり方」を、3次元CGを
(4)
ている。
(1)∼(3)
使用して、解析・検討を行った。
3.道路(歩行空間)の照明
2.高齢者の視覚機能
高齢者の視覚機能障害には様々な障害ある
が、高齢者にとって最もかかりやすい視覚障
21世紀を迎えた現代では、社会情勢の変
化などに伴い、人々の夜間の活動が盛んにな
ってきた。
害として白内障が挙げられる。白内障とは、
道路の歩行空間のような屋外照明における
加齢と共に水晶体内のたんぱく質が増え、長
最も基本的な要件は、
「安全性」であるが、住
年の間に紫外線によって徐々にアミノ酸に分
宅地区では、
「快適性」という点も考慮されな
解され、黄色い色素へ変化することによって、
くてはならない。また、都市環境作り、生活
本来、透明であるべき水晶体が、白濁、黄変
街路を特徴づけるための「象徴性」という面
していく症状である。濁りの部位により、い
においても重視することが望まれ、次の3つ
ろいろな程度があり、視力の低下や、光がま
が重要である。
ぶしく感じたり、光が強いところでは見えづ
らく、かえって薄暗いところの方が見えやす
かったり、目のかすみ、物が二重、三重に見
(a)安全性・・・明視機能
(b)快適性・・・景観、情緒づくり
(c)象徴性・・・イメージづくり
Reseach on the Ideal Method of Barrier-free Lighting Design in the Sidewalk,
which used 3D-CG
Atsuhiro IIDA,Tetsuo YAMAYA,Yoshihiko OHTANI,
Junichi FUJITA,Yasuhiro KODAIR andYasuyuki MATSUMOTO
よって照明設計をするにあたり、歩行行為す
Ⅳ
るに対し安全な明るさ、防犯のための明るさ、
Ⅲ
周囲環境とのデザイン面の調和、余分な光を作
Ⅱ
らず夜らしさを演出、さらには自然色をよく表
現できる演色性、光源が直接視野に入るグレア
を防止することに留意する必要がある。
またこれらが十分に発揮されるように、歩行
I
A
B
者の動線を重視し、良好な誘導性が得られるよ
う、他の施設との調和を重視して配置を考えな
図2 障害物モデルとその配置
ければならない。
4.シミュレーション概要
歩行空間におけるバリ
アフリー照明デザインの
あり方を解析・検討する
ために、図1に示すよう
な街路モデルを、3次元
CGにより作成した。街
路モデルの作成には、ラ
図3 全方向拡散型配光タイプ
ジオシティ法とレイトレ
ーシング法を併用し、リ
図1 街路モデル
アスティックな歩行空間
を生成した。同モデルは、全長100m、幅員
が3mの歩道に、ポール照明器具を片側配列
(取り付け間隔20m)により設けてある。
歩道上の障害物として、一辺が15cmであ
る立方体を、図2に示すように各照明器具の距
離ごとに、12(3個×4列)個ずつ配置した。
観測点は、歩道中央部上の1.5mの位置(身
図4 下方主体型配光タイプ
長1.6m、健常高齢者の視点位置を想定)と
し、障害物とその周辺背景(歩道の路面)との
輝度対比を、照明器具ごとに測定(画像解析)
した。ポール照明器具の配光タイプは、わが国
の道路照明用器具配光として、一般的に使用さ
れている「全方向拡散型配光」と「下方主体型
配光」
、そして、我々が提案する「下方両サイ
ド型配光」の合計3タイプである。
図3に全方向拡散型配光タイプのポール照
明器具(高さ:4.7m、アウトリーチなし、
図5 下方両サイド型配光タイプ
C
1
0.8
0.8
CG輝度対比
CG輝度対比
1
0.6
0.4
0.2
0.6
0.4
0.2
C
B
0
Ⅳ
Ⅲ
Ⅱ
C
B
0
Ⅳ
A
Ⅲ
Ⅰ
(a)観測視距離5m
Ⅱ
A
Ⅰ
(b)観測視距離20m
1
1
0.8
0.8
CG輝度対比
CG輝度対比
図6 障害物の視認特性(全方向拡散型配光タイプ)
0.6
0.4
0.2
0.6
0.4
0.2
C
B
0
Ⅳ
Ⅲ
Ⅱ
C
B
0
Ⅳ
A
Ⅲ
Ⅰ
Ⅱ
A
Ⅰ
1
1
0.8
0.8
CG輝度対比
CG輝度対比
(a)観測視距離5m
(b)観測視距離20m
図7 障害物の視認特性(下方主体型配光タイプ)
0.6
0.4
0.2
C
B
0
Ⅳ
Ⅲ
Ⅱ
A
0.6
0.4
0.2
C
B
0
Ⅳ
Ⅲ
Ⅰ
Ⅱ
A
Ⅰ
(a)観測視距離5m
(b)観測視距離20m
図8 障害物の視認特性(下方両サイド型配光タイプ)
全光束:12700lm)を配置した歩行空間
5.シミュレーション結果
の照明モデル例を、図4に下方主体型配光タイ
観測点と障害物との観測視距離を、それぞれ
プのポール照明器具(高さ:4.7m、アウト
5m、20mとした場合の各配光タイプにおけ
リーチ0.9m、全光束:12700lm)を
る障害物とその周辺背景(歩道の路面)との輝
配置した歩行空間の照明モデル例を、図5に下
度対比による視認特性を、以下に示す。
方両サイド型配光タイプのポール照明器具(高
図6は、全方向拡散型配光タイプのポール照
さ:3.8m、アウトリーチ0.5m、全光束:
明器具を配置した場合、図7は下方主体型配光
13000lm)を配置した歩行空間の照明モデ
タイプのポール照明器具を配置した場合、図8
ル例をそれぞれ示す。
は下方両サイド型配光タイプのポール照明器
具を配置した場合の障害物の視認特性である。
照明デザインのあり方」としては、下方両サイ
図6に示す全方向拡散型配光タイプは、我が
ド型配光タイプのような、障害物とその周囲背
国でもよく見かける道路照明器具の代表格だ
景との輝度対比をより一層強調する照明器具
が、全方向を照明するため、空間の把握が容易
の配光特性、および照明手法が必要であること
になるメリットはあるが、上方光束比が高く、
が分かった。また高齢者はグレア(まぶしさ)
光害、まぶしさなどの要因となる。
にも過敏に反応するので、歩行空間におけるバ
観測視距離5m時の特性では、列位置Ⅲにお
いては輝度対比が少しあるものの、ほとんどの
障害物において輝度対比があまりない。観測視
距離20m時においても、障害物とその周囲背
リアフリー照明デザインとしては、以下のよう
な照明手法が最善であると考える。
(a)十分な鉛直面照度を確保する
(b)グレアを発生させない
景(歩道の路面)の輝度対比はあまりなく、ほ
とんど見ることができず、列位置Ⅱにおいては
輝度対比がなく、全く見ることができないこと
が分かった。
図7に示す下方主体型配光タイプもわが国
でよく見かる道路照明器具であり、路面を効率
よく照明することができる反面、空間把握が全
方向拡散型配光タイプに比べやや困難である。
観測視距離5m時の特性では、列位置Ⅱ以外は
全方向拡散型配光タイプと比べて輝度対比が
出ているのが分かる。また照明器具の側方(位
置A)にある障害物においての輝度対比がやや
低くなった。観測視距離20m時には、その傾
向がより顕著になって現れた。
図8に示す下方両サイド型配光タイプは、下
方主体型配光タイプの配光を歩道空間の両サ
イドに広げ、かつ上方配光もカットし、グレア
を軽減した照明手法である。観測視距離5m時
より、前述の下方主体型配光タイプと比べて、
列位置Ⅱの障害物の輝度対比が大きくなって
いることが分かる。また、観測視距離20m時
も同じ傾向が得られた。
6.まとめ
以上のように、3 次元CGを用いて、道路照
明器具の各配光タイプにおける障害物とその
周辺背景(歩道の路面)との輝度対比による視
認特性解析した。
その結果、
「歩行空間におけるバリアフリー
特に(a)項は、鉛直面照度によって障害物
そのものを照明し、障害物輝度を高めることに
より、その周辺背景(歩道の路面)との輝度対
比を大きくする。今回は、ポール照明器具の配
光特性を効果的に制御し、鉛直面照度が効率よ
く得られるようにすることによって、障害物の
鉛直面照度を高め、輝度対比を確保したが、他
の方法として、足下への補助照明を併用するこ
とによっても得られるものと考えられる。
(b)項については、高齢者の視覚機能の大
きな妨げとなるので、照明器具からの光が、歩
行者の目に入らないような十分な考慮が必要
である。
<参考文献>
(1)飯田篤弘・山家哲雄・藤田淳一・小平恭宏:
「バリアフリー照明に関する基礎的研究」,
第28回照明学会東京支部大会講演論文,
(社)照明学会,p.11(2002)
(2)飯田篤弘・山家哲雄・大谷義彦・藤田淳一・
小平恭宏:
「歩行空間のバリアフリー照明に
関する基礎的研究」
,第36回照明学会全国
大会講演論文集,(社)照明学会,p.162
(2003)
(3)飯田篤弘・山家哲雄・大谷義彦・藤田淳一・
小平恭宏:
「歩行空間におけるバリアフリー
照明に関する基礎的研究−三次元CGを使
用した補助照明についての検討−」
,第37
回照明学会全国大会講演論文集,
(社)照明
学会,p.107(2004)
(4)岡嶋克典・氏家弘裕・岩田三千子・岩井 彌
共著:技術セミナー資料「高齢者の照明を考
える―視覚特性の年齢効果と高齢者に適し
た照明環境―」,
(社)照明学会東京支部,
pp.1
∼33(2000)