M.N.

Cho, K., & Kawase, Y. (2011). Effects of a Cognitive Linguistic Approach to Teaching Countable and
Uncountable English Nouns to Japanese Learners of English. ARELE, 22, 201-215.
担当: M.N.
本研究は、日本人の英語学習者に可算・不可算名詞を教える際、認知言語学のアプローチを用いることが有効で
あるかどうかを二つの観点から調査している。第一の観点として、生徒の学習の際、認知的アプローチが有効か
どうか。第二の観点として、中学・高校教師が認知言語学に基づく新しい教授法に適応できるかどうか。結果と
して、可算・不可算名詞を教える際、認知言語学のアプローチは従来のアプローチよりも有効であり、その新し
い教授法は実用的なものであることが分かった。
1.
Introduction

1980 年代に、
認知言語学という新しい言語理論が確立した。
(Lakoff, 1987; Langacker, 1987; Talmy, 2000)
認知言語学では、言語は人間の認知能力を反映したものであり、他の人間の行為と切り離すことができない
ものであると考えられた。

近年では、認知言語学が第二言語習得・教授の分野に影響を与えている。
(Cho, 2002; De Knop, Boers, & De
Rycker, 2010; De Knop & De Rycker, 2008; Pütz, Niemeier, & Dirven, 2001a, 2001b; Robinson & Ellis,
2008)
多義語の習得の際、認知言語学が第二言語学習者にとってどれくらい有益か調査する研究者もいる。
Morimoto & Loewen (2007), Tyler (2008), Cho (2010)は、認知言語学の基づいた指導が、多義語の習得に有
効だと述べている。

Imai (2009)や Kishimoto (2004, 2007)は、日本人英語学習者が可算・不可算名詞を学ぶ際、認知的アプロー
チが適応できるかどうか、理論的及び実用的な側面から議論してきた。

Kishimoto (2007)は、中学生を対象に実験を行い、認知的アプローチは可算・不可算名詞の学習の際に有効
であるとした。
しかし、当該の実験は、過度な時間を可算・不可算名詞の学習に割いているため実用的ではない。
また、統制グループが、同様の文法項目に関する指導を受けているにもかかわらず、プレテストよりもポス
トテストの成績が悪いという問題も存在する。

最新の調査では、Cho (2010)が短期間のポストテストと長期間のポストテストを行い、従来のアプローチと
認知的アプローチの有用性の違いを指摘した。
どちらのアプローチも短期間のポストテストでは有用性を示していたが、認知的アプローチのみが長期間の
ポストテストでも有用性を示していた。
そのため、認知言語学の教授法の有用性を調査する際は、長期間のポストテストの結果に注目すべきである。
2.
Countable and Uncountable Nouns in Cognitive Linguistics

どんな文法書であれ、加算・不可算名詞の違いを説明するためにページを割いている。
しかし、大半の学校文法書は文法的振る舞いに基づいて名詞を区別しており、学習者が適切にそれらの区別
をする際に有益な情報を提示していない。

「可算名詞は数えられるもの、不可算名詞は数えられないもの。可算名詞は単数形・複数形どちらも可能。
不可算名詞は単数形のみ。
」
(Murphy & Smalzer, 2000, p. 132 及び Swan & Walter, 2001, p. 190 より)

上の説明では、可算・不可算名詞を区別する根本的な原理を学習者が理解できない。
1

認知言語学の視点から、Langacker (2008b)は、可算・不可算名詞の違いは根本的な概念の相違を表してい
ると主張する。
(1) I want two lemonades and a water.
(Langacker, 2008b, p. 143 (7b))
(2) By mashing a dozen potatoes, you get enough potato for this recipe.
(Langacker, 2008b, p. 144 (9a))
もし私たちが水を境界性のある制限された存在物として認知するなら、(1)のように可算名詞として扱うこと
が可能。
もし私たちがジャガイモを境界性のない制限されない存在物として認知するなら、(2)の二つ目のように不可
算名詞として扱うことが可能。

「数えられる名詞の場合、当該の名詞は制限されるものとして解釈される。数えきれない名詞の場合、当該
の名詞は制限されるものとして解釈されない。」(Langacker, 2008b, p. 132)

可算・不可算名詞の特徴として他に、heterogeneity、expansibility、replicability の 3 つが挙げられる。
可算名詞は heterogeneous であり、そのため replicable ではあるが、expansible ではない。
不可算名詞は homogeneous であり、そのため expansible ではあるが、replicable ではない。

以上の根本的概念を英語学習者が認識することで、適切に名詞を使用することができる。

Langacker の研究(1987, 2000, 2008a, 2008b, 2009)に基づいて、本研究は認知言語学のアプローチを用
いた新しい教授法及び、可算・不可算名詞の違いを示唆するワークシートを開発・作成した。
当該の教授法とワークシートを用いて、本研究は英語の可算・不可算名詞を教える際、認知言語学的アプロ
ーチが有効かどうか 2 つの観点から調査した。
RQ1: 英語の可算・不可算名詞を日本人生徒に教える際、認知言語学のアプローチは有効か?
RQ2: 中学・高校教師は日々の授業で認知言語学のアプローチを用いることが良いと感じるか?
3.
3.1.

Methods
Study One
RQ1 について、新しい教授法が従来のアプローチよりも有用かどうか調査する。
3.1.1. Participants and setting

英語学校で少なくとも 7 年間学んでいる日本人大学生 80 人、6 か月以上の英語圏内での生活経験はなく、
週に 1 回英語の必修授業を受けている。

従来のアプローチを受けるグループ A(35 人)と認知的アプローチを受けるグループ B(45 人)の 2 グル
ープに分ける。
3.1.2. Materials and procedures

グループ B で用いる認知的アプローチを試みるワークシート(Appendix A)について、1 問目は協力者が
それぞれの名詞の認知的な違いに気づくことを意図している。2 問目は冠詞の有無に注意しながら、日本語
を英語に訳す問い。3 問目は 1 問目 2 問目を通じて学んだことを要約させる問い。これらの活動によって、
協力者は学んだことを自分の言葉で説明できるようになり、ひいては可算・不可算名詞の違いが分かるよう
になる。

グループ A は高校生向けの文法書を及び従来のアプローチをとるワークシート(Appendix B)を用いて、
可算・不可算名詞の違いを教えられる。
2

授業時間は 60 分、20~30 分は教える時間で、30~40 分はエクササイズ(Appendix C)や説明の時間。
そのため、将来的には中学・高校でも同様のアプローチが可能となる見込み。

どちらのアプローチにおいても、記憶力への影響を調査するために、プレテストとポストテスト(Appendix
D)を行う。プレテストとポストテストについて、内容はどちらも同じだが、問う順番は異なる。

テストに出てくる文はいずれも、授業の際には使用しない文。
3.1.3. Results

プレテスト、授業、ポストテストのすべてに出席した者を対象として結果を出す。
グループ A は 34 人、グループ B は 42 人。

結果として、可算・不可算名詞を教える際に認知的アプローチを用いたとき、協力者は大きな進歩を示し、
従来のアプローチよりも認知的アプローチのほうが有効であると分かった。
3.2.

Study Two
新しい教授法の適応可能性を調査するために、免許更新講習を受ける中学・高校教師に一つ目の研究で用い
た教授法を教えた。
3.2.1. Participants

協力者は現職の中学・高校教師、2009 年及び 2010 年に西南学院大学で免許更新講習を受けた者。彼らは認
知言語学の前知識を持たない。
57 人中、30 人は 2009 年に、27 人は 2010 年に参加した。
3.2.2. Procedure

講義スケジュールは、
(1) Language and Human Cognition (75m.)
(2) Countable and Uncountable Nouns (80m.)
(3) Prepositions, Image Schemas, and a Network (80m.)
(4) Event Structures and Constructions (80m.)

講義の目的は、
(1) 協力者が、可算・不可算名詞の違いを説明できるようになる。
(2) 協力者が、どのように前置詞用法をイメージスキーマの使用へ拡張するのか説明できるようになる。
(3) 協力者が、どのように出来事の認識が文構造に影響を与えるか説明できるようになる。

協力者には 2 つの方法で講義の満足度に関するアンケートを行う。
1 つ目は各トピックについての自由記述、2 つ目はリッカート尺度を用いて講義全体の満足度を問うもの。
満足度のほかに中学・高校での適応可能性についても問う。
3.2.3. Results

リッカート尺度のアンケートによると、認知的アプローチの適応可能性は高いとされた。2009 年では、80%
の教師が新しい教授法は実用的であると、20%の教師がいくぶん実用的であると回答し、2010 年ではそれ
ぞれが 70%と 26%であった。

中学・高校の教師は新しい教授法を中学・高校で用いることについて納得していると結論付ける。
3

自由記述の回答として、
「新しい教授アプローチを用いて可算・不可算名詞を教えることは可能だ。なぜなら、教授の際に用いられ
る例文や単語が生徒にとって理解されやすいから。
」
「新しいアプローチを用いることで、難しい文法用語を用いることなく可算・不可算名詞を導入することが
できる。
」
4.
Discussion

1 つ目の調査について、先行研究よりも短い時間の指導であるにもかかわらず、ポストテストの際、協力者
に大きな進歩が見られた。
つまり、可算・不可算名詞のキーとなる概念を協力者が理解することができたといえる。

従来のアプローチよりも認知的アプローチのほうがポストテストにおいて、良い結果を示す。
つまり、英語の可算・不可算名詞の文法的知識は認知的アプローチを受けたグループの方が身についたとい
える。

中学・高校教師は新しいアプローチを実用的であると好意的に見なしている。
教師にとっても理解しやすく、生徒にも良い利益をもたらすと考えている。
これは、生徒にとっての説明の理解しやすさという点と、説明の際に用いられる文の難しさという点に基づ
いている。
説明の際に、認知言語学の専門用語を用いる必要がなく、また生徒自身が理解の際に認知言語学の知識を必
要としないということ。
5.
Conclusions and Further Studies

認知言語学のアプローチを用いて、可算・不可算名詞を教えることは有効である。

認知言語学のアプローチを用いる新しい教授法は、実用的である。

Cho (2010)が英語の前置詞について、認知的アプローチを用いて教える有用性について指摘した。
Cho (2010)及び本研究の結果から、冠詞や文構造、関係詞といったほかの文法項目についても、認知言語学
的アプローチの有用性が示唆される。
4