新規の誘電率顕微鏡による溶液中のウイルスや生物試料の直接観察

みちのくウイルス塾資料 20160716
新規の誘電率顕微鏡による溶液中の
水溶液中の生物試料やナノ粒子をそのまま
ウイルスや生物試料の直接観察
ナノレベルで直接観察する技術
(高分解能誘電率顕微鏡の開発)
(高分解能誘電率顕微鏡の開発)
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
小椋 俊彦
ウイルスの感染過程を直接見るためには?
条件
1.10 nmの分解能
2.溶液中での観察
3.生きた状態
4.観察損傷がない
5.無染色で観察
(一般財団法人 大阪市東淀川区医師会ホームページより)
非常に困難
どんな観察方法があるのか?
観察法
光学顕微鏡
分解能
液中
観察
染色処理
× 200nm
◎
〇
超解像蛍光顕
〇 ~10nm
微鏡
◎
一部必要
×
試 料 損
傷 の 有
無◎
簡便性
価格
◎
10 ~ 200
万円
△
△
1億円
〇
数千万円
△
数千万円
△
数千万円
×
数百億円
〇
数千万円
必須
レーザー損傷
△
×
一部必要
電子線損傷
×
×
必須
電子線損傷
走査電顕
◎ 1nm
×
透過電顕
◎ 0.1nm
×
大気圧電顕
〇 10nm
〇
×
×
必須
電子線損傷
X線自由電子
レーザー
〇 10nm
◎
◎
X線損傷
走査誘電率
顕微鏡
〇 10nm
◎
◎
〇
×
新規開発技術
生物試料の観察技術
溶液中
光学顕微鏡
分解能 0.2μm
観察が困難
大気圧
電子顕微鏡
分解能 1 nm
電子線ダメージ大
真空中
粒子径 10μm
細胞
1μm
バクテリア
100 nm
ウィルス
10 nm
タンパク質
複合体
タンパク質
1 nm
走査電子顕微鏡の大腸菌の観察例
固定・脱水後に金属コート処理
電顕によるウィルスの観察方法
・負染色サンプル
・透過電子顕微鏡画像
・重金属の状態を観察
・ウィルスは乾燥した状態
・真空による変性有り
ウィルスの負染色画像
(国立感染研ホームページより)
生きたウィルスの観
察手段が望ましい
2.走査電顕による試料の観察
・走査電顕(SEM)の利点
1. 比較的安価
2. 操作が簡単
・生物試料観察の問題点
1. 真空による変性
2. 電子線による損傷
3. コントラストが極めて低い
4. チャージによる画像の変化
・従来の観察方法
1. 脱水・固定処理
2. 負染色
3. 金属コーティング
1. 処理が煩雑
2. アーティファクト
3. 試料の変性
Fig.4
これまでの電子顕微鏡による大気圧・液中観察
高圧透過電顕使用 750keV
イカダモの観察結果
Nagata F. and Ishikawa F., Jpn. J. Appl. Phys.
Vol.11 (1972), pp1239-1244
これまでの電子顕微鏡による大気圧・液中観察
Science (1974)
超高圧電顕使用 1MeV以上
最近の電子顕微鏡による大気圧・液中観察
Hela Cellの観察結果
・上面を薄膜とするカプセル型
・走査電顕を用いて反射電子で観察
・細胞は、固定・染色処理
Thiberg S. et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA,
Vol.101 (2004), pp3346-3351
培養細胞の光顕画像
QXカプセルによる培養細胞の観察
QXカプセルによるSEM画像
QXカプセルによるSEM画像
コントラストが低く観察が困難
最近の電子顕微鏡による大気圧・液中観察
走査透過電顕による観察
De Jonge N. et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA,
Vol.106 (2009), pp2159-2164
最近の電子顕微鏡による大気圧・液中観察
COS7 cellの観察
ラベルインキュベーション
の時間 5分
ラベルインキュベーション
の時間 10分
乾燥したサンプル
・細胞は、グルタルアルデヒドにより固定
・EGF-Auラべリング
De Jonge N. et.al., Proc. Natl. Acad. Sci.
USA, Vol.106 (2009), pp2159-2164
これまでの大気圧・液中観察法
1. 電子線ダメージが大きい
2. コントラストが低い
目標
最近の液中観察法
1. 固定化処理
2. 重金属による染色
3. 金属ラべル
1. 水液中での観察
2. 電子線によるダメージが無い
3. 染色なしに高コントラスト画像を得る
4. 非染色・非固定による観察
新規観察方法の開発
まずは生物試料の高コントラスト観察から
条件
1.10 nmの分解能
2.溶液中での観察
3.生きた状態
4.観察損傷がない
5.無染色で観察
2005年にさきがけ研究に採択
走査電顕による高コントラス・
低ダメージ観察法の開発を開始
低コントラストの原因
電子線
走査
2次電子
試料
10 µm
試料支持台 ステージと試料の2次電子
放出の差が小さい
さきがけの予算で日本電子社製JSM6390を購入
間接2次電子コントラスト観察方法
概念図
低加速
電子線
2次電子
カーボン
薄膜
2次電子
電子散乱範囲
生物サンプル
Toshihiko Ogura, Biochem. Biophys. Res.
Commun. Vol.377 (2008), pp27-84
SEMによるバクテリアの観察
2次電子による観察
表層5nm程度からの情報
カーボン膜厚
40 nm
Toshihiko Ogura, Biochem. Biophys. Res.
Commun. Vol.377 (2008), pp27-84
電子線の加速電圧の変化によるコントラストの推移
Toshihiko Ogura, Biochem. Biophys. Res.
Commun. Vol.377 (2008), pp27-84
高コントラスト画像のメカニズム
In-direct Secondary Electron Contrast
(ISEC) image
Fig. 9
Toshihiko Ogura, Biochem. Biophys. Res.
Commun. Vol.377 (2008), pp27-84
T4 phageのISEC image
A
電界放射型高分解能SEM、
カーボン膜厚 15-10 nm
B
FE SEM (Carbon 15 nm)
0.6 kV
100 nm
200 nm
C
FE SEM (Carbon 10 nm)
D
0.5 kV
Toshihiko Ogura, Biochem. Biophys. Res. Commun. Vol.380 (2009), pp254-259
T4 phage ISEC imageの3Dマップ
250
200
150
100
50
0
Monte Carlo Simulationによる解析
Toshihiko Ogura, Biochem. Biophys. Res. Commun. Vol.380 (2009), pp254-259
試料支持膜の改良による分解能向上
Ogura, T. PloS ONE 7(10), e46904(7pp) (2012)
バキュロウイルスの観察結果
Ogura, T. PloS ONE 7(10), e46904(7pp) (2012)
タンパク質(プロテアソーム)の観察結果
Ogura, T. PloS ONE 7(10), e46904(7pp) (2012)
次は液中での生きた観察を目指す
条件
1.10 nmの分解能
2.溶液中での観察
3.生きた状態
4.観察損傷がない
5.無染色で観察
方策
・真空による蒸発を防ぐ
大気圧ホルダー
・電子線を薄膜に照射し
2次物理量を計測
大気圧カプセルの概要
電子線
2次電子
電子散乱
範囲
2次電子
生物サンプル
Ogura, Biochem. Biophys. Res. Commun.
Vol.377 (2008), pp27-84
Tomie et.al., Science, Vol.252, p691-692
(1991)
電子線
走査
金属薄膜
窒化シリコン膜
水溶液
電子散乱範囲
サンプル
2次物理量
検出器
誘電率顕微鏡の原理
特徴
1. 電子線ダメージが無い
2. 液中生物試料の高コントラスト観察
3. 水の層が10μm程度でも観察可能
比誘電率
水: 80
生物試料: 2~3
新規誘電率顕微鏡の概要
モンテカルロシミュレーション
液中試料の非染色・
非固定、高コントラスト
観察を可能とする。
Toshihiko Ogura, PLOS ONE. Vol.9 (2014), e92780
酵母の観察結果
Toshihiko Ogura,
PLOS ONE. Vol.9
(2014), e92780
バクテリアの観察結果
Toshihiko Ogura, PLOS
ONE. Vol.9 (2014), e92780
ライトフライヤー(Image credit: Library of Congress)
バイアス電圧による検出信号の増強
Control signal
Thermionic SEM
EB
Carbon tape
Blanking
unit
Chopped EB
Function
generator
Reference
signal
Holder
Scan
Bias
Eb
Si frame
SiN
Sample
Water
Lock-in
amplifier
SiN
GND
O-ring
Measurement
terminal
AC preamplifier
Low-pass filter
Toshihiko Ogura, BBRC. (2014) Vol.450, 1684-1689.
Data
recorder
バイアス電圧による検出信号の増強
Toshihiko Ogura, BBRC. (2014)
Vol.450, 1684-1689.
検出信号の増強メカニズム(仮説)
バクテリアの観察結果
高分解能誘電率顕微鏡システム
Toshihiko Ogura, BBRC. (2015) Vol.459, 521-528.
高分解能誘電率顕微鏡システム
バクテリアの観察結果
Toshihiko Ogura, BBRC. (2015) Vol.459, 521-528.
バクテリアの観察結果
バキュロウイルスの観察結果
Toshihiko Ogura, BBRC. (2015) Vol.459, 521-528.
IgM抗体の観察結果
IgM抗体のモデル構造
Daniel M. et al., PNAS
(2009)
Toshihiko Ogura, BBRC. (2015)
Vol.459, 521-528.
最後の鍵は生きた細胞の観察
培養細胞観察システム
T. Okada & T. Ogura, Sci.Rep.,6,29169 (2016)
マウス培養細胞の観察結果
マウス培養細胞の観察結果
培養細胞の観察結果
T. Okada & T. Ogura, Sci.Rep.,6,29169 (2016)
培養細胞の観察結果
T. Okada & T. Ogura, Sci.Rep.,6,29169 (2016)
要素技術はほぼクリア
条件
1.10 nmの分解能
2.溶液中での観察
3.生きた状態
4.観察損傷がない
5.無染色で観察
方策
真空による蒸発を防ぐ大
気圧ホルダー
電子線による電位変化
を検出
新規誘電率顕微鏡の開発
ただし、まだウイルスの細胞
感染の観察には道半ば
分解能とホルダーの
安定性が不可欠
まとめ
新規誘電率顕微鏡の開発
1. 液中サンプルの観察が可能
2. 電子線によるダメージが無い
3. 染色なしに高コントラスト画像を得る
4. 分解能が8 nm
5. 通常のSEMに小規模な改良で対応
溶液中の生物試料やナノ粒子を
そのままの状態で観察