文部科学省委託事業「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」に関する 事業仕分け結果について 「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」は、政府の行政刷新会議に おける「事業仕分け」の対象となりました。今まで皮膚科も関わってきた「子 どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」に関して、 「事業仕分け」ワーキン ググループの評価決定は、国として事業を行わないと決定されました(11 月 11 日)。 「事業仕分け」ワーキンググループの評価結果の詳細は、廃止 5 名、自治体/ 民間 6 名、来年度の予算計上は見送り 1 名、予算要求通り 1 名であり、国で行 う必要性がないという寂しい結論となったのです。 一方、文部科学省は、 “事業仕分けを契機として、多くの国民の声を予算編成 に生かしていく観点から、今回行政刷新会議の事業仕分けの対象となった事業 について広く意見を募集する”との見解が示されました。 「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」は、学校現場と各科の専門 医師を繫ぐものであり、児童生徒のこころと体の健康を守るシステムであると 認識されています。そして、この事業が国によって実施されることにより、全 国の学校において専門の医師が直接、児童生徒の健康問題を解決することが可 能になってくるのです。 「学校医」でない皮膚科医にとって、 「子どもの健康を守る地域専門家総合連 携事業」は、皮膚科の学校保健活動を遂行する上できわめて重要な事業と考え られ、早急に下記のごとく意見を述べましたので、会員の皆様にご報告します。 「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」の廃止は皮膚科における学校 保健活動を衰退あるいは消滅させます! 事業番号 3−8(2) 事業名 子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業 日本臨床皮膚科医会学校保健委員会担当常任理事 医療法人はっとり皮膚科医院 服部 瑛 日本臨床皮膚科医会会長 医療法人社団友篤会浦安皮膚科 加藤友衛 はじめに このたび「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」に関する「事業仕 分け」ワーキンググループの評価結果は、国として事業を行わないとの決定が なされました。きわめて残念な結果であり、このことは皮膚科における学校保 健活動の危機でもあり、今後の学校保健の衰退が予測される重大な事態と考え られます。 以下、学校保健活動の経緯も含め、皮膚科として説明させていただきます。 専門校医制度の発足 従来、内科(小児科)、眼科、耳鼻科の3科のみが「学校医」を担ってきまし た。しかし、児童生徒や教職員を取り巻く環境の変化に伴い、皮膚科などの専 門性の高い学校保健への取り組みが求められているのです。その問題の取り組 みの端緒が、「学校医」的な側面も持たせた専門校医(専門相談医)制度です。 皮膚科をはじめとして、精神科、産婦人科、整形外科の 4 科からその活動が開 始されました。具体的には、精神科は心の問題、いじめや薬物乱用において、 整形外科がスポーツ外傷、筋骨格系の発達異常で、産婦人科は性に関する問題、 そして皮膚科はアトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー疾患や紫外線の皮 膚への障害、おしゃれ障害、学校感染症などにおいて、専門的な立場でこれら の対応が求められていることをまずご理解ください。 こうした「専門校医制度」の必要性・重要性が確認された後、発展的にさら に領域を広げた立場で、平成 20 年度より「子どもの健康を守る地域専門家総合 連携事業」がモデル事業化されました 皮膚科の取り組み 皮膚科においても学校保健活動は必須であるとの見解から、平成 5 年より日 本臨床皮膚科医会は学校保健委員会を立ち上げ、全国各都道府県に学校保健担 当医を配置することで全国規模での学校保健活動を開始しました。その後、平 成 19 年には日本小児皮膚科学会においても学校保健委員会が活動を開始し、さ らに昨年、日本皮膚科学会に関する学校保健委員会ワーキンググループが組織 され、皮膚科領域における学校保健活動のネットワークが構築されました。そ して、3 学会がお互いに連携しながら学校保健活動に着手しているのが現状であ り、その際「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」は、皮膚科の学校 保健活動における大切な拠り所となっていたのです。 評価者へのコメントについて 今回行政刷新会議「事業仕分け」において「子どもの健康を守る地域専門家 総合連携事業」が「国として事業を行わない」と評価され、評価者のコメント がHP上に掲載されました。 以下皮膚科として、それぞれのコメントへ意見を述べたいと思います。 ・ おざなりなモデル事業をするより現実の問題に対応すべき。 上記のように皮膚科関連 3 学会が連携しながら現実の問題に真剣に対処してい るところです。おざなりという不謹慎な発言は、現場で真摯に取り組んでいる 皮膚科医にとっては看過できない由々しき発言と考えられます。現在、47 都道 府県の学校保健担当医との合同会議を定期的に開催し、皮膚科としての学校保 健活動の全国的な推進を図っており、さしせまった健康問題に対応すべく、各 地域において皮膚科専門校医の学校への派遣指導・助言はもとより、教職員・ PTA等に対しての研修会・講演会も積極的に行い、事業を展開しているとこ ろです。 ・ 子どものメンタルヘルスをどのように対応していくかは、文部科学省、厚生 労働省で一体となって取り組み、新たな事業を創るべきと考える。 「専門校医制度」をモデル事業した際に十分に検討された結果、今回の「子ど もの健康を守る地域専門家総合連携事業」が発展的に構築された経緯がありま す。 「新たな事業」とは一体何を指しているのですか。メンタルヘルスはもちろ んですが、アレルギー疾患や性の問題は無視してよいのですか。また、平成 20 年度より学校生活におけるアレルギー疾患に対応すべく開始された「学校生活 管理指導表(アレルギー疾患用)」での運用との整合性はどうのように考えてい るのでしょうか。 ・ 現場に立脚していない。専門医のアドバイスを受けたいのならば、養護教諭 が放課後に教えを請えばよい。 私たちは現在、現場に立脚すべくほぼ無報酬で対応しているのです。養護教諭 がどのように教えを請うのですか。私たちはその時診療中なのです。総論的な 対応ではなく、児童個々のきめ細かな専門医が必要になってきます。それらの 活動を円滑にするために、 「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」が存 在する意味があるのです。 ・ 内容を組みなおすのであればOK。基本的には地方への委譲。 長年に亘り試行錯誤して検討された結果です。簡単に組みなおすと言われます が、それならば組みなおす内容をぜひ具体的にお示しください。地方に委譲す ることにより地域間格差を生じ、かえって混乱が生じます。 ・ この事業自体は不要だが、メンタルヘルスの駆け込み寺的対応の仕組みなら ばOK メンタルヘルスだけが必要なわけではなく、これまでの経緯から4科、あるい はそれ以外の専門家の活動が必要とされているのです。この事業がなければ皮 膚科の学校保健活動は消滅してしまいます。メンタルヘルスとは異なるアトピ ー性皮膚炎などの対応にはどうお考えなのでしょうか。 ・ 追加の税金をかけないやり方で地域の取り組みを強化。 学校保健は子どもの健康を守る大切な原点なのです。将来を託する子どもに手 当てをする民主党のマニフェストの趣旨と同義だと理解してください。 ・ 他省庁施設・地方と合わせ、事業として総合化すべき。 そのためにまず総合化された「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」 が存在するのではないでしょうか。 ・ 広域対応を含め、自治体と学校でネットワークを作る。 多くの学校は文部科学省管轄です。自治体と学校でネットワークとは一体なに を指しているのですか。地域分権にしなさいということですか。 ・ 地域の実情(児童生徒の状況、専門医の存在、確保)によって、対応が大き く変わる。交付金又は交付税対応が適当ではないか。 学校保健に地域の実情が異なってはいけないのです。地域によって多少対応が 異なる可能性はありますが、国民(児童生徒)は等しく同等の健康管理を享受 する権利があると考えます。 ・ 現場実態に即した運営形態を探るべき。エマージェンシー対応力、危機対応 力が試されている。 学校保健は、エマージェンシー、危機対応力ばかりではないのです。例えば、 アトピー性皮膚炎での病気悪化への予防対策や学校感染症、いじめ・登校拒否 などの問題への解決は非常に高度な対応が必要となります。こうした対応も学 校保健では大切なことなのです。 ・ 本気で取り組むべき問題である。モデル事業でなく、学校現場での課題を検 証し直す必要はある。 その通りです。まさに正論で嬉しいご意見です。そのために文部科学省は、全 国の公立小、中、高等学校でアレルギー疾患の調査研究を行い、その結果学校 現場での課題を具体的に検証しました(「アレルギー疾患に関する調査研究報告 書」,平成 19 年 3 月)。 ・ もっと本格的な精神科の緊急チームを各都道府県にほしい。 学校保健は、精神科だけが特に必要なわけではないのです。これからは多くの、 皮膚科も含めた臨床医が関わっていかなければならない大切な課題です。精神 科に行く前に、私たちがそれぞれの分野で手立てをする必要があるのです。そ のために「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」は、必要な、とても 大切な事業と考えられます。 おわりに 皮膚科における学校保健活動を通して、今回の「子どもの健康を守る地域専 門家総合連携事業」を考えてみました。評価者のコメントは残念ながら私たち の意図、活動を無視しているとしかいえません。さらにあまりにも理解がなさ すぎます。 皮膚科医は、医師として学校保健活動を推進したいのです。しかし「学校医」 でないことから学校保健活動がまったくできない状態にあるのが現状なのです。 「専門校医制度」から始まって、 「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」 でようやく脇役ながらも「学校医」としての立場が皮膚科として可能になって くるのです。皮膚科医、そして「学校医」以外の他科が学校保健にアプローチ することは、医師として求められる責務の一つなのだと、私は理解しておりま す。 どうか学校保健に関して、現状を正しく把握されることを心から願っており ます。
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