iii) MYCN Tg

分子生物学研究室
担当 岸田 聡 先生
下記ホームページを参照しておいてください。
http://www.med.nagoya-u.ac.jp/biochem/research/NBL.html
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神経芽腫研究グループ
執筆者:岸田 聡 助教
i) 小児がんである神経芽腫の発生背景
神経芽腫は、頭蓋外では最も症例の多い小児悪性固形腫瘍であり、主に副腎髄質や交感神経節といっ
た組織から発生します。
一般的に、成人がんは高齢になるほど罹患率が高くなりますが、これは発がん
要因が多様であり、それに曝されるリスクが経時的に蓄積していくこととして想像することができま
す。
一方、小児がんである神経芽腫の場合は、罹患率が年齢と共に上昇する訳ではなく、罹患数も成人
がんより圧倒的に少なくなっています。
このことは、両者の成り立ちが根本的に異なっていることを示
唆しています。
神経芽腫の起源となる細胞は、胚発生初期に生じる神経堤に由来します。
神経堤には、将来メラニン
細胞や腸神経、感覚神経等に分化する細胞が含まれていますが、その中で神経芽腫の起源となるのは将
来交感神経へと分化する細胞に限られています。
つまり、神経堤細胞ががん化して神経芽腫細胞となる
に当たっては、交感神経へと正常に分化していくレールに乗ることがまず必要であり、その行程におい
て、ある特定の異常が起こった際にがん化すると考えられます。
現在までに、神経芽腫への関与が考えられる二つの遺伝子、転写因子MYCNと受容体チロシンキナー
ゼALKが明らかになっています。
MYCNは特に古くから神経芽腫への関わりが研究されており、2030%の症例で見られるMYCN遺伝子の増幅は、現状では確実な予後不良因子となっています。
一方
でALKは、家族性神経芽腫における原因遺伝子であることが近年明らかになり、弧発性の神経芽腫も含
めて、高活性型となるいくつかの点変異が報告されています。
現在のところ、神経芽腫発生の引き金は
「異所的なMYCNの発現」であるという可能性が有力で、神経堤細胞から交感神経への分化過程のある
特定のタイミングでMYCNが異常な発現をした場合に、神経芽腫が発生すると考えられます。
ii) 神経芽腫の動物モデルと、その意義
基礎研究に用いる神経芽腫のモデル動
物としては、交感神経特異的な酵素であ
るTyrosine Hydroxylase (TH)のプロモー
ターからMYCN遺伝子を発現させるトラ
ンスジェニック (Tg) マウスが作成されて
います。
神経堤細胞が交感神経へと分化
する運命を獲得し、マーカーの一つであ
るTHを発現するタイミングで同時
にMYCNを発現させるこのマウスでは、
交感神経節の一つである上腸間膜神経節
から、神経芽腫を自然発症します(上写
file:///C/Users/0180936B/Desktop/NBL.html[2016/07/27 17:51:01]
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真)。 前述のように、神経芽腫の成り立ちはおそらく成人がんとは根本的に異なっており、交感神経の
正常な発生・分化のメカニズムに則っていると考えられます。
交感神経の発生も含めた胚発生のメカニ
ズムは、ヒトとマウスの間で高度に保存されていることから、このMYCN Tgマウスにおけるヒト神経芽
腫の再現性は極めて高い筈です。
私達はこのマウスに基づき、以下のような観点から神経芽腫を司る分
子メカニズムにアプローチしています。
iii) MYCN Tgマウスに基づいた神経芽腫の発生と自然退縮へのアプ
ローチ
私達がMYCN Tgマウスにおいて注目しているのは神経芽腫の「発生」と「自然退縮」です。
自然退縮
とは、転移も来して末期の様相を呈している腫瘍でさえ、何も治療を行わなくても「自然」に「退縮」
して治ってしまう現象です。
神経芽腫においては、末期を示すステージ4とspecialのSを組み合わせて
「ステージ4S」と分類され、特によく知られています。
この自然退縮の分子メカニズムを明らかにする
ことで、それを人工的に誘導するという治療法への応用が期待できます。
私達はこれまでに一部
のMYCN Tgマウスにおいても、自然退縮を想起させる現象(下記b)を見出しており、この動物モデルが
神経芽腫の発生だけでなく、自然退縮を解析する上でも有用であると考えています。
a. 発生へのアプローチ
MYCN Tgマウスにおいて神経芽腫が発生する前後の時期の組織サンプルを採材し、正常な組織と比較
して発現が変化している遺伝子を網羅的に同定しています。
b. 自然退縮へのアプローチ
これから確実に自然退縮を起こすとわかっているマウスを特定できれば、そのマウスにおける遺伝子
の働きを直接検討できるのですが、現状では不可能です。
一方で、全ての2週齢MYCN Tgマウスが初期
がん病変を持ち、うち7割のマウスは後に神経芽腫を発症して死亡しますが、残り3割は最終的にがんを
免れるということがわかってきました。
つまりこの後者3割において自然退縮様の現象が起こっているこ
とになります。
2週齢の時点で、その発現量によってマウスを二群に分けられるような遺伝子が同定でき
れば、それが自然退縮に関わっている可能性が大いに考えられます。
これら発生と自然退縮の両方に関わってくるコンセプトが「がん幹細胞」です。
神経
芽腫の「発生」とは「がん幹細胞の誕生」と同義と言えるかもしれませんし、自然退縮
するか否かもがん幹細胞の有無(あるいは幹細胞性の強弱)で決定されている可能性が
あります。
in vitroで幹細胞を選択的に培養する方法としてsphereの形成が知られていま
すが(右写真)、私達はがん幹細胞をより効率良く選択培養できる条件を検討し、その
プロファイルを明らかにすることを目指しています。
参考文献
1. Kishida S, Mu P, Miyakawa S, Fujiwara M, Abe T, Sakamoto K, Onishi A, Nakamura Y, Kadomatsu K.
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Kadomatsu K. The neuronal differentiation factor NeuroD1 downregulates the neuronal repellent factor
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2003 May 19;88(10):1522-6.
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