null

(d)
調達-公的主体が公益を実現する資源として使用する目的で、私人から財や役務
の提供を受ける作用。民法上の売買契約や請負契約なども、調達作用に含まれるが(→
Ⅲ4)、以下では、行政機関に特有な調達作用を挙げる。
①
租税
→Ⅲ3 で扱う。公務員による労務の提供
→Ⅱ3 その他で扱う
②
公用収用・使用-私人の土地等を公益事業(※)のために使用する目的で、強制的
に公益事業の主体(「起業者」と呼ぶ(※※))に取得させ、あるいは起業者のために使用
権を設定する作用。
(※) 具体的には土地収用法 3 条のリストを参照。
(※※) 国や地方公共団体の場合が多いが、電力会社等、私的主体の場合もある。
土地収用については、手続が大別して次の 2 段階に分かれることを押さえておく
こと(→Ⅲ3 等)。
-
土地を強制的に収用するだけの公益性が、当該土地で行われる事業にある
かを、国土交通大臣または都道府県知事が判断する「事業認定」(土地収用法 16
条以下)
-
事業認定を前提に、収用委員会が、起業者から権利者に支払う補償金額を
決定して土地の権利を強制的に移転させる「収用裁決」(同法 39 条以下)
③
権利変換-私人の土地・建物に係る財産権を、強制的に他の財産権に置き換える
作用。宅地における土地区画整理事業、スプロール化した市街地における都市再開
発事業、農地における土地改良事業などで行われる。
こうした事業も、次の 2 段階で行われることを押さえておくこと。
-
事業後の空間利用の形態等について計画を定める「事業計画」(例、土地区
画整理法 6 条)
-
事業計画を前提に行われる「権利変換」(土地区画整理事業や土地改良事業で
は「換地」といわれる。同法 86 条以下)
(2)
行政作用の根拠規範
(a)
行政作用を規律する法規範の分類
行政作用を規律する法規範は、次のように分類される(塩野・Ⅰ72~74 頁)。
-
公的主体と私人との関係を規律する作用法規範
-
行政作用の考慮事項、保護法益等を定める「根拠規範」(例、食品衛生法)
-
行政作用に根拠規範があることを前提に、行政作用を制限する「規制規範」(多
くの行政通則法や一般法原則(→Ⅰ2(3))、補助金交付適正化法(→(1)(c)③)等)
-
公的主体の行政組織を規律する組織法規範、特に、行政機関間の事務分担を定め
る任務や所掌事務の規定(→1(1))。
※ この他に、政策目標(コンセプト)を提示し、それを実現するための手続や組織を定
19
める「基本法」、法律の「目的規定」(多くの場合 1 条に置かれている)などもある。し
かし、「基本法」は他の法律より強い効力を持つわけではなく、効力は同等である。
また、政策目標や目的の定めは、個別の行政作用と結びついた規定ではないので、
行政作用の根拠規範にならず、ただ、根拠規範を解釈する指針になるに留まる(判
例集 110 判決を参照。例外は災害対策基本法)。
(b)
法律上の根拠の要否-侵害留保原理(塩野・Ⅰ71~72 頁)
行政機関が私人の自由と財産を侵害する行政作用を行うには、法律の根拠が必要であ
る、つまり、根拠規範を法律で定めなければならない。これを、侵害留保原理という。
侵害作用以外に、法律の根拠を要する行政作用があるか、どの程度あるかについては説
が分かれる。この問題はⅢ1 で扱う。しかし、侵害作用に法律の根拠が必要なことには、
異論がない。
(c)
行政作用の根拠規範との適合性
法律の根拠が必要な場合であれ、そうでない場合であれ、行政機関は、行政作用の根
拠規範に違反してはならない(規制規範や組織規範にも違反してはならない)。
例えば、根拠規範に違反して、①考慮すべき事項ないし利益を考慮せずに行政作用を
行うことは違法である(「考慮不尽」。判例集 148 参照)。また、根拠規範に違反して、②
考慮すべきでない事項ないし利益を考慮して行政作用を行うことを「他事考慮」といい
(例えば判例集 129)、特に、③他の根拠規範に定められた公益を実現するために行政作
用を行うことを、
「権限の(不当)連結」という(例えば判例集 10)。これらは、行政裁量の
統制基準、あるいは行政指導の統制基準にもなる(→Ⅲ4・Ⅳ2)。
したがって、根拠規範が何を考慮することを要請し、あるいは許容しているかを、解
釈することが重要である。
―
判例集 112 事件について、当時の法律の下で、Y 県知事による保険医療機関指定
拒否は、他事考慮ないし権限の連結に当たらないか?
(3)
行政作用の名宛人と第三者私人(塩野・Ⅰ360~368 頁)
行政作用によって、直接に権利・自由を制限され、あるいは具体的な財やサービスの
給付を受ける私人を、行政作用の「名宛人」といい、それ以外の利害関係者である私人を、
行政作用の「第三者」という。行政法理論は伝統的には、名宛人(の保護)を中心に考えら
れてきたが、現在では、どの範囲の「第三者」に、どのような権利保護の手段が認められ
るかという問題が、重要性を増している。行政手続法 10 条・17 条、行訴法 9 条・37 条
の 2(例、判例集 126 判決、163 判決)、規制権限不行使による国家賠償(例、判例集 144R3
判決)等について、詳しくは第 2 部で検討する。憲法上は、基本権保護義務の問題。
20
○
建築基準法
(適用の除外)
第3条
2
(1 項略)
この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくは
その敷地又は現に建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せ
ず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地又は建築物
若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない。(3 項略)
(建築物の建築等に関する申請及び確認)
第6条
建築主は、第 1 号から第 3 号までに掲げる建築物を建築しようとする場合[等]においては、当該
工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以
下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに
基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、
確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。
(以下および 2 項以下略)
(違反建築物に対する措置)
第9条
特定行政庁は、建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建
築物又は建築物の敷地については、当該建築物の建築主、当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の
下請人を含む。
)若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは建築物の敷地の所有者、管理者若しくは占
有者に対して、当該工事の施工の停止を命じ、又は、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、
改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するた
めに必要な措置をとることを命ずることができる。 (2 項以下略)
○
水道法
(給水義務)
第 15 条
水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、
正当の理由がなければ、これを拒んではならない。(2 項以下略)
○
医療法
第7条
病院を開設しようとするとき[等]は、開設地の都道府県知事……の許可を受けなければならない。
(2 項・3 項略)
4
都道府県知事又は保健所を設置する市の市長若しくは特別区の区長は、前 3 項の許可の申請があつ
た場合において、その申請に係る施設の構造設備及びその有する人員が第 21 条及び第 23 条の規定に基
づく厚生労働省令の定める要件に適合するときは、前 3 項の許可を与えなければならない。(5 項略)
第 7 条の 2 都道府県知事は、次に掲げる者が病院の開設の許可又は病院の病床数の増加若しくは病床の
種別の変更の許可の申請をした場合において、当該申請に係る病院の所在地を含む地域……における病院
21
又は診療所の病床の当該申請に係る病床の種別に応じた数……が……厚生労働省令で定める標準に従い
医療計画において定めるその地域の当該申請に係る病床の種別に応じた基準病床数……に既に達してい
るか、又は当該申請に係る病院の開設若しくは病床数の増加若しくは病床の種別の変更によつてこれを超
えることになると認めるときは、前条第 4 項の規定にかかわらず、同条第 1 項又は第 2 項の許可を与えな
いことができる。
第 30 条の 4 都道府県は、基本方針に即して、かつ、地域の実情に応じて、当該都道府県における医療
提供体制の確保を図るための計画(以下「医療計画」という。)を定めるものとする。(2 項以下略)
第 30 条の 11 都道府県知事は、医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合には、病院若しくは診
療所を開設しようとする者又は病院若しくは診療所の開設者若しくは管理者に対し、都道府県医療審議会
の意見を聴いて、病院の開設若しくは病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更又は診療所の病床の
設置若しくは診療所の病床数の増加に関して勧告することができる。
○
健康保険法
(目的)
第1条
この法律は、労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の
疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与するこ
とを目的とする。
(基本的理念)
第2条
健康保険制度については、これが医療保険制度の基本をなすものであることにかんがみ、高齢化
の進展、疾病構造の変化、社会経済情勢の変化等に対応し、その他の医療保険制度及び後期高齢者医療制
度並びにこれらに密接に関連する制度と併せてその在り方に関して常に検討が加えられ、その結果に基づ
き、医療保険の運営の効率化、給付の内容及び費用の負担の適正化並びに国民が受ける医療の質の向上を
総合的に図りつつ、実施されなければならない。
(保険医療機関又は保険薬局の指定)
第 65 条
第 63 条第 3 項第 1 号の指定は、政令で定めるところにより、病院若しくは診療所又は薬局の
開設者の申請により行う。(2 項略)
3
厚生労働大臣は、第 1 項の申請があった場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、第
63 条第 3 項第 1 号の指定をしないことができる。
一
当該申請に係る病院若しくは診療所又は薬局が、この法律の規定により保険医療機関又は保険薬局
に係る第 63 条第 3 項第 1 号の指定を取り消され、その取消しの日から 5 年を経過しないものであるとき。
二
当該申請に係る病院若しくは診療所又は薬局が、保険給付に関し診療又は調剤の内容の適切さを欠
くおそれがあるとして重ねて第 73 条第 1 項……の規定による指導を受けたものであるとき。
三
当該申請に係る病院若しくは診療所又は薬局の開設者又は管理者が、この法律その他国民の保健医
療に関する法律で政令で定めるものの規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受
けることがなくなるまでの者であるとき。
22
四
当該申請に係る病院若しくは診療所又は薬局の開設者又は管理者が、禁錮以上の刑に処せられ、そ
の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者であるとき。
五
当該申請に係る病院若しくは診療所又は薬局の開設者又は管理者が、この法律[等]の定めるところ
により納付義務を負う保険料[等]について、当該申請をした日の前日までに、これらの法律の規定に基づ
く滞納処分を受け、かつ、当該処分を受けた日から正当な理由なく 3 月以上の期間にわたり、当該処分を
受けた日以降に納期限の到来した社会保険料のすべて……を引き続き滞納している者であるとき。
六
前各号のほか、当該申請に係る病院若しくは診療所又は薬局が、保険医療機関又は保険薬局として
著しく不適当と認められるものであるとき。
4
厚生労働大臣は、第 2 項の病院又は診療所について第 1 項の申請があった場合において、次の各号
のいずれかに該当するときは、その申請に係る病床の全部又は一部を除いて、第 63 条第 3 項第 1 号の指
定を行うことができる。 (1 号・3 号略)
二
当該申請に係る病床の種別に応じ、医療法第 7 条の 2 第 1 項に規定する地域における保険医療機
関の病床数が、その指定により同法第 30 条の 4 第 1 項に規定する医療計画において定める基準病床数を
勘案して厚生労働大臣が定めるところにより算定した数を超えることになると認める場合(その数を既に
超えている場合を含む。)であって、当該病院又は診療所の開設者又は管理者が同法第 30 条の 11 の規定
による都道府県知事の勧告を受け、これに従わないとき。
23