中国国有石油企業の対外投資トレンド2016 ~規模拡大から“一帯一路”や国内供給など政策反映に~ 2016年7月21日 JOGMEC調査部 竹原 美佳 1 本日の内容 中国NOCs国外上流投資のトレンド 中国NOCs2015年の上流投資 中国NOCs対外投資の方向性 2 中国NOCsの国外上流投資のトレンド 企業 NOCs国外投資 活発化 ’05~ 08 NOCs NY・香港等 でIPO ’00~‘01 NOCs国外投資 開始 ‘93 需給 政策 ‘90s NOCs国外投資 資産・企業買収 減速 ’14~ ガス純輸入国 ’06 石油純輸入国 ’93 走出去 (国外進出 奨励)’96~ NOCs国外投資 資産・企業買収 急拡大 ’09 ~’13 石油産業 改革(二大 石油集団、 IPOへ)‘98 パッケージ投 資(Loan For Oil)’09~ ‘00s 国有企業 改革’13~ パッケージ 投資(一帯 一路)’13~ ‘10s 各種資料に基づきJOGMEC作成 中国国有石油企業(NOCs)の国外資産・企業買収は2009~2013年の急 拡大から2014年以降は急減速。主な要因は低油価、汚職取り締まり 3 参考:中国政府と国有石油企業 埋蔵量評価、探鉱 ライセンス プロジェクト、 産業政策、 価格 経営 貿易、契約関連 環境影響評価 4 国有石油会社の国外生産 国有石油会社国内外生産(2015年) 千boed 0 CNPC(PetroChina) 1,000 11% SINOPEC(Sinopec) 7% CNOOC Ltd 34% 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 親会社(グループ)傘下の主な国 外上流事業会社(中核上場子会 社を除く) CNPC:中国石油天然気勘探開発 公司(CNODC)、CNPCスーダン、 南米(ベネズエラ)、イラン、カザ フスタン、イラク SINOPEC:中国石化国際石油勘 探開発有限公司(Sinopec International) 72% 17% 57% 36% 66% ①中核上場子会社国外生産 ②グループ国外生産(①を除く) 国内生産は全て中核上場子会社 ③グループ国内生産 各社ウェブサイトにもとづきJOGMEC作成 ①中核上場子会社 ②親会社(グループ) CNPC 国外生産比率:28% (うちPetroChina11%) アルジェリア、イラク、チャド、 カザフスタン、ペルー イラク、エクアドル、オマーン、 カザフスタン、シリア、トルクメ ニスタン、南スーダン、ベネ ズエラ、ペルー他 SINOPEC 国外生産比率:43% (うちSinopec7%) アンゴラ、ロシア アンゴラ、イラン、カナダ、ガ ボン、コロンビア、ロシア他 CNOOC 国外生産比率:34% イラク、インドネシア、英国(北海)、カナダ、豪州、ナイジェリ ア、米国 5 参考:中国国有石油企業の国外上流投資のトレンド ~2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 北米非在来 (シェール・ オイルサンド 北米非在来 (オイルサンド) 中南米資産 買収 アフリカ深海資 産買収 ロシア、 中央アジア 資産買収 イラク投資 権益保 有国中・ 下流投 資 国家 ファンド の資源 投資 メジャー ズ資産 購入・ 提携 Loan for Oil 企業買 収 LNG+上 流権益 国有石油会社の国内生産 国内生産(原油,2015年) 陝西延長 6% 国内生産(天然ガス,2015年) 外資他 4% CNOOC 18% PetroChina 51% 外資等 19% 陝西延長 1% CNOOC 5% Sinopec 21% Sinopec 15% PetroChina 60% 新華社China OGP、国際石油経済、BP統計に基づき作成 主な生産地域(中国) PetoChina 陸上(東北、西部) Sinopec 陸上(東部、西部) CNOOC 海洋 国有石油会社(NOCs)3社は中国国内原油生産(431万b/d)の9割、天然ガス 生産(13,348MMcfd≒234万b/d)の8割を占める 7 国外投資資産・企業買収急拡大(’09~’13) CNPC SINOPEC CNOOC ・Eniの東アフリカ資産 (Area4権益20%を含 む)42.1億ドル(2013 年) ・Kazmunaigasから Conocophillipsのカシャ ガン権益8.3% 50億ド ル(2013年) ・Addax買収 88.19億 ドル(2009年) ・ConocoPhillipsのオイ ルサンド資産 46.5億 ドル(2010年) Repsolブラジル資産の 40% 71億ドル(2010 年) ・Galpのブラジル子会 社株式51.8億ドル (2011年) ・加Nexenを179億ドル (2012年) 各種資料に基づき作成、買収金額(負債を含む場合もある)、時期は合意段階 ’09~’13は高額の国外上流資産・企業買収(M&A)が相次ぎ、M&A投 資額は年150~250億ドル、世界の上流M&Aの10%前後に達した。 特にSINOPECが積極的なM&Aを実施。国内成長の限界により、開発資 産・企業の買収による性急な規模拡大を図った側面がある。 8 低油価による減益、投資抑制(’15~) 上流投資額推移(2013~2016 年予算,百万ドル) 純利益推移(2013~2015年,百万ドル) 25,000 40,000 -30% -9% 20,000 30,000 -65% 15,000 -9% 10,000 -67% 10,000 5,000 0 PetroChina Sinopec 2013年 2014年 Corp. CNOOC Ltd. -39% -13% -33% -12% 20,000 0 PetroChina 2015年 2013年 Sinopec 2014年 2015年 CNOOC Ltd 2016年(予算) 各社年報に基づき作成、1ドル≒6.29元、上流投資額2016年は予算 低油価は特に上流比率の高い PetroChinaとCNOOC Ltdの収益を直撃 NOC3社は2015年に続き2016年も上流 投資を抑制(国内の高コスト、成熟油田 の生産を止めるなど投資抑制、絞り込 みを進めている。) 中核子会社3社の上流投資抑制はグループ全体の収益・投資に影響 ’09~’13のような高額の国外上流投資は当面抑制の見通し 9 CNOOCの探鉱開発投資額 探鉱開発投資額推移(百万ドル) 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 国内探鉱開発 国外探鉱開発 探鉱開発投資額 2015年は国内46%減、国外29% 2016年(予算)は国内16%減、国外9%減 10 参考:中国国有石油企業の事業 ①グループ全体 CNPC 売上 純利益 SINOPEC 売上 純利益 CNOOC 売上 純利益 320,629 8,941 ②中核子会社 (①に占める比率) ②の主な事業分野 274,313 探鉱開発、精製、輸 (86%) 送、販売 5,647 (63%) 技術サービス、エンジニ アリング、ロジスティクス、 (地域油ガス田、製油 海外事業、R&D、調査、 所、パイプライン輸送、 出版他 石油製品販売) 459,449 320,967 探鉱開発、精製、輸 (70%) 送、販売 7,178 5,157 所、石油製品販売) (72%) 67,739 6,561 ②以外の主な事業部門 (地域油ガス田、製油 27,255 探鉱開発 (40%) (地域油ガス田) 3,219 (49%) エンジニアリング、海外 事業、R&D、調査、金融、 出版他 海洋技術サービス(掘削、 物理探査等)エンジニア リング、Gas & Power (LNG)、精製石化、販売、 R&D、金融、保険他 各社年報に基づき作成、売上、純利益は2015年(百万ドル) 1ドル≒6.29元 中核子会社がグループ全体の売上、純利益の7割前後を占める (CNOOC Ltdは他の2社に比べ2015年は低い。2014年は7割前後) 11 汚職取り締まり (腐敗一掃と権限掌握) 2013年8月以降、特にCNPC(PetroChina)幹部が汚職取り締まりの対象とな り更迭(海外事業関連幹部が複数更迭) 2013年8月、蒋潔敏(Jiang Jieming)国有資産監督管理委員会主任(元CNPC会長) 2015年3月、寥永遠(Liao Yongyuan)CNPC総経理 2013年8月、CNODC総経理薄启亮(Bo Qiliang) 2013年10月、CNPCインドネシア総経理魏志剛(Wei zhigang) 2014年4月、CNPCイラン公司総経理張本全(Zhang Benquan) 2014年4月、CNODC総経理閻存章(Yan cunzhang) 2014年7月、CNODC副総経理宋亦武(Song yiwu) 2014年7月、CNPCカナダ李智明(Lizhiming)、賈暁霞(Jia xiaoxia) SINOPEC・CNOOC 2014年11月、CNOOC Gas & Power GM羅偉中(Luo Weizhong) 2015年4月、CNOOC副総経理呉振芳(Wu Zhenfang) 2014年12月、Sinopec石油工程服務公司(エンジニアリング)副会長・総経理薛万東(Xue Wandong) 2015年4月、SINOPEC王天普(Wang Tianpu)社長 (企業発表または報道) 幹部、国外上流事業責任者の更迭により同社の国外上流投資の意思 決定は保守的かつ政府の意向を強く意識したものに。 12 2015年の国外上流投資(上流M&A) 国外上流M&A投資額(合意):約25億ドル(金額未公表のものを除く) シルクロード基金による出資(合意):30億ドル 特徴 金額の減少:M&Aの年間投資額が150~250億ドルに達したピーク時 (2009~2013年)に比べ大幅な減速。 NOCsによる投資の減少:NOCsによる投資は半分(全てSINOPEC)、残り は民間のBlue Whale、Geo-Gadeなど。 主な対象地域:ロシア・中央アジア 権益取得・資産買収約21.5億ドル ・6月(合意):Sinopec、露LukoilからCaspian Investment ResourcesのJV権益50%(10.7億ドル) ・9月(合意):Sinopec、露Rosneftと東シベリアYurubcheno-Tokhomskoye field、ヤマル-ネネツ自治 管区Russkoye fieldにおける共同開発について覚書(HoA)を締結。 企業買収(株式取得) 3.4億ドル ・8月(合意):Geo-Jade Petroleum、カザフスタンKoZhan Joint Stock Company買収(3.4億ドル) ・9月(合意):Sinopecは露Rosneft傘下のEast Siberian Oil and Gas Co.およびTyumenneftegas株式 49%買収 各種報道、企業発表に基づき作成 13 2015年の国外上流投資 (政府系ファンドによる外貨準備金活用) 「シルクロード基金」(Silk Road Fund;SRF) 設立:2014年12月 資本金100億ドル 外貨準備と国家ファンド、政策性銀行による出資 (外貨準備65億ドル、残りは中国輸出入銀行(The Export-Import Bank of China)、中国投資有限責任公司(China Investment Corporation China ;CIC) が各15億ドル、中国国家開発銀行(China Development Bank;CDB)が5億ド ルを出資。 投資原則:「一帯一路( Belt and Road)」の枠組みにおいて中国と相手国の 開発戦略に合致するものを対象とし、市場原理に基づき中長期の安定・合 理的な投資回収を目指す。 *一帯一路: 2013年9月、習近平国家主席が「シルクロード経済ベルト構想」を発表。 2015年3月、国家発展改革委員会、外交部、商務部が「一帯一路構想の原則・枠組 み・協力優先分野・メカニズムに関する行動計画」を発表。 一帯は陸上のシルクロード(ロシア・中央アジア地域~欧州) 一路は海上のシルクロード(東南アジア~欧州・アフリカ) 政府系ファンドの外貨準備金活用 30億ドル ・12月:シルクロード基金、Yamal LNGの権益9.9%を11億ドルで取得 ・12月(合意):シルクロード基金は、カザフスタンの油田生産および関連投資向けに20億ドル を出資、中国・カザフ生産能力協力特別基金を設立 14 国外権益生産量・自主開発比率(推計) 万boed 中国自主開発比率推計(2010~2015年) 300 100% 250 80% 200 60% 150 40% 100 NOC3社の国外権益生産量 (2015年):約276万boed 前年比9%増 2005年比5.5倍 2010年比約2倍増加 20% 50 0 0% 2010年 2011年 2012年 国外権益(原油・ガス) 2013年 2014年 2015年 自主開発比率*(2015年推 計):64% 自主開発(原油・ガス) 出所:各社年報ならびに海関統計、China OGP、国際石油経済、BP統計に基づきJOGMEC推計 *中国に自主開発比率の石油・天然ガス引き取り量 の定義や統計は存在しないが、生産量(中国企業 の国内生産+国外権益生産量)/需要量(国内生産+純輸入量)で計算 日本の自主開発石油・天然ガス引き取り量(平成27年度)は146.4万boed、自主開発比率は27.2% 15 国外権益生産量・自主開発比率(推計) 万boed 中国自主開発比率推計(2010~2015年) 300 100% 250 80% 200 60% 150 40% 100 20% 50 0 0% 2010年 2011年 国外権益(原油) 2012年 国外権益(ガス) 2013年 2014年 自主開発(原油) 2015年 輸入比率 原油(2015年):62% 天然ガス(2015年):34% 自主開発比率 原油(2015年推計):59% 天然ガス(2015年推計):84% 国内持ち込み量は不明 自主開発(ガス) 出所:各社年報ならびに海関統計、China OGP、国際石油経済、BP統計に基づきJOGMEC推計 *中国に自主開発比率の石油・天然ガス引き取り量 の定義や統計は存在しないが、生産量(中国企業 の国内生産+国外権益生産量)/需要量(国内生産+純輸入量)で計算 権益生産量の国内持ち込み量は不明 自主開発天然ガスの引き取り量は比較的高い(CNPCがトルクメニスタン保有 鉱区で生産した天然ガスを、中央アジアパイプラインを通じ輸入) 自主開発原油のうち、経済合理性に基づき一部の権益原油(北海やナイ ジェリアなど)は国際市場で売却 16 政策の変化の国外上流投資への影響 混合所有制(国有企業への国有〈異業種〉、集団、民間企業による資 本参加)政策に基づく組織再編 ・Sinopec:製品小売事業再編 ・PetroChina:パイプライン、ガス小売り、エンジニアリング事業再編 →一連の国有石油企業改革による再編作業も国外投資制約要因に なっているのではないか? 国有企業改革の検討 ・政府はNOCsのパフォーマンスに不満。3社を上流、下流、海洋専業に 再構築することを検討 ・エネルギーセキュリティが再浮上、NOCsの国外権益原油(現在はそ の多くが国際市場で販売)の中国国内への持ち込みの奨励を検討。 →新規投資に心理的な抑制が働くのではないか? 検証することは難しいが、習近平政権による石油産業や国有企業政策 の変化はNOCsの投資に影響を及ぼしているのではないかと思われる 17 対外投資の方向性 事例①ロシア 2016年6月、プーチン訪中、中露首脳会談後両国はインフラ整備及びエネルギー開発など 30以上の合意文書に署名。 ・Beijing EnterpriseとRosneft:Verkhnechonskプロジェクト ・CNPCとGazprom:天然ガス地下貯蔵や中国におけるガス火力発電の協力 ・SinopecはRosneft:東シベリアにおけるガス処理・石油化学施設の建設(共同でプレFS実 施)について枠組み合意 事例②モザンビーク 2016年5月、CNPCはモザンビーク炭化水素公社(ENH)と石油・天然ガスの探査開発、生産、 天然ガス処理、販売分野における協力協定に調印。CNPCはモザンビークの探鉱開発プロ ジェクトへの参加とガス田サービスにおける協力を促進し、同国の石油産業における技術・ 経営能力の深化に関与(CNPCは2013年にEni から同国Area4権益20%を取得、油田サービ ス、エンジニアリング事業、物理探査、パイプライン建設、資機材供給に積極的に関与)。 事例③ナイジェリア 2016年6月、ナイジェリア代表団訪中、国営NNPCは中国の複数企業と石油・ガスインフラ 投資に関する初歩的な協定(provisional agreements)を締結(China North Industries Corp<Norinco>., ChemChina, Sinopec、CNOOCを含む) 協定の範囲は老朽化した製油所の改修、ガスパイプライン建設などナイジェリアのエネル ギーインフラ全て。総額800億ドルとされるが詳細未詳。 一帯一路やインフラ・サービスのパッケージ輸出など政策に合致 したプロジェクトが進行中(その多くが枠組み合意)。 18 まとめ 国有石油企業(NOCs)は2009年~2013年頃まで高額の国外資産・企業 買収(M&A)を展開。特に国内における成長に限界があるSinopecや CNOOCは国外M&Aによる規模拡大を図ってきた。しかし2014年以降 NOCsによるM&Aは急減速。主な要因は低油価、汚職取り締まり、政策 の変化(国外投資の質的向上、国有石油企業改革)にあると思われる。 NOCsによる国外上流M&Aの投資額は2015年に最盛期の4分の1に低下、 2016年も低迷。NOCsの投資対象はロシアなど“一帯一路(One belt-One road)”に集中。 低油価下環境の下、中国NOCの対外投資は抑制傾向。当面 “一帯一 路”や中下流インフラ整備を含むパッケージ投資など、政策や国内供給 に資する事業に対象を絞り取り組むと思われる。 19
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