知事冒頭意見陳述 沖縄県知事の翁長雄志でございます。 本日は、意見陳述の機会を与えていただきまして、あり がとうございます。 今年4月、うるま市で二十歳の女性が殺害されるという 非常に痛ましい事件が起こりました。改めて亡くなられた 被害者のご冥福をお祈りし、ご遺族に対し哀悼の意を表し ます。 希望ある未来を奪われたご本人やご家族の無念さを思う と、胸が締め付けられるとともに、政治の仕組みを変える ことができなかったことは、政治家として、痛恨の極みで あります。 残念なことに、米軍人・軍属等による事件・事故はその後 も次々と繰り返されておりますが、これは、国土面積の 約0.6パーセントに過ぎない沖縄県に、在日米軍専用施設面 積の74パーセントを超える広大な米軍基地があるがゆえで あります。これ以上、沖縄県民に犠牲を強いることは許され ないと、強く申し上げます。 沖縄県は、埋立承認取消処分をめぐる一連の問題を解決 するためには、真摯に協議を行うことこそが重要だと認識 しております。 - 1 - 本件訴訟に至ったことは、まったく本意ではありません が、訴えられたからには、私が行った埋立承認取消処分が 適法であること、また、県知事として係争処理制度を活用 し、積極的に措置を講じていることから、是正の指示に従 わないという不作為は違法に当たらないことについて、以 下、意見を述べさせていただきます。 埋立承認取消処分に関する代執行訴訟について、3月 4日に県と国が和解いたしましたが、国は直ちに是正の指 示を行いました。このため、私は県知事として国地方係争 処理委員会に審査の申出を行いました。 同委員会は、9回にもわたる丁寧な審理を経た上で、「国 と沖縄県は、普天間飛行場の返還という共通の目標の実現 に向けて真摯に協議し、双方がそれぞれ納得できる結果を 導き出す努力をすることが、問題の解決に向けての最善の 道である」との見解を審査の結論としました。 県としましては、この判断を重く受け止め、内閣総理大 臣及び関係各大臣に対し、真摯な協議を行うよう求めてい ましたが、法の規定により訴えが可能となる日に、直ちに 提訴をした国側の対応は、国地方係争処理委員会の結論を 無視するものであり、妥当なものとは思われません。 しかも、国土交通大臣は、先の代執行訴訟において、既 に、本件訴訟と同一の争点について主張立証が尽くされ、 口頭弁論が終結されているなどとし、本件訴訟の口頭弁論 の終結と、速やかな判決を求める上申書すら提出したので す。 - 2 - しかし、今回の訴訟は、国土交通大臣の是正の指示に従 わないことの違法性の確認が求められているものであり、 代執行訴訟とは審理の対象も異なることから、新たな主張 立証が必要となることは当然であります。 このような上申書の提出には驚きを禁じ得ません。 裁判所におかれましては、公正・公平な手続の下、国と 県の双方が主張立証を尽くし、充実した審理をなされるよ う期待いたします。 さて、公有水面埋立法に係る事務は、地方公共団体の事 務であり、地方の実情をよく知る都道府県知事に、埋立免 許や埋立承認を行う権限を与えております。 地方自治法によれば、国と地方公共団体は、対等な立場 であることを前提として、国の地方公共団体に対する関与 は、その目的を達成するために必要な最小限度のものでな ければならず、また、地方公共団体の自主性や自立性に配 慮しなければならないこととされています。 私は、公有水面埋立法により県知事に与えられた権限を 正しく行使し、適法に埋立承認を取り消したものであり、 是正の指示を受けるいわれはありません。 次に、国土交通大臣による是正の指示の対象は、私が 行った埋立承認取消処分ですから、この埋立承認取消処分 に裁量権の逸脱・濫用があるかどうかという点が、この訴 訟の審理の対象になると理解しております。 そこで、私が埋立承認取消しをするにあたって、公有水 面埋立法の要件適合性について考慮した点について簡略に 述べたいと思います。 - 3 - 公有水面埋立法第4条第1項第1号の「国土利用上適正且 合理的ナルコト」とは、埋立自体及び埋立ての用途・埋立後 の土地利用を対象として、得られる利益と生ずる不利益とい う、諸利益について比較衡量し、前者が後者を優越すること を意味するものです。 貴重な自然環境として評価される辺野古・大浦湾海域の 埋立ては、沖縄ならではの自然、観光資源を直接的に失わ せるなど、不利益は甚大なものがあります。 また、埋立ての用途は海兵隊航空基地建設ですが、これ は埋立対象地周辺の静謐な生活環境を破壊するものであり ますし、今日、新たに沖縄県内に恒久的基地を建設するこ とは、米軍基地の集中に起因する過重な負担、被害をさら に将来にわたって沖縄県に固定化することを意味するもの です。 観光資源として価値の高い沖縄県の北部に、このような 基地ができれば、環境汚染、騒音等により、沖縄経済を牽 引する観光産業は、回復不能な深刻な打撃を被ることにな るでしょう。 このような著しい不利益と衡量しても、なお埋立てに よって得られる利益が上回ると判断されなければ、「国土 利用上適正且合理的ナルコト」とは認められないのですか ら、公有水面埋立法の要件適合性の判断に必要な限度にお いて、承認権者である沖縄県知事が、埋立ての公共性・必 要性の程度を判断しなければならないことは当然のことで す。 - 4 - しかし、埋立必要理由書には、抽象的な内容しか示され ておらず、埋立てにより生ずる著しい不利益を正当化でき るだけの具体的な公共性・必要性の程度を認めることはで きません。 加えて、埋立承認は、公有水面埋立法第4条第1項 第2号の要件も満たしておりませんでした。 辺野古・大浦湾周辺の海は、ジュゴンが回遊する貴重な 自然環境が保たれ、絶滅危惧種 262 種を含む 5,800 種以上 の多様な生物が確認されております。これは、例えば、世 界自然遺産として登録されている知床で確認されている 約 4,200 種を大きく上回るものであり、我が国のみならず 世界的にみてもかけがえのない財産といえるものです。 環境保全の観点からすると、日米両政府は最も問題の大 きい場所の一つを選んでしまったと言わざるを得ません。 このようにして、私は、国の埋立承認申請は、公有水面 埋立法の要件を、いずれも満たしていないと判断いたしま した。 改めて申し上げますが、請求の趣旨及び上申書における 国の主張は、地方自治制度そのものをないがしろにするも のであり、もはや沖縄県だけにとどまらない問題を含んで いると考えます。 このような違法な国の関与により、すべてが国の意向で 決められるようになれば、地方自治は死に、日本の未来に 拭いがたい禍根を残すことになります。 - 5 - 政府は、一昨年の名護市長選挙、沖縄県知事選挙、衆議 院議員総選挙の県内4つの小選挙区、今年の県議会議員選 挙、先の参議院議員選挙など、多くの選挙で示された沖縄 県民の民意をまったく無視し、過重な基地負担を将来にわ たって固定化し続けようとしています。 自国の政府に、ここまで一方的に虐げられる地域が、沖 縄県以外にあるでしょうか。 沖縄防衛局が「私人」になりすまし、国土交通大臣に 行った審査請求と執行停止の申立て、それに続く国土交通 大臣による執行停止と代執行訴訟の提起など、一連の強権 的な進め方と、国地方係争処理委員会の結論を無視した今 回の訴えの提起は、なりふり構わない政府の姿勢の表れで あります。 47 都道府県の一つに過ぎない沖縄県を、政府が総力を挙 げて、ねじ伏せようとしています。 この裁判は、単に今回の国の関与の是非のみが問われて いるだけではなく、地方自治の根幹、ひいては民主主義の 根幹が問われている裁判でもあると思います。 裁判所におかれましては、まさしく法の番人として、憲 法を起点として保障されている地方自治の本旨に鑑み、公 平な判断を示していただきますよう、お願いいたします。 - 6 -
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