前年比で投資額の 減少傾向が継続 ジャパン・キャピタル・フロー 2016年第2四半期 • 日本の2016年第2四半期の投資額は、前年同期比4%増の8,030億円 (米ドル建てでは前年同期比17% 増の75億ドル) となった。2016年上半期の投資額は、前年同期比18%減の1兆9,000億円 (米ドル建てで は前年同期比12%減の171億ドル) となった。 コンテンツ エグゼクティブ・サマリー 1 取得者別分析(Who?) 2 ファクター(Why?) 3 注記および用語説明 4 概要(Overall) • 日本国内の商業用不動産に対する投資意欲は国内外投資家を含め非常に高いものの、依然として 物件の市場供給が限定的な状況が続いている。 また売手買手間の期待する価格にギャップがある状 況も続いている。 マイナス金利導入以降、金融機関の貸出意欲は高まっており、物件保有者をしてリ ファイナンスを容易にせしめる環境も市場取引成立を阻害する要因になっているものと考えられる。 • 投資家属性別にみると、今期も上場リートによる物件取得の動きが目立った。 マイナス金利導入後、 日経平均を大きくアウトパフォームしているREIT投資口価格はリートの資金調達環境をさらに良化さ せており、2016年上半期の上場リートよる不動産取引量は前年同期比で増加、投資額全体の44%を 占めた。一方、私募ファンドによる投資額は4,000億円となり、前年同期比で48%減少した。 • セクター別に投資額をみると、 2016年上半期は新規リート上場の動きもあった物流施設への投資額 が3,700億円となり前年同期比62%の大幅増加となった。 また、今四半期において大型取引もみられ たホテルに対する投資額も前年比で増加している。 エリア別の投資額割合は東京圏で全体の68%、 その他エリアで32%となっており、昨年に引き続き地方圏への投資が拡大している。 セクター、 エリア分析(What, Where?) 予測(Outlook) 2 3 4 お問い合わせ先 赤城 威志 リサーチ事業部長 03 5501 9235 [email protected] 伊藤 翔 リサーチ事業部 マネージャー 03 5501 9248 [email protected] More information • 日本の商業用不動産投資額は、2015年に前年比で減少し、 2016年上半期においても前年同期比で減 少となった。国内外投資家による投資意欲は衰えていないものの、限定的な物件供給を背景に2016 http://www.joneslanglasalle.co.jp/japan/ja-jp/research www.joneslanglasallesites.com/gcf 年通年の投資額は前年比で減少することが予測される。 JLLは2016年の日本国内商業用不動産投資 額を前年比5%減の3.9兆円程度になるものと予測している。 August 2016 2016年第2四半期の代表的取引 取引時点 物件名 2016/6 インベスコオフィスポートフォリオ (5物件) 2016/2 2016/4 六本木ヒルズ森タワー 2016/6 上野イーストタワー(共有持分60%) 2016/5 ホテル グランパシフィック LE DAIBA 2016/4 ケネディクス商業リート ポートフォリオ(7物件) 2016/4 浦和ロイヤルパインズホテル セクター オフィス、 ホテル 価格 売主 買主 約492億円 インベスコ・オフィス・ジェイ リート投資法人出資のSPC、GIC インベスコ・オフィス・ ジェイリート投資法人 オフィス 461億円 森ビル 森ヒルズリート投資法人 オフィス、 ホテル 216億円 三井不動産のSPC 日本ビルファンド投資法人 ホテル 不明 京浜急行電鉄 ヒューリック株式会社 グランブルー合同会社 商業施設等 約271億円 ケネディクスのSPC 近藤紡績所等 ケネディクス商業リート投資法人 ホテル 175億円 合同会社ユーアールピー ユナイテッド・アーバン投資法人 1 Who? Overall 四半期の投資額は前年比で増加 堅調に続く上場リートによる取得 日本国内投資額 金利低下により上場リートによる物件取得が堅調 日本の2016年第2四半期の投資額は、 前年同期比4%増の8,030億円 (米ドル建 てでは前年同期比17%増の75億ドル) となった。 2016年上半期の投資額は、 前 年同期比18%減の1兆9,000億円 (米ドル建てでは前年同期比12%減の171億ド ル) となった。 日本国内の商業用不動産に対する投資意欲は国内外投資家を含め非常に高 いものの、 依然として物件の市場供給が限定的な状況が続いている。 また売 手買手間の期待する価格にギャップがある状況も続いている。 マイナス金利導 入以降、 金融機関の貸出意欲は高まっており、 物件保有者をしてリファイナン スを容易にせしめる環境も市場取引成立を阻害する要因になっているものと 考えられる。 投資家属性別にみると、今期も上場リートによる物件取得の動きが目立っ た。 マイナス金利導入後、 日経平均を大きくアウトパフォームしているREIT投 資口価格はリートの資金調達環境をさらに良化させており、 2016年上半期の 上場リートよる不動産取引量は前年同期比で増加、投資額全体の44%を占 めた。2016年上半期の上場リートによる取引額は8,300億円となり、前年比で 20%増加した。一方、私募ファンドによる投資額は4,000億円となり、前年同期 比で48%減少している。今四半期においては、インベスコ・オフィス・ジェイ リート投資法人が同投資法人出資のSPC等から492億円で5物件を取得する などの動きがあった。 世界の都市別投資額ランキング 限定的な物件供給により海外投資家投資額は減少 世界都市別に投資額をみると、 東京都内の2016年上半期の投資額は68億ドル となり世界第5位となった。 2015年上半期には世界3位の座を維持していたが、 東京都内における物件供給が限定的であることにより投資額は前年比で減少 し順位を落とした。 アジア太平洋地域に限定すると依然東京がトップとなっている。 しかし、 ソウル やシンガポールが僅差で東京に次ぐ投資額を記録しており、 同地域での東京 の地位を脅かす存在となっている。 図表 1 日本国内の投資総額推移 図表 3 購入者属性別投資額割合 100% (10億円) 8,000 7,000 80% 6,000 70% 5,000 60% 4,000 50% 3,000 40% 43% 29% 2008 2009 2010 2011 2Q 2012 2013 2014 3Q 2015 2016 33% 18% 30% 7% 15% 16% 25% 30% 29% 18% 9% 0% 2007 4Q 出所 : JLL 32% 14% 33% 10% 2007 39% 25% 30% 20% 1Q 2008 2009 上場リート 38% 38% 2011 2012 16% 23% 19% 25% 19% 10% 21% 36% 27% 44% 45% 31% 26% 17% 2010 10% 22% 26% 2013 2014 私募ファンド 不動産会社 2015 その他 2016H1 出所 : JLL 図表 2 都市別投資総額ランキング (2016年上半期) 図表 4 海外投資家投資額推移 (10億米ドル) (10億円) 3,000 ニューヨーク ロンドン 2,500 ロサンゼルス 35% 2,000 パリ 東京 1,500 ソウル 20% 1,000 ワシントンDC シンガポール アメリカ大陸 EMEA アジア太平洋地域 シカゴ ボストン 0 出所 : JLL 22% 30% 1,000 0 9% 90% 2,000 2 2016年第上半期の海外投資家による投資額は2,300億円となり、前四半期比 で52%の減少となった。海外投資家による投資額が全体投資額に占める割 合は12%と前年比で低下し、2013年と同レベルとなっている。物件の市場供 給が限定的な状況を背景に、物件供給パイプラインを持たない海外投資家 による新規の物件取得は難しい状況が続いている。 ただし、安定したリター ンを見込める国内資産に対する海外投資家の投資意欲は依然として高い。 さらにBREXITを経て世界全体で不透明感漂う中、 日本の不動産市場はセー フヘイブンとしてその安定性が強く認識されつつあり、投資需要もさらに高 まっている。 今期においては、 メットライフ生命保険がオリナスタワーの持分を追加取得 するなどの取得事例がみられた。 5 10 15 20 25 11% 500 0 30 19% 2007 2008 2009 18% 20% 12% 2012 2013 12% 4% 2010 2011 海外投資家による不動産購入額(全国) 出所 : JLL 22% 2014 2015 2016H1 海外投資家割合(%) What? Where? Why? 物流施設、ホテルに対する関心の高まり 金利低下によりさらに広がるイールドギャップ 物流施設、 ホテルに対する投資額が増加 金利低下によりさらなる拡大を続けるイールドギャップ セクター別に投資額をみると、2016年上半期は新規リート上場の動きもあっ た物流施設への投資額が3,700億円となり前年同期比62%の大幅増加となっ た。 また、 ヒューリック株式会社等によるホテル グランパシフィック LE DAIBA の取得やその他リートによる取得も活発となったホテルに対する投資額も前 年比で増加している。 いずれも今後の成長が期待されるセクターとなってお り、今後も投資額は増加傾向で推移するものとみられる。上半期においては、 物流施設の多くの取引が上場リートとそのスポンサー間の取引となっている が、現在各デベロッパーによる新規開発案件が目白押しであり、市場ストック 自体の拡大が今後の新たな投資機会の創出につながることが期待される。 一方、都心における物件供給が限定的となっているオフィスやリテールに対 する投資額は前年同期比で減少となっている。 投資は東京以外の地域に拡大傾向 都心5区内の物件に対する投資額割合は都心における限定的な物件供給に より昨年一年間と比較して減少し28%となった。 5区を除く東京都内の物件 に対する投資額割合は前年同期比横ばいの15%とばなっている。一方、東京 都を除く東京圏 (神奈川、 千葉、 埼玉) に存する物件に対する投資額割合は25 %となり昨年比で拡大している。今四半期においてはユナイテッド・アーバン 投資法人が浦和ロイヤルパインズホテルを取得するなどの動きがあった。 投資額割合は東京圏で全体の68%、 その他エリアで32%となっており、昨年 に引き続き地方圏への投資が拡大している。地方圏の投資額拡大には物流 施設やホテルに対する投資額増加が大きく寄与している。 図表 5 セクター別投資額割合推移 22% 19% 19% 76% 55% 10% 20% 3% 15% 400 20% 12% 30% 2007 2008 2009 2010 オフィス リテール 62% 41% 58% 51% 41% 2011 2012 物流施設 2013 2014 ホテル 2015 2016H1 その他 47% 10% 0% 2007 2008 東京都5区 大阪圏 出所 : JLL 2009 13% 60% 52% 38% 32% 15% 45% 39% 28% 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016H1 (5区除く)東京都内 (東京都除く)東京圏 名古屋圏 福岡圏 その他 5.0% 10 4.5% 0 4.0% - 10 3.5% - 20 3.0% - 30 2.5% - 40 ーAグレードオフィス利回り ーBグレードオフィス利回り 金融機関の貸出態度(不動産・全規模) ー 出所 : JLL, 日本銀行 2Q16 49% 15% 20 1Q16 20% 62% 25% 5.5% 3Q15 30% 19% 30 1Q15 18% 40% 12% 6.0% 3Q14 50% 25% 9% 6% 4% 1Q14 19% 3% 3% 1% 8% 3% 10% 3% 12% 13% 3Q13 14% 60% 図表 8 東京オフィスキャップレートと日銀短観 金融機関の貸出態度 2% 1% 3% 1% 4% 4% 0% 5% 1% 3% 2% 8% 2% 2% 4% 12% 3% 9% 12% 9% 7% 14% 9% 22% 14% 24% 21% 26% 1Q13 8% ー香港 ーニューヨーク ーロンドン 3Q12 12% ーシンガポール 3Q11 70% ー東京 出所 : JLL, Thomson Reuters 1Q12 80% 6% 8% 3% 3% 1% 3% 13% 14% 90% 0 -100 図表 6 地域別投資額割合 100% 200 1Q11 出所 : JLL 300 100 67% 10% 0% (bps) 500 3Q10 49% 5% 7% 1Q10 64% 20% 4% 5% 9% 3Q09 22% 40% 20% 35% 4% 6% 25% 50% 30% 3% 2% 1Q09 16% 3% 3% 5% 3Q08 60% 6% 9% 4% 8% 1Q08 70% 18% 4% 4% 6% 9% 3Q07 80% 5% 8% 7% 図表 7 主要都市のイールドスプレッド推移(Aグレードオフィスvs10年物国債利回り) 4Q07 1Q08 2Q08 3Q08 4Q08 1Q09 2Q09 3Q09 4Q09 1Q10 2Q10 3Q10 4Q10 1Q11 2Q11 3Q11 4Q11 1Q12 2Q12 3Q12 4Q12 1Q13 2Q13 3Q13 4Q13 1Q14 2Q14 3Q14 4Q14 1Q15 2Q15 3Q15 4Q15 1Q16 2Q16 90% 4% 積極的な金融機関の貸出態度 日本銀行が公表する短観によると、不動産業に対する金融機関の貸出態度 は2009年の前半を底として改善を続けている。 マイナス金利導入により金融 機関の貸出姿勢はさらに積極的となっており、前回市場ピークである2007年 の10を大きく上回る20となっている。積極的な貸出姿勢と低金利は不動産 キャップレートの低下をもたらす要因の一つとなっており、直近において東京 AグレードおよびBグレードオフィスのキャップレートは前回市場ピークであ る2007年当時よりも低い水準となりさらに低下傾向で推移している。 ただし、 不動産キャップレートと金利水準とのギャップは大きく開いており、将来にお ける更なる若干のキャップレート低下余地はあるものと判断される。 1Q07 100% 東京Aグレードオフィスにかかる不動産のキャップレートと10年物国債利回り との差で表されるイールドギャップは2016年6月末で318 bpsとなり、前四半期 比で15bps程度拡大した。 オフィスキャップレートは前四半期比で横ばいと なったが、 マイナス金利導入以降10年物国債利回りは低下を続けていること によりギャップがさらに拡大した。 世界的な金利水準の低下により他国の主要都市においてもイールドギャッ プは拡大しているものの、東京オフィスは依然として高い自己資金利回りを 確保できる状態にあり、 インカム重視のファンド等にとっては魅力的な投資 対象となっているものと考えられる。 3 Outlook 2015年比で投資額の減少を予測 キャップレート低下、価格上昇が継続 低金利と金融機関の貸出意欲の高まりを背景に歴史的な低水準にある キャップレートは年末にかけて若干低下するものと考えられる。短期的には 都心のオフィスやリテールを中心とした賃料上昇も相まって、不動産の価格 上昇は継続するものと予測される。 図表 9 大陸ごとの投資額推移および予測 (10億米ドル) 800 10-15% 700 600 500 400 J-REITによる物件取得は継続見込 2016年内には三井不動産ロジスティクスパーク投資法人 (資産規模755億円) の上場等が予定されており、 上場リートによる堅調な物件取得は継続していく ものと予測される。 ただし、 物件の市場供給が限定的な状況は今後も続いてい くことが予測される。 したがって、 物件供給パイプラインを持たない投資家によ る物件取得は難しい状況が続くであろう。 2016年内の投資額は前年比で横ばい推移 10-15% 20-25% 300 15% 200 100 0 アメリカ大陸 出所 : JLL EMEA アジア太平洋地域 グローバル 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (予測) JLLは、 2016年通年の世界の商業用不動産投資額の見通しを前年比10-15%減 少の6,000-6,300億ドルとみている。 アジア太平洋地域についても同様に前年比 10%減少の1,000-1,200億ドルとみている。 日本の商業用不動産投資額は、 2015年に前年比で減少し、 2016年上半期にお いても前年同期比で減少となった。 国内外投資家による投資意欲は衰えてい ないものの、 限定的な物件供給を背景に2016年通年の投資額は前年比で減少 することが予測される。 JLLは2016年通年の日本の商業用不動産投資額を前年 比5%減の3.9兆円程度になるものと予測している。 注記および用語説明 個別の商業用不動産あるいは資産ポートフォリオ(あるいは資産を保有する特別目的会社の株式) の取得商業用不動産への直接投 資に含まれるもの • 500 万米ドルを超えるすべての取引 • カバーしているセクターは、オフィス、リテール、ホテル(カジノを含む)、インダストリアル、複合用途、 その他(介護施設、学生寮を含む) 不動産の直接投資 データにはREIT 組成を含む、以下の条件を満たした不動産会社のM&A が含まれる • 実質的に不動産取引である • 不動産以外の主要資産(労働力、知的所有権、のれん代など) が譲渡されない • 収入の70% 以上を直接的な賃料収入から得ている • 取引により、所有権の大幅(30% 以上) な変更が生じる • 取引は「市場価格」で行われる • IPO 価格で新たな投資家に売却した比率のみが含まれる 商業用不動産への直接投資に含まれないもの • 法人単位の取引、開発案件、集合住宅への投資 4 法人単位の取引 企業による資産取得で、不動産資産以外の主要資産(労働力、知的所有権、のれん代など) が譲渡される場合のことを指す。 例えば、REITの非公開化や「グループ企業間での取引」- 企業が株式の過半数を保有する子会社に不動産を売却する場合など 開発案件 「将来の」開発計画や「土地」取引として分類される取引を指す アジア太平洋地域 オーストラリア、中国、香港、インド、インドネシア、日本、マカオ、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポー ル、韓国、台湾、ベトナム、タイの不動産への直接投資をカバー 欧州 ベルギー、ブルガリア、クロアチア、チェコ共和国、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、アイスランド、イタリア、 ルクセンブルク、オランダ、ポーランド、ルーマニア、ロシア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、ト ルコ、英国の不動産に対する直接投資をカバー 中東およびアフリカ バーレーン、イスラエル、クウェート、レバノン、カタール、サウジアラビア、UAE の不動産に対する直接投資をカバー アフリカでは、エジプトと南アフリカをカバー アメリカ大陸 カナダと米国の不動産に対する直接投資をカバー。アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、メキシコ、パナ マ、ペルーへの直接不動産投資については部分的にカバー 日本国内地域分類 東京都5区:千代田区・中央区・港区・渋谷区・新宿区、 東京圏:東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県、 大阪圏:大阪府・京都 府・兵庫県・奈良県、 名古屋圏:愛知県・岐阜県・三重県、 福岡圏:九州各県 為替レート 取引額を米ドル建てに換算する上では、取引が行われた四半期の平均為替レートを用いている グロスアップ 市場カバレッジを反映させるため、取引額はグロスアップしている
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