平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ 論文題目 液体 Fe-Ge 合金の帯磁率に関する研究 The study of the magnetic susceptibility of liquid Fe-Ge alloy 物理研究室 4 年 09P199 森岡 諒 (指導教員:大野 智 教授) 要旨 今回扱う Fe は遷移金属であり、生体内では主にヘモグロビンとして存在し、Ge は半金属で あり医療器具などに応用されている。遷移金属元素は d 軌道に電子を持っており、一般的に 遷移金属の性質はその電子によって決まることが知られている。遷移金属合金の帯磁率は、 自由電子による帯磁率、原子核イオンからくる反磁性帯磁率および 3d 電子による帯磁率から 求めることができる。 Fe-Ge 合金の帯磁率は 1973 年 J.Güntherodt と H.-A.Meier によって 1200℃まで測定さ れ、また、Fe が 100%から 60%の範囲の帯磁率については 1967 年 E.Übelacker によって 1500℃まで測定された。Fe を添加したすべての組成において温度上昇に伴い帯磁率は下が っており、Curie-Weiss 則を用いて Curie 定数および Curie 温度が求められた。これら Curie 定数や Curie 温度は測定された温度幅によりその精度が決まり、Fe(融点、1538℃)のように 融点の高い金属においては広範囲での測定が必要であると考えられる。当研究室では 1700℃という比較的高温での帯磁率測定が可能であり、すべての組成の液体状態における 帯磁率測定、さらに融点以降広い温度範囲での実験データを得ることができると考えられる。 本論文では、卒論Ⅱで行う予定である帯磁率測定、解析に先駆けて、自由電子に由来する 帯磁率と関係のあるフェルミエネルギーの状態密度について、その組成変化を理論的に計算 した。 キーワード 1. Fe 4. 𝑥𝑝𝑎𝑟𝑎 7 . Curie 定数 3. 帯磁率 6. Curie-Weiss の法則 9. Curie 温度 2. Ge 5. 𝑥3𝑑 8. N (EF ) 10. Friedel Anderson モデル I 目次 1. はじめに ・・・・・・・・・ 1 2. 帯磁率 ・・・・・・・・・ 3 3. 𝑥𝑝𝑎𝑟𝑎 ・・・・・・・・・ 3 4. 𝑥3𝑑 ・・・・・・・・・ 5 5. まとめ ・・・・・・・・・ 6 II 1. はじめに 物質は磁性により常磁性、強磁性、反磁性に分類できる。遷移金属元素は 3d 軌道に 電子をもっており、一般的に遷移金属の性質はその電子によって決まるということが知 られている。 今回扱う Fe は原子番号 26 の遷移金属である。外見は銀白色を呈し、強磁性をもつ。 また、融点は 1538℃である。生体内では 3 分の 2 がヘモグロビンとして赤血球の中に 存在し、3 分の 1 弱がフェリチンやヘモジデリンの貯蔵鉄として肝臓や脾臓に存在して おり、鉄芽球貧血などの疾患によって増加したり、逆にネフローゼ症候群などの疾患に よって減少したりするなど、人体に深く関係している。Ge は原子番号 32 の半金属であ る。医療分野では医療器具などとして応用されている。 図 1 は E. Übelacker and E. Wachtel、J. Maier and J. Güntherodt と H. -A. Meier に よって得られた 1200℃における FecGe(100-c) (c = 10, 20 … 100 %)合金の組成変化を表 したグラフである。Fe の濃度が上昇するにしたがって帯磁率の値は上昇していること が分かる。E. Übelacker は c = 60 から c =100 までの組成であり、E. Wachtel と J. Maier は c = 0 から c = 50 まで組成、J. Güntherodt と H. -A. Meier はすべての組成で帯磁率 図 1. Fe20Ge80 の帯磁率の温度依存性 1 を測定した。図 2 は 1500℃における FecGe(100-c) (c = 10, 20 … 100 %)合金の組成変化 を表したグラフである。この温度では E. Übelacker が c =60~100 %、E. Wachtel and J. Maier が c =0~50 で測定を行った。1200℃において、すべてのグループでの帯磁率 の値がほぼ一致しており、1500℃においても 2 つのグループの測定結果から帯磁率は 濃度上昇にともない系統的に変化していると考えられる。 図 3 は J. Güntherodt and H. -A.Meier によって行われた c =20 の帯磁率の温度変化 である。帯磁率は温度上昇に伴い、減少しているため、Curie-Weiss の法則に従ってい ると考えられる。Curie-Weiss の法則の Curie 定数および Curie 温度はより広い温度範 囲での測定で精度を上げることができると考えられる。 本論文では、卒論Ⅱで行う予定である帯磁率測定、解析に先駆けて、自由電子に由来 する帯磁率と関係のあるフェルミエネルギーの状態密度について、その組成の変化を理 論的に計算する。 図 2. Fe20Ge80 の帯磁率の温度依存性 2 図 3. Fe20Ge80 の帯磁率の温度依存性 2. 帯磁率 遷移金属における合金の帯磁率は以下の式で表される。 𝑥 =𝑥3𝑑 + 𝑥𝑝𝑎𝑟𝑎 + 𝑥𝑑𝑖𝑎 (1) 𝑥3𝑑 は 3d 電子による帯磁率を表し、 𝑥𝑝𝑎𝑟𝑎 は自由電子による帯磁率を表す。また、 𝑥𝑑𝑖𝑎 は 原子核イオンから作られる反磁性帯磁率であり原子のイオン半径に依存する値で合金 の組成依存性は各金属での反磁性帯磁率の線形の足し合わせで表される。従って合金の 帯磁率の振る大きな影響を与えないと考えられる。 3. 𝒙𝒑𝒂𝒓𝒂 𝑥𝑝𝑎𝑟𝑎 はフェルミエネルギーの状態密度を用いて(2)式のようにあらわされる。 𝑥𝑝𝑎𝑟𝑎 = α(𝑚∗ , 𝑟𝑠 )μ2𝐵 N(𝐸𝐹 ) α(𝑚∗, 𝑟𝑠 ):エンハンスメント因子 (2) N(𝐸𝐹 ):フェルミエネルギーの状態密度 また、N(𝐸𝐹 )は以下の式により計算することができる。 3 3 N(𝐸𝐹 ) = 1 2𝑚 2 ( ) √𝐸𝐹 2𝜋 ℎ2 (× 1039 𝑐𝑚3 ) 𝑒𝑣 (3) 単位は erg である。 この式に含まれる𝐸𝐹 はフェルミエネルギーを表し、以下の式で求まる。 𝐸𝐹 = ћ2 𝐾 2𝑚 𝐹 (4) ћ はディラック定数、m は電子の質量であり以下の値を用いた。 ћ= 1.055 × 10−27 m = 9.199 × 10−27 また、フェルミエネルギーの単位をジュール(J)からエレクトロンボルト (eV)に変換す るために 𝐸𝐹 (J) = 𝐸𝐹 (eV) 1.6022×10−12 (5) の計算を行った。 (4)式のフェルミ波動ベクトル KF(×108 / cm-1)は電子密度 n / V(×1022/cm3)を用いて以 下のように表される。 1 𝐾𝐹 = 𝑛 3 (3𝜋 2 ) 𝑉 (6) ここで電子密度は、 n / V= 価数×アボガドロ係数 V (7) となる。 また、モル体積 V(cm3/mol)は密度 p と原子量 m を用いて V=𝑚⁄𝑝 (8) と表される。合金の密度は、Fe 7.14 g/mol に変化すると考えて見積もりを行った。 4 、Ge 5.56 g/mol が組成に従い線型 図 4 は FecGe(100-c) (c = 10, 20 … 100 %)合金のN(𝐸𝐹 ) (状態密度)の変化を表したグ ラフである。N(𝐸𝐹 )は Fe の濃度の増加に伴い、減少している。Fe-Ge 合金の伝導電子 が関与していると考えられ、電子密度を算出する際にイオンの価数が関与するため、電 子の数が多い組成から少ない組成にかけて KF の値は減少するため、𝐸𝐹 も減少する。そ の結果、フェルミエネルギーN(EF)は Fe 濃度の増加に伴い、減少すると考えられる。 Fe は金属中では 1 価で存在し、Ge は 4 価でする。それぞれの 𝑥𝑝𝑎𝑟𝑎 における伝導電 子は Fe → Fe+ + e− Ge → Ge4+ + 4e− となり、Fe の伝導電子は 1 個、Ge の伝導電子は 4 個になる。 N(EF )の値を求めることで𝑥𝑝𝑎𝑟𝑎 の値が求まる。𝑥𝑝𝑎𝑟𝑎 の計算結果と𝑥の実験値から𝑥3𝑑 の値を計算によって見積もることができる。 (×1033cm3/erg) 16 15 14 13 12 11 10 0 10 20 図 4. N(𝐸𝐹 )の組成依存性 30 40 50 60 Feの組成 70 80 90 100 (%) 4. 𝒙𝟑𝒅 𝑥3𝑑 は 3d 電子による帯磁率である。d 軌道の電子は原子核の周辺に局所化されて存在 している。そのため、自由電子と 3d 電子については別々に考慮される必要がある。ま た、𝑥3𝑑 は 3d 軌道にある電子が与える帯磁率であり、磁性状態、非磁性状態かによって 見積もり方が異なる。 5 磁性の場合(𝑑𝑥 −1 ⁄𝑑𝑇 > 0) 帯磁率は以下の式(Curie-Weiss の法則)に従う。 𝑥3𝑑 = 𝐶:Curie 定数 𝐶 𝑇 − 𝜃𝑝 (9) 𝑇:絶対温度(K) 𝜃𝑝 :Curie 温度(K) 非磁性の場合(𝑑𝑥 −1 ⁄𝑑𝑇 < 0) 帯磁率は局在した不純物状態の Friedel Anderson モデルによって説明される。その 状態ではフェルミエネルギーでの状態密度は増加し、非磁性状態における多くの合金の 磁化率も増加する。温度計数の符号の変化は、磁性状態から非磁性状態への転移として 解析される。液体遷移金属合金の磁化率を求める式は 𝑥3𝑑 = 𝑁𝐿 𝜇𝐵 2𝜌𝑑 (𝐸𝐹 ) 1 − (𝑈 + 4𝐽)[𝜌𝑑 (𝐸𝐹 )⁄10] (10) で与えられる。ここで、𝑈 + 4𝐽は原子内の d-d 相互作用、𝜌𝑑 (𝐸𝐹 )は𝐸𝐹 での 3d 電子の状 態密度である。𝜌𝑑 (𝐸𝐹 )は以下の式で与えられる。 10 𝜋𝑁𝑑 𝜌𝑑 (𝐸𝐹 ) = ( ) 𝑠𝑖𝑛2 ( ) 𝜋∆ 10 (11) 自由電子近似により表される状態密度から∆は 2 ∆= π|𝑉𝑑,𝑠𝑝 | 𝑁(𝐸𝐹 ) (12) となる。 今後、計算によって求められた𝑁(𝐸𝐹 )の値を用いて、𝑥3𝑑 を実験値から計算をおこない、 3d 軌道の電子状態について解析を行う。 5. まとめ 過去の文献から Fe-Ge 合金における帯磁率の組成依存性および温度依存性について 調査した結果、Fe-Ge の帯磁率は Fe の濃度が増加するに従い大きくなっており、また 温度上昇に伴い減少する傾向が報告された。濃度依存性では全組成を網羅した高温での 6 測定はなく、 温度依存性では Curie 温度および Curie 定数の測定の精度を高めるため にはより広範囲での測定が必要であることがわかった。当研究室では、1700℃という 比較的高温での帯磁率測定が可能であり、すべての組成の液体状態における帯磁率測定、 さらに融点以降広い温度範囲での実験データを得ることができると考えられる。 また、N(𝐸𝐹 ) の組成依存性を表したグラフより、Fe の濃度が大きいほど状態密度は 小さくなる。今後、1700℃まで測定を行い、 Curie 定数および Curie 温度を正確に求 めていく。 謝辞 本論文の作成にあたり、終始ご指導賜りました大野智教授と島倉助教に感謝致します。 引用文献 1. 新版キッテル固体物理化学入門 下/宇野良清,森田章,山下次郎,津屋昇 2. E.Übelacker:Mém.Sci.Rev.Métallung, 64, 183 (1967). 3. J.Maier und E.Wachtel:Z.Metallkde, 63, 411 (1972). 4. J.Güntherodt und H.-A.Meier:Phys.kondens.Meterie 16, 25 (1973). 7
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