BOJ Shimonoseki やまぐち さくらレポート 2016 年 8 月 当地における消費関連企業の販売動向と 販売戦略・価格設定行動 NO.1 2016年8月 日本銀行下関支店 日本銀行では、四半期ごとに国内支店等から収集した情報を基に、 「地域経済報告― さくらレポート ―」 (http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/index.htm/)を作成・公表しています。同レポートでは、 各地域の景気情勢のほか、その時々の問題意識に基づいて設定される共通テーマに関する調査(地域の 視点)も行っています。「やまぐち さくらレポート」は、その共通テーマに関して当店が本店に報告し た内容を基に、個別企業が特定できないようにするなど一定の修正を加えて作成したものです。 本ペーパーは、松本洸が作成しました。 内容に関する照会は、日本銀行下関支店総務課 (Tel:083-233-3113、E-mail:[email protected])までお寄せ下さい。 当地における消費関連企業の販売動向と販売戦略・価格設定行動 全国の個人消費は、消費税率引き上げによる落ち込みから持ち直し、底堅く推移してい ますが、年明け以降、力強さに欠ける状況がみられています。こうした中、今回は、個人 消費が共通テーマとして本店より示され、当店からは、以下を内容とする報告を行いまし た(4~6 月中に行ったヒアリング情報に基づいています)。 1.当地の消費関連企業の販売動向とその背景 (1)消費関連企業の販売動向 当地の消費関連企業の販売動向をみると、昨年までと比較し、改善度合いに減速感がみ られる。 すなわち、高額品は、百貨店や大型専門店を中心に、足もと伸び悩んでいるほか、スー パーでの食料品や日用品などで節約志向が強まっている。耐久消費財では、軽自動車が、 軽自動車税の引き上げに加え、燃費データ不正問題の影響もあって改善の兆しがみられな い。家電においても、デジタル家電が弱い動きとなっている。このほか、旅行では、熊本 地震の影響もあって新規獲得のペースが鈍っている。飲食では、宴会需要などにやや減速 感がみられる。 ―― なお、当地のインバウンド消費は、依然として低調であることに変化はない。 もっとも、特別な催事などのハレの日消費や体験型イベントなどでのコト消費、高機能 の白物家電の売れ行きなどは、引き続き堅調さを維持している。加えて、コンビニエンス ストアは、既存店でも客数・客単価とも前年を上回っているなど、個人消費の底堅さを示 す動きもみられている。 (2)消費者行動や消費マインドの特徴点 当地の個人消費は、前回の消費税率引き上げによって落ち込んで以降、徐々に持ち直し てきたものの、足もと、消費者マインドは慎重化しており、商品やサービス購入時の選別 度合いを一段と強めている印象。 ①消費者行動や消費者マインドの慎重化を示す事例と背景 企業ヒアリングでも、消費者行動や消費者マインド慎重化を示す声が多く聞かれる。具 体的には、 「以前は堅調であった高額品(茶器・絵画などの美術品や趣向性の強いブランド 衣料品など)が、足もとで減速している」とか、 「宴会需要は景気回復で盛り上がった前年 までと比較するとやや失速気味」といった声が聞かれる。このほか、 「原油安の恩恵(ガソ リン価格の低下)は、遠方からの来店増といった効果がみられるものの、全体として明確 な消費増加に結びついていない」、「昨年の値上げ以降、収入面で余裕の少ない年金生活者 や賃金上昇が小幅なファミリー層(勤労世帯)で節約志向・低価格志向が強まった」といっ た声も聞かれる。 また、以前と比較して“割安感”を求める動きが強まっている。 「タイムセール時(夕方 1 以降の惣菜など)や特売日の売上が増加」、「ポイントアップ日の売上ウェイトが一段と上 昇」との指摘がある。このほか、マイナス金利政策を契機として、利回りの高さに注目が 集まった積立金制度で利用者の増加がみられる。 (減速の背景) こうした背景としては、①昨年以降、食料品などで幅広く値上げが進行し生活防衛意識 が高まっていたこと、②そうした中で、年初来の株価下落や円高進行で政策面での限界が 意識されつつあること、③国内外での政治情勢の不透明感が漠然とした不安感をより一層 高めていることなどが指摘されている。 ―― なお、熊本地震についても、発生直後、消費者マインドを一段と悪化させた。もっ とも、東日本大震災と比較するとその影響は軽微なものに止まり、足もとでは熊本地 震の影響は剥落しつつある。 このほか、耐久消費財(乗用車、家電製品)では、中長期的にみて過去の消費喚起策な どの影響から相当数の需要が先食いされたため、足もとの需要の鈍さに繋がっているとみ られる。また、耐久消費財の機能性向上で買替サイクルが長期化していることや、スマー トフォンやタブレットのように爆発的にヒットした魅力的な新商品に乏しい足もとの情勢 では、消費者の支出増加は期待しづらいとの声も聞かれる。 ②消費の底堅さを示す事例と背景 消費者の目線が一段と厳しくなるなかにあっても、消費者が選別し価値を認めたものに 対する消費は引き続き堅調であるとの指摘が多い。具体的には、 「NHK 大河ドラマ終了で反 動減を不安視していたものの、1 泊 1 名 3~5 万円もする高級旅館がシニア夫婦の記念日需 要などで好調を維持」であるとか、 「卒入学日や母の日などのハレの日はワンランク上の食 料品の売行きが良い」、「一体感を味わえるプロスポーツのスタジアム観戦は県内における 新しいサービス提供であり、消費への波及効果も日増しに強くなっている印象」といった 声が聞かれる。 また、コンビニエンスストア、スーパーが運営する地方部の移動販売などでは、 「顧客が 利便性を重視しているため、節約・低価格よりは手軽さ、融通の良さが評価されている」 といった声も聞かれる。 (堅調さの背景) こうした堅調さの背景としては、過去からの貯蓄や所得増加などで余裕資金を抱えてい る人が潜在的に多いこと、自分で価値を認めた良質な商品・サービスに対しては支出を惜 しまない消費スタイルが相応に浸透していることが挙げられる。 2.消費関連企業の販売戦略・価格設定動向 消費関連企業では、従来からの施策を一段と深掘りすることで需要獲得を目指す動きが 継続している。具体的には、小売業では県内市場寡占化に向けドミナント戦略(新規出店・ 改装)を強化している先、サービス業では新規需要獲得のための都市部への進出を相次い で予定している先など、出店効果を高める企業が引き続き多い。また、希少性の高い商品 を集めたフェアや県内初開催企画といった財布の紐が緩み易いイベント催事を強化する動 2 きも引き続きみられている。このほか、耐久消費財では、商品購入後のアフターフォロー の更なる充実などで顧客との関係性を深化させ、次回買い替え時まで顧客の繋留を目指す ための取り組みを一段と積極化する動きがみられている。 価格設定動向をみると、昨年、活発化していた日常のコア部分(食料品・日用品など) の値上げの動きは、足もとでは頭打ちの状況にある。これは、為替円高へと変化するなか で仕入価格の上昇が一服したことや、足もとの慎重な消費の地合いを受けて、昨年値上げ した企業が更に一段と価格を引き上げるほどの強気なスタンスにはないためとみられる。 こうした状況下、消費関連企業は、市場の成熟に伴い売上規模の拡大余地が限られる中 で、従来以上に利益率を重視するようになっている。すなわち、耐久消費財では、価格を 引き下げる動きはみられておらず、苦戦している先であっても以前のような過度な値引き 販売を極力抑制する動きが強い。また、節約志向・低価格志向が強まる中でも、 「県内市場 での圧倒的シェアを武器に、薄利多売は行わない」といった声もあり、均一的に販売価格 を引き下げる動きはみられていない。 なお、消費者からの支持を受けて需要が堅調な一部企業では、販売価格を一段と引き上 げる動きがみられている。 3.先行きの見通し 先行きについては、基本的に「過去の貯蓄や所得増加などで余裕資金を抱えている人が 多いため、基調的な底堅さは維持されるはず」との声が多い。一方で、今後の株価や内外 での政治経済情勢の展開次第では、 「将来不安・生活防衛意識が一段と高まることで売上が 落ち込む可能性も高い」といった慎重な意見も少なからず聞かれている。 以 3 上
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