インフルエンザウイルスの転写機構を視る

インフルエンザウイルスの
転写機構を視る
野田 岳志
京都大学ウイルス研究所 ウイルス微細構造研究領域
JSTさきがけ
160716
京都大学ウイルス研究所
下鴨神社
京都御所
大
二条城
平安神宮
繁華街
祇園
鴨川
京都駅
清水寺
「視る研究」
見る…なんとなく見る。
観る…見物する、観賞する。
視る…考えながら注意深く見る。
「視る研究」
見る…なんとなく見る。
観る…見物する、観賞する。
視る…考えながら注意深く見る。
さまざまな顕微鏡を使った研究
当研究室の顕微鏡
クライオ電子顕微鏡
透過型電子顕微鏡
蛍光顕微鏡
原子間力顕微鏡
なぜ、さまざまな顕微鏡が必要なのか?
視るウイルス研究の究極の目標
1. 細胞の中で(その場で)
2. 原子レベルで
(非常に高い分解能で)
3. 構造・変化・動き
(生きている状態で)
を視覚的に明らかにして、
ウイルスの増殖機構を理解する。
これらを満たす究極の顕微鏡は存在しない
なぜ、さまざまな顕微鏡が必要なのか?
それぞれの特徴・長所がある。
これらを組み合わせて使う必要がある。
動
原子間力
顕微鏡
動
き
・
変
化
NMR
X線
in vitro 結晶
静
高
蛍光顕微鏡
in situ
その場
電顕
分解能
低
蛍光顕微鏡
○見たいものが見える
○その場で見られる
○動きも見られる
▲そのものの構造は見えない
▲分解能が高くない
▲見たいもの以外は見えない
(高速)原子間力顕微鏡
○比較的高い分解能
○動きも見られる
▲その場では見えない
▲小さいものしか見られない
▲何を見てるか断言できない
(クライオ)電子顕微鏡
○比較的高い分解能
○画像解析で高分解能
○その場で見ることも可能
△固定・脱水・染色等の処理
▲動き・変化は見られない
▲何を見てるか断言できない
「視る研究」
特徴を理解して使えば、
顕微鏡法はパワフルな研究ツール!
1. 百聞は一見に如かず
間接的な証拠を集めるより、1枚の写真で証明。
2. 代替法がない。
見ないとどうしてもわからないこともある。
見て初めてわかることもある
百聞は一見に如かずの例:
インフルエンザウイルスのゲノムパッケージング機構
インフルエンザウイルスの遺伝子RNA
1
2
3
4
5
6
7
8
PB2
PB1/PB1-F2
PA
HA
NP
NA
M1/M2
NS1/NS2
各遺伝子分節から様々なタンパク質が作られる
遺伝子RNA-タンパク質複合体 (RNP)
12nm
PB1
PB2
PA
50120nm
NP
vRNA
1
2
3 4 5 6 7 8
インフルエンザウイルスの増殖環
インフルエンザウイルスの増殖環
インフルエンザウイルスの増殖環
インフルエンザウイルスの増殖環
インフルエンザウイルスの増殖環
感染性を持つ完全な
ウイルス粒子を形成
するためには…
8種類のRNA分節を
ウイルス粒子内に取
り込む必要がある
8種類のRNA分節を個々のウイルス粒子が
もれなく取り込むのはとても難しい
1
2
3
4
5
6
7
8
8種類のRNA分節を個々のウイルス粒子が
もれなく取り込むのはとても難しい
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7
8
感染細胞内でゲノムが複製
1
2
1
2
3
4
5
6
7
8
1
2
3
4
5
6
7
8
感染細胞
2
4
1 6
7
2
7 3
1 8 7 6
5 4
1 5
2
2
8 1
5
4 3 6 78
4
8 5 3
6
3
1 234
5 6 78
袋から8種類を
選びとる
感染細胞
2
4
1 6
7
2
7 3
1 8 7 6
5 4
1 5
2
2
8 1
5
4 3 6 78
4
8 5 3
6
3
ランダム説
数も種類もバラバラに
取り込まれる。
たまたま8種類を取り
込んだウイルスのみ
感染性を持つ。あるい
は、複数の不完全なウ
イルスが1つの細胞に
感染する。
Noda & Kawaoka
PNAS 2012
選択仮説
8種類8本が選択的に
取り込まれる。
ウイルス粒子はすべ
て感染性を持つ。
Noda & Kawaoka
PNAS 2012
50年以上もの謎
個々のウイルス粒子がどのように
ゲノムを取り込むのか?
ウイルス粒子の中を観察
縦断面を観察
?
?
RNP
PB1
PB2
PA
NP
vRNA
100nm
横断面を観察
8本のRNP
50nm
Noda et al. Nature, 2006
電子線トモグラフィー
(3次元電子顕微鏡法)
電子顕微鏡で様々な角度から試料を撮影し、
それらをコンピューターで組み合わせ、
試料の3次元立体構造を作る。
電子線トモグラフィー
電子線トモグラフィー
電子線トモグラフィー
Noda et al. Nature communications, 2012
ほぼすべてのウイルス粒子が8本のRNPを
取り込んでいた。8本のRNPは長さが違っ
ていた。
1
2
3
4
5
6
7
8
8種類のゲノムRNAを取り込む
百聞は一見に如かずの例:
インフルエンザウイルスのゲノムパッケージング機構
代替法がないの例:
見ないとどうしてもわからないこともある。
見て初めてわかることもある。
インフルエンザウイルスの転写機構
セントラルドグマ
DNA
mRNA
タンパク質
インフルエンザウイルスの転写・複製
(-) vRNA
転写
(+) mRNA
(+) cRNA
複製
インフルエンザウイルスの転写・複製
(-) vRNA
(+) cRNA
複製
転写
・ウイルスゲノムのコピー
・ウイルスRNAポリメラーゼ
(+) mRNA
翻訳
タンパク質
インフルエンザウイルスの転写・複製
(-) vRNA
転写
(+) mRNA
翻訳
タンパク質
(+) cRNA
複製
・ウイルスRNAポリメラーゼ
・mRNAを合成
インフルエンザウイルスの遺伝子RNA
1
2
3
4
5
6
7
8
PB2
PB1/PB1-F2
PA
HA
NP
NA
M1/M2
NS1/NS2
各遺伝子分節から様々なタンパク質が作られる
インフルエンザウイルスvRNAの転写
RNP
5’ 3’
vRNA
NP
RNA polymerase
(PB2, PB1, PA)
vRNAはNPとウイルスポリメラーゼとともに
二重らせんのRNP複合体として存在する
インフルエンザウイルスvRNAの転写
RNP
5’ 3’
vRNA
転写
NP
RNA polymerase
(PB2, PB1, PA)
mRNAの合成
vRNAはRNPの状態で
転写される
感染細胞におけるウイルスゲノムの転写
ウイルス粒子
細胞質
核
感染細胞におけるウイルスゲノムの転写
細胞質
吸着
侵入
核
感染細胞におけるウイルスゲノムの転写
細胞質
膜融合
脱殻
核
感染細胞におけるウイルスゲノムの転写
細胞質
核
核内輸送
感染細胞におけるウイルスゲノムの転写
宿主PolIIが
pre-mRNAを合成
DNA
宿主pre-mRNA
Pol II
m7G
CTD
Cap
感染細胞におけるウイルスゲノムの転写
RNPが
PolIIに結合
転写開始
宿主pre-mRNA
Pol II
m7G
CTD
Cap
感染細胞におけるウイルスゲノムの転写
1. Cap結合
宿主pre-mRNA
Pol II
Cap
感染細胞におけるウイルスゲノムの転写
2. Cap-RNAの
切断
宿主pre-mRNA
Pol II
Cap
感染細胞におけるウイルスゲノムの転写
3. 転写開始
(プライマー依存的)
Pol II
感染細胞におけるウイルスゲノムの転写
4. 伸長反応
(vRNA 3’→5’)
Pol II
感染細胞におけるウイルスゲノムの転写
5. Poly(A)付加
(U track)
Pol II
ウイルスゲノムの転写
1.
2.
3.
4.
5.
Pre-mRNAのCapに結合
Cap-RNA切断(Cap snatching)
プライマー依存的転写開始反応
伸長
U trackによるPoly(A)付加
ウイルスゲノムの転写
1.
2.
3.
4.
5.
Pre-mRNAのCapに結合
Cap-RNA切断(Cap snatching)
プライマー依存的転写開始反応
伸長
U trackによるPoly(A)付加
疑問点
転写中のRNPの構造?
ポリメラーゼ
移動モデル?
RNP構造変化
モデル?
3’
5’
3’
3’
AAA
5’
3’
[目的]
転写中のRNPの構造を明らかにする
構造変化の有無?
どのような構造変化?
[方法]
in vitro 転写系を用いて、転写中RNPの
顕微鏡解析
謝辞
[京都大学ウイルス研究所]
中野 雅博
神道 慶子
村本 裕紀子
[沖縄科学技術大学院大学]
Matthias Wolf
杉田 征彦
[金沢大学バイオAFM先端研究センター]
古寺 哲幸
[東京大学医科学研究所]
河岡 義裕