美学会全国大会学術講演企画 同志社大学人文科学研究所主催

美学会全国大会学術講演企画
同志社大学人文科学研究所主催
公開講演会「香りと音楽」シャンタル・ジャケ(Chantal Jaquet)
香りが芸術として扱われてきた国が世界に二つだけあります。香道の文化をもつ日本
と、香水の歴史をもつフランスです。香りという、目に見えないながらも妙なる雰囲気
を醸す存在について、洗練された文化を生み出したのは、香道発祥の地の京都と、宮廷
貴族が香水の粋を競ったパリの二都市が中心なのです。
公開講演の件で、しばらく香りというものの「妙」なる特質に思いをはせ、ふと京都
とパリを架橋する国際語が一つ誕生していることに気づきました。18 世紀中頃のフラ
ンス百科全書派、モンテスキューの言った美の「いわくいいがたき le-je-ne-sais-quoi」
特質にも、この京都の伝統文化の真髄である「妙」の訳がぴったりしていることに気づ
きました。
この度、京都・同志社大学にパリ第一大学ソルボンヌのシャンタル・ジャケ(Chantal
Jaquet)教授をお迎えし、
「香りと音楽」をテーマに講演していただくことになりました。
すでに日本で刊行されているジャケ先生の翻訳本『匂いの哲学―香りたつ美と芸術の世界』
(シャンタル・ジャケ著、岩﨑陽子監訳、晃洋書房、2015 年)の中にも、ドビュッシーの
音楽と香りについての詳しい分析があります(ドビュッシーにおける匂いの音楽―≪ペレ
アスとメリザンド≫、
「夜の薫り」
、
「音と香りは夕暮れの空気に漂う」、同書 127‐131 頁)。
今回の講演で焦点があたるのは、現代における先進的な技術によって可能になった、香
りの音楽だと聞いています。これをジャケ先生は、独自の用語で「音嗅的(sonolfactif=先
生の造語。sono 音と olafactif 嗅覚を連結)」芸術と呼んでおられます。ではなぜ現代アート
において香りと音楽が結びつきやすいのかを、先生はその根源にまでさかのぼって究明さ
れています。
音楽はしばしば、香りの儚さや目に見えないことからインスピレーションを得ている。
逆に香水の創造は音楽のリズムやノート(音符と調性)で表現される。ボードレールの『悪
の華』でもこの音楽と香りの親密さが「万物照応」として表現されている。
こうした文学的な比喩や照応を越えて、実際に香りと音楽はここ数年緊密に結びつくよ
うになってきた。香りのするコンサート、香りとメロディが混ぜ合わされたパフォーマン
スなどが多く開催されている。こうしたことは現代アートの現場だけではなく、クラシッ
ク音楽においても調香師によって香りがつけられ、ジャズのインプロヴィゼーションで香
りが部分的に用いられるようになっている。講演会では具体的な現代の音楽作品を例とし
て挙げながら、香りと音楽の豊饒な結びつきが説明される、という。
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講演者略歴 シャンタル・ジャケ(Chantal Jaquet)はパリ第一大学パンテオン‐ソルボンヌ
哲学教授、専門は近現代哲学史とりわけスピノザやベーコンの哲学、心身論。
主要業績―『スピノザにおける心身結合、情感性と行為』(L'unité du corps et de l'esprit, affects,
actions chez Spinoza) 2004 年、 『ベーコンにおける知の促進』(Bacon et la promotion des
savoirs) 2010 年、
『匂いの哲学―香りたつ美と芸術の世界』、晃洋書房(Philosophie de l’odorat)
2015 年、シャンタル・ジャケ監修『現代の嗅覚アート』(L'Art olfactif contemporain, Classiques
Garnier) 2015 年ほか多数。
講演翻訳者 岩﨑 陽子(京都嵯峨芸術大学短期大学部
専任講師)専門はフランス美
学、香道研究、香りの現代アート。
「味と匂い研究会」主宰。Perfume Art Project 代表
(http://perfumeartproject.com)。主要業績に L'Art olfactif contemporain(共著、シャンタ
ル・ジャケ監修、 Classiques Garnier, 2015)
、
『匂いの哲学―香りたつ美と芸術の世界』
(シ
ャンタル・ジャケ著、岩﨑陽子監訳、晃洋書房、2015 年)が含まれる。