ニュースレター7月28日発行

ERM Japan Newsletter
2016 年 7 月 28 日 発行
Headline
BREXIT による REACH 規則への影響
中国で土壌汚染防止と管理行動計画(土十条)公布
ビジネスと人権
2016 年 6 月 23 日の国民投票において、英国が EU を離脱することを
支持する結果となりました。これにより、今後英国は EU を離脱す
るものと考えられています。
欧州では REACH 規則が工業用化学品を管理する主要な法律として
施行されています。英国が EU を離脱する場合、この REACH 規則
の管轄からも離脱する可能性があります。
英国がどのように EU から離脱するのか、また、今後の EU との関
係をどのような立場とするのか、現時点で明確なことは分かりませ
んが、EEA(欧州経済地域)に留まるかどうかが大きなポイントと
なります。例えばノルウェーなどは EU には加盟していませんが、
EEA に含まれており、このような国は EU の立法には携わりません
が、EU の法規制に従うことになります。
もし、EEA にも留まらない場合、英国は REACH 規則の支配を受け
ることはなくなり、英国企業は REACH 規則での域外企業とみなさ
れることとなります。この場合、以下のような影響が考えられます。
英国企業において REACH 規則の登録が実施されている場合、
離脱後はその登録が有効ではなくなる可能性があるため、別
の欧州域内企業もしくは OR(唯一代理人)により登録が実施
されなければならなくなる。
2.
2016 年 5 月末、中国においてこれまで幾度となくレビュー・改訂さ
れてきていた「土壌汚染防止と管理行動計画(土十条)」が正式に
公布されました。これは土壌汚染防止と管理、土壌環境の改善に対
BREXIT による REACH 規則への影響
1.
中国で土壌汚染防止と管理行動計画(土十条)公布
英国内の OR を利用して登録が実施されている場合、英国の
EU 離脱後は REACH 規則における OR としてみなされなくな
るため、別の欧州域内 OR に登録等を委託しなおさなければな
らなくなる。
なお、REACH 規則では 2018 年 5 月に 1 トン以上 100 トン未満のト
ン数帯を有する物質の登録期限がありますが、離脱手続きにはかな
りの長期間がかかる見込みであるため、この登録期限までに離脱が
完了することはなく、英国企業であってもこの登録期限を遵守し、
登録を完了することが求められると考えられております。
する各種施策を盛り込んだ行動計画 10 ヶ条 35 項目を示したもので、
今後これに沿って各行政レベルでの各種法規制や基準値が整備・発
行されていくことになります。10 ヶ条を訳すと下記となります。
1 条. 土壌汚染調査実施と土壌環境品質の管理
2 条. 土壌汚染対策の法律の推進
3 条. 農用地管理を実施し、農作業に於ける環境安全を確保
4 条. 建設地へのアクセス管理を実施し、住民の環境リスクを防止
5 条. 非汚染土壌保護の促進と新規土壌汚染防止
6 条. 汚染源のモニタリング強化と土壌汚染防止
7 条. 汚染処理と浄化を実施し、地域での土壌環境品質を向上
8 条.科学技術と技術開発を奨励し、環境保護産業の発展を促進
9 条.行政を牽引役・中心とした土壌環境統括システムを構築
10 条.パフォーマンスレビューとアカウンタビリティー
土十条が目指すところは広い意味での土壌環境保護であり、農産物
の品質と安全な健康環境を確保することがおおきな2つの目的とな
っています。日本の土壌汚染対策法と異なる点として汚染農用地に
対する施策も多く含まれており、このことから中国政府として工業
由来の汚染と同程度、農用地での汚染についても今後力を入れて対
策をとろうとしている姿勢がうかがえます。
一方、中国に進出している日本企業に直接影響するものとして、工
業地の土壌汚染に関連する施策のうち、目標年が設定されているも
のがいくつかあります。たとえば、
 主要工業地について詳細土壌汚染調査を実施し、2020 年末までに
主要工業地の汚染エリアと環境リスクを把握する。(1 条 1 項)
 2018 年末までに土壌環境データのデータベースを構築する。
(1 条 3 項)
 2020 年までに土壌汚染防止の法令と規制システムを構築する。
日本企業への影響
まず、英国が EU を正式に離脱するまでは引き続き EU の法規制に
従う必要があることに注意する必要があります。今後、英国が EU
との関係をどのように構築するかにより、REACH 規則への対応は
変化しますが、現在有しているサプライチェーンが英国を通るもの
かどうか確認し、また、OR を利用して REACH 登録を実施してい
る企業は OR が英国にないか確認することにより、自社への影響可
能性について把握しておくことを推奨します。また、2018 年の登録
期限への対応は、従来と変わらず推進することを推奨いたします。
(高村 比呂典)
(2 条 4 項)
 土壌汚染防止の関連標準や技術ガイダンスを向上し、2017 年末ま
でに建設用地の土壌環境品質標準を確立する。(2 条 5 項)
 2016 年末までに、建設地における土壌環境調査と評価の技術的法
規制を構築する。非鉄金属製錬、石油精製、化学工業、コークス
業、皮なめし業、電気めっき業として使用している土地を返還し、
住宅、商業、学校、医療サービス、介護施設に転用する場合、
2017 年より土地使用者が土壌環境状況についての評価の責任を持
つ。重篤に汚染された農用地で建設地に転用されたものについて
ERM 日本株式会社
〒220-8119 横浜市西区みなとみらい 2-2-1 横浜ランドマークタワー 19 階
Tel: 045-640-3780 Fax: 045-640-3781 e-mail: [email protected]
URL: www.erm.co.jp
ERM Japan Newsletter
2016 年 7 月 28 日 発行
活用について制度が設けられるようである(9 条 28 項)。
は、2018 年よりこの土地を管理する市と郡レベルの人民行政が調
査と評価の責任を持つ。(4 条 2 項)
 2017 年より、地元行政が汚染地リストと開発制限リストを作成し、
日本企業への影響
土壌汚染調査と評価に基づいた土地使用目的を適正に決定する。
土壌関連の法規制について、これまではガイドラインや方針書のレ
(4 条 2 項)
ベルで留まっていた中国において、この土十条が正式公布されたこ
 2017 年より、地元行政と主要産業事業者とが土壌汚染防止と管理
とによって今後いよいよ明確化、最終化されることになります。ま
に関する責任所在表明書にサインし、手段と責任を公表すること
た、これらの施策の責任が各地方行政に配分され、各行政のサイン
で明確化する。(5 条 16 項)
入りのコミットメントを求めていることから、地方行政も本腰を入
 主要産業に於ける重金属の排出は 2013 年対比で 10%削減する。
れて各種施策の整備、制定に動くものと考えられます。特に、2020
(6 条 18 項)
年までに様々な観点の法規制や管理ツールが整備される予定になっ
 各省は農産物や住民環境の安全に影響を与える特筆すべき土壌汚
ており(廃棄物の管理等も厳密化される可能性があります)、中国
染に着目し、汚染処理と浄化計画を立て、主要タスク、責任者の
に進出している日本企業にとっては動向を注視する必要があります。
抽出、年間実施計画、プロジェクトデータベースを 2017 年までに
特に、主要産業として指定されている非鉄金属製錬、石油精製、化
構築する。(7 条 22 項)
学工業、コークス業、皮なめし業、電気めっき業については、土十
 2020 年までに管理と浄化を受けた汚染地の面積が 1 千万 Mu を達

条の中でも各所で言及があり、今後の規制強化が想定されます。今
成する。土壌汚染対策と浄化についての生涯責任を設定し、責任
後これらの主要産業が中国からの撤退などで土地返還をする際には、
調査についての手法や方針を 2017 年末までに発行する。(7 条 23
2017 年より調査の責任はそれまでの使用者として設定されるため、
項)
調査、評価をした上で汚染があった場合には浄化まで実施した上で
2017 年末までに土壌汚染管理と浄化結果についての評価手法を
の撤退が必要となります。
導入する。(7 条 24 項)
(茂呂 正樹)
 (各レベルでの地元行政において)土壌汚染管理計画を 2016 年末
までに構築、公表し、重要タスクや目標を設定する。(10 条 32
ビジネスと人権
項)
企業と人権の関わりはビジネスにおける様々な場面で議論されて
 2016 年末までに各省の行政は、サイン付きの責任表明書を持って
地元行政に各種タスクを担当させ、年次で主要な作業の進捗評価
います。2011 年 6 月、様々なステークホルダーとの議論のもと、企
を複数の省、自治区で実施し、2020 年にこの活動のパフォーマン
業に焦点をあてて纏められた「ビジネスと人権に関する指導原則」
スレビューを実施する。(10 条 35 項)
が国連において全会一致で承認されて以来、本原則は、近年、企業
と人権の関わりに関する原則として重要な役割を担っています。指
今回公布されたこの土十条と日本における土壌汚染対策とのアプロ
導原則は、企業活動と人権問題が深刻化する現状において、多国籍
ーチの差について考えると、下記があげられます。
企業等の経済的アクターがもたらす負の側面とそれを適切にコント
・日本の土壌汚染対策法では、土壌汚染の状況把握、措置および人
ロールできない国際社会側の能力とのギャップがその原因と捉え、
の健康に関わる被害の防止に関する措置を定めており、土壌汚染が
そのギャップをなくしていくことを目的として作成されており、構
発生してからのその後を意識したアプローチとなっていますが、土
成は 1)人権を保護する国家の義務、2)人権を尊重する企業の責任、
十条では発生してからのアプローチに加え、発生を抑制させる土壌
3)(人権侵害が生じた際の)救済へのアクセス、の 3 つの要素で成
汚染防止の観点が含まれる(第 6 条や第 8 条)。
りたっています。指導原則が承認された翌年の 2012 年からは「ビジ
・中国中央政府は方針の設定や透明性の確保に対して主体的にかか
ネスと人権フォーラム」が毎年開催され、指導原則の普及が図られ
わり、具体的な行動計画の設定や運用は各地方政府が実施する(10
ています。また、2015 年 6 月に開催された G7 エルマウサミットの
条 32 項)。ただし、各地方政府間での運用レベルに大きな差が出な
首脳宣言においても指導原則が支持されており、指導原則に基づく
いよう、調整をし、環境保護局がこの統括と管理を実施する(10 条
国別行動計画の策定努力の歓迎、指導原則に沿った民間部門の人権
33 項)。
に関するデュー・ディリジェンスの履行要請、サプライ・チェーン
・日本では法的調査と自主調査の 2 つの区分が存在するが、中国で
に関するデュー・ディリジェンス実施奨励が述べられています。
指導原則をどのように運用・実行していくのか、各国政府が立案
は現状(ベースライン)を把握することも土十条にて言及されてお
り(1 条 1 項)、今後ベースライン調査が必要となる可能性がある。
し執行する国別行動計画は、これまで、英国、オランダ、デンマー
・土十条では汚染原因者負担の原則が明記され(7 条 21 項)、一方
クを初めとする 10 カ国において策定されています。また、米国、ア
で汚染原因者が特定できないものについては財政的な支援や基金の
ルゼンチン、ドイツ等の 19 カ国において策定作業を開始、または策
ERM 日本株式会社
〒220-8119 横浜市西区みなとみらい 2-2-1 横浜ランドマークタワー 19 階
Tel: 045-640-3780 Fax: 045-640-3781 e-mail: [email protected]
URL: www.erm.co.jp
ERM Japan Newsletter
2016 年 7 月 28 日 発行
定意図を表明しています。国別行動計画が策定されることにより、
政府の指導原則へのコミットメントが明示されます。それにより、
企業は、政府によるビジネスと人権に関する一定の方針のもとで、
独自に指導原則を活用することが可能となります。日本においては
まだ国別行動計画の策定に至っていませんが、今後、日本が指導原
則をどのように活かし、グローバルな期待にどう応えていくべきか
注目が集まっています。
日本企業への影響
上記のとおり、ビジネスと人権に関する指導原則は企業や組織に新
たな規制を課すものではなく、人権を尊重したビジネス展開のため
の原則であり、各企業や組織におけるオペレーションに活用するこ
とができます。そのため、指導原則を認識した責任あるサプライチ
ェーンの推進や人権デューデリジェンス等の取り組みが、各企業に
おいても独自に実施されつつあります。世界的にこの取り組みは広
がっており、各国にてビジネスを展開する際には、当該国で適用す
べき法を遵守し国際的な方針を考慮した上で、国際的に認められた
人権尊重のための取り組みが求められることとなります。
(伊木 露草子)
ERM では、弊社ホームページに人材の募集情報を掲載しています。
URL: www.erm.co.jp
Newsletter 全般に関するお問い合わせ
[email protected]
次回の Newsletter は、2016 年 10 月 27 日頃発行予定
ERM 日本株式会社
〒220-8119 横浜市西区みなとみらい 2-2-1 横浜ランドマークタワー 19 階
Tel: 045-640-3780 Fax: 045-640-3781 e-mail: [email protected]
URL: www.erm.co.jp