トキソプラズマ感染による宿主動物の行動変化のしくみを

帯
プレス発表資料
広
畜
産
大
学
OBIHIRO UNIVERSITY OF AGRICULTURE AND VETERINARY MEDICINE
E
平成28 年 8月 8日
報道関係者各位
国立大学法人帯広畜産大学
トキソプラズマ感染による宿主動物の行動変化のしくみを解明
【リリース概要】
国立大学法人帯広畜産大学原虫病研究センター 准教授 西川 義文、日本学術
振 興 会 特 別 研 究 員 ( DC1) 猪 原 史 成 ら の 研 究 グ ル ー プ は 、 病 原 性 寄 生 虫 ト キ ソ
プラズマの感染により宿主動物の記憶に障害が生じることを明らかにしました。
【研究の背景】
ト キ ソ プ ラ ズ マ ( Toxoplasma gondii ) は 世 界 人 口 の 3 分 の 1 の ヒ ト 、 及 び ほ
乳 類・鳥 類 に 感 染 し て い る 細 胞 内 寄 生 性 原 虫( 単 細 胞 の 寄 生 虫 )で す 。免 疫 機 能
が 正 常 な 成 人 に 感 染 し た 場 合 は 無 症 状 で す が 、脳 や 筋 肉 に 潜 伏 感 染 を 続 け る こ と
が 知 ら れ て い ま す 。さ ら に 、ト キ ソ プ ラ ズ マ 感 染 が 統 合 失 調 症 、う つ 病 、ア ル ツ
ハ イ マ ー 症 な ど の 発 症 リ ス ク と な る 可 能 性 が 推 測 さ れ て い ま す 。ま た ト キ ソ プ ラ
ズマの慢性感染が、ヒトの行動や性格に影響を及ぼすことも報告されています。
マウスを用いた実験では天敵であるネコの匂いに対する嫌悪感が減少すること
が知られており、感染による宿主動物の行動変化が示唆されています。しかし、
ト キ ソ プ ラ ズ マ 感 染 が 脳 神 経 系 に 与 え る 影 響 は 不 明 で あ り 、神 経・精 神 疾 患 の 発
症や行動異常に至るメカニズムも解明されていません。
【 本 研 究 成 果 が 社 会 に 与 え る 影 響 ( 本 研 究 成 果 の 意 義 )】
我 々 は マ ウ ス の 実 験 モ デ ル に お い て 、ト キ ソ プ ラ ズ マ 感 染 に よ り 障 害 さ れ る 脳
領 域 、お よ び 恐 怖 記 憶 に 関 与 す る 神 経 機 能 の 異 常 を 明 ら か に し ま し た 。こ の 研 究
成 果 は 、ト キ ソ プ ラ ズ マ 感 染 が 引 き 起 こ す 宿 主 動 物 の 神 経 系 障 害 メ カ ニ ズ ム を 理
解 し 、有 効 な 治 療 法 や 予 防 法 の 開 発 に つ な が る 有 益 な 科 学 的 知 見 と な り ま す 。今
後の研究により、寄生生物による宿主動物の行動操作メカニズム、感染症と神
経・精神疾患との関連性が明らかにされることが期待されます。
【特記事項】
本 研 究 は 、 最 先 端 ・ 次 世 代 研 究 開 発 支 援 プ ロ グ ラ ム ( 内 閣 府 )、 挑 戦 的 萌 芽 研
究 、お よ び 特 別 研 究 員 奨 励 費 の 支 援 の も と 、帯 広 畜 産 大 学 に お い て 実 施 さ れ ま し
た 。 な お 、 本 研 究 成 果 は 米 国 科 学 誌 に 掲 載 予 定 で 、 第 159 回 日 本 獣 医 学 会 学 術
集会にて発表を予定しています。
【研究の詳細な説明】
ト キ ソ プ ラ ズ マ 感 染 に よ り 感 染 動 物 の 様 々 な 行 動 変 化 が 推 測 さ れ ま す が 、そ れ
ら に 関 係 す る 脳 領 域 や 神 経 機 能 の 異 常 は よ く わ か っ て い ま せ ん 。そ こ で 本 研 究 で
は 実 験 マ ウ ス の 行 動 変 化 、脳 組 織 、神 経 機 能 を 解 析 し 、ト キ ソ プ ラ ズ マ が 宿 主 動
物の行動を操作するしくみを明らかにすることを目的としました。
行 動 測 定 の 結 果 、ト キ ソ プ ラ ズ マ 感 染 に よ り マ ウ ス の 恐 怖 記 憶 が 障 害 さ れ る こ
と が 明 ら か と な り ま し た 。恐 怖 記 憶 の 形 成 に 重 要 な 脳 領 域 に 大 脳 皮 質 と 扁 桃 体 が
あ り ま す 。感 染 マ ウ ス の 大 脳 皮 質 に は 組 織 障 害 が 認 め ら れ 、記 憶 に 不 可 欠 な 神 経
伝 達 物 質 で あ る ド パ ミ ン の 消 費 が 増 加 し て い ま し た 。ま た 感 染 マ ウ ス の 扁 桃 体 で
は 、精 神 安 定 の 維 持 に 必 要 と さ れ る セ ロ ト ニ ン が 減 少 し て い ま し た 。こ の よ う な
神 経 伝 達 物 質 の バ ラ ン ス が 崩 れ る こ と で 神 経 機 能 の 低 下 が 起 こ り 、感 染 マ ウ ス の
記憶能力が低下したものと考えられます。
本 研 究 に よ っ て 、ト キ ソ プ ラ ズ マ 感 染 に よ る 宿 主 動 物 の 行 動 変 化 の 新 た な し く
み が 明 ら か と な り ま し た 。今 回 の 研 究 で 見 出 さ れ た 大 脳 皮 質 の 機 能 低 下 や 神 経 伝
達 物 質 の バ ラ ン ス 異 常 は 、統 合 失 調 症 や う つ 病 な ど の ヒ ト の 精 神 疾 患 と も 類 似 し
た 病 態 で す 。今 後 の 研 究 に よ り 、ト キ ソ プ ラ ズ マ 感 染 と ヒ ト の 神 経・精 神 疾 患 と
の関連性を明らかにしていくことが重要であると考えます。
【連絡先】
国立大学法人帯広畜産大学
原虫病研究センター
准教授 西川 義文
電 話:0 1 5 5 - 4 9 - 5 8 8 6
FAX: 0 1 5 5 - 4 9 - 5 6 4 3