研究C班 【PDF】 ~情報通信ネットワークの特性を踏まえた

平成 27 年度
県立高等学校教育課程課題研究(情報研究班)C班
情報通信ネットワークの活用とコミュニケーションにおける
思考・判断・表現の指導方法と評価についての研究
-情報通信ネットワークの特性を踏まえたコミュニケーション手段の選択-
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単元や課題の設定理由・ねらい
情報通信ネットワークが発展するとともに,携帯電話やスマートフォンといった携帯情
報端末も普及し,多くの人が時間的,空間的な制約を乗り越えて,他者と瞬時にコミュニ
ケーションを行うことができるようになった。その一方で,情報通信ネットワークの特性
や課題等を十分に認識しないまま,不適切に使用してトラブルに巻き込まれたり,時には
加害者になったりするような事例も発生している。そのため ,情報通信ネットワークに関
する基礎的な知識や技能を習得させ,安全かつ効果的に情報通信ネットワークを活用する
ことができる判断力を身に付けさせることが求められている。
そこで,本研究では,基本的な知識を活用しながら,安全かつ効果的な情報通信ネット
ワークの活用方法を判断し,情報の発信者としての責任の在り方を考えることができる実
践力を生徒に身に付けさせることを目的として,生徒が主体的,協働的に取り組むパフォ
ーマンス課題の作成と評価方法,効果的な指導方法についての研究を行った。
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研究内容
(1)目標
情報通信ネットワークの特性を理解し,目的に応じてそれらを効果的に活用すること
ができる。また,個人情報の扱い方等も踏まえ,情報の発信者としての 責任を理解し,
安全に情報通信手段を利用することができる。
(2)学習活動に即した評価規準(思考・判断・表現の観点のみ)
目的に応じた適切なコミュニケーション手段を選択するとともに ,その理由を情報通
信ネットワークの特性を踏まえて説明することができる。
(3)パフォーマンス課題及びその概要
「あなたは現在 30 歳であり,久しぶりに高校時代の恩師や同級生に会いたくなり,
同窓会を開くことを思いついた。なるべく多くの人に連絡をとるために,以下の条件ア
~エを踏まえた上でどのような手段・内容で発信をすればよいか考えなさい。」
ア
現在幹事はあなた一人で,手元には同窓会名簿がある。
イ
使用するコミュニケーション手段は一つでなくてもよい。
ウ
連絡をする際に,情報の発信者として注意すべきことを考慮する。
エ
同窓会名簿を利用してはがきを 240 通出したところ,40 通しか返信がなかった。
このパフォーマンス課題では,同窓会の幹事として,なるべく多くの同級生や恩師に
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情報を伝えるために,情報通信ネットワークの特性を理解した上で,効率的かつ安全に
情報を伝達するためのコミュニケーション手段を考察させる。また,その際には個人情
報の取り扱いに十分留意させるとともに,情報の送り手としての責任を自覚させること
を重視する。
(4)ルーブリック
観点
達成度
情報通信ネットワークの特性や個人情報保護の観点を踏まえ,適切な
コミュニケーション手段を選択し,その理由を説明することができる。
A
(十分満足で
きる状況)
選択したコミュニケーション手段について,情報通信ネットワークの
特性や個人情報保護の観点に十分配慮しており,かつその理由について
も明確に記述することができている。
B
(望まれる全
員に到達して
ほしい状況)
選択したコミュニケーション手段について,情報通信ネットワークの
特性や個人情報保護の観点は配慮されている。あるいは,その理由につ
いて明確に記述することはできている。
C
(努力を要す
る状況)
選択したコミュニケーション手段について,情報通信ネットワークの
特性や個人情報保護の観点が十分に配慮されておらず,かつその理由に
ついても明確に記述することができていない。
(5)指導の流れ
学習活動
時限
○
指導上の留意点
単元の学習内容と目標,パフォーマ
・
ンス課題の内容 について知る。
○
限
を理解させる。
はがきでは返信される割合が少な
・
この後のグループ協議の中で,自分
い理由と,はがき以外でより多くの
の考えとその理由を説明できるよう
人に連絡できるコミュニケーション
に考えるよう伝える。
手段を考える(個人)。
1
時
ルーブリックを示し,学習活動の目標
○
グループ協議を行う。
・
それぞれのグループの活動状況をよ
く観察し,議論の内容を今回のテーマ
目
からそれないように方向づける。
○
グループ協議の結果を発表する。
・
他のグループの発表内容に対する評
価を行う。
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○
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情報通信ネットワークの特性や個
人情報など留意すべき点を踏まえ,
より多くの人に連絡が伝わるコミュ
ニケーション手段を考える(個人)。
○
本時の学習内容をまとめ,次時の学
習内容について 確認する 。
○
前時の学習活動を振り返る。
○
情報通信ネットワークの特性や留
意すべき点を踏まえ,同窓会開催連絡
に有効なコミュニケーション手段と
その理由を考える (個人)。
2
○
・
グループ協議を行 う。
それぞれのグループの活動状況をよ
時
く観察し,議論の内容を今回のテーマ
限
からそれないように方向づける。
目
○
グループ協議の結果を発表する。
・
他のグループの発表内容に対する評
価を行う。
○
本時の学習内容について まとめる。
・
情報を発信する際は,送信する内容
や相手に応じた適切な手段を選択す
るとともに,個人情報等にも留意する
ことが必要なことを再度確認させる。
(6)評価の進め方(評価方法)
○ワークシート
パフォーマンス課題の以下の項目について,自分の意見を記述したのち,グループ
協議を行いグループの意見をまとめる。なお,コミュニケーション手段について体験
したことのないものについてはグループの意見としてまとめるものとする。
・
同窓会名簿だけでは全員へ連絡を取ることができない理由
・
効率的に情報を伝達するためのコミュニケーション手段と手順
これらワークシートに記述された上記の項目について,選択したコミュニケーショ
ン手段について,その理由を情報通信ネットワークの特性や個人情報保護などの留意
点を踏まえて記述することができているかどうか評価を行う。
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授業の状況
(1)今回の課題で指導するにあたって留意したこととその理由
グループ協議では,一部の生徒のみが発言して議論を進めてしまい ,他の生徒はそ
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の意見をそのまま受け入れてしまうだけになる可能性がある。そのため ,グループで
協議を行う前に個人で考える時間を設定し,全員が自分の考えを発言しやすいように
した。また,グループ協議で他の生徒の意見を聞き視野を広げた後に,さらに,自分
の考えを再度表現させることで,より考えを深めることができるようにした。
ただし,授業時間が 2 時間であるため,考えるべき事柄を事前にワークシートに書
き込むことにより,効率的に生徒が学習活動に取り組むことができるように工夫した。
(2)授業実践後に協議して設定した評価基準と,それぞれの基準の典型的な作品例
観点
達成度
情報通信ネッ
トワークの特性
や個人情報保護
の観点を踏まえ,
適切なコミュニ
ケーション手段
を選択し,その理
由を説明するこ
とができる。
生徒の作品例
評価の観点
A
(十分満足で
きる状況)
選択したコミ
ュニケーション
手段について,情
報通信ネットワ
ークの特性や個
人情報保護の観
点が十分に配慮
されており,かつ
その理由につい
ても明確に記述
することができ
ている。
「色々な人に見られる
から,個人情報が流れ
ないように注意する」
など,情報通信ネット
ワークの特性や個人情
報保護など配慮すべき
点について明確に述べ
られている。他にも「な
りすまし」という具体
的な言葉が見られる。
B
(望まれる全
員に到達して
ほしい状況)
選択したコミ
ュニケーション
手段について,情
報通信ネットワ
ークの特性,また
は,個人情報保護
の観点のどちら
か一方しか含ま
れていない。
「連絡先を間違えて伝
えないようにする」や
「間違った内容を教え
ないようにする」など,
配慮すべき点について
の記述はあるが ,情報
通信ネットワークの特
性,または,個人情報
保護の観点のどちらか
一方しか含まれていな
い。
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C
(努力を要す
る状況)
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選択したコミ
ュニケーション
手段について,情
報通信ネットワ
ークの特性や個
人情報保護の観
点がまったく配
慮されておらず ,
かつその理由に
ついても明確に
記述することが
できていない。
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(作品例省略)
コミュニケーション手
段を選んだ理由が書か
れていない。もしくは,
適切な理由ではない。
まとめ及び考察
(1)実習課題について(生徒の取組状況も含めて)
パフォーマンス課題の条件として取り上げた SNS などの情報通信手段は,生徒にとっ
て身近なツールであるため,授業の流れについて理解が得やすかった。生徒間で「こう
すれば良いのでは」という発見や指摘をする場面が多くみられ,生徒それぞれが主体的,
協働的に課題に取り組むことができた。しかし,生徒にとって身近なツールであるため
に,グループ協議の中で課題からそれた話をしたり,同窓会についての設定を全く考慮
せず LINE や Twitter の特性を考察したりした生徒もいた。そのため,グループ協議の
際,教員がそれぞれのグループの活動状況をよく観察し,議論の内容を今回のテーマか
らそれないように方向づけるなど,アドバイスや指示を適宜与えることが必要であった。
授業プリントについては,ワークシートを生徒全員に配付し作成させた学校もあれば,
グループで1枚,A1 版に拡大印刷したワークシートに記入させた学校もあった。ワーク
シートを生徒全員に配付するメリットとして,それぞれの生徒の学習活動が明確になる
ということがあるが,教員が一人一人の取組状況を把握しづらいというデメリットも挙
げられた。また,拡大版のワークシートをグループで使用するメリットとしては,班の
全員が同じ用紙を見ながら意見をまとめられることであるが,逆に,一部の生徒だけが
ワークシートに記入する役割を担当するため,学習活動に参加しない生徒がいるという
デメリットも挙げられた。このように,どちらの方法にもメリットとデメリットがある
ため,生徒の学習活動を観察し,全ての生徒が学習活動に参加するように指導したり,
学習活動の内容によって使い分けたりするなどの工夫が必要である。
(2)評価について
生徒の評価物(ワークシート)の評価では,選択されたコミュニケーション手段につ
いて,その理由をコミュニケーション手段の特性を踏まえて記述することができている
かどうかを判断基準とした。生徒は情報通信ネットワークを日頃から使っているため ,
全く回答がないというものはほとんど見られなかった。多くの生徒が文章を書くことを
苦手にしているため,ふだんの授業では記述式の解答形式では空欄で提出する生徒も多
いが,身近で興味をもっている課題を取り上げた成果と考えられる。
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また,コミュニケーションの特性だけではなく,個人情報の流出を理由として挙げる
生徒もおり,これまでに学習した知識を活用できていた。その一方で,コミュニケーシ
ョン手段の特性が適切に記述されていないものや,コミュニケーション手段を選択した
理由が不明確なものが多かった。事前にこの学習活動の目標を生徒 に理解させておく工
夫が必要であると感じた。
(3)授業実践の改善に向けて
【評価規準及び評価基準】
評価を行う際,評価基準の記述として,「十分に配慮」「明確に記述」というように程
度を表す言葉があり,曖昧になったことで,評価者の主観で評価が大きくずれてしまっ
た。そのため,評価規準及び評価基準について再度見直し,選択されたコミュニケーシ
ョン手段についてその特性と理由が考慮された記述があるかどうかという点で評価す
ることに修正した。併せて,A評価やB評価の基準例を事前に作っておくことで,授業
者が目標をより明確にイメージすることができるという意見もあった。
本来は,評価基準に基づいて教材を作成するべきであるが,その点について今回十分
に配慮することなくワークシートを作成してしまったことが班全体の反省点として挙
げられた。そして,ワークシートの作成は,生徒の反応を十分に考慮しながら,目標に
対する達成度を明確に評価できるように作成する必要があり,パフォーマンス課題に取
り組ませる上では,評価までを見通してワークシートを作成することが重要であると感
じた。このようにワークシートの作成を行えば,
「(2)評価について」で述べたように,
教員が期待する記述が予想よりも少ないという事態を避けることができると考えられ
る。
【パフォーマンス課題について】
本研究のパフォーマンス課題として,生徒にとって身近な話題にして意欲を高めるた
めに,「30 歳のときに,幹事として同窓会を企画する」という設定にした。しかし,生
徒は同窓会を開催した経験がなく,予想したほど生徒の興味を引き出すことができなか
った。そのため,SNS に限らずさまざまなコミュニケーション手段について考えさせる
ような課題にするとよいのではないかという意見もあった。
パフォーマンス課題の取り組み方として,まずは個人で考え記述し,その後グループ
協議を行うという学習の流れでどの学校でも指導を行っており,多くの生徒が自分の考
えや意見を相手に伝えることができていた。
【授業時間数について】
各学校において,今回のパフォーマンス課題では2~3時間程度の授業時間数しか確
保できなかったため,グループ協議の時間やまとめを行う作業に十分な時間を 設定でき
なかった。そのため,ワークシートの記述が評価Aに達する生徒が少なかったと考えら
れる。
【評価手法の改善について】
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今回は,生徒が記入したワークシートのみを評価の対象とした。しかし,思考,判断,
表現を評価するにあたっては,グループ協議での発言内容や個人の考えの変遷など,思
考の過程を可視化することが求められる。その点では,今回の評価方法では身に付けさ
せたい力を適切に評価できていなかったかもしれないということが反省点として挙げ
られた。
そのため,グループ協議中の発言を観察して評価を行うことも必要ではないかとの意
見が出た。ただ,観察による評価に対しては,全員を一斉に評価できないため,公平性
に課題があるとの意見もあり,より妥当性のある評価方法を研究することが求められる。
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