文 化 財 展 示 コ ー ナ ー 解説 №193 平成 28 年2・3月の展示:五十公野コミュニティセンター 〒957-0021 新発田市五十公野 4930-1 TEL 26-8139 平成 28 年4・5月の展示:市民文化会館 事務室前 〒957-0053 新発田市中央町 4-11-7 TEL 26-1576 平成 28 年6・7月の展示:猿橋コミュニティセンター1 階 エレベーター前 〒957-0061 新発田市住吉町 1-7-17 TEL 26-7060 < 植物が描かれた陶磁器 > 新発田城跡からは、中世から近世の陶磁器が数多く出土しています。特に、江戸時代の き か が く ぶん 陶磁器には、植物や動物、幾何学文などが描かれることが多く、その文様には当時の流行 しこう や嗜好(好み)が映し出されていると言えるでしょう。 今回は、安土桃山時代から江戸時代の陶磁器のうち、植物が描かれたものを紹介します。 ■ 絵唐津の大胆な表現 か ら つ やき 唐津焼は、1580 年代ころに佐賀県の唐津市南部で焼かれたのが 始まりと言われています。その後、唐津市から生産の中心が移り、 伊万里市や有田町のほか、長崎県北部でも焼かれました。 え か ら つ 唐津焼の一つに、鉄分を含む顔料で黒褐色の文様を描く絵唐津 ち ど り うさぎ があります。絵唐津には、草文や松文などの植物以外に、千鳥や兎 などの動物も描かれます。絵唐津の表現は、写実的な描写というより は、細い線と太い線とを組み合わせ、勢い良く筆を運ぶことに特徴が むこうづけ あります。新発田城跡出土の絵唐津向付(または小皿)の破片にも、 大胆に草文が描かれています。描かれた植物の種類は断定できませ よし んが、葦の可能性が考えられます。 かい せ き ぜん うつわ ※向付とは、会席料理の膳に配される器 で、和え物や酢の物、 さんしょう み 絵唐津 草文 向付(小皿か) そ 山椒味噌など簡単な料理を盛るときに使われます。 皿 ■ 肥前磁器のお手本となった青花 ひ ぜ ん じ き 肥前磁器とは、肥前(現在の佐賀県・長崎県)で焼かれた磁器のこと を呼びます。この地域で、1610 年ころに日本で初めて磁器が焼かれまし みん けいとくちん せい か た。その手本となったのが明(現、中国)の景徳鎮などで焼かれた青花 ご す あい (磁器)です。青花には呉須(酸化コバルト)を使用し、藍色の文様が描 き く ぼ た ん かれています。文様には、松・竹・梅や菊、牡丹などの植物が描かれ、 肥前磁器の文様にも非常に大きな影響を与えたと言われています。 い ま り ※当時、肥前磁器は伊万里港から出荷されたことから、伊万里(今利・ 青花 花唐草文 碗 今里とも)焼と呼ばれていました。現在では、産地名から伊万里焼や あ り た は さ み 有田焼(佐賀県)、波佐見焼(長崎県)などと呼ばれるものが、店で売られています。 ■ 日本人に親しまれている松・竹・梅 そめつけ 肥前磁器にも染付(呉須のよる絵付け)によって色々な文様が描かれます。文様として多く登場する さ い かん さんゆう 植物に、松・竹・梅があります。松・竹・梅は、いずれも冬の寒さに耐えるということから「歳寒の三友」と ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ も言われ、おめでたいものとして祝い事に用いられるなど、古くから日本人に親しまれた植物です。 わん ど う ぶ み こ み 松・竹・梅を組み合わせた文様は、碗の胴部や皿の見込(内面)に 描かれています。皿には、「環状に配した松竹梅文」がよく見られます。 また、松・竹・梅がそれぞれ単独に描かれることもあります。 器の部分名称 ■ 描かれた花・草 ひ ぜ ん じ き き く (『古伊万里の見方』より転載) 肥前磁器 では、松・竹・梅のほかに、菊 もよく描かれる植物です。 らん こうけつ 菊は、中国では四君子(菊・梅・竹・蘭)にたとえられる高潔な花で、 日本では皇室の紋章にされるなど、その美しさは高く評価されていま ひょうれつ す。菊文・菊花文には、様々な表現がみられますが、氷裂地に菊 花を散らす文様は、18 世紀後半ころに流行しました。 ぼ た ん てっせん つる く さ すいせん そのほかに、牡丹、鉄線(クレマチス)、蔓草、水仙も描かれます。 染付 菊花氷裂文 碗 新発田城跡からは出土していませんが、朝顔も文様になりました。 これらの花が描かれるようになった背景のひとつに、江戸時代の園 芸ブームがあるとも言われています。江戸時代には、観賞用の植物 しょうとく か せい 栽培が盛んになり、「正徳(1711~1716 年)の菊」、「化政(文化・文 政年間:1804~1830 年)の朝顔」などの一大ブームがありました。 実のところ、種類がよくわからない植物も多く描かれ、その場合は そ う か もん から はな 草文・草花文と呼んでいます。また、唐花文のように、現実に存在 染付 鉄線文 鉢 する花とは違い、花をモチーフに図案化された文様もあります。 珍しいものとしては、地上に生えた草のみならず、水辺や水中に生育する水草が描かれることもありま も て し お ざら す。新発田城跡の出土品には、水草(藻)と貝を組み合わせた文様の手塩皿があります。 ※皿は大きさ(口径)によって、手塩皿(11 ㎝未満)、小皿(11 ㎝以上、16 ㎝未満)、皿(16 ㎝以上、 30 ㎝未満)にわけられます。手塩皿は、塩や香の物(漬物)を盛るときに使われます。 ■ 唐草文の種類 つる 唐草文は、花と葉のついた蔓を律動感のある曲線で描いた文様です。陶磁器に限らず、 うるし そめもの ふ ろ し き 漆 工芸品や染物(風呂敷は有名)でも用いられる日本人には馴染みの文様です。唐草文 か には、特定の花を中心に添えた牡丹唐草文や菊唐草文のほかに、表現方法の違いにより鹿の こ たこ 子唐草文や、唐草の巻きが渦状になる蛸唐草文などがあり、その種類は実に豊富です。 (解説:石垣義則) 染付 唐草文 蓋 (通称 蛸唐草文) 染付 唐草文 蓋 染付 牡丹唐草文 鉢 <参考文献> 大橋康二監修 2014 『文様別 小皿・手塩皿図鑑』 青幻舎 佐賀県立九州陶磁文化館 2008 『古伊万里の見方シリーズ5 形と用途』 矢部良明編 2002 『角川日本陶磁大辞典』 角川書店 <担当> 新発田市教育委員会 文化行政課 埋蔵文化財係(整理室) 電話:0254-26-2163
© Copyright 2025 ExpyDoc