FRONTIERSCIENCES VOL.26 2 尾田 正二 准教授 生命科学研究系 Division of Biosciences 先端生命科学専攻 http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/K-medaka/TOP.html たかがメダカ、 されどメダカ ― メダカもどっこい生きている ― 々は毎日メダカをまじまじと観察 生き様をみて、与えられた環境において した結果、メダカも我々と(ほぼ)同 生存のためにベストを尽くし、少しでも じように「生きている」ことを発見しまし 上を目指す生き物としてのお手本をみ たので、ここにご報告しようと思います。 せてもらった感じです。 我 「メダカのことをじっとよくみる研究」 タイマー制御の照明が午前9時に点灯 すると飼育室のメダカの一日が始まると は、国際宇宙ステーションでメダカを健 思っていたのですが、調べてみたら違い 康に飼育するために始まりました。そも ました。 「めだか de モニタ」を改造して そも健康なメダカとはどんなメダカか思 メダカの活動を24時間モニタリングした 案した結果「ちゃんと普通に動く」メダカ ところ、照明が点灯する前から活動開始 であるとの結論に至りました。動物は「動 して日中は活発に活動し、午後5時をす く物」と書きます。つまり全ての動物は ぎるとまだ明るいのに(消灯時間は午後 「動いてなんぼ」なのであって、まっとう 11時)水槽の底に移動して静かになりま に動くことができれば「健康」であり、血 す。メダカも体内時計による自発的な概 液検査やCTの結果は文字通り体の状態 日リズムをもっていました。また心臓の の「結果」であるとの結論(境地?)に至 拍動を分析したところ、我々と同じよう りました。そして高解像度化したデジタ に交感神経が優位になると心拍は速く ル撮影機器と高性能化したパソコンとを なり、副交感神経優位になるとゆっくり コラボさせて、メダカの動きを数値化し になることがわかりました (図1)。つまり、 図1:自作した倒立実体顕微鏡(A)と透明メ ダカ(SK2)のお腹の拡大写真(B) 彼らも緊張すると胸がドキドキするもの 統計解析する研究スタイルが出来上が りました。本文の研究成果には JAXAと と考えられます。メダカは魚であり哺乳 突然変異系統も維持されています。その の共同研究の成果も含まれていて、宇宙 類である我々とは多くの部分が異なりま 中に胸ビレを欠損する pl という突然変 でのメダカを研究しようとしたら日常の すが、同じ脊椎動物として自律神経系の 異系統がありますが、ぱっと見では他の メダカを研究することになったという訳 ような生命維持の基本システムは共通し メダカと同じ様に普通に泳ぎます。そこ です。 「先端生命科学なのにメダカを見 ているのです。心拍測定では心臓が透け で、流しそうめん機を改造したメダカ用 てるだけ?」と聞かれることもあります て見える透明メダカ(SK2)を用いました 「流れるプール」で pl を巡航遊泳させた が、 「鋭端のみならず鈍端もまた先端な が、普通のメダカでも緊張状態を知る方 ところ、体躯の屈曲が微妙に乱れていま り。 」これからも身近なメダカの生き様を 法がありました。メダカは左右の胸ビレ した(図2)。通常メダカは体躯の回転を 一つ一つ数値化して、メダカが教えてく をいつもパタパタ動かしていますが、緊 胸ビレを使って修正しているのが、pl は れる生き物が生きる道を人間に伝える手 張するとパタパタが 2倍くらいに早くな 体躯をひねって対応しているものと想像 伝いをしていきたいと考えています。 ります。もしもメダカが胸ビレをせわしく されます。胸ビ 動かしていたら、ドキドキしているもの レがない条件下 と推測できますので、その旨気にしてあ で遊泳するため げていただけたら幸いです。 にplはこの泳ぎ 柏キャンパスの新領域屋外メダカ飼 方を習得したと 育場では、国内外から収集された野生 考えられますが、 集団由来のメダカ系統に加えて様々な そのような plの 図2:胸ビレのあるSK2メダカ(A)と胸ビレのない plメダカ(B)。 (C)巡航遊泳時の体躯の曲率の時間変化 Fro n t i e r Sci ences 9
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