明確な目標設定と 情報共有で進める! 臨床実習指導の ポイント 臨地実習の 目標設定・計画立案と ルーブリックを活用した 実習指導・評価の展開 新見公立大学 看護学部 看護学科 老年看護学 教授 木下香織 名誉教授 古城幸子 臨地実習での体験を学生と共に意味づける過程 看護教育歴36年,老年看護学を担当して23年に は,まさに,学生の「学ぶ力」と高齢者の「師の なる。学ぶほどに高齢者ケアの奥深さと魅力を感 力」を感じる時。老年看護の奥深さ,看護基礎 教育の魅力を感じられることが仕事の原動力。 じる。この領域に出会えたことは幸運であった。学 生の感性を揺さぶる高齢者との出会いに感謝。 本学の老年看護学実習の 概要と特徴 高齢者数の増加などに伴って認知症高齢者数の 増加が予想されており,認知症高齢者のケアの 質向上は老年看護学領域における重要課題の一 本学の老年看護学実習の特徴は,治療やケア つである。2012年に策定されたオレンジプラン の場ではなく,高齢者の「生活の場を実習拠点」 に続いて,2015年の新オレンジプランでは12 としていること,問題解決過程としての看護過 省庁による総合的な認知症施策が推し進められ 程の展開はおこなっていないこと,実習評価は ていることなど,わが国の社会的な課題への視 ルーブリックを活用した評価指標を用いている 点を広げることにもつながっている。高齢者の こと,の3点が挙げられる。 「生活の場」に拠点を置いた実習場の設定によ ▶高齢者の「生活の場」を実習拠点とする る学習効果も期待できる。 本学では4単位の老年看護学実習を,認知症 本稿では,グループホームでおこなう「老年 対応型共同生活介護(以下,グループホーム) 看護学実習」を中心に述べる。 での「老年看護学実習」2単位と在宅高齢者を ▶看護過程の展開を使わない 高齢者のとらえ方 対象に地域に出向いて介護予防活動を実施する 「生活支援看護学実習」2単位に分けておこ 1989年の「老人看護学」の科目の立ち上げ なっている。 以来,受け持ちの高齢者を定めた看護過程を活 特に,認知症高齢者へのかかわりを中心とし 用しない実習を展開してきた。 た老年看護学実習は,単に認知症の理解を深め 表1のように,基礎看護学,成人看護学,小 るというだけではない。高齢化率の上昇,後期 児看護学,母性看護学,精神看護学領域では, 受け持ち患者の看護過程が実習の柱となってお 表1 演習・実習で看護過程を展開する機会 年次 関連領域 内容 1年次 基礎看護学 〈演習〉 ペーパーペーシェント 2年次 基礎看護学 成人・小児・ 〈実習〉 受け持ち患者 母性・精神・ 〈演習〉 ペーパーペーシェント 在宅看護学 ∼ 3年次後期 成人・小児・ 母性・精神 〈実習〉受け持ち患者 4年次前期 看護学 48 看護人材育成 Vol.13 No.3 り,問題解決能力を育てる実習となっている。 なかでも,成人看護学領域の実習では,受け持 ちの対象者の年齢が高く,9割以上が65歳以上 の高齢者である。そのため,老年期の健康上の 課題と疾病に関するケアはほとんどの学生が成 人看護学実習で体験していることから,学習の 重複を避けることも理由のひとつである。 また,看護過程の展開における教育上の課題 図1 も指摘されており ,問題解決思考ではなく, 老年看護学カリキュラム 1, 2) その生活背景など高齢者をひとりの「ひと」と して理解することを大切にしたいというねらい がある。学生は,高齢者の生活背景の理解や生 活者としての対象理解の重要性に気づき,高齢 者の「問題」発見から「力」の発見へと視点が シフトする。看護過程の展開を中心とするほか の看護学領域とは異なる方法で対象理解を深め 知る 分かる 腑に落ちる 老年看護学 概論 老年看護学 援助論 老年看護学 実習 理念 対象論 家族論 健康論 地域システム論 ケアシステム論 生活環境論 健康障害論 高齢者ケア論 高齢者援助技術 グループホーム 生活支援 看護学実習 在宅高齢者 ることができる。 ▶ルーブリックを活用した評価 く社会のニーズに柔軟に適応できる価値観を形 老年看護学実習および生活支援看護学実習の 成していくことである。多様な価値観を受容し, 2つの実習でルーブリックを用いた実習展開を 対象の個別性を尊重したケアに結びつけること おこなっている。ルーブリックとは,パフォー のできる看護職としての基礎的能力を習得する マンス課題によって学力をパフォーマンスへと のである(図2)。 可視化し,評価するための指針である 。本学 ▶老年看護学の目的,実習目標,実習方法 が短期大学から4年制大学へと移行した2012 本学の老年看護学では,授業目的と実習目的 年の1期生の臨地実習開始に当たり導入したも に共通する高齢者理解の視点「9つのP」を基 ので,評価表の評価,修正を重ねている4~6)。 盤に教育をしている。 3) 実習期間中,学内演習で学生と教員が共通の ルーブリック評価表を用いた振り返りをおこな う。学生は体験を内省し学びを深め,教員と共 に到達度を確認し,課題を明確にしながら主体 的に実習に取り組むことができている。 臨地実習の目標設定・計画立案 本学の老年看護学は,1年次後期に老年看護 学概論(講義:2単位,計30時間),2年次前 期に老年看護学援助論(講義・演習:各1単位, 計45時間),3年次後期~4年次前期に臨地実 習(老年看護学実習・生活支援看護学実習:各 2単位,計180時間)を設定している。講義な どで知識を得て「知る」ことから,演習などの 体験を通して理解が深まり「分かる」レベルへ と進む。そして,臨地実習を体験し,実際に高 齢者や家族とのかかわりから自分自身を見つ め,対象となる人々を深く理解し「腑に落ちる」 レベルへと到達する(図1)。 最終到達目標は,学生個々の高齢者観を育て ながら,社会の変化に伴って変わっていく高齢 者像や高齢者のニーズ,および高齢者を取り巻 P1(Person) :高齢者を身体的,精神的, 社会的にその人として理解する。 P2(Problem) :高齢者の健康と生活に かかわる問題について総合的に理解する。 P3(Place) :高齢者の生活の場を理解す る。 P4(Process) :高齢者の健康問題と生活 機能に視点を置いた専門職の援助過程を 理解する。 P5(Purpose) :高齢者のQOLとそのゴー ルを理解する。 P6(Perspective) :高齢者をライフコー スの延長線上の生活者として理解する。 P7(Professionalism):高齢者の諸問題 にかかわるほかの専門職を知り,看護の 役割と機能を理解する。 P 8(Person-in-environment) :高齢者 とその人を取り巻く歴史的,伝統的,文 化的な環境を理解する。 P9(Progress):学習の成果と今後の課 題を明確にする。 ➡続きは本誌をご覧ください 看護人材育成 Vol.13 No.3 49
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