サツマイモの育種 現在、世界の人口は増加する一方だが、耕地面積の拡大は見込めず、コムギやイネの 「緑の革命」のおかげでまだ世界的食糧不足は免れている。しかし、これ以上人口が増 加すれば現在の生産量では賄いきれない。また、育種や栽培技術が進歩しても、生物特 性からこれ以上コムギやイネの収穫指数を高めることは難しい。穀物の収量を上げるこ とによって生産量を増やすことは限界に近いといえるだろう。だから、穀物に代わるエ ネルギー源として、これまであまり注目されてこなかったイモ類の育種を進めたらよい と思う。 イモ類は穀物に比べて水分含量が高いが、乾物当たりの糖質含量は穀物に匹敵し、中 でもサツマイモは 90%にもなりイモ類の中でも最も高い(文献 1) 。半面、たんぱく質 は 12%で米や小麦を大きく下回る。サツマイモは 15 度以上なら生育でき、適温は 20 ~30 度とされ、この範囲ならば 4 か月ほどで収穫できるが低温になるほど生育速度が 落ちる(文献 2)。熱帯の地域ならば十分な水さえあれば一年中作ることができる。土壌 水分の利用効率が良いため、乾燥した、荒れた土地でも穀物より育ちやすい。また、収 穫部分が地下部であることから倒伏などの心配がなく収穫指数を高くすることができ る。このように十分なエネルギー源となり品種改良の余地がある。現在アフリカでは飢 餓人口が多い。ここで生育でき、かつ高収量・高たんぱく含量の品種の育種を提案する。 前述のとおり、サツマイモのたんぱく含量は低い。窒素肥料を多量に与えればつるぼけ し、収量自体が低下してしまう。日本にある遺伝資源は少ないため、アンデスなど原産 地に近い地域の多様な品種を集め、その中からたんぱく含量の多いもの、収量性の良い もの、味が良いものを選んでその原因遺伝子を特定し、交配育種まだは細胞融合による 育種を行う。 サツマイモは基本的には栄養生殖で増殖する。江戸時代ごろの育種は、突然変異の生 じた蔓やイモを選び出し、それを植えて増やすというものだった。種子をまいて育てる ことは可能だが、開花・結実には芋を収穫するより時間がかかるため、秋になると気温 が下がる日本の内地では種子を採れない。また、サツマイモは開花困難性かつ結莢歩合 と稔実度が低く、交配不和合性がある。自家不稔の品種が多く、交配不和合性群がある。 そのため交配育種は近縁過ぎない品種を交雑し、得られた種子の後代を育てるという手 法で行われてきた。この交配不和合性についての研究も進んでいて、アブラナ科植物な どでは花粉と柱頭で不和合性表現型が一致すると花粉管の伸長が抑えられて不稔にな るため蕾受粉により不和合性を回避できるが、サツマイモなどのヒルガオ科では、その 原因遺伝子が開花より早い時期から発現するためとされた(文献 3)。それならば、花粉 の中の精細胞と胚珠中の卵とを取り出し、プロトプラストを形成して細胞融合を起こせ ばいいのではないか。「細胞融合は通常の交雑における受精前障壁を回避するのに有効 である」と文献 4(p334, 11)にある。あまりにも遠縁の種族間では細胞融合後の植物 体再生が進まないらしいが、同族ならば可能だろう。自殖植物では F1 雑種の遺伝子は 固定されないが、栄養生殖をおこなえば F1 の形質はそのまま後代に受け継がれる。目 的遺伝子を特定できていれば、目的遺伝子をすべて含む個体を DNA マーカーを用いて まだ小さい蔓のうちに選抜することができる。それらを繁殖させ、良い形質を持つもの をアフリカなど実際に栽培したい地域で育ててみる。希望通りの品種ができたら、その つるまたは種いもを大量に作り、農民に広める必要がある。この普及範囲が、その後の 栽培拡大速度を左右する(文献 5)。この育種の目的とする人々は基本的に貧しいため、 なるべく価格を抑える必要がある。また、農家が自分で作った種芋を翌年以降も使うた めそれほどの利益は見込めないが、長期的に見た食糧支援と考えればよいのではないか。 参考文献 1. 「いも 見直そう土からの恵み」 編:星川清親, 1985.3.1 2. 「ものと人間の文化史 90 さつまいも」 著:坂井健吉, 3. 「植物育種学 交雑から遺伝子組み換えまで」著:鵜飼保雄, 2003.3.27 4. 掛田克行, 佐々英徳, 土屋亨, 相井城太郎, 2014, “特集記事ワークショップ報告 1999.2.1 新 規 な 自 家 不 和 合 性 機 構 解 明 へ の 挑 戦 ” , 育 種 学 研 究 16: 53 – 60, URL: http://doi.org/10.1270/jsbbr.16.53 5. 「サツマイモの改良と品種の動向」 著:小野田正利, 1965.9.15
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