「第九」 といえば年末の風物詩。12 月も下旬となればほとんど毎日のようにどこかで 「第九」 が演奏されています。 しかしこの 習 慣 は日本独 自のもの。1940年 の大 晦日、ドイツの指 揮 者 ヨーゼフ・ローゼンシュトック が 新 交 響 楽団(現 在のNHK 交 響 楽 団 )と演奏した「第九」が、 ラジオで全国に放送されたことをきっかけに、 暮 れの「第九」演 奏が広まりました。海 外で は「 第九」は 音 楽 祭 や 新 し い ホ ール の オ ープ ン など 特 別 な 機 会 にしか 演 奏 されません 。 おそらく日本は 世界一「第九」が演奏される国でしょう。 交 響 曲 って な ん だ ろ う? ベートーヴェンは生 涯に 9 つの交 響 曲を書きました。交 響 曲とはオーケストラのため に書かれた長大な作品のこと。たとえば長 編小説に第 1 章、第 2 章、第 3 章といった章 立てがあるのと同様に、交 響 曲も第 1 楽章、第 2 楽章、第 3 楽章、第 4 楽章といったよ うに各章にわかれています。交 響 曲の楽章の数は 4 つが基 本。楽章ごとに速い曲や遅い曲、 迫 力のある曲ややさしい曲など異なる性 格を持っています。 ベートーヴェン以前にも交 響 曲を書いた作曲家はたくさんいます。モーツァルトは 40 曲 以上、ハイドンは 100 曲以上の交 響 曲を書きました。それに比 べると、ベートーヴェン の 9 曲は少ない気がしますよね。 しかし、クラシック音楽の歴史のなかで、ベートーヴェンの 9 曲の交 響 曲は圧 倒的な 存 在感を放っています。今も昔も世界中のオーケストラがくりかえし演 奏していて、人 気が 衰 える気配がまったくありません。 なぜ、そんなにもベートーヴェンの交 響 曲は偉 大なのか。一言で答えるのは難 しいの ですが、それまでにない強 烈な感 情表現をオーケストラで実 現したことがひとつの理由で しょう。聴 く人の心をゆさぶる熱い音のドラマが作品に込 められているのです。 「第九」って どういう曲 ? 「第九」はベートーヴェンが書いた 9 番目の交 響 曲、つまり最後の交 響 曲にあたります。 1824 年に完成され、この年、ウィーンのケルントナー・トーア劇 場で初めて演 奏されました。 演 奏は大成功を収め、満員の客席はベートーヴェンを熱 烈にたたえたといいます。指 揮台 にいたベートーヴェンは当時、すでに耳が聞こえなかったため、客席からの拍手に気づかず、 歌手から客席を向くようにうながされて、はじめて 聴 衆 の喝 采に気づいて腰をかがめたと いうエピソードが残っています。 「第九」の最大の特 徴は第 4 楽章に歌が入ること。通 常、交 響 曲とはオーケストラだけ で演 奏されるものですが、この曲では最後の第 4 楽章になると、合唱と 4 人の独 唱者が 登場します。ここで歌われるのがシラー作 詞の「歓喜の歌」。歌 詞には「すべての人々が兄 弟になる」という博愛の精神が込められています。 第 4 楽章では、それまでの 3 つの楽章で演 奏されたテーマが引用されます。そのうえで、 バリトン独 唱が「友よ、このような調べではない! もっと心地よい歌をうたおう」といっ て、 「歓喜の歌」が始まります。まるで過 去を振 り返り、未来へと思いをはせるかのよう。 理 想主義に燃える芸 術家の 姿 が浮かんできます。 文:飯尾洋一(音楽ライター)
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