ポスター発表 ことばの表出を促す初級語彙マップ教材の開発 徳弘 康代 名古屋大学 1 教材開発の目的 会話・対話・作文等の表出活動を通して言葉や漢字を学ぶ、という趣旨のもとに開発し た語彙マップ初級教材について述べる。 語彙マップやマインドマップを用いた学習法が最近普及してきている。しかし、語彙マ ップそのものを提示した教材は少なく、それらの教材は中・上級者用であり、初級のもの はなかった。初級語彙マップ教材がなかった理由の一つは、語句のみを分類してマップで 提示しても、実際に表現することにつなげるのは難しいからだと思われる。マップではな く語彙を分野ごとに絵などと共に示した初級の教材はあるが、それらの教材を話すことに つなげるのは難しいため、語彙教材が初級で会話教材に使われることはあまりない。語彙 教材は表出のためというより記憶する効率的な手段として用いられている。本研究で開発 した語彙マップでは、語彙教材を会話・対話教材として活用させるため、提示する語とし て独立語だけでなく、 助詞や表現文型や活用させた動詞等も載せて語彙と文法を混在させ、 学習者がそのマップを見てすぐに表現できるように工夫した。マップに載せた文法事項や 文型は、そのテーマで必然的に用いられるものである。また、イメージを膨らませること を容易にするため、絵やイラストも多く取り入れた。 2 教材の構成 2.1 語彙・文法・漢字学習を融合させた教材 日本語教育の一般的な初級の教科書は、文型とその練習と会話が載ったメインテキスト と、語彙リストと文法解説が載った解説書に分かれ、さらに漢字の練習帳は別という形式 のものが多く使われている。つまり、ある文法事項を含んだ文型を中心に学び、語彙はそ れに付随したものであり、漢字はさらに別物という扱いである。本研究では、語彙・漢字・ 文型・文法を一体化させた語彙マップを用いて学習する方法を提案する。 2.2 語彙マップ教材の構成と使用法 本教材はテーマごとに課に分けられている。各課の構成は、扉絵、語彙マップ(漢字か な交じり・ふりがな・ローマ字) 、語彙マップ(英・中・韓国語訳) 、文型・語句説明、会 話例、復習である。まず初めに絵を提示し、イメージを喚起させる。その次のページの語 彙マップは言葉をネットワークにして示したものである。同じマップが日本語と訳語で作 られている。学習者はマップの語句や表現文型を使って表現し、足りないものは自分で書 き足して語を増やし、漢字も覚えたいものを覚える。覚える語の選択・追加等は学習者に 任せ、評価も教師主導ではなく、各自が覚え、表現したものについて評価をする。実践報 告ではマップを用いて、まず作文し、次に話をするという順で行ったものを発表した。こ れは、語彙を用いて作文した後の方が、話すテーマが頭の中でまとまっており、話に広が 381 ポスター発表 りや深みを持たせられるからである。 2.3 語彙マップ教材例 図 1~4 は、 「天気・自然」の語彙マップ教材の一部である。マップは日本語(図 1・4) と翻訳(図 2)で作られている。図 3 のイラストは違う地域から来た三人が自分の国の気 候について話しているものである。学習者はこの絵を見てイメージを膨らませ、自分が言 いたいことをマップの語句や表現を用いて表し、不足している語句を自ら加えて語を増や していく。初級用として図 4 のように、独立語だけでなく、助詞や活用させた語も表現文 型の形で載せてある。このようにテーマや場面の中で語彙・漢字・文型・文法を混在させ て、より実際の会話や表現に近い形で学ぶことを目指した教材である。 図 1 語彙マップ「天気・自然」部分 (日本語)① 図 3 イラスト「天気・自然」部分 図 2 語彙マップ「天気・自然」部分(英中韓訳) 図 4 語彙マップ「天気・自然」部分 (日本語)② <参考文献> 徳弘康代(2015) 『語彙マップで覚える漢字と語彙 初級 1400』,Jリサーチ出版. 382
© Copyright 2024 ExpyDoc