環境・開発問題:行動課題 主なメッセージ

環境・開発問題:行動課題
本原稿は、ブループラネット賞の歴代受賞者・受賞団体である、グロ・ハルレム・ブルント
ラント、ポール・R・エーリック、ジョゼ・ゴールデンベルク、ジェームス・ハンセン、エ
イモリ・ロビンス、ジーン・E・ライケンズ、ジェームス・E・ラブロック、真鍋淑郎、ロ
バート・メイ、ハロルド・A・ムーニー、カールヘンリク・ロベール、エミル・サリム、ゴ
ードン・ヒサシ・サトウ、スーザン・ソロモン、ニコラス・スターン、ボブ・ワトソン、ベ
アフット・カレッジ、コンサベーション・インターナショナル(CI)、国際環境開発研究所
(IIED)、国際自然保護連合(IUCN)の協力のもとに作成しました。
主なメッセージ
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私たちには夢があります。貧困のない世界、公平な世界、人権を尊重する世界、気候変
動や生物多様性の損失、社会的不公正といった問題に対する取り組みが奏を功し、持続
可能な環境・社会・経済が実現された世界を作ること。これは叶わぬ夢ではありません。
しかし、世界のシステムは崩壊しており、このままの道をたどれば、実現は不可能です。
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人口の規模と増加、それらに伴う消費傾向が環境悪化と数多くの社会問題を引き起こす
大きな要因となっています。教育、女性の社会的地位向上、子供と老人の医療、現代的
な避妊法の普及を通して、人口問題に対する早急な取り組みを行わなければなりません。
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この惑星が有限である以上、無制限の従来型の経済成長を持続することはできません。
各国政府は、GDP に対する厳しい制約を経済成長の尺度ととらえ、自然資本、人的資
本、社会資本の、経済、社会、環境の側面を完全に統合した豊かさの尺度をもってそれ
を補わなければなりません。エネルギー、輸送、農業等の分野で環境への悪影響につな
がる助成金を打ち切ること、外部性・社会コストを価格に組み入れ、生態系の有用物と
サービスという市場価値と非市場的価値の両方を考慮した意思決定を行うことが必要と
されています。
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物的資源の枯渇、燃料の安定確保、健康被害と環境悪化といった今日私たちが直面して
いる問題には、化石燃料への依存度が高い現在のエネルギーシステムが原因となってい
るものが多くあります。私たちが今向かっているのは、これまで人類が経験してきたよ
りも 3~5℃気温の高い世界なのです。これは途方もない数字です。クリーンエネルギ
ーを利用したサービスを誰もが享受できる環境は、貧困層にとっては死活問題です。ま
た、低炭素経済への移行には、エネルギー使用効率、環境にやさしい再生可能エネルギ
ー源、炭素の回収・貯留に係る技術進歩が欠かせません。
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生物多様性は、社会的、経済的、文化的、精神的、科学的に極めて重要であり、人類の
生存には不可欠な要素です。6500 万年の歴史上類を見ないほど急速な生物多様性の損
失によって、人類の安泰を支える生態系サービスの供給が危険にさらされています。生
物多様性を保護し、持続可能な社会を実現するためには、対策を大幅に強化するととも
に、それらを社会、政治、経済的課題と一体化しなければなりません。生物多様性およ
び生態系サービスを尊重し、本当の意味での「グリーン」経済の基盤としてこれらに価
値を与えることのできる市場を創出することが必要です。
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政府、企業、社会において私たちが依存している意思決定システムには、大きな欠陥が
あります。これは、地域、国、世界のどのレベルでも共通して言えることです。意思決
定に係る規定や制度は利害関係者に左右されますが、意思決定の過程に対するそれぞれ
の関わり方は全く異なります。統治方法の有効な改革を実現するためには、さまざまな
レベルで権力者の責任を問うための透明性のある方法の確立に努めなければなりません。
地域レベルでは、公聴会や社会監査によって、社会の周辺に追いやられた人々の声を中
心に届けることができます。国レベルでは、議会やマスコミによる監視が重要になりま
す。世界的には、共通の目標を達成するための手段について、より良い合意形成・実行
方法を探らなければなりません。独立した互いに矛盾する構造で環境と社会、経済それ
ぞれの要素に対する対策が行われているという分野別の意思決定も、統治上の欠陥の原
因となっています。
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意思決定者は、草の根レベルの継続的な対策とエネルギー、食料、水、天然資源、財政、
統治等の分野に関する知識に学ぶことと、これらを拡大することが必要です。これらの
資源の管理、統制、所有を考えれば、特に農村地域ではこのことが重要になります。同
様に、地域で協力して共通する持続可能な開発に関する問題に継続的に取り組むことで、
世界的な協力も進みます。
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企業や政府において、持続可能性という制限の枠内でいかにして計画や政策を集約する
かを心得ており、そのビジネスケースを理解し、その目標に向かって戦略的に行動する
スキルを持っている優秀な意思決定者を増やすため、有効な研修プログラムを実施しな
ければなりません。
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以上のような課題すべてに共通して必要なのは、教育、研究、知識の評価への投資を増
やすことです。
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社会経済体制が慣性的性格を持つことと、気候変動がもたらす悪影響や生物多様性の損
失からの回復には何世紀もかかる、あるいは回復は不能である(種の消失等)ことを考
えると、夢を実現しようと思うなら、今、行動しなければなりません。行動しなければ、
現在および将来の人々が貧困に苦しむことになります。
ブループラネット賞について
旭硝子財団は、地球環境の修復を願い、地球サミットが開催された 1992 年(平成 4 年)に、
地球環境問題の解決に向けて科学技術の面で著しい貢献をした個人または組織に対して、そ
の業績を称える地球環境国際賞「ブループラネット賞」を創設いたしました。
賞の名称 ブループラネットは、人類として初めて宇宙から地球を眺めた宇宙飛行士ガガー
リン氏の言葉「地球は青かった」にちなんで名付けました。この青い地球が未来にわたり、人
類の共有財産として存在しつづけるように、との祈りがこめられています。
本賞は、2012年に創設20周年を迎えます。旭硝子財団は、この節目の年が環境に優しい社会
の構築に向けた取り組みの新たなスタートとなるよう願っています。