電気自動車のパワーエレクトロニクス

電気自動車工学
電気自動車のパワーエレクトロニクス
電気工学科 堀研究室所属 大手昌也
発表の流れ
0. パワーエレクトロニクスの要素
1. 自動車用パワーエレクトロニクス回路とその制御技術
1 自動車用と家電用パワーエレクトロニクスとの比較
2 2代目プリウスでの回路・制御技術
3 複数モータ同時駆動に向けて
4 まとめ
2. SiC半導体
1 SiCとは?
2 特徴と利点
3 自動車メーカの動向
4 まとめ
3. 素子の冷却技術とその他技術
1 冷却技術の重要性
2 冷却技術の事例紹介
3 その他求められる技術
4 まとめ
4. まとめと感想
自動車用パワーエレクトロニクス
・回路
・回路の制御
・素子
・冷却その他周辺技術
これらの融合体
高効率・小型・軽量性の達成
パワエレ回路・回路制御の技術
1. 自動車用と家電用パワエレの比較
2. プリウス(2代目)の回路・制御技術
3. 複数モータ同時駆動に向けて
4. まとめ
1. EV・HEVに求められるパワエレの特徴
家電製品に用いられるパワエレと比較して
・小型・軽量化への要求が大きい
・振動・熱・衝撃への高い耐久性
・電源電圧の変動に対応
・運転時間、運転パターンが不定
・異常時に電源をOFFすることが難しい
・低騒音の要求は家電に比べ小さい
2. プリウスのシステム
システム概要
In v e r te r
G
In v e r te r
M
B o o ste r
B a tte r y
約200V
max500V
プリウスのエネルギーの流れ
可変電圧形昇圧回路が組み込まれたのが大きな特徴
・大電圧に昇圧し、電流を減らして銅損の低減
・大出力時のバッテリ内部抵抗による電圧低下を補う
・電圧の最適化によるロスの低減
・ただし、昇圧時のロスもあるので一概によいとはいえない
(by honda)
2. プリウスのシステム
インバータ
スイッチング素子はトヨタ内製IGBT使用
モータ用ではIGBT2並列で大電流化
In v e r te r
G
In v e r te r
M
B o o ste r
B a tte r y
約200V
max500V
プリウスのエネルギーの流れ
2. プリウスのシステム
昇圧回路
・2組のIGBTを使用し、電池の充放電を回路の切り替えなし
に連続的に行う。
・システム電圧を最適化することにより、システムの損失を最
小化
R e a c to r
IG B T
B a tte r y
2. プリウスのシステム
電圧制御による損失最小化
次の4つの損失を考慮し、損失の最小化
・モータ損失(銅損+鉄損)
・インバータ損失(オン抵抗ロス+スイッチングロス)
・昇圧用IGBT損失(オン抵抗ロス+スイッチングロス)
・昇圧リアクトル損失(銅損+鉄損)
システム電圧をモータの逆起電力とほぼ同
じにする制御を行う
2. プリウスのシステム
0km/h発進フル加速時システム電圧とモータトルク
モ ー タ ト ル ク
シ ス テ ム 電 圧
シ ス テ ム 最 大 電 圧
ト ル ク
電 圧
損 失 が 最 小 と な る 電 圧 制 御
シ ス テ ム 最 小 電 圧
回 転 数
2. プリウスのシステム
3種類のPWM
・矩形波PWMは高効率だが電圧制御は不可能
2. プリウスのシステム
3種類のPWM
矩形波電圧位相制御
・右図赤い範囲内で電圧の
位相を変化させることでト
ルク制御
T orqu e
V o lta g e P h a s e
P h a se C o n tro l R a n g e
モータの位相-トルク特性
過 変 調 領 域
ト ル ク
この制御により30%効率UP!
正 弦 波 領正 域弦 波 領 域
矩 形 波 領 域
回 転 数
3. 複数モータ同時駆動に向けて
インホイールモータなど複数モータを同時に駆動する回路技術
インバータ2機を使用
M 1
D C
スイッチ12個も必要
M 2
コスト問題からスイッチング素子を少なくする回路技術が必要
3. 複数モータ同時駆動に向けて
In v e r te r 1
In v e r te r 1 In v e r te r 2
M 1
V /2
V /2
M 1
M 2
V /2
M 2
V /2
In v e r te r 2
多相式インバータ
多段式インバータ
3. まとめ
・回路としては古典的なインバータ、昇圧回路が用いら
れている。
・多数のモータを同時にコストパフォーマンス良く駆動す
るような回路設計が現在行われている。
・現在は回路技術というよりも回路の制御技術の開発が
重要か?
SiC シリコンカーバイド半導体
1. SiCとは何か?
2. 特徴とメリット
3. 自動車メーカの動向
4. まとめ
1. SiCとは何か?
・右図のような基本ユニットからなる。
C
・基本ユニットのつながり方によって170種
のSiCが存在
Si
・主に4H-SiC, 6H-SiC, 3C-SiCが研究され
ている
SiC基本ユニット構造
2. 特徴とメリット
SiC vs Si
Good !
①絶縁破壊電界強度
Siの約10倍
②熱伝導率
Siの約3倍で銅とほぼ同じ
③耐熱性
400度以上でも動作可、耐熱材の原料
④蓄積されるキャリアがすくない
Bad...
①製造コストが量産化されてもSiの3倍程度になる見通し
②PN接合デバイスを作ると大きな順方向降下電圧
2. 特徴とメリット
①絶縁破壊電界強度が大きい
Siと同じ厚さでも耐圧が大きい
ドリフト層を薄くすることができる
ローム社Webサイトより
ON抵抗が小
高効率化
2. 特徴とメリット
②熱伝導率が大きい
③耐熱性が高い
放熱器を小型化、省略
Si半導体
SiC自体を放熱器として用いることもある
SiC半導体
小型化
三菱電機08年公開のインバータ
パワー密度4倍に
2. 特徴とメリット
④蓄積キャリアが少ない
・逆回復時間短縮
・ON・OFF特性改善
東芝08年の展示資料より
高速スイッチングにより
高効率
小型化
2. 特徴とメリット
インバータ損失→1/10
体積→1/4
軽量化
2. 特徴とメリット
コストの問題
・高温にしないと接合面形成できない
・不純物濃度を低くすることが難しい
量産化されてもSi半導体の3倍コスト
放熱設計の簡略化などによるコスト低減も含めれば.....
3. 自動車メーカの動向
トヨタ
「2010年代前半までの自動車以外の機器での実績を見て2010
年代に車載」
SiCの結晶の生成の研究もかなり進めている
あまり広報発表がないが、かなり開発は進んでいるはず
ホンダ
ロームと共同開発
SiC-SBD、SiC-MOSFETを搭載した1200V/230A(280kVA相当)
クラスの次世代電気動力車向けインバータを開発。損失がSiIGBTのシステムの1/4に(08年9月)
3. 自動車メーカの動向
日産
ロームと共同でSiCダイオードを新開発(08年4月)
SiCダイオードを用いたインバータを燃料電池車に搭載(08年9月)
三菱
三菱電機が11kWインバータ開発。IGBTのものに比べ損失70%軽
減(09年2月)
SiC シリコンカーバイド半導体 まとめ
☆SiCとはSiとCの化合物
☆耐熱性、熱伝導性が高く、放熱設計を簡略することができるので、より小型軽
量なシステム構築が可能
☆絶縁破壊強度が大きいため、ドリフト層を薄くすることができ、さらに蓄積され
るキャリアが少ないため、ON,OFF特性、リカバリ特性がよいため、高効率な
システム構築が可能に
☆量産化されても素子自体の価格はSi半導体の3倍程度となる見通しだが、放
熱器の簡略化などで、どこまでSi半導体のコストに近づくか?
☆自動車メーカはかなり力を入れてこの素子によるHEV、EVインバータの開発
に取り組んでおり、遅くとも10年以内にSiC半導体を用いたHEV、EV登場
冷却技術とその他のパワエレ周辺技術
1. 冷却技術の重要性
2. 事例の紹介
3. その他もとめられる技術
4. まとめ
1. EV、HEVにおける冷却技術の重要性
・ Si系の半導体の最大動作温度は150℃程度
・ 100kW出力で3%インバータロスがあると3kWの発熱
・
・
・
・
電車のように停車時間があるとは限らない
非常に厳しいスペースの制限
軽量化が求められる
メンテナンスなんてほとんどされない
・ HEVの場合、近くにエンジンがある
・ 最低10年10万キロの耐久性
小型・軽量・高効率・高信頼性・高耐久性
2. 販売されたHEVの冷却方式
シビック ハイブリッド(モータ出力15kW)
アルミ製ヒートシンクに装着し、フィンに空気を流して冷却 空冷式
素 子
素 子
放 熱 板
風
出力が小さいので空冷式でも放熱が間に合う
プリウス(2代目THSⅡ)(モータ出力50kW)
素子を冷却器に取り付け、冷却器内に冷却水を流す 水冷式
ボ ン デ ィ ン グ ワ イ ヤ
素 子
素 子
放 熱 板
冷 却 器
冷 却 水
2. 販売されたHEVの冷却方式
LEXUS GS450h(モータ出力 147kW)
基本的にプリウスと同じシステムだが、冷却水路が波状になってお
り、乱流を発生させることで冷却効率を6%向上
素 子
素 子
放 熱 板
冷 却 器
冷 却 水
水路を波状に
2. 販売されたHEVの冷却方式
LEXUS LS600h/LS600hL(モータ出力165kW)
プリウスの冷却システムのサンドイッチ構造のようなものを採用して2
倍近い冷却性能を得ている。
これに伴い、IGBTの1素子あたりの電流容量はGS450hの200Aから
300Aに引き上げられ、素子数は40→24ペアに
素 子
素 子
2. 販売されたHEVの冷却方式
新型プリウス
IGBTを直に冷却器に取り付けることで冷却の効率化を図っている。
素 子
D B C基 板
銅
セ ラ ミ ッ ク
銅
素 子
は ん だ
銅
セ ラ ミ ッ ク
銅
放 熱 グ リ ス
基 板
2代目プリウス
穴の開いた銅板
3代目プリウス
は ん だ
冷却技術とその他のパワエレ周辺技術
☆HEV、EVでは非常に厳しい冷却設計が求められる。
☆出力の低いインバータでは放熱フィンとファンで放熱を行うことができるが、フ
ルEVとなったら水冷での冷却が必要となってくる。
☆素子を放熱版でサンドイッチ状に挟んだり、素子に直接放熱器をつけるなどの
工夫により、放熱効率が向上。
まとめ
まとめ
☆回路としては教科書に載っているような古典的なインバータ、昇圧回路が用い
られているが、その回路の制御の方式にかなりのノウハウや技術開発が詰
まっている。
☆SiCなどの新材料による半導体開発が急ピッチで進んでおりさらなるパワーユ
ニットの高効率化、小型軽量化が進むと思われる。2010年代にはSiCを用い
た半導体を用いたEV・HEVが登場する見通し
☆ユニットの冷却技術という地味な技術が今のパワーエレクトロニクスではキー
テクノロジーとなりうる。冷却技術のほかにユニットの高効率化、高温に耐える
SiCなどの新素材半導体の登場で冷却技術の重要性は下がるわけではなく、
さらなる軽量・小型冷却技術が開発されると思われる。