も と ﹁ 協 同 組 合 ﹂ ﹁ 食 ﹂﹁ 農 ﹂ に 光 を

佐藤優 さとう・まさる
1960年東京都生まれ。作家・元外務省
主任分析官。同志社大学大学院神学研
究科修了後、外務省入省。2005年『国
家の罠』を発表。以後、文筆業に従事。
近著に『組織の掟』がある。
「学生時代には戦国期の物語を読みふけりました」という奥野会長に、「『フードバンクという挑戦』
(大原悦子)
からは食の問題を考える上で大きな示唆を得ました」と佐藤さん。読書遍歴を巡り、
会話が弾む。
シリーズ
日本の農業
は、協同組合運動を措いてほかにな
会の犯した過ちを矯正していけるの
います。このところ、大企業の不祥
すでに現代日本の社会自体も蝕んで
とが必要です。今年の 月、日本生
さんとしっかりとスクラムを組むこ
争社会の弊害は、人間だけではなく、 に、生協など、ほかの協同組合の皆
心血を注がれた経験をお持ちだとう
佐藤 会長は、大学時代から生協の
活動に没頭され、その組織づくりに
証左だと思います。その意味からも、 連携していきましょう﹂と誓い合い
本の企業が疲弊して来ていることの
事が相次いでいますが、これは、日
対談したときも、
﹁ 具体的な事業で
活協同組合連合会の浅田克己会長と
佐藤 食品ロスの問題も見過ごせま
せん。先日、農水省関係者と会った
ました。
協同組合に期待するものは大きい。
焦眉の急の
﹁食﹂
﹁農﹂問題
状態に何より深刻な影響を及ぼして
医者も雇っていました。中学生の時、 ならない、こどもたちの教育や健康
いるように思います。私の村では、
います。国内で貧困状態にある 歳
た。最近、日本でも大量の廃棄食材
ない時代がくる﹂と漏らしていまし
ていたら、そのうち食料を輸入でき
﹁ こんなに世界中で廃棄食材を出し
時には、食料安全保障の話になり、
指を怪我して、近所の医者に行った
佐藤 資本主義社会のひずみは、こ
れからの社会を支えていかなければ
ら治してくれ、
﹁お金持ってないよ﹂
以下のこどもの割合は ・
。実
逆にみんなで助け合わないとやって
あまり豊かな村でもなかったから、
た活動でも、協同組合のような私企
作られるようになりました。こうし
を提供する﹁こども食堂﹂が全国に
いような者は、政府の責任を放棄す
﹁ 自国民に十分な食料を与えられな
奥野 海外の農業関係者に会うと、
彼らは一様に同じことを口にします。
ることだ﹂と。オーストラリアの農
業でも国でもない組織が果たす役割
は重要だと考えています。
﹁ 我々が輸出にばかり躍起になって
自助、公助の間にあって、
足りないところをバランスよく補う。
そこに協同組合が担う共助の意義がある。
│
佐藤優
業 相 が こ ち ら へ 見 え た と き も、
奥 野 こ う し た 問 題 の 解 決 に は、
グループの力を結集するととも
いけないという思いが強かったので
ぼろぼろになってしまう。そんな競
けやっていたら、人間は燃え尽き、
に株式会社で営利を追求する仕事だ
に負けてしまう。しかし、中長期的
求においては、協同組合は株式会社
たれたのですね。効率性や利潤の追
佐藤 協同組合というのはそういう
ものだ、と小さい時から実感して育
しょうね。
協同組合は存在感を増しています。
新し続けています。その対策として、 に広がっています。その活動面でも、
もをつなぐ﹁フードバンク﹂が徐々
と困窮する人々や食べられないこど
と告げると、事務員さんが、
﹁要り
に 人に 人に上り、過去最悪を更
17
3
%
タダや。村で保険組合作っとる﹂と。 こどもたちに無料または格安な食事
聞いたら、
﹁ この村の人間はみんな
ません﹂と言う。家に帰って父親に
識が強い地域だったことと関係して
奥野 私が生協の活動に惹かれたの
は、私の生まれた村が非常に協同意
かがいました。
1
お
い、と私も考えています。
奥野 行き過ぎた現代の資本主義社
同組合が担う共助の意義がある。
ころをバランスよく補う。そこに協
助、公助の間にあって、足りないと
るのは当然のことだと思います。自
共助の重要性がクローズアップされ
られ、自助の部分が肥大してゆく。
補助金交付などの公助の範囲が狭め
新自由主義的な経済政策においては、
う、つまり共助の精神です。一方、
の良さというのは、みんなで助け合
か、と私は考えています。協同組合
佐藤 その状況に一条の灯りを点す
のが、
﹁ 協 同 組 合 ﹂の 存 在 で は な い
いの道を辿るしかない。
魚は全部、駆逐されて、最後は共食
クバスを放つようなもので、在来の
主義は、結局のところ、湖にブラッ
争だと唱えられていますね。新自由
奥野 佐藤さんは、著書の中で、資
本主義社会の行きつく先は恐慌と戦
﹁共助の精神﹂
が担うもの
もっと
﹁協同組合﹂
﹁食﹂
﹁農﹂
に光を
対談
資本主義社会の限界が囁かれるようになって久しい。所得や
地域の格差、貧困の増大。新自由主義的な経済政策の行き詰
まりを打開する上で、
「協同組合」はどんな役割を果たせるのか。
日本の「食」
「農」はどこへ向かったらよいのか。作家・佐藤優さ
んとJA全中会長の奥野長衛さんの二人が存分に語り尽した。
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Masaru Satoh
Choe Okuno
Pro f i le
佐藤優
奥野長衛
1
1947年三重県生まれ。関西大学法学部
中退。家業の野菜農家を継ぐ。JA伊勢
組 合 長を経て2011 年 JA 三 重 中 央 会 会
長。JA全中監事、理事を経て、15年8月
からJA全中会長に。趣味は読書。
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作家
JA全中会長
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奥野長衛 おくの・ちょうえ
草の根プロジェクトを展開した結果、 例会を設けられたそうですね。
本列島は南北に長く、気象や栽培地
ないと農業の未来はありません。日
奥野 若者にとって、農業が憧れの
職業になるよう、環境を整えていか
いいムードになってきました︵笑︶
。
ないものでしたが、最近は、かなり
やらないといけない。最初はぎこち
んで一つのものに束ねていく作業を
奥野 いろんな事業が全部、縦割り
で走っていますから。横糸を織り込
いるように思われているが、そうで
の条件もさまざまです。適地適作。
佐藤 お話をうかがっていて、
﹁協
同組合らしさ﹂とは、
﹁ 身に染みつ
存続することに成功しました。
はない。最終的な目的は、自国民を
すなわち、それぞれの土地に適した
奥野長衛
絶対に飢えさせないことです﹂と言
彩りに富んだ農業を地道に展開して
どうやって自分の成績を上げるかと考える前に、
なぜこのような事業があるのか、考えてみよう。
│
や食べられないこどもたちへの対策
われました。確かに、困窮する人々
自分の家族を十分養えない人間が、
は、焦眉の急の課題だと思います。
は地域社会を維持することにつなが
いくことが、農業を輝かせ、ひいて
にほかならないと思えてきました。
いているコンセンサス・システム﹂
れているな、と感じました。
致。とてもいいシステムを埋め込ま
ダウンではなく、ある意味、満場一
リーダーシップは必要だが、トップ
奥野 採用試験で応募者に﹁なんで
を受けた ﹂と聞くと、多くの
た。それが今でも心に残っています。
﹁共助の精神﹂を重んじながら、日
で大豆を育てるのと、実は共通した
らこそ、農業は、日本人の国民的な
主義社会が行き詰っている中、だか
現場に行くと、職員に対し、
﹁どう
る﹂というイエスの言葉が伝えられ
佐 藤 聖 書 の 使 徒 言 行 録 の 中 に、
﹁ 受けるよりは与える方が幸いであ
けるよう、精一杯、力を尽くします。
価値観が横たわっている。株の売買
る前に、なぜこのような事業がある
ています。これからの時代、協同組
やって自分の成績を上げるかと考え
では違うという感覚がある。だから、 えます。私の母の故郷である久米島
のか、考えてみよう﹂と話していま
が潰れそうになった。しかし、それ
しましょう、と。
す。
くこと、第一義的に守っていかなけ
では、約 年前、県立高校の園芸科
では、サトウキビ栽培など島の農業
あることを改めて痛感しました。
高度経済成長時代の日本には、日本
合の存在がますます重要となってい
が働いていたような気がし
グループの つ
佐藤 会長は、
の全国組織のトップが毎月集まる定
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の
人が営々と受け継いできた農本主義
が駄目になると島民が団結し、寮を
ればならないのが﹁食﹂と﹁農﹂で
作って島外・県外から生徒を集める
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てなりません。それから地産地消の
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気運もますます高まっている。資本
から
に発想を転換
共感を得やすい状況にあるように思
それでは困る。例えば、
﹁ 共 済 ﹂の
﹁第二の役場です﹂と。 本の﹁食﹂と﹁農﹂をよき方向に導
平然と言う。
学生は﹁安定した職場ですから﹂と
とが大事だよ﹂と言われて育ちまし
奥野 私は、父親から、
﹁人に奉仕
佐藤 グループにはどんな人材
が必要と考えていらっしゃいますか。 するという心を持って生きていくこ
へ
ってゆくと信じています。
がない。親父は、みんなをちゃんと
グループ
平等に扱い、きっちりご飯を食べさ
せてゆく責務がある。
も国や行政機関、企業とも連携し、
解決に当たっていかなければならな
いと肝に銘じています。
佐藤 鉄鋼も自動車、家電産業も、
ものを作って売るという点では、農
から
発想の転換を
家族から親父と呼んでもらえるわけ
﹁ 組 織に実 装された知 恵が、これからの
グル
ープでは求められます﹂︵ 奥 野 会 長 ︶﹁ナレッジで
はなくインテリジェンスを武器に、これからの日本
の農業を正しく導いてください﹂︵佐藤さん︶
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から得た 万円と額に汗した 万円
民が田圃で米を作る、あるいは、畑
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Choe Okuno
Masaru Satoh
対談
[提供]JAグループ [企画制作]新潮社 [撮影]荒井孝治