放地研特別寄稿シリーズ SCS-0053 深成岩の墓石のγ線量率と色指数 柴山元彦 1 1 自然環境研究オフィス 放射線地学研究所、名古屋 湊 進2 2 放射線地学研究所 2009 深成岩の墓石のγ線量率と色指数 柴山元彦 1 1 自然環境研究オフィス 湊 進2 2 放射線地学研究所 1.はじめに 火成岩のγ線量率については、これまで深成岩では塩基性岩から酸性岩になるにつれてγ線量率は高 くなることが明らかにされている(Minato 2005)。深成岩については二酸化珪素(SiO2)の含まれて いる量でγ線量率との相関を求めている。この場合、対象となる深成岩の化学組成が明らかになってい なければならない。しかし、一般に野外で見られる深成岩は化学分析のデータがないことが多い。その ため野外で簡易に岩石名を決めるには肉眼による方法が取られるが、その目安は鉱物の組成とその含ま れる割合である。その 1 つの方法として色指数で岩石名を決める方法がある。色指数は有色鉱物の容量% であらわされる(山崎 1990)。 墓地には多くの墓石がありそのほとんどが深成岩である。大量の深成岩が表面を磨かれた状態で存在 している。しかも塩基性岩から酸性岩まで連続したさまざまな深成岩がある。そこで大阪市阿倍野区に ある大阪市営南霊園阿倍野墓地で深成岩の墓石のγ線量率と色指数の測定を試み、その相関を調べた。 2.測定場所と測定方法 (1)測定場所 阿倍野墓地(阿倍野区阿倍野筋 4)はJR天王寺駅の南南西約1kmの上町台地上にあり地形は平坦 である。広さは東西 400m南北 200mのほぼ長方形で 8 万平方mである。この墓地は江戸時代からあり 墓石の数も数え切れないくらいある(図1)。 図 1 阿倍野霊園墓地の航空写真(右)と阿倍野霊園の位置(左の赤丸)(Google 地図より) (2)測定地点 測定対象の墓石の中でさ まざまなタイプの深成岩に なるように行った。今回の 測定は試みとして墓地の北 半分について実施した。測 定した墓石数は 38 基であ る。その位置を図 2 に示す。 図2 測定地点 (地図は Google 地図より) -1- (3)測定方法 ◎γ線の測定 1”φx1” NaI(Tl) シンチレーション・サーベイメータを使用した。本体からプローブ部分をはずし、 墓石上面の中心部に接触させて 1 分間測定した。さらに墓石と墓石の中間位置でバックグラウンドを測 定した。バックグラウンド値で補正した計数率に換算係数を掛けて墓石の線量率を求めた。このような 計数率型の測定器で有限異物の半無限等価線量率を決める方法については湊・柴山・平岡(2002)の報 告がある。参考までに本稿末尾に具体的内容を示す。 ◎色指数の測定 墓石表面の4cm×6cmの範囲をデ ジタルカメラで接写した。その範囲の写真 に 500 点の格子点を設け、写真からその格 子点上にある有色鉱物の数を数え、その数 から有色鉱物の占める割合を求め、色指数 を推定した(図 3)。色指数は、約 10 以下 が酸性岩、10∼35が中性岩、35 以上が 塩基性岩とされている 図3 3.測定結果 測定して補正した 38 基のγ線量率の中で最大は 165 こう岩の墓石であった。また最小は 33.3 色指数計測例 nGy/h で、長石が赤色をしているラパキビ花 nGy/h で斑れい岩の墓石であった。平均値は 82.8 nGy/h である。計測した色指数は最大が 52.2 を示し、斑れい岩であった。最小は 5.0 の花こう岩である。 また、色指数から求めた深成岩の区分によるγ線量率の比較は表 1 のようになった。 表 1 色指数による深成岩の分類とγ線量率の平均値 色指数 個数 γ線量率平均(nG/h) 岩種 10以下 17 98.6 酸性岩(花こう岩) 10−35 14 74.6 中性岩(閃緑岩) 35− 4 39.0 塩基性岩(斑れい岩) 4.考察 表 1 のように色指数の値が低いものはγ線量率が高いことが明らかになった。Minato (2005) によ ると日本と世界の深成岩のγ線量率は、酸性岩で 107 nG/h と 170 nG/h、中性岩で 53 nG/h と 81 nG/h、 塩基性岩で 14 nG/h と 21 nG/h である。墓石は日本産のものや輸入されたものなどさまざまな産地の 深成岩であるが、傾向としてはおおむねγ線量率の高い酸性岩から低い塩基性岩にかけて、色指数が 大きくなる(有色鉱物が多くなり、岩石は黒っぽく見えていく)傾向が明らかになった。 色指数と深成岩墓石のγ線量率の相関を求めると、図 4 のようなグラフになり、相関係数 0.7 の高 い相関が認められた。 -2- nG/h 墓石の線量率(nGy/h) 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 0 10 20 30 色指数 40 50 60 図 4 色指数と墓石のγ線量率の相関 <参考文献> 湊 進・柴山元彦・平岡由次(2002) :岩石放射線の現場測定−中央構造線博物館の岩石園にて−, Isotope News, No.583, pp.28-30 Minato,S.(2005):Gamma Ray Dose Rate due to Rocks in Japan, Radioisotopes, vol.54, No.3, pp.79-84 山崎貞治(1990):初めて出会う岩石学、共立出版(東京) 付録―有限異物測定から 2π等価異物線量率を推定する方法 大地―空気境界に有限の大きさの岩石などがあるとする。この場合、岩石表面で計数率を測定しても 正しい線量率は得られない。すなわちシンチレーション・サーベイメータによる計数率に大地-空気境 界で校正して得た換算係数を掛けて線量率を求める方法は使えない。ここではその補正法を述べる。 半無限(立体角 2π)の広がりをもつ空気(上)と土または岩石(下)が接しているとき、境界にお ける計数率(応答のエネルギー依存性を補正してある測定器の場合は線量率)は次のように表される。 T = F+B (1) ここで F は前方入射成分、B は後方入射成分(スカイシャイン)である。両者の比を η= F B と表しておくことにする。 -3- ( 2) NaI の計数率に関してモンテカルロ計算した結果は次表のとおりである。 (NaI 計数率) Size (inch) Forward(F) Backward(B) Ratio(F/B) (cpm per nGy/h) 1″φ x 1″ 28.5 17.5 1.629 1″φ x 2″ 50.4 30.2 1.669 2″φ x 2″ 137.1 75.4 1.818 for 1.7 ppm U, 7.2 ppm Th and 1.6 % K. 同様に応答のエネルギー依存性を補正してある測定器の場合は (線量率) Ratio(F/B)=9.78 for 1.7 ppm U, 7.2 ppm Th and 1.6 % K 大地表面に有限の大きさの異物がある場合を考える。 異物の広がりが大きくない場合(土壌密度換算で半径 30cm∼3m ていど) 、表面に密着して得る計数率(ま たは線量率)は近似的に Tobs = Fdm + Bbg (3) で表される。Fdm は異物からの前方入射成分、Bbgは大地によるスカイシャインである。 ここで半無限(2π)の広がりを持つ異物がある場合を異物計数率 Tdm、および異物線量率 Ddmと定 義しよう。有限の場合は大きさにより線量率が異なるので半無限等価線量率に換算する。こうすること により大きさによらず多種の試料を比較できるからである。 異物線量率と計数率(または線量率)の関係は Ddm = kTdm ( 4) kは大地―空気境界での換算係数。線量率の場合k=1。 (1)式より Tbg = Fbg + Bbg = (1 + η ) Bbg ∴ Bbg = Tbg 1+η (3)、(5)式より -4- (5) Fdm = Tobs − Bbg = Tobs − Tbg 1+η ( 6) また、 Tdm = Fdm + Bdm = Fdm + Fdm η 1 = (1 + ) Fdm η ( 7) (6)式より Tbg 1 ) Tdm = (1 + )(Tobs − η 1+η (8) 故に(4)式より T 1 Ddm = k (1 + )(Tobs − bg ) η 1+η すなわち、有限異物表面で測定した計数率 Tobs、異物近傍で測定したバックグラウンド計数率 Tbg、大 地-空気境界で校正した換算係数kより、半無限(2π)の広がりを持つ異物がある場合の線量率 Ddmが 求まる。 -5-
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