ひらがな・カタカナ表記が与える印象の違い―ポジティブ・ネガティブの

ひらがな・カタカナ表記が与える印象の違い
―ポジティブ・ネガティブの視点から―
18090127
主担当教員
1. はじめに
本研究では、ひらがな・カタカナ表記において
感情の伝達力がどのように異なるのか明らかにす
ることを目的としている。実際お店に足を運んで
みると、商品の説明をするポップに、感情を表す
ひらがなやカタカナ表記の形容詞が漢字よりも多
数用いられているのを見かける。そこで表記を使
い分けていることを疑問に思い、どちらの表記が
より伝達力に優れているのか調査をおこなう。
松本 夢歩
星英仁准教授 副担当教員 大森崇准教授
カナ形容詞であることが分かった。伝達性が高い
順に並べると「ポジティブカタカナ>ポジティブ
ひらがな>ネガティブひらがな>ネガティブカタ
カナ」となる。
2. 先行研究
杉島・賀集(1992)は表記形態間において内包
的意味に差が生じる原因を、表記頻度(表記の使
用頻度)と固有の視覚的特徴の影響であるとして
いる。さらに、杉島・賀集(1992)や成田・榊原
(2004)はカタカナには特別な意味があるとして
いる。則松・堀尾(2006)はカタカナには、若者
特有の感覚・感性・感情を示す傾向にあり、心理
的側面を反映していると論じている。
これらを踏まえ、本研究の仮説は「カタカナは
ひらがなよりも感情の伝達力が強い」とする。
3. 分析
3.1 分析データ
大学生を対象に SD 法を用いたアンケート調査
を行った。対象となる言葉は、感情や感覚を示す
ポジティブな形容詞 10 個(ひらがな 5 個・カタカ
ナ 5 個)
・ネガティブな形容詞 10 個(ひらがな 5
個・カタカナ 5 個)である。これを 11 形容詞対・
7 段階評価を用い、回答を求めた。
3.2 分析方法
収集したデータを点数化し、因子分析・クラス
タ分析・t 検定の分析を行う。因子分析ではいくつ
かの共通因子を探り、クラスタ分析では類似する
ものをグループ化する。t 検定ではセマンティック
プロフィールを作成し、視覚的に特徴をとらえる。
3.3 分析結果
因子分析では 3 つの共通因子が求められ、それ
ぞれ表面性(言葉の形のイメージ)
・伝達性(言葉
の伝わり具合)・内面性(言葉の中身のイメージ)
とした。伝達性が最も高くなる言葉は、表面性の
値を低くとり、かつ内面性の値を高くとるポジテ
ィブカタカナ形容詞であることが分かった。また
逆に、伝達性が最も低い言葉は表面性の値を低く
とり、かつ内面性の値を低くとるネガティブカタ
表面性と伝達性の関係
4. 考察
伝達性を高める言葉はポジティブな言葉である
ため、言葉の内面のイメージが非常に重要になる。
ポジティブな言葉では、カタカナが伝達性に優れ
るが、ネガティブな言葉ではひらがなが伝達性に
優れていた。これはカタカナが意味を強調してい
る傾向があることから、カタカナを使用すること
でネガティブな言葉をさらに強めてしまう可能性
があるため、使用が敬遠されるためではないかと
考えられる。
5. おわりに
カタカナは伝達力を高める一因ではあるものの、
言葉がポジティブであるか、ネガティブであるか
が重要であり、仮説が成り立つ言葉もあれば、成
り立たない言葉もあることが明らかになった。言
葉の使用方法や感情の受け取り方に関しては個人
によって異なるため、一概にどの言葉が伝達性に
優れるとは言えないことも明らかになった。
参考文献
杉島一郎, 賀集寛 (1992)「日本語における表記形態が
単語の内包的意味に及ぼす影響」
『人文論究』15-30.
成田徹男, 榊原浩之 (2004) 「現代日本語の表記体系と
表記戦略―カタカナの使い方の変化―」『人間文化研
究』41-55.
則松智子, 堀尾香代子 (2004) 「若者雑誌における常用
漢 字のカタカナ表記化―意味分析の観点から―」
『九
州市立文学部紀要』19-32.