腸内細菌と感染防御機構: 基礎医学的見地から

特集
腸内細菌up to date:今まさに明らかになりつつある全身疾患への影響
腸内細菌と感染防御機構:
基礎医学的見地から
北本 祥,鎌田 信彦
ミシガン大学医学部消化器内科学 KEY WORDS
●常在細菌
●病原細菌
●粘膜免疫
●競合
は じ め に
われわれの腸内には,約100兆個も
の多様な細菌が常在している。宿主は
常在細菌に対して生育に必要な栄養素
や場所を提供している。一方で常在細
菌は難溶解性多糖の分解やビタミンの
The role of gut microbiota in
intestinal infection:From the
view point of basic research.
Sho Kitamoto
Nobuhiko Kamada
(Assistant Professor)
新の知見を踏まえ概説する。
Ⅰ.常在細菌による
病原細菌の排除機構
1.常在細菌による直接的な病原細菌
の排除機構(図)
生成,宿主免疫の分化成熟などを誘導
常在細菌は直接的に病原細菌と競合
することで,宿主の生体恒常性の維持
し,その定着や増殖を阻止することが
に重要な役割を果たしている。このよ
知られている。ある種の常在細菌は,
うに,常在細菌は宿主との巧妙な共生
類縁細菌を阻害する毒素
(Bacteriocins)
関係を構築し,腸管の恒常性を維持し
を産生し,類縁の病原細菌の増殖を抑
ている。また,抗生物質の投与などに
制することが知られている1)。たとえ
より常在細菌叢が撹乱されることでさ
ば,常在性の大腸菌(
まざまな腸管病原細菌に対して易感染
の産生するBacteriocinは,病原性大腸
性を示すようになることから,常在細
菌enterohaemorrhagic
菌は病原細菌に対する感染抵抗性の獲
の増殖を阻害する。また,腸内常在細
得にも重要であることがわかる。本稿
菌は,病原細菌の増殖に必要な栄養素
では,基礎医学的見地から,複雑に絡
を優先的に消費し,枯渇させることに
み合う常在細菌-病原細菌-宿主免疫と
より,栄養嗜好性を同じくする病原細
いう三者の相互関係のバランスが,い
菌の増殖を抑制する。たとえば,前述
かにして腸管における病原細菌の感染
の常在性大腸菌はEHECと共通する栄
と排除を規定しているのかについて最
養源である有機酸やアミノ酸を優先的
Pharma Medica
SAMPLE
)
(EHEC)
Vol.33 No.10 2015 15
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