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人 工 知 能 31 巻 4 号(2016 年 7 月)
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「人工知能学会創設 30 周年記念特集」にあたって
栗原 聡
山川 宏
(電気通信大学大学院情報理工学研究科)
読者には全国大会に参加された方も多いと思います.
(株式会社ドワンゴ人工知能研究所)
記事へと続きます.対談者は藤井太洋氏(第 35 回「日
ここ数年の人工知能ブームの影響にて,今回の小倉で
本 SF 大賞」受賞,日本 SF 作家クラブ第 18 代会長)
,
の全国大会参加者数は 1 500 人強とのことです.昨年の
長谷敏司氏(第 35 回「日本 SF 大賞」受賞,本学会倫
函館開催では約 1 000 人の参加者でしたので,来年の名
理委員会委員)
,大澤博隆氏(筑波大学)そして山川 宏,
古屋大会では 2 200 人,その翌年は 3 000 人を超える勢
栗原 聡です.ページ数の制約から,2 時間に及ぶ対談か
いです.冗談のような話ですが,ニューラルネットワー
ら特に面白い議論を抜粋しました.対談に参加した各メ
クにおける著名国際会議である NIPS ではさらに極端
ンバも,内容を確認するために本記事を改めて読み直し
な現象が実際に起きています.NIPS 2013 では約 1 000
た際,
「面白い内容!」
という反応が出たくらいです.
「SF
人,NIPS 2014 では約 2 000 人でした.そして,昨年末
で描かれる未来と現実とのギャップ」
,
「これからの AI
の NIPS 2015 では本当に参加者数 4 000 人となってし
と社会の関係」
,そして「シンギュラリティ」など,気
まいました.有用性やこれからの社会実装に向けて真に
になるお題満載です.
能力を発揮できるのかについては賛否両論あるものの,
学会のアクティビティとしては,研究会活動が柱とも
Deep Learning が今回の人工知能ブームを産・官・学に
いえます.これまでの研究会活動の総括,ならびに現在
巻き起こし,現在も牽引していることは間違いありませ
活動中の研究会からの活動報告をまとめました.人工知
ん.
昨年と今年の全国大会でも
「Deep Learning」
セッショ
能研究の多様性の高さや,さまざまな異分野研究との連
ンは特に大賑わいでした.大会最終日の最後のセッショ
携の加速を実感できる充実した内容となっております.
ンとして「深層学習応用」がありましたが,立ち見状態
最後に,学会誌 5 月号と 7 月号にて連続企画としてと
というのは,他の情報系学会全国大会などと比べて明ら
りまとめております「国内人工知能研究拠点紹介特集」
かに異常です.来年の名古屋大会では,東京や大阪から
では,5 月号では主に民間企業での拠点紹介を行いまし
のアクセスも良く,一般社会人のピンポイント参加も可
たが,7 月号では産業技術総合研究所人工知能研究セン
能になります.どのような事態になりますか,楽しみで
ターを始め,
NII コグニティブ・イノベーションセンター,
もあり不安でもあります.そして,このような AI ブー
千葉工業大学人工知能・ソフトウェア技術研究センター,
ムの中,本学会が創設 30 周年を迎えることができ,そ
慶應義塾大学人工知能ビッグデータ研究開発センター,
して本会誌にて「創設 30 周年記念特集」を組むタイミ
電気通信大学人工知能先端研究センターなどの官・学か
ングで,この編集に携わることができた編集委員会メン
ら,企業(富士通研究所,サイジニア,トーマツ デロ
バは皆幸せ者です.以下,本特集の中身について簡単に
イトアナリティクス,ネクスト リッテルラボラトリー,
紹介します.
Preferred Networks)などの拠点も紹介します.
まずは,これまでを振り返りたいと思います.定番
今回の 3 回目のブームはこれまでの 2 回のブームとは
の歴代会長の随想特集です.これまで本学会会長とし
構造が異なります.現在の過熱状態はいずれ沈静化する
てリーダーシップを発揮された先生方に,お題自由に
と思いますが,それはブームが終わり再び冬の時代に突
て 30 周年に向けたメッセージを寄せていただきました.
入するのではなく,人工知能技術の社会への浸透が加速
メッセージ性の強い内容で読み応えがあります.
し,日常生活に遍在するようになるのだと思います.ま
次は SF と AI 特集です.恐らくこれまでどの情報系
た,今回の全国大会にて大いに注目された倫理委員会
学会誌においても企画されたことのないであろう,
「SF
セッションですが,人工知能研究に関する倫理におきま
小説」を掲載することにしました.執筆いただきました
しても,これを契機にさまざまな議論が進展すると思い
SF 作家は,第 35 回日本 SF 大賞を受賞し,本学会倫理
ます.
委員会委員でもあります長谷敏司氏です.普段書かない
今年 2016 年は,本学会創設 30 周年であると同時に,
ような刺激的で読み応えのある内容で,人工知能学会誌
「Artificial Intelligence(人工知能)
」という言葉が生み
ならではの,いろいろな議論を巻き起こす問題を提起し
出されたダートマス会議が開催されてからちょうど 60
ています.本学会誌でしか読むことできない貴重な作品
年目の節目でもあります.人工知能学会も,研究の進展
です.じっくりお読みください.
とともに社会との関わりにおいても新しい展開を迎えつ
そして,昨年末の合同研究会において開催しました座
談会「SF 作家× AI 研究者:未来を語る」の取りまとめ
つあります.関係者は,皆忙しくなると思いますが,さ
らなる人工知能研究の発展が楽しみです.